有紀戦地に行く
数日休みをとっていた有紀。クリニックも一週間休みだったそうだ。世間では、まあ連休が続いていたから。あのクリニックのスタッフ達を思い出す。元気にしているだろうか。俺と有紀が付き合っていると知った時のナース達の表情が何とも忘れがたい。「本気ですか?」だったからな。
部屋に帰って来ると、そこには満面の笑みで俺を見る有紀。悪い顔だ。
「お帰りマルク!」
「いやに機嫌がいいじゃないか。両親に会って甘えて来たからか?」
「違うわよ。両親に報告をしてきたの。私。国境なき医師団に行くわ」
「‥‥‥本気か?」
「なによ! 貴方までお嬢様の私には無理って言うの!」
「‥‥‥そう親に言われたのか」
「‥‥‥そうよ。お前には無理だって」
下を向き悔しそうに拳を握っている。その手を握り返す。有紀は俺にしがみ付く。
「戦地から離れた場所でなら許そうって言ってくれたから。私行くわ! マルク推薦状を書いてね」
「君が決めた事だ。俺は君の意見を尊重しよう。だが、幾つか約束をして欲しい」
「危険な地域だ。気休めだろうが、守って貰いたい」
俺の真剣な表情に
「分かったわ。マルクの言う事は守るわ」
「1,危険だと思ったら迷わずにげろ。
2,絶対一人になるな。
3、毎日連絡をする事。
有紀にはヴァンパイアの眷属が護衛に就く。これは知られないようにしているから、有紀でもわからないだろう。だから、有紀の様子は俺に伝わる」
「なら連絡はいらないんじゃないの?」
「‥‥‥おれが有紀の声が聴きたいんだ。悪いか」
「ううん。嬉しい」
「それにあそこは物資が足りない。有紀の所を優先する事は出来ないからな。覚悟しておけよ」
嬉しそうに喜ぶ有紀。俺も付いて行きたい! だが、今は我慢だ! もう少ししたら物資が集まる。その時に顔を出してやるか。向こうにいるドクター達にも会いたいからな。頑張っている彼等達にご褒美も必要だからな。何か甘い物でも差し入れてやろう。それに何か手伝える事があれば力になろう。
「ねえ。マルク。私困っている人に何が出来るんだろうって思っているけど。きっと向こうに行かないと解らないわよね」
「一人でも手伝ってくれるのは有難いんだ。でも、現実はきっと酷いものだろう。内戦の地域が広がっていると向こうの友人が嘆いていた」
俺は有紀に言う。
「救える命ばかりじゃない。きっと辛い場面も見るだろう。だが、それが戦争なんだ」




