事件の犯人は
ホテルからリックに電話をかけて話した。
「日本っていいだろう?」
電話の向こう側のリックがくつくつと喉を鳴らして笑う。
「せいぜい居ていられるのは二十年位だ。俺達は外見が変わらないから怪しまれる。それまではそっちで好きに楽しんで来い。俺が使っていた部屋はリフォームは済んでいるから好きに使うといい」
「そうさせてもらう。仕事の方も悪いな、紹介して貰って」
「そんな事はいい。オペはするなよ、俺達の血が暴走する」
「解っているよ。でも日本人の血は美味いな」
「おい! もう噛んだのか、手が早いなあ」
「仕方ないだろう。血液は持って行けないんだ。パリの郊外から日本までどの位かかるか解っているだろう?」
「そうだな。まあ上手くやっている様で良かった。困った事があったら何でも言ってくれ。血も欲しくなったら簡単に貰える所を教えてやる」
「それはどうも。そうだ! リック、狼男のジャックをそちらで見たか」
「どうした? 昨日会ったばかりだぞ」
「そうか‥‥‥日本にもいるぞ。あいつの仲間が、食事のマナーがなっていないよ。お陰でこっちでは事件として調査されている。あいつに伝えてくれ、面倒事は起こさないでくれって」
「そうか、それは災難だったな。俺からも言っておくよ」
電話を切ってベッドに横になった。今日は忙しい日だったが楽しかったなあ。
明日から仕事だ。早目に行っておかないと迷子になるとリックが言っていたからな。もう寝るとしよう。窓の外を見る。東京の夜は明るいな、人も多くいる。寝る前に血をもらうか。俺は夜の街に出かけた。
歩いていると女性から声を掛けられる。
「お兄さん素敵ね。モデルとかしてるの?」
「いや、俺はドクターだよ」
「あら! それなら私を診察してくれない? 隅々まで」
と腕を掴まれる。
「積極的な女性は嫌いじゃない」
そう言って二人で近くのホテルに入った。
「シャワーを浴びてくるわ」
「俺も一緒に入ってもいいかな?」
「積極的な男性は好きよ」
そう言って二人でシャワーを浴びる。ああ、やっぱり美味しそうな匂いだ。
シャワーを出てそのままベッドへ。女の髪をかき分け首筋にキスをする。そしてそのまま俺はキバをその首に沈ませる。やっぱり美味い! 女は恍惚とした表情を浮かべる。俺達ヴァンパイアに噛まれると気持ち良いらしい。いかんいかんこれ以上飲んでしまうと死んでしまう。つい夢中になってまった。やばい! 女の意識はないが眠ったようだ。俺は満足だ、これで暫くは飢える事はないだろう。一人ホテルを出る。
♢♢
今日から仕事だ。事務方の説明が終わって外来へ行く。この病院はグローバルな病院で外国からの患者が多い。俺は大抵の言葉は理解できる。ので、診療時にヘルプで呼ばれるらしい。いわゆる通訳だ。色々な国から来ているのだな。俺は総合内科での仕事に就いた。患者がいてもヘルプで呼ばれればそっちへ行く。俺の不在時はナースが問診を代わりに聞いてくれているから助かる。
そうして何日か過ぎたある日、何処かで見た顔が病院にいるではないか。間違いない、有紀だ。向こうもこちらに気づき駆け寄ってくる。
「マルク! 本当にドクターだったのね」
と笑う。俺は、
「どうして有紀はこの病院にいるんだ? クリニックにいるんじゃないのか?」
すると小さな声で
「クリニックだけでは経営は難しいのよ。だから、こうやって時々バイトをしているの」
日本は大変なんだな。医療費も保険? ってものがあるからアメリカでは考えられない位に安い。ドクターの給料もそれ程高くない。俺はリックの紹介や学会での実績があるのでここにいる他のドクターより年収は高い。それに通訳もするからな。ちゃんと仕事はしているぞ。
「有紀も苦労しているんだな」
そう言うと少し拗ねたような顔をする?
「いいの! 私は自由に自分の好きな事をしたいから、これでいいのよ」




