ランクあっぷー
「えっ、昇格ですか? もう?」
私は今日も薬草採取に出掛けようと常設依頼の薬草を確認しに来ていたのだが、そこでエレナさんに呼ばれ冒険者ランクの昇格を言い渡されていた。
冒険者ランクは一番上がりやすいGランクからFランクになるにしても一ヶ月はかかると聞いていたが、私はまだ薬草採取は三回しか行っていない。天気が悪い日などは書庫でミューゼルおばあちゃんとお菓子を食べ……げふんげふん。本を読んでいる。
「ええ、シラハちゃんの持ってくる薬草は綺麗ですからね。魔石の買い取りでは、シラハちゃんが本当に倒してきたのか疑問視されていたのですが……先日の悪漢を退けた件で実力はある、と判断されましてシラハちゃんのFランク昇格が決まりました」
「そう……ですか」
「シラハちゃんが持って来た時点で功績に加算されるべきなのに、疑ってしまって本当に申し訳ありませんでした」
「あぁ……いえ、それは仕方がない事だと思ってるので、気にしないでください」
エレナさんが謝ってくるが、私みたいな女の子が魔物を倒してきた、と言っても誰も信じないと思う。それなのにエレナさんは本当に済まなそうにしているので、こちらも申し訳なく思ってしまう。
しかし、気になる事がある。私みたいな小娘がさっさとFランクに昇格するとなると――――
「おい。そんな小さいヤツがFランクなのに、なんでオレらはまだGランクのままなんだよ!」
これである。
やはり絡まれてしまった。テンプレを考えた先人は偉大だと思わざるをえない。出来る事なら回避したかったけど。
「シラハちゃんは実力とその仕事ぶりを鑑みてFランクに昇格しても問題ないと判断されたんです。貴方達が昇格出来ないのは実力が不足していると見做されているからですよ」
「オレらがそこのチビより弱いってのかよ!」
エレナさんがキリっとした表情で絡んできた冒険者三人組に実力不足と言い渡している、カッコいい……でも、私の事をシラハちゃんって言ってるのも子供っぽく見える要因なんじゃないのかな?
「おい、チビ。オレらと勝負しろよ! オレらが勝ったらオレらがFランクだからな!」
絡んできた冒険者が無茶苦茶な要求を突き付けてくる。彼は何を言ってるんだろうか、チビ相手に当たり前のようにオレらって複数で挑むの前提に言ってるし。ここで断ったところで、いつまでも絡んできそうなので勝負は受けるつもりなのだが、そんな条件はお断りである。
「嫌ですよ」
「逃げるのかよ!」
「逃げませんし、勝負も受けますよ。けど、その条件じゃ私に得がないじゃないですか。そちらが勝ったらランク昇格、なら私が勝ったら? そちらは何を私にくれるんですか?」
まぁ負けたところで私が何かするわけじゃないんだけどね、ただGランクのままってだけでね。
「お前が勝ったらオレらのパーティーに入れてやるよ!」
「却下です。それはメリットじゃなくてデメリットです」
「勝負を受ける気ないんじゃねえかよ!」
「そちらがまともな条件を提示しないからでしょ……」
なんなんだろう。絡んでくる人には話が通じる人がいないのだろうか? 相手にするのがとても疲れる。
「なら貴方達が負けたら一人あたり10万コールの支払いでどうですか?」
「金とるのかよ!」
「あら? 貴方達はFランクになって依頼の幅が増えるシラハちゃんの邪魔をしているのだから妥当ではないですか? もし自信がないのでしたら勝負は取りやめた方が良いですよ?」
「チッ……それでやってやるよ!」
私抜きで決まってしまった。正直お金なら自分で稼ぐから要らないのだけれど、エレナさんがまとめてくれたから従うとしよう。ギルド職員であるエレナさんなら止めてくるかとも思ったのだけれども、彼らに腹を立てたのだろうか貼り付けたような笑顔で彼らを煽って条件を飲ませた彼女が怖いです。
私達は冒険者ギルドに併設されている訓練場へとやって来た。立会人としてエレナさんもついてきている。私達の戦いを酒の肴にとジョッキを片手に、冒険者も何人かついて来ている。というか朝っぱらからお酒とか……まあ、いいけどね。
そして私達は距離をとって向かいあう。私に絡んできた冒険者はまだ幼さの残る顔立ちをしてはいるが、体付きはしっかりしているようだ。私と違ってきちんと食べて動いていたのだろう。彼らは訓練場に置いてあった刃を潰した剣や槍を持ち出してきた。
「お前は武器はいいのかよ、チビ」
「武器使ったことないですし」
「それで冒険者とか聞いて呆れるな」
よし、剣を持った彼は最初から私に絡んできていたので顔を殴ろう。他の二人は取り巻きみたいで、彼に同調してるだけで私には直接文句を言ってきてはいないので、顔と金的以外で勘弁してあげよう。私優しい。
「それじゃ、お願いします」
「は、はい!」
私が声をかけると、エレナさんがオロオロしながら返事をする。今になって冷静になってきちゃったのかな? 訓練場に来たあたりから挙動不審に陥っているし。でもエレナさんは私の事を心配してくれている節があるので、ここらへんで私もそれなりに戦えるという事を見せてあげた方が安心すると思う。Fランクになったら魔物討伐の依頼もあるので、防具も買うつもりだ。
「それでは、はじめ!」
「行くぞコラァ!」
