今日も幕を上げる
開演のブザーが鳴り
舞台にライトが当たる
客席には
仕事をさぼって隠れに来たのか
すでに大口を開けて寝ている男性に
明らかに興味を抱いていないカップルが
何故か最前列でいちゃつき合って
拍手一つも起こらないまま
幕が上がる
僕はといえば
一人舞台袖で
苦虫を噛み潰したような顔をしながら
今日の成り行きを見守って
ここで語られるのは
僕が紡いだストーリー
舞台を演じるのは
生み出した言葉たち
人目に付きたくない
そんな人たちが集う
街で一番の隠れスポット
今日も閑古鳥が鳴く
三流以下の物語と
三文以下の言葉たち
淀んだ空気と
くすんだ色ばかりの衣装
生かせてあげられない
上手に踊らせてあげられない
こんなんじゃないはずと
僕は奥歯を噛みしめる
いっそ閉じてしまえばいい
終わらせてしまえばいい
考えなかった訳じゃない
ただそうしようとする度に
手にしてきたペンが
綴ってきたノートが
偉そうに僕に言う
今更止めてどうなる?
続けろ
何があっても
その手を止めるな
なんて
僕はその悪魔を
折りも破り捨てもできなかった
物語が三流以下なんじゃなくて
僕が三流以下にしか仕立てられないだけ
三文以下の言葉たちではなく
僕が三文以下でしか紡げないだけ
これでも
生み出したつもりでいる
彼らを
綺麗に彩ってあげられない
もう休ませてあげればいいのに
いつかここから
希望が生まれるように
結局は僕自身が希望を捨てられなくて
僕は今日も幕を上げる