カルセストラの街
はい、おはようございます。今日は街の散策です。
昨日の夜に【潜影】を使って周辺で盗み聞きをしてみたところ、この街はカルセストラというらしい。
別に誰かに聞いても良かったんだけど、三人の内二人が身分証を作らない、何処の誰とも知らない連中が街の名前も知らなかったら、着のみ着のままで流れてきた哀れな家族か怪しい連中、のどちらかに見られてしまう。
自意識過剰かもしれないけれど……。
ただ私の両親は竜族(人化)なので、なるべく騒ぎは起こしたくないからね。
ちなみに昨日の夜はベッドの気持ち良さに興奮した父さんが、ベッドの上でドタバタと暴れたためにベッドが壊れた。
壊れた経緯を説明しながら何度も頭を下げて、ベッドの代金を支払って許して貰えた。
父さんは説明している私の後ろで母さんに正座をさせられていたので反省したと思う。
あれは恥ずかしかったよ、ほんと……。
寝る前に枕投げでもしようかな、なんて思っていたけどベッドを簡単に壊しちゃうなら枕投げをしたら何が起きるか分からないのでやめておいた。
壁に穴でも開くかもね。
朝になっても宿屋の店員さんの視線が痛かったので、朝食を食べずに外に出て、そこからは屋台で串焼きを買ったり、市場で採れたての果物を食べてお腹を満たした。
「一つ一つは物足りないが、どれも旨いな」
「そうね。果実は食べ慣れてるけれど、串焼き? は何か変わった匂いがするわね」
食べていった物は二人にも気に入って貰えて良かったよ。
「変わった匂いってのは多分、香辛料や調味料の事だと思うよ。料理は塩だけでも随分と味が変わるからビックリすると思うよ」
「シラハは料理を作れるのか?」
「ん? んー……ま、まあね」
「それなら、いつかシラハの手料理を食べてみたいものだな!」
「いいわね!」
ああ……また、その話になってしまったよ……。
そういえば私って料理した事あったっけ?
旅の途中は干し肉と水くらいだったし、私ってもしかして料理ができないのかもしれない……。
て、手料理……?
どうしよう。もし料理が恐ろしく下手で目玉焼きでさえ、8割くらいの確率でスクランブルエッグになってしまう、なんて腕前だったら……。
いやいや、それよりも酷くて私が手を加えただけで、全ての料理が黒いナニカになってしまう能力の持ち主だったらっ……!
って、ないない。もしそんな風になるのなら能力じゃなくて呪いだって。
それに私だって料理した事あるし。前世でだけど。
たしか、ほら、あれだ。自分でご飯作るしかなくて、スクランブルエッグ作ってて……それで…………あ、やばい。
これは思い出すべき事じゃない。誰かがダメだって言ってる気がする。
はー……。なんか変な事を思い出しそうになったら食欲なくなったなぁ……。どうしよう?
「そうだシーちゃん、お洋服を見にいきましょう!」
私の気分が落ち込んでいると、母さんから服を見にいかないか、という提案をされる。
服については以前から母さんに頼めないか考えていたので、この機会に色んな服に触れておくのもアリだと思う。
私達はいくつかの洋服店を巡る。私が入った事のある服屋は冒険者が使う機能性重視の丈夫な服ばかりを扱っていたので、目の前に並ぶ可愛らしい服は街中で女性が着ているのしか見た事がない。
父さんに服を破いたりしないように注意をしてから服を見ていく。
その途中で母さんのところへ行き、周りに人が居ないのを確認してから母さんに人化について質問する。
「ねぇねぇ母さん」
「なあに?」
「母さんが人化する時に着ている服は、なんでも作れるの?」
「そうねぇ……あまり凝っている物は無理ね。でも、どうしてそんな事を聞くの?」
「えーとね、その方法で私の服も作れるかなー、なんて思ってたり……?」
人化した時の服は竜鱗だと父さんが言っていたので、この頼み事は少し無理があるかな、と思いつつも母さんに頼んでみる。
母さんは少しだけ考える。
ダメかな?
