海外からの電話
有紀から毎日電話来る。
「マルク! 何アレ! 崩れそうな建物の中が医療施設って大丈夫なの? それに‥‥‥匂いが酷い。」
「そのうち、匂いなんか慣れるさ」
「ここは紛争地域から離れているって聞いたけど。沢山怪我人が運ばれてくるの」
「‥‥‥そうだよ。戦争している所で治療は出来ないからね」
「‥‥‥麻酔も不足しているのね‥‥‥」
「そうだよ。人間ってすごいって思わないか? 物資は足りない。だが、それを補うボランティアがいるんだ。俺も驚いたよ。お金を貰っている者もいれば無償で手伝ってくれている者もいる」
「‥‥‥」
「どうした有紀。黙って」
「‥‥‥だって‥‥‥」
「日本ってすごい国だと思わないか? 誰でも医療を受ける事が出来る。それが当たり前だ」
「‥‥‥私、自分が恥ずかしい‥‥‥何か出来る事があればなんて言っていたのに、ここでは皆が助け合っている。国も性別も違う。でも、皆、人を助けたいって思っている。自分は傲慢だったわ」
「有紀。違うよ。誰でもが出来る訳ではない。何日かすると知らない間に人は居なくなっていたりする。‥‥‥耐えられないってね」
「‥‥‥マルクもう一つ聞いて! ‥‥‥虫はやっぱり苦手だわ! もう沢山いるのよ! 寝ているテントにも入ってくるし。泣きそう‥‥‥」
電話口で泣いているのだろう声が震えている。虫のせいにしているが、現場を見れば目を背けたくもなる事も多い。電話では明るく話してはいるが、きっと泣いているだろう。ああ! ダメだ! 俺が我慢できない! 有紀を抱きしめたくなる!
「有紀。無理はするなよ」
「うん!」
そう元気よく返事が来る。
毎日の電話で変わった事もあった。
始めは、あんなに辛そうに話しをしていたが、最近は現地の子供と仲良くなったらしく、その話題が多くなった。
「子供ってすごい可愛いわ。マルクが一緒に写真を撮りたくなる気持ちが解るもの」
電話の傍から子供のはしゃぎ声が聞える。
「どんな時も子供はその国の希望なんだ。だが、発展途上国と言われる地域の子供や難民達の子供達の死亡は多い。有紀お前のその笑顔で子供達に元気にしてくれ」
「そんな事でいいの?」
「そうさ。栄養補助食品だって足りていない。有紀も食べて分かった思うが、美味しくない。だが、彼等には命の綱みたいな物なんだ」
「‥‥‥そうね。昨日も乳児が亡くなったわ。ここに来て食べ物の有難みが身に染みてわかる」
有紀の声は強くなった。気力もメンタルも強くなっている。日本に帰って来たら‥‥‥ちょっと不安だ。




