噂
有紀は言う。
「そうよ」
俺は、絆創膏を張りながら、
「だからか、スゴイ美味かった。滅多にお目にかかれない貴重な血液の持ち主だったとは。驚きだ」
「私もビックリしたわ。血を吸われるってホントに気持ち良いのね。イメージだと噛まれるから痛いのかと思っていたから」
「だから言っただろう。麻薬の様に危険なんだ」
「‥‥‥ねえ、マルク。日本に来て私以外の人を噛んだ事はあるの?」
「‥‥‥まあね。あるよ」
「噛んだだけ?」
「! 当たり前だろう? 何を言ってるんだ?」
「だって、マルク興奮してたでしょう?」
「‥‥‥ 有紀だから興奮したんだよ。何を言わせるんだ!」
ふふっと笑う有紀、俺はからかわれたのか‥‥‥。
♢♢
「さあ今日も仕事だ。忙しくなるなあ」
俺達は朝食を一緒に食べて一緒に出勤する。有紀は今日は自分のクリニックで仕事だ。俺はいつもの様に診察をする。少し間が空いて患者が途切れた時ナースに言われた。
「先生!」
と背中を叩かれる。?
「今日もイケメンですよ! その様子だと、想い人と上手くいったんですね。おめでとうございます」
満面の笑みで俺を見る。
「相変わらず鋭いよね。君達って」
「だって独身女性の憧れの的ですからね。知りたくもなりますよ」
「個人情報だから教えないぞ」
「解りました。でもマルクス先生って隠し事出来ないタイプなので、そのうち絶対ボロが出ますから、見てます!」
「敵わないなあ、ここのナースには」
優秀すぎるよなあ‥‥‥。
♢♢
有紀のクリニックでは。
ナース組のマナ、ミカが有紀に猛然と迫りその顔は怖い。
「院長! 絶対男見つけて今、良い想いをしているでしょう!」
ナースの一人マナが聞く。
「あら、何の事かしら?」
と、さらっと流す有紀。
もう一人のナース。ミカも有紀に食いつく。
「だって肌の艶も違うし、何よりその絆創膏です! それ絶対キスマーク隠す為ですよね?」
そこでナース組二人が有紀に迫る。
「お相手は誰ですか? こんなじゃじゃ馬娘を、自分の者にしようなんて人がいるなんて驚きです」
「じゃじゃ馬ってちょっと酷くないかしら‥‥‥もう貴方達は‥‥‥」
「そのうち、教えるから。もう少し待ってて」
と笑顔で答える。
「ずるいです! 一人だけ抜け駆けなんて! こうなったらドンドン合コン行くわよ!」
と、マナは鼻息を荒くして言う。それを聞いたミカも、
「私だって良い男見つけてラブラブしたい!」
その様子を見て受付のリコは溜息を吐く。
「何を競い合っているんですか? こんなの縁じゃないですか」
ふん! とナース組はリコを見る。
「もしかして! リコ。貴方まで‥‥‥」
「はい! 彼氏できました! 大学の時に同じ学科を専攻していた人です。久しぶりに会った友達と呑みに行った先の店で店長をしていたんですよ。それで、何か盛り上がって‥‥‥で、それから付き合う事になったんです」
頬を赤らめ、はにかんで言う。
「先を越された‥‥‥」
ガックリと肩を落とす二人。
「まあまあ。看護師ってモテるから大丈夫よ。そのうち良い人が見つかるって。ね!」
そう言う有紀の言葉に返事をしない二人は立ち尽くす。そして互いの顔を見てにらめっこをしている。
『絶対先に良い相手を見つけるんだから!』
そう心の声が聞える。と有紀は思ったのだった。