剣を持った冒険者が一直線に突っ込んでくる。せっかく三人いるというのに連携とかはしないようだ。私は【竜気】を発動させると一気に距離を詰めて彼の顔面に拳を減り込ませる。殴られる前に彼が一瞬驚いた顔をしていたが、私は容赦なく拳を振り抜くと彼は数メートル吹き飛んで動かなくなった。
「えっ?」
「は?」
彼の取り巻き達も動きを止めて吹き飛んだ彼を見ている。そのまま殴りかかっても良かったのだけれど、戦意がないのならそれ以上は攻撃するつもりもない。
「どうします? まだ戦うなら止めませんけど」
「こ、降参します」
取り巻き達はさっさと降参してくれて無駄な血が流れる事はなくて一安心だ。吹き飛んだ彼の事は取り巻き達に任せて私とエレナさんは冒険者ギルドへと戻ることにする。
「シラハちゃんスミマセンでした。本来なら私は止めるべき立場なのに、煽るような事を言ってしまって……」
「断ったら、いつまでも難癖つけられてたでしょうし私としては助かりましたけどね」
「ですが、それでシラハちゃんを危険な目に遭わせてしまうのはギルド職員として失格です……」
「それを言うなら自分で収められなかった私が冒険者失格ですよ。……それでも気になるなら彼らに出した条件、しっかり守らせてください」
もともと冒険者ギルドは冒険者同士の争いに関しては不干渉なのだ。それなのにエレナさんが間に入ってくれた事で話を纏めることができたのだ、文句を言うつもりなどない。
「大丈夫です! ちゃんと依頼料から差し引くので!」
「いいんですか? それ……」
「時々あるんですよ、そういうことが」
どうも不干渉と言ってもギルド内での揉め事を放置する訳でもなく、頼まれればギルドが仲介に入る事もあるし、剣呑な雰囲気になれば職員権限でペナルティを与えて収める事もあるのだとか。
最初の説明では関与しないと言われていたので、目の前で乱闘騒ぎが起きても、見て見ぬ振りをするのかと思っていたから安心したよ。
一悶着はあったものの、そのあとはFランクの昇格も無事に済み、私の冒険者カードにはFランクと表記されている。ランクに執着する気はないけど、評価されるのは素直に嬉しいね。
冒険者ギルドを出てから私は防具屋を探す。場所はエレナさんに確認済みなので、教えてもらった場所に向かっている。それらしい店を見つけて入ると、女性の店員さんが座りながらカウンターの上でなにかの革を弄っていたが、私に気がつくと手を止めて笑顔を向けてくる。
「いらっしゃい。お嬢ちゃん、ここは革製品の防具を扱っている店だから面白い物なんてないよ?」
「私、冒険者なので防具を揃えにきたんです」
「え、冒険者? お嬢ちゃんが?」
店員のお姉さんは私が冒険者だとは思わなかったらしいが、私が冒険者カードを出すと信じてくれた。
「ふむ……お嬢ちゃん、じゃなかったシラハちゃんね。12歳ってのも驚きだけど、その歳で冒険者やってる理由は聞かないでおくよ。それよりもシラハちゃんの体格に合わせた革防具かぁ……大きさの調整とかするにしても時間かかるよ?」
「あ、やっぱりですか。それは仕方ないですもんね。あと、どういった物にするか決まってないので相談に乗ってもらっていいですか?」
「ええ、もちろんよ」
私は小柄なのでサイズが合わないのは予想がついていたので気にしない、そのうち色んなところが大きくなるはずだ。私は動きを阻害しない物で防具を揃えたいと、お姉さんに伝えると胸当て、手甲、脛当てを見繕ってくれた。防具のイメージが出来たところで、お姉さんが私の採寸を行っていく。
「シラハちゃん身体凄く綺麗ねぇ、お肌もスベスベだし羨ましいわ」
「ひゃわ! いきなり背中撫でないでくださいよ!」
「あら、ごめんなさいね」
お姉さんがフフフと笑いながら採寸を進めていく。不意に背中を撫でるものだから変な声が出てしまった。私の肌は大蛇にボロボロにされたけど、スキルのおかげで今は傷一つなくスベスベの肌を保っているのだ素晴らしい。
「革製品も決して安くはないんだけど、ポンとお金出せちゃうのね。これは引き換え券だから無くさないようにね」
防具の調整が済んだら現物と交換するための引き換え券を貰い防具屋を出ると、武器屋へと向かう。武器は要らないかなと思っていたけれど、素手で魔物を倒しに行くというのは流石に目立つと思い、何かそれらしい物を買おうと思っている。魔物の討伐証明となる証明部位を剥ぎ取る為のナイフなら持っているので、あとはメインウェポンだけだ。
武器屋は鍛冶場と併設されているのか、カンカンと槌を打つ音が響いてくる。武器屋へと足を踏み入れると奥が鍛冶場と繋がっているようで、熱気がこちらまで伝わってくる。
「おう、らっしゃい! お嬢ちゃん、おつかいかい?」
店番なのか若い店員が声をかけてくるが、私が使うとは思ってもいないらしい。今回も冒険者カードを見せて納得してもらったが、新しく店に入る度にコレだと面倒になってくる。はやく大きくなりたいものだ……
武器屋では私の背丈でも問題なく振れる、片刃の短剣を選び、短剣にあわせて剣帯も買ってみた。短剣を腰に差すと冒険者っぽくなった気がして、楽しくなってきてしまう。
ちょっと魔物退治に行っちゃおうかな?
シラハ「魔物退治行っちゃおうかなぁ」
防具屋「お肌スベスベ……ふへへ」
シラハ「ぶるり…なんか寒気が……やっぱ帰ろ」




