カンナダ語
今日も病院で仕事だ。どうやら、俺と有紀の関係もバレたようで、皆の視線が怖い‥‥‥。
外来のナースは今日もいつもと変わらない‥‥‥と思っていたが、
「先生! 聞きましたよ! 柏木先生とお付き合いしているんですよね? お目が高いです。流石です」
まさか、こんな所で褒められるとは‥‥‥で? 俺は何を褒められたのかな? 不思議そうにしている俺に外来ナースは溜息を吐く。
「まさか、先生。柏木グループをご存じない‥‥‥なんて事はないですよねー」
と凄まれる‥‥‥そんなのは知らん!
「悪いが俺は日本はホントに久しぶりなんだ。それにそう言う、のし上がってやるぞ。みたいな気持ちはサラサラない。なので、何とかグループと言われても理解は出来ん」
呆れたように外来ナースは俺の顔を見る。
「そうですか、では先生。先生の白衣の下に着ているそのポロシャツは何処のメーカーですか?」
「これか? 俺は着易さ重視なんだ。これは、ユニシロだ。手頃な値段だが丈夫だ」
俺はドヤ顔で言ってやった。どうせブランド好きなのだと思っていたのだろう。
外来に居たナース全員が大きな溜息を吐く。?
「先生。そこの企業の筆頭株主は柏木グループなんですよ」
「株主? って。ええー! そんなに大きなグループなのか!」
俺は呆れた顔をするナース達に。
「皆は‥‥‥その事を知っていたって事だよなあ」
「当たり前です! 逆に知らないなんてそっちの方にビックリですよ」
後ろから声がして振り返るとそこには外来師長がいて、ぴしゃりと師長にまで言われてしまった。いつの間に居たのか?
「何やら騒がしいので来てみたら‥‥‥そういう事なんですね」
呆れ顔の師長が、
「まあ、そんな事よりお仕事です。マルクス先生。ヘルプです。CKD外来から来て欲しいと言われましたよ」
「へえ珍しい所からだなあ。あそこは、ほぼ同じ患者を診ているはずだが‥‥‥分かった。後は宜しく!」
と言い、その外来に向かった。
「ああ! マルクス先生。良かった。ほら先ほどの患者を呼んで来てくれ」
ナースは外来の待合室からその患者を連れて来た。
彼はおもむろにPCパットを取り出し、何やら文字を打ち込んでいた。その文字に見覚えがあった。
俺は彼の母国語である“カンナダ語”でその質問に答える。
「大丈夫。貴方の国の言葉も文字も解りますよ」
と、不安そうな彼に話す。それに対してほっとしたのだろう。嬉しそうに笑顔になる。
CKD外来のドクターが俺に、
「どう思う? このデーダ。多分HD(透析)が必要だが、彼にこの事を伝えて欲しいんだ。肺に水が溜まっている。きっと苦しいはずだ。よくここまで来れたよ」
それを彼に伝える。
「どうしてこんなに腎臓の機能が悪くなるまで、我慢していたんだ? 肺に水が溜まっている。ほらここね」
と、指を指して話す。
「母国ではちゃんと受診していたし、自分でも気を付けていたんだ。でも、最近仕事が増えて、食事もジャンクな物になってしまっていたから‥‥‥」
「そうか。ここ日本の透析は世界一と言ってもいい、透析といっても君の場合一時的な治療で済むと思うけど。しっかり水が抜けるまでここで治療すると良い。ちゃんと治療食を食べて元の体重になればその苦しいのも身体のだるさも無くなるだろう。それにインドの医療は進んでいる。臓器移植も向こうの方が早く出来るだろう?」
「その予定になっていました。お金に困っている訳ではありませんが、知人の仕事の手伝いに来ただけだったのです。それに‥‥‥」
と恥ずかしそうに下を向くと、
「日本の食事が美味しくて! つい食べ過ぎてしまいました!」




