唐突な終わり
「はぁ……」
朝がきてしまった。
なんで気を利かせて、もうちょっと夜を長引かせたりしてくれないのかなぁ。
お前に言ってるんだぞ太陽! ……って、こんなボケを脳内で繰り広げてる時点で重症だね。
どうしよう……
まだ、体調悪いとか言って休もうかな……
いやいや、私は一応冒険者として、こっちに来てるんだから、ちゃんと仕事しないとね。
…………憂鬱だ。
とはいえ、アルフリードさんの屋敷にお邪魔している訳だから、無視したりするわけにもいかない。
あ、でも、やる事は結局のところ張り込みくらいしかないんだから、屋敷の中で顔を合わせる時に態度に気を付ければ良いだけなんだよね。
よし、ちょっとだけ気が楽になったかもっ
私は様子を見に来てくれたメイドさんに朝食を頼んで部屋の中で準備を済ませる。
私は平民だから気を遣って屋敷の中を彷徨かない、という建前で部屋に引き籠もっている。
気が楽になった? それでも気になっちゃうもんはしょうがないのだ。
食事を済ませると、アルフリードさんが私の部屋にやって来る。
これは回避のしようがないね。
「シラハ……その、今…少しいいかな?」
「はい。今日の張り込み調査についてですよね?」
「ああ……」
アルフリードさんも少し気まずいと思っているのか、少し落ち着きがない。
「まぁ、これと言って何…という事もないんだけど、前と同じように張り込みを行うって事の確認だね」
「はい、私もそれで構わないと思います」
「そうか……それじゃ各自準備が整ったら調査を始めようか」
アルフリードさんは必要なことを話すと、さっさと部屋を出て行ってしまう。
ホッとしたような、寂しいような妙な気分だ。
何にせよ、以前のような距離感には戻らないだろうね。
さて、私も調査を始めようかね。
退屈な張り込みを始めて何時間かな……
あまりに暇だと余計な事を考えちゃうから困る。
アルフリードさんの事は、あまり考えないようにして……
そうだ、姫様は昨日は目を覚ましていないって教えられたけど、今日はどうなのかな?
私、姫様に会いに行くって約束したから、目を覚ましたら会いに行ってあげたいんだよね。
でも今の姫様の居場所が分からない。
また探す?
いや、でも今の王城は警戒態勢を敷いているだろうから、姫様を探したら、ローウェルさんと遭遇してしまうかもしれない……
城内を探すのは、せめて姫様が目を覚ましてからにしようかな。
あの人、怖いしね。
それにしても、姫様が襲われたり、王様を脅迫して貴族が好き勝手にやってたりしてるけど、仮に魔薬調査が上手くいったとしても事後処理とかできるのかな?
国がまともに機能していないんだから無理かもね。
私は政治に首を突っ込めるほど、頭が良いわけでもないし、この国の事を知っている訳でもないから手伝える事はない。
役割分担、適材適所。
私にできる事をやるだけだ。
というわけで、張り込みに戻ってくるわけだけど。
「暇だなぁ……」
異常がない限りは、ただ見ているだけだもの、そりゃ暇ですとも。
そういえば、マックレー伯爵だかの屋敷から押収した書類から魔薬に関わっている貴族が分かったりはしなかったのかな?
もう書類はセクハラ団長に回収されてるだろうけど……
私がぼんやりと張り込みをしていると、誰かが私に近づいてきた。
騎士の格好をしてる。
誰?
ローウェルさんからの伝言かな?
近づいてきた騎士は、私をジロジロと見ている。
なんなの?
「白髪に赤眼……。お前が騎士アルフリードの補佐をしている女だな?」
「……そうですが?」
「ゼブルス団長がお呼びだ。すぐに来い」
ゼブルス団長って……セクハラ親父の事だよね?
さっそく呼び出しをくらってしまった!
どうしよう……一人で会うのは不味い……。
せめてアルフリードさんについて来て貰わないと。
あ…でも、アルフリードさんの立場じゃ私を庇うのは難しいかな……?
「騎士アルフリードにも使いの者が向かっている。ゼブルス団長は二人に聞きたい事があるそうだ」
聞きたい事……そんなの魔薬か姫様の事に決まっている。もしくはマックレー伯爵とやらの事か……
決して碌な話じゃないはずだ。
でも、ここでゴネても相手が騎士団長となると、いつまでも避ける事はできないと思う。
となると受けるしかないか……
「分かりました。貴方について行けば宜しいんですか?」
「ああ」
騎士は愛想の欠片もなく返事をすると、さっさと歩き出す。
私も置いていかれないようについて行く。
王城まで無言で移動していると、王城の入り口付近でアルフリードさんと合流したけど、アルフリードさんの表情は暗い。
私もだけど。
王城の正門に来たのは初めてだ。
忍び込む時は後ろめたさがあるから、正面から入ろうなんて思いもしなかったしね。
まぁ、正門に来たものの通るところは通用口みたいなとこだけどね。
私とアルフリードさんは騎士に連れられて、正門の通用口を通ると、王城の入り口が少し遠くに見える。
なんで建物が大きくなると門から玄関までの距離が長くなるんだろう……
普通に門から入るのは初めてなので、ちょっと周りをキョロキョロと見てしまう。
すると騎士が王城の入り口までの真っ直ぐの道から逸れて、城壁の隅の方へと移動して行く。
なんで騎士団長と会うのに、こんな隅っこに寄るんだろう?