「別に構わないけれど、私が作るとシーちゃんには大き過ぎちゃうんじゃないかしら? それでも大丈夫?」
どうやら気にしていたのは服のサイズだったらしい。それはしょうがないよ……。
「大きかったりしたら丈は詰めちゃうから気にしないで。それより、その方法で服を作るのって大変じゃないの?」
「簡単ではないわよ。けれど、どんな力を持っていてもシーちゃんは人間だから、私達に比べると肉体が脆弱すぎるわ。なら、これでシーちゃんを守れるのなら、幾らでも作ってあげるわ!」
「ありがとう! でも無理はしないでね」
「ええ、シーちゃんみたいに倒れるような事はしないわ」
「あはは……」
「もし、気に入った服があれば買っていきましょう。それを見本に作ってみるわ」
母さんが乗り気になっている。思い付きで、もし作って貰えるなら防御力アップになるかなーってくらいだったんだけどね。
竜の鱗でできた鎧なら、どこかにあるかもしれないけれど、竜の鱗で作られた服なんてレアだと思う。
取り扱いには注意しないとね。
な、なんだその服はぁ?! とか言われて目立つのは嫌だしね。
それでも自分の身を守る為なら分不相応だとしても、私は伝説の鎧だって装備しちゃうよ!
あ、でも装備した瞬間に勇者認定くらうような加護付きなら遠慮するけどね!
「シラハよ、服はレティーツィアだけに頼むのか?」
う、まずい。父さんが自分だけ除け者にされた、みたいな顔してる。違うよ! 服の大きさから考えて、母さんに頼んだ方があとが楽だと思ったんだよぅ!
だから、そんなに落ち込まないで! え、えーと、何か父さんにしかできない事……。ううーん
「あ、そうだ。父さんに作って欲しいものがあるんだ」
「本当か!」
よし父さんが立ち直った!
「うん。でも、ここじゃあ出来ないから家に戻ってからね」
「うむ、分かった!」
「本当に単純ね……」
母さん言わないであげて……。
私達は服屋を後にして、街をぶらぶらと歩いて行く。
街を歩いていると五人組の男女に声をかけられた。
父さんと母さんが。
二人とも美男美女だしね。それにしても、よく普通に声をかけられるよね。子連れって分からないのかな?
そう思っていると、
「アンタら冒険者だろ? そこのちっこいのなんてどう見ても戦えないだろうし、それなら俺達と組もうぜ」
「そうそう。アタシが満足させてあげるよぉ……?」
なんて事を言われた。昼間っからお盛んな人もいるもんだね。
そもそも、この二人は冒険者ですらないんだけどね。
あ、父さんが拳握って震えてる。殴っちゃダメだよー!
死んじゃうよー、相手が……。
「父さん、私は大丈夫だから落ち着いて」
「我は落ち着いているぞ」
「ほんと?」
「ああ、我はな……」
父さんが言葉を止めると、バチンという良い音が響いた。
私がその音に振り返ると、母さんが声をかけて来ていた女にビンタをしていた。
「ギャア……! あ、あんた、何するんだい!」
「何って、人の番に色目を使ってきたんだから……戦争でしょ……?」
やばい……。母さん、怒りはごもっともだけど、こんな所で竜の常識出してこないで!
ここを収めるのは私じゃ無理! 父さんは……と、思ったら母さんのすぐ後ろに立っていた。
父さんは何も言わずに母さんを後ろから抱きしめる。
「……ガイアス」
怒りに染まっていた母さんの顔から、力が抜けていく。
「安心しろ。誰が擦り寄ってこようとも、我の番はレティーツィア、お前しかいない」
「他の雌に目移りしたら喉を噛みちぎるわ」
「そんな事には、ならんさ」
凄い……父さんがちゃんと旦那さんしてる。
あんな事もできるんだね。そして母さんは父さんにちょっかい出される場合は沸点が低いんだね。
二人の新しい一面を知れたよ。
「ふざけんじゃないわよ! アタシを殴っておいて無視かい?!」
ああ……。いたね、ナンパ してきたお姉さんが……。
「でも先にちょっかい出してきたのは、そちらですよね?」
「だからって殴っていいのかい?!」
「たしかに手を出した事は良くないですけど、子連れの親娘から子供を引き離そうとした貴方達は良からぬ事を企んでいたのではないのですか?」
「こ、子連れだろうが、お前は冒険者だろうが! なら問題ないだろ! 一人が怖いなら冒険者なんて辞めちまえ!」
男の方が何やら騒いでいるけれど、そもそも根本的に違うんだよねぇ。
「私は冒険者ですけど、私の両親は冒険者ではありません。――――さて、もう一度聞きますよ? 冒険者でもない二人を連れて行って、何をしようとしたんですか?」
「し、知らない! 俺はそっちの二人が冒険者じゃないなんて知らなかったんだ!」
「そうですか……こちらが先に手を出してしまいましたけど、私の両親は一般人。冒険者に絡まれた一般人が身の危険を感じて自己防衛をした、という事で納得していただけませんか?」
「わ、分かった……。お前もいいな?」
母さんに叩かれたお姉さんは頬を押さえて、こちらを睨みながら仲間に連れられて去っていく。
ふー。有耶無耶にできて良かった……。父さんや母さんが暴れるような事態になってたら最悪だったよ。
というかナンパ するなら、もう少し相手を選んでよね。
街が滅ぶよ?
