出国
アメリカ国旗のマークが付いたヘリと自衛隊員が病院へと集まる。何事かと窓から眺める患者や病院関係者達。あれよあれよという間に物資が積まれて行く。そして数台のヘリは飛んで行く。
一旦自衛隊基地にまとめて。その後大型の空軍機に乗せて行くらしい‥‥‥俺はよくわからんが、その行動自体が皆の目に留まる。確かに派手だよな。
「流石は兄貴だ! 仕事が早い」
俺は満足だった。病院の会長と院長に
「終わりました!」
と。報告したが‥‥‥返事が返って来ない?
「院長! 聞いてますか? 終わりましたよ!」
「‥‥‥マルクス先生はこれを今まで各国でされていたのですか?」
と黙ったままの院長ではなく会長が聞いて来た。
「はい! 俺の講義の後は沢山物資が集まるんですよ。有難いです!」
「そ、そうなんだ‥‥‥」
笑顔の俺とは反対に複雑な顔をする二人。何を考えているのか分かる。
『いったい、何者なんだ。他国の軍を動かし、わが国の自衛隊まで動かすとは‥‥‥』
兄のマイキーはアメリカ軍を任されている。裏ボス的存在だ。兄弟で一番怒らせると怖い。父の居場所が不明な今、頼りになる存在だ。日本の防衛省にも仲間はいる。自衛隊を動かすなんて簡単だ。
マルクス先生すごい! と何処からか声がすると拍手が鳴る。わーっと皆に囲まれた。
「先生! 素敵です!」
俺が動いていた事は知られていたようだ。‥‥‥和也だな‥‥‥。特別室の個室の窓が空いてカーテンが揺れている。ニヤついているアイツの顔が見えるようだ。
♢♢
そして有紀が出発する日がやって来た。
「忘れ物はないか? コンビニなんかないからな。それに水は貴重だ。風呂は何日も入れないから、泣くなよ」
「覚悟出来てる。それに私だけじゃないから気にならないわよ」
「それなら問題ないな。困ったら連絡しろよ。虫が苦手な有紀も帰って来る頃には虫も可愛く思えているだろうなあ」
そう言って笑うと
「暫く会えない恋人に言う事はそれだけ?」
と、拗ねたふりをして横を向く。俺は有紀の腕を捕まえて引き寄せ抱きしめる。
「馬鹿だな。寂しいに決まっているだろう」
そう言って昨夜の牙の痕にキスをする。
「今回はテスト期間という事で半年だ。時期は決まっている訳ではないから、帰って来たくなったら帰ってきてもいいんだからな」
「嫌よ。帰ってなんて来ないんだから。半年頑張ってくるわ!」
そう言ってあの弾けるような笑顔を見せる。
出国する有紀を見送った。本当はついて行きたい! そんな顔は見せられない! だが、このままでは俺の方が根を上げそうだ。寂しい‥‥‥こんな感情なのか‥‥‥。




