狼男(ウルフマン)
「ふーん。そうですか」
とナースは意味あり気に俺を見る。
「ははは! 君達ナースは特に日本のナースは優秀だからね。人を観察して考察する事に対しては敵わないよ」
「それは褒めて頂いて嬉しいです!」
そこで、ナースは俺に近づき言う。
「恋愛での悩みですか?」
俺は椅子から落ちそうになった。
「ビンゴですね」
嬉しそうに言うナース。ほんとに優秀だ。
「先生は人気ありますからね。そんなに悩む必要はないと思いますよ。相手の方もきっと先生の事を気にしているんじゃないですかね」
「やっぱり既婚者は違うのかな? 余裕だね」
「私の夫もナースなので、仕事に関して理解してくれています。こういった医療関係の仕事をしていると、一般の方とのお付き合いは難しいんです。残業も多いし、不規則だし、夜勤なんかもあるじゃないですか。結婚ってなるとやっぱり考えちゃいます」
「そうか。お互いこの業界に足を突っ込んでしまった訳だからね。この仕事の遣り甲斐を知ってしまうと抜けられなくなるよね。逆にメンタル的に病んで退職して行く人も多いほど大変な仕事だからなあ」
と、何気ない会話をしていると電話でヘルプ要請が入る。
「行ってくる、後は宜しく」
俺は救急救命センタ―に呼ばれた。患者は外国人で日本語が話せないらしい。
救急外来に着いた、そこにはウルフマンであろう男が叫んでいた。他のスタッフは暴れるその患者の対応に苦戦しているようだった。俺はその患者の元に行って、イタリア語で言う。
「日本人に迷惑をかけるな。ここは病院だ。安心しろ、俺の事も解るだろ」
暴れていたその患者は大人しくなる。周りもほっとする。
「お前は始祖か。こんな所で隠れているとはな。まあ。お前達にとっては血液の確保は、し易いからうって付けの仕事か」
「それよりどうしてそんなに大怪我をしている。お前達にも回復能力があるだろう? 病院に運ばれたらへたをすると、正体がバレるからまずいじゃないか」
「だから! 治療は必要ないって言っているんだが、通じなくて困っていたんだ」
「‥‥‥あのなあ。日本に来るならせめて少しは日本語を覚えてから来いよな」
「‥‥‥悔しいが言い返せない」
「まあいい。大人しく治療は受けていけ。ここのドクターは優秀だ。すぐ終わる。後は仲間に迎えを呼んで帰ればいい。そこは俺が上手い事言っておいてやる」
「解った」
大人しくなった患者に処置が行われて行く。血だらけだった割に傷は大した事はなく、傷口もテーピングのみで終わった。
「傷は縫っていないから抜糸の必要はない。これで怪しまれる事はないだろう」
そこで俺の名前をやっと見てその男は言う。
「マルクス・ウェンベリン? 道理で‥‥‥名前は変えないんだな。よくバレずにこれたな」
「この国のお偉いさんに俺達の仲間と繋がっている者がいるからな、何とでもなる。それよりお前に聞きたい事がある。後から連絡するが構わないか?」
「最近の怪事件の件だろう? この怪我もそれが原因さ。詳しく後から話すよ。世話になった」
処置が終わり経過観察室に移される。そこで救命救急センターのドクターに、
「どうやら俺の知り合いに逢いに来たらしいんだ。ちょとしたいざこざで喧嘩になったらしい、この後はその知り合いに連絡しておくので俺に任せてくれませんか?」
「マルクス先生の関係者だったのですね。それは良かった。暴れた時、警察を呼ぼうかと一瞬思ったんですよ。でしたら後の事を宜しくお願いします」
と任された。後からゆっくり聞こう。‥‥‥警察に連絡されなくて良かったよ。