なんか、ドッと疲れたよ……。
「シーちゃん、ごめんなさいね……」
「手間をかけさせたな」
二人が申し訳なさそうにしているけれど、私としてはよく我慢してくれた、と思っている。
父さんなんて開口一番に街の一角を吹き飛ばしてそうだもの。言葉じゃなくて竜咆哮が出てくるとか悪夢だよね。
「二人は、まだ街には慣れてないからね。でも、ああいう人が絡んできたら無視しておけばいいからね」
私が対処法を教えていると、先程とは違う集団がやってくる。やな予感が……。
「ここで乱闘騒ぎがあったと通報があった。君達で間違いないか?」
衛兵の一人が確認してくるけど全然違うよ。
「乱闘はなかったですね。一般人の父と母にちょっかいを出した冒険者と少し揉めただけです。もうお互いに和解しました」
「なるほどな……。だが街中で騒ぎが起きたのなら聴取は取らせて欲しい。もちろん、あとでその冒険者達にも話は聞かせてもらう、それで構わないか?」
「分かりました」
この衛兵さんはまともな人だね。安心したよ……。
あー、でも聴取か……。二人は大丈夫かな?
チラリと二人を見ると、手を繋いで何やらイチャイチャしている。人目があるから程々にしてね?
ずっと私がいたからイチャつく時間が無かったんだろうけど、やっぱり二人は仲が良いんだね。番だもんね。
私達は詰所へ行き別室に連れていかれると、大人しく状況を説明した。
なんか隣の部屋では、父さんと衛兵の人が言い争いしているのが聞こえるけど気のせいだと思う。
「奥さんも別室です! なんで一緒じゃなきゃイヤとか言ってるんすか?! アンタ立場分かってます!?」
「我等を引き裂く事など何人たりともできんわ!」
「ガイアス……」
「こんな所でイチャイチャしてんじゃねえよ?! …………もう一緒で良いから、話聞かせて貰うよ……」
ようやく隣の部屋でも聴取が始まったね。
二人とも変な事言わないでよね。
「はい、これで終わりね。君みたいに、すんなり終わる人ばかりだと本当に助かるよ」
「なんか……すみません」
「ああ! 違うよ!? そういう意味じゃないからね! ただ感心しただけだから……」
私の聴取をした人が申し訳なさそうにしている。なんかごめんなさいね。
「それと、お父さんとお母さんは身分証を持ってないって話だけど、その場合、通行時に身分証を持っていた君が二人の保証人になるから、もし問題が起きた時は君に責任がいく事があるから気を付けてね」
「分かりました。教えてくれて、ありがとうございます」
「いいって、これも仕事だからさ」
優しくて仕事もできるって感じだね。
素晴らしい!
「見つめ合ってないで話聞いてくれますかねぇ?!」
隣から衛兵の叫び声が聞こえてくる。喉を痛めそうだね。
「騒がしいだけのヤツは雌から離れていくぞ」
「ご忠告どうもありがとう! 一昨日振られたよ畜生め! あと騒がしいのはアンタらが話を聞かないからだ!」
「本当に煩いわね。よくこんな雄と一時でも一緒に居ようだなんて思うわね」
父さん……母さん……止めてあげて。可哀想だよ……。
「……ちょっと、隣行ってくるね。君は両親を待ってるなら、この部屋に居ていいからね」
「ほんっっっとうにスミマセン! ご迷惑おかけします」
「気にしないで、仕事だからさ。ははは……」
衛兵さんがどこか遠くを見ちゃってるよ……。
お仕事頑張ってくださいね! せめて私達が街に滞在している間は!
父さん「レティーツィア……」
母さん「ガイアス……」
衛兵「なんでコイツら話聞いてくんないの……」
先輩衛兵「おーい。応援に来た…よ…?」
衛兵「先輩! ありがたいっス! これですぐに終わるっすね!」
先輩衛兵「二人の世界に入っちゃってるじゃん。長そうだから、俺帰るねー」
衛兵「先輩?! 置いてかないでー!? こんな空間に一人とかイヤっスー!」
シラハ「隣、賑やかだなぁ……」