嫌な予感がしつつも黙ってついて行くと、そこにはゼブルス団長ことセクハラ親父が待っていた。
「漸く来たか……。私も忙しいのでな、手短に済ませよう」
そうしてくれると、こっちも助かるんだけどね。
セクハラ親父が私とアルフリードさんを交互に見ていく。
こっち見んなし!
「まずは騎士オーベル。三番隊は現在謹慎中のはずだが……お前は何をしている?」
謹慎?
そういえば、セクハラ親父に遭遇してしまった時、ローウェルさんに謹慎だとか言ってたね。
そうなると、アルフリードさんは命令違反をしたって事になるの……?
それってヤバイんじゃ……
「自分は、ただの騎士であります。三番隊には所属しておりません」
「ほぅ……では何故、三番隊の隊長であるローウェルがお前の補佐として、その娘をつけさせたのだ?」
「自分が一人で調査を行なっていると聞き、少しでも力になってやりたいと仰っていました」
「なるほど……それで妹を補佐にした、と?」
「……はい」
ここにきて、私が持ち出した妹設定が足を引っ張っているかも……
理由があっても、成人していない妹を補佐につけるのは変だ。話を聞いている感じだと、たぶんローウェルさんが気を回してアルフリードさんを隊から外させたのかもしれないけど、私の存在が明らかに異常だ。
「聞いたぞ? なんでも、この娘の存在は今まで表に出していなかったそうだな」
「そうですが……それがなにか?」
アルフリードさんの顔色が悪い。
ホントに、このセクハラ親父はヤなやつだ。
「知っているか?」
セクハラ親父がニヤリといやらしく笑う。
「アルクーレにはシラハという冒険者がいるそうだ」
「っ?!」
ザワリと背筋が凍りつく。
コイツ……まさか私の事を知っているの?!
「その冒険者の事は知っていたが、まさか王都に来ていたとは思いもしなかった」
私の事を知っていた?
なんで貴族が冒険者の事を……?
「取り押さえろ」
「「はっ」」
「ぐっ?!」
セクハラ親父の命令で素早く動いた騎士二人に、私は腕を掴まれ地面に跪かされる。
「団長! 彼女は何もしていません!」
「何もしていない? 可笑しな事を言う……。この娘は下賤な身でありながら貴族だと名乗っていたのだぞ? これが重罪でなければなんなのだ?」
「それ…は……」
「当然、貴様やローウェルも取り調べを行う。貴様らが王国に混乱を招こうとしていたのは明白だからな」
やられた……
私の事を何処で知ったかはわからないけど、このままじゃ……
「彼女を離してください!」
アルフリードさんが声を上げる。
そして、一つのペンダントを取り出した。
「自分達は国王陛下の指示で動いています。これが証拠です」
「ほぅ……」
セクハラ親父がアルフリードさんの持つペンダントを見ると眉をひそめる。
「それは……」
「彼女に冒険者と名乗らせなかったのは調査を円滑に進める為であって、王国に混乱を招くためではありません。――さぁ、彼女を離してください!」
そうだ……それがあったね。
私を抑えてる騎士達にも動揺が見える。
「くくっ……」
そんな中、セクハラ親父だけが笑いだした。
「なるほど……陛下も噛んでいたのか。どうりでなっ!」
「アルフリード様!」
「えっ……」
セクハラ親父が、いきなり剣を抜いてアルフリードさんに斬りつけた。
アルフリードさんは、それをどうにか避けられたけど、持っていたペンダントが手からこぼれ落ちる。
そして、そのペンダントにセクハラ親父が剣を突き立てた。
「団長! 何をするんですか?!」
アルフリードさんが叫ぶけど、すでにペンダントは壊れている。
セクハラ親父はペンダントを見下しながら、ほくそ笑んでいた。
「畏れ多くも陛下の意思であると騙るとは……貴様には罰が必要だな」
「騙る……? 違います! 自分は……!」
「黙れ」
セクハラ親父がアルフリードさんにそう告げると、持っていた剣の切っ先が私の方へと向き、そのまま私の右眼を貫いた。
「づ?! ぁああああ……!」
痛い痛い痛い痛い……!
右眼が焼けるように痛い! なんの躊躇もなく目を潰してくるなんて……!
「シラハ?! 団長! 何を?!」
「言っただろう? これは罰だ」
「陛下の意思を無視して、このような振舞いが許されると思っているのですか!」
「貴様こそ、私に逆うつもりか?」
「くっ……」
「それでいい、貴様はそこで大人しく見ていろ」
誰かが何か言っているけど、目だか頭だかが痛くてよく分からない。
「私の手によって裁かれる事を光栄に思うがいい」
私に向けられた言葉に思わず顔を上げる。
「あ……」
声が漏れたけど、それ以上は続かなかった。
セクハラ親父が剣を横に振るうと、私の口から声ではなく血が溢れてきた。
どうも喉を斬られたみたいだ。
苦しいな……
喉奥から血は溢れてくるし、息もできない……
「……シラハ!」
誰かの声が私を呼ぶ。
その声の方に向きたくても力が入らない。
ああ…これで終わりなのかな……
思ったより、あっけ…なかったなぁ……
シラハ「ちーん」
アルフリード「いや、洒落になってないけど……」
狐鈴「おお、シラハよ。死んでしまうとは情けない……」
シラハ「…………」
アルフリード「返事がない……」
狐鈴「ただのしかばねのようだ」
アルフリード「それも洒落にならないよ!」




