カミングアウト
事件はこれで解決だ。後は個人的な問題だけだな。うーん‥‥‥。
俺の正体を話した方がいいのか‥‥‥。リックはいつも相手に自分の事は話していた。けれどアイツは眷属にはしなかった。いつも見送っていた。人間が一生懸命に生きる姿が好きだから、死ぬ事への自由を奪いたくないと。リックも純血種だ。眷属にする事だって出来るというのに‥‥‥俺とは本当に長い付き合いだ。有紀には正直に伝えておいた方がいいだろう、恐れられても仕方ない、いずれ解る事だ。だったら言っておこう。恐れられ嫌われたら、記憶を消して俺が違う土地へ行けばいい。それだけの事だ。
俺はそう決めて家へ帰る。家に着いてマンションに入ろうとしたら、
「遅い! 私の方が早く着いてしまったわ」
と言ってあの弾けるような笑顔を見せる。ああ。やっぱり有紀のその笑顔が好きだ。
「すまない。昼間の患者の容態を診に行っていたんだ」
「あっ! それ聞いたわ。救命のドクターから聞いてビックリしたのよ」
「そうか、ここではなんだ、その‥‥‥とりあえず部屋に入らないか?」
「そうね」
俺達はそれから無言でエレベーターに乗り無言のまま部屋に入った。リビングのソファーに座り向かい合って俺は話し始めた。
「有紀、この前は悪かった。気分を悪くさせたのなら謝るよ。だが‥‥‥もし」
俯きながら言う。すると有紀は立ち上がって俺の後ろに立つ? すると俺は後ろから有紀に抱き絞められた!
「私もマルク。貴方の事が好きよ」
耳元で言われた。どうしようきっとその耳は真っ赤になっているだろう。
「まあ、耳真っ赤よ。私にあんな大胆な事をしておいて、ずるい」
「君は俺の心を簡単に乱して悩ませる。今までこんなに気持ちを持っていかれた相手は有紀だけだよ」
有紀は俺をソファーに押し倒し、俺を見下ろして言う。
「あれから私。自分の気持ちに気づいてしまったの。貴方の事が好きだって」
「嬉しいよ。有紀。君に隠し事はしたくない。大切な話がある、聞いてくれないか」
有紀は俺の隣に座り直してこちらを向く。
「有紀、俺は人間ではない。ヴァンパイアと呼ばれる者だ」
「‥‥‥ごめんなさい。今、なんて言ったの?」
「俺はヴァンパイアだ。そう言ったんだ」
暫く沈黙があった後、有紀は頭を抱えて言う。
「ちょっと待って‥‥‥思考が追い付て来ないわ。今マルクが言った言葉、ヴァンパイアって、あの? 吸血鬼の?」
「他にいる? 吸血鬼じゃないヴァンパイアなんて」
俺はふっと笑って有紀を見る。
「‥‥‥じゃあ、牙があるって事?」
「ええ? 初めに聞いてくる所ってそこ?」
流石にそこに質問が来るとか、ドクターなんだなあって思うよ。
「見たい?」
逆に聞いてみたが。どうなんだろうか。
「見たい!」
子供のようにキラキラした瞳で言ってくる。その姿が誰かと被る‥‥‥そうか、信長もよくキラキラした目で西洋からのガラス細工なんかを見ていたなあ。俺のマントの刺繍も「変わった柄よのう!」と
しげしげと嬉しそうに見ていたっけ。そういやあ、あの時、あまりにも見てくるから確か何着か渡したなあ。
「ほら、ここね。吸血する時に少し伸びるんだ」
と言って牙を見せる。
「へえ~本当に牙があるのね。面白いわ。でもマルクって普通に食事も食べていたわよね。それってどういう事? 普通の食事も食べれるの?」
「血液だけが必要って訳じゃないんだ。長い歴史の中で人間達と関わっていくうちに何でも食べれるようになったんだ。ただ定期的に血液を摂らないとダメなんだ、俺達の身体に必要なんだよ。人間でいう特別な栄養素ってやつかな、それが枯渇すると酷い吸血衝動に襲われて見境なく襲ってしまう。だから定期的に血液は摂っているよ」




