兄キャメル
俺は病院の院長に日本を暫く離れる事を相談をする為に院長室に来た。
「院長。暫くお休みを頂きたい。国境なき医師団に行こうと思っています。紛争も拡大し犠牲者も増えています。難民も増える一方だと聞きました」
難しい顔をした院長は
「君の功績は聞き及んでいる。向こうで随分活躍したと聞いているよ。寝る間も惜しんで治療していたと」
俺達は眠りや食事をそれ程必要としない。それに母の事もあって黙々と何かをやっていた方が気が紛れて良かったんだ。
「‥‥‥必ず戻ってきて欲しい。君は我々にも必要な存在なのだよ」
「解りました。約束します。必ず帰ってきますよ」
院長の許しを得て俺は家に帰って用意をしようと思っていたが、部屋の中がキレイになっていた。荷物も纏めてある。後から声がする。
「マルクス様。ご用意は出来ておりますよ。現地にはどのルートを使って行かれますか?」
和也だ。
「お前の事だどうせ、自家用のジェットでも持っているんじゃないか?」
軽く冗談のつもりで言ったのだが‥‥‥。
「はい! ご用意出来ていますよ。この時間だと大阪の方がこの後便利だと思いますが? 新幹線で行かれても良いかと思いますよ。日本の新幹線は素晴らしいですからね」
そうなんだよ! 新幹線! なんて素敵なフォルムをしているんだ! って! どうしてコイツは俺の趣味を知っている! 日本で言う、てっちゃんではないが、乗り物は好きだ! ドクターイエロー見てないんだよなあ! 見てみたい。
「マルクス様。新幹線の切符です。良いものが見られますよ」
おっと、何だー? 和也の事だ、何かを考えているだろう。俺は言う。
「それでは、行こう」
「私もお友します」
和也が荷物を持って言う。
「お前って日本のリーダーなんじゃないのか? 居なくなってもいいのか?」
「私の眷属は、私に従順なんです。もちろん貴方様に対してもです。だから、問題ありません」
そう言って礼をする。
「まず、キャメル兄に言っておかないと。誤解されると色々こじれるからな。移動中に連絡したいのだが‥‥‥和也。連絡先を知っていたりするのか?」
ふっと笑うと
「知っていますよ」
やっぱりこいつは恐ろしい‥‥‥。
「車の中でどうぞ連絡して下さい」
とメモを渡された。荷物をトランクに詰め込んで駅に向かう。その途中で兄に連絡を入れる。
「‥‥‥俺だ。マルクスだ。久しぶりだなキャメル兄。今、話しても大丈夫か?」
電話の向こう側では銃声が聞こえている。
「ああ! 問題ない! 珍しいなあ、マルクから連絡するなんて」




