狼男。レオナルド
俺はあの後リックに連絡をして、日本にいるであろうアイツの仲間に連絡をとってもらった。連絡先を聞いて電話をする。そしてアイツの迎えを頼んだ。これでひとまず、落ち着いたかな。おっともうこんな時間だ午後診に行かないと。その前に昼飯を食べないとな、この後何時に終わるか解らないから。食堂に行くとさっきの救急救命センタ―のドクターがいた。そこで声を掛けられる。
「マルクス先生も今からですか? お互い食べれるうちに食べておかないと、いつ帰れるか解らないですからね。私は今日は当直なので余計、今食べておかないとって感じですね」
と同じテーブルで一緒に食事をした。このドクターは若いが優秀だ。運ばれてくる救急患者。その命をどれだけ救って来ただろうか。
「神谷先生は、何故? 救命医をされているのですか?」
「そうですね。研修医時代に大きな災害があって、その時現場に私も行ったのですよ。そこでは、命のやり取りをしなければならない程、酷い現場でした。普通ならそんな現場に行ったらトラウマ抱えて仕事さえ出来くなるのでしょう。でも私はその時、助けた患者から感謝されたのです。救えなかった命は沢山ありました。でも自分が携わった患者の命が救われ感謝された。それが、とても嬉しかったんです」
そう静かに話すそのドクターの内に、秘めた燃えるような熱い使命感を感じた。
「神谷先生は素晴らしいドクターですよ」
俺は本当にそう思った。
「マルクス先生だってあの国境なき医師団で活躍されていたと聞きましたよ。私には出来ませんね。日本でやっているだけで一杯一杯です」
「若かったから出来たのだと思いますよ。とても過酷でしたから。そこに十五年程居たお陰で色々な国の言葉を覚える事が出来たのですよ」
本当はもっと何十年も居たな、あそこは遣り甲斐のある場所だった。だが、年をとらない俺は同じ所には長くは居られない。
「若かったって、今でも十分お若いですよね?」
そう言って不思議そうに首を傾げる。困った‥‥‥。
「こう見えて俺は四十超えてますよ」
そう言っておかなければ、今までの功績を怪しまれる。俺の研究論文は医学雑誌にも掲載されている。六十過ぎでもいいのだが、見た目はどう見ても若いからな。それ位なら怪しまれないだろう。
「そうなんですね! 私と同じ位だと思っていたので、驚きです」
「いやー! 神谷先生の方こそお若く見えますよ。二十代かと思っていました。日本人は本当に若く見えますから。それに結婚もされているし、今が一番油がのって仕事が楽しいんじゃないですか?」
少し照れながら神谷先生は言う。
「そうですね。そうかも知れません。家族が居るって良いものですよ。マルクス先生が独身だなんてビックリです。知ってますか? 先生は今、院内の独身女性の憧れの存在になってますよ」
笑顔で言われる。有紀から聞いていたから知っていたが、そこまで凄い事になっていたのか‥‥‥。
「そうみたいですね。やたら女性の視線が多くて戸惑っていますよ。別に男性が好きって訳ではないですよ。俺も普通に女性が好きです。ただ縁が無かっただけです」
本当にそうなのだ。同じヴァンパイアにも俺はそういう感情を持った事も無かった。まして、俺はリックのように人間の女性に好意を抱いた事も無かったのだ。今までは‥‥‥。昼食を終え午後はいつものように病棟へ向かう。
今日は有紀がバイトに来る日のはずだが、姿は見ない。一通り仕事を終わってその日は普通に帰る事が出来た。そうだ、あの今日の患者の狼男に連絡をしよう。
話が聞きたい! 何故こうなっている。俺達は人間に正体がバレないようにひっそりと暮らして来たというのに、あんなに派手にやらかしてくれたら困る! カルテに連絡先が書いてあったな、偽っていなければ繋がるはずだ。車に乗り電話をかける。
「マルクスだ。レオナルドか?」
「ああそうだ。例の話だよな? 待ち合わせてそこで話す。今、電話では話せない。こっちもごたついているのでね」
「解った」
「指定先の店の名前と場所をメッセージで送っておく。時間も決めておく」
「待っているよ。じゃあ」