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あ、お疲れ様でしたー

「魔物が森から出てくる前に何をしたんですか?」


『パラライズサーペントの成長を確認しました。

 スキル【解毒液】【熱源感知】が 

 使用可能になりました』


 私がレギオラさんを問い詰めようと言葉を発すると同時に、頭の中に新しいスキルを手に入れた事が伝えられてきた。


(あぁぁ……こんなタイミングで喋り出さないでよ……)


 空気を読んでくれなかった声は、とりあえず後回しにしてレギオラさんをキッと睨む。

 するとレギオラさんは降参だ、と両手を上げた後にポケットから飴玉のような物を取り出した。


「俺はこの撒き餌を使って魔物を誘き寄せたんだ」

「なんの為にですか?」


 レギオラさんが私に魔物を(けしか)けたのは、タイミングを考えれば想像がついたが、レギオラさん自身が私を襲う訳でもなかったし、魔物を集めた時点で私が魔物を多く討伐できる方法を探る事も出来なくなる。

 だからこそ私にはレギオラさんの目的が分からなかった。


「簡単な話だ。ただ嬢ちゃんの実力を知りたかっただけだ」

「……? 馬鹿なんですか?」

「おいおい。酷えな……」

「実力を測るだけならギルドの訓練場で事足りるじゃないですか。なんでわざわざ外に連れ出す必要があるんです?」


 こんな回りくどい事をする必要性が私には分からなかった。だがレギオラさんは首を横へと振ると真面目な表情になる。


「それじゃあ嬢ちゃんの人となりが分からんからな、訓練場だと俺はちと目立つからな」

「Aランクの冒険者ならどこでも目立つんじゃないんですか?」

「まあな。だが俺と一緒にいると嬢ちゃんに対する妬みが増すぞ? 面倒事は嫌だろ?」

「たしかに無いに越した事はないですけど、今の状況が既に面倒事ですよ」


 私は今の気持ちを正直に伝えておく。とりあえずこんな事は望んではいないのだ。一人で気楽に魔物退治なら良いんだけどね。


「あー……まぁ、騙してた事は悪かった。しかし嬢ちゃんをEランクに昇格させるかどうかの判断の為にも必要だったんだよ」

「また昇格するんですか?」

「嬉しそうじゃないな……」

「Fランクになった時に絡まれましたからね」


 今の私は随分と渋い顔をしているのだろう。レギオラさんは私の顔を見て苦笑いする。私にはとってランク昇格は歓迎されるものではなくて、絡まれる厄ネタでしかないから仕方がないと思う。


「それで私はEランクになっちゃうわけですか?」

「もうちょっと喜んでくれよ……さっきの戦闘を見る限りじゃ問題は無さそうだしフォレストマンティスを倒したからな、文句は出んだろ」

「そうですか……つまりレギオラさんは昇格の合否を出す試験官の様なものですか?」

「それなんだが、その辺の話はギルドに戻ってからしようか」

「……分かりました」


 一応話す気はあるらしいので魔石や討伐証明部位を回収して、街に向かって歩き出したレギオラさんについて行く。するとレギオラさんは歩きながらチラリと私の方を振り向いてくる。


「さっきはあんなに睨んでたのに大人しく付いてくるんだな。もう警戒はしてないのか?」

「信用してるので」

「そりゃ嬉しいね」

「エレナさんを」

「…………そうか」


 今日会ったばかりの人をそんな簡単に信用できる訳がない。レギオラさんはエレナさんの紹介だったから、なにかを企んでいるにしても私に危害を加える事はないと思っている。無警戒ってわけじゃないけどね。


「そういえば、このまま一緒に戻ったら妬み嫉みが増すんじゃないんですか?」

「Eランクになったら同じだろ」

「さっきは面倒事を回避させようとしてくれてませんでした?」

「あれはEランクになれなかった場合の保険だよ」

「なるほど」


 多少なりともこちらの事は考えてくれているらしい。とりあえず今はこれ以上話す事はないので、黙って後ろをついて行きながらスキルの確認を行う。


【解毒液】自身の体液を解毒液に変質させる。


【熱源感知】周囲の熱源を感知する。


 相変わらず雑だなぁ……と思いながら説明を見ていく。【解毒液】は使う事はない気がする。【毒食】で無毒化できるからね。

 【熱源感知】は説明がそのまま過ぎて分からないので早速使ってみることにする。


(【熱源感知】…………おぉ?)


 私が【熱源感知】を使うと周囲の空気が変わった感じがした。てっきり視界が切り替わってサーモグラフィーのように色で表示されるのかと思っていたけど、周囲で熱を持っているものがなんとなくだけど分かるのだ。


(目を瞑ると目の前のレギオラさんがいる所に熱を感じる……これなら【熱源感知】と【獣の嗅覚】を使えば、もっと魔物の位置を特定しやすくなるかも)


 もしかすると匂いで追えない相手もいるかも知れないし、手段が増えるのは良いことだ。あとは自分なりに使いこなせるようにすれば良いのだ。


  名前:シラハ

  領域:〈ドラゴンパピー+パラライズサーペント〉

     〈フォレストドッグ+フォレストホーク〉

      サハギン フォレストマンティス(1)

 スキル:【体力自動回復(少)】【牙撃】【爪撃】【竜気】

     【麻痺付与】【毒食】【解毒液】【熱源感知】 

     【獣の嗅覚】【夜目】【潜水】【鎌切】


 スキルを確認していると領域も一つ枠が増えている事に気付いたので、あとでのお楽しみだ。ここで魔石を取り込むわけにもいかないしね。


 そして街へと戻ってきた私達は冒険者ギルドに戻ってきた。ギルドに入るとレギオラさんに気が付いた冒険者達が一瞬ザワリとした。


 レギオラさんはそんな周囲の反応を気にせず、受付にいたエレナさんに話しかけると二階に上がって行ってしまう。


 取り残された私はエレナさんに話しかけ、とりあえず換金を済ませてしまうことにする。そこでエレナさんは一緒にEランク昇格の手続きも行ってくれた。


「シラハさんEランク昇格おめでとうございます!」

「あ、ありがとうございます……」


 ギルド内に聞こえるように祝福してくれるエレナさんに、苦笑しながら礼を伝えてギルドカードを受け取る。

 やはりエレナさんが昇格を伝えると周囲から騒めきの声があがった。これは間違いなく一悶着ありそうである。今すぐ日向亭のベッドに逃げ込みたい。


 しかし、エレナさんの次の言葉で問題は解決する。


「ギルマスが自ら見定めて承認したんですから、もっと自信持ってくださいよ」


 周囲から声が消えた。それより気になった事があった。


 え? ギルマス? 誰が? もしかしてレギオラさんが?


 少し間を置いてから、また周囲が騒がしくなってきた。


「マジかよ……ギルマスが立ち会って昇格なんてできるのかよ」

「ダメだった話しか聞いたことないぜ」

「凄い厳しいんだろ?」


 と色々な話が聞こえてきた。

 だからこそエレナさんは皆に聞こえるように言ったのかもしれない。私にはピンとこないけどね!


「それじゃあシラハちゃん、ギルマスの部屋へと行きましょうか」


 私が周囲の声を聞いていると、エレナさんが私の背中を押しながら二階に上がるように促してくる。背中に視線を沢山感じるなぁ……


 二階に上がり入り浸っている書庫を通り過ぎて、一番奥の部屋の前へとやって来る。エレナさんはドアをノックすると返事を待たずに部屋に入っていくので、私もそれに続く。


 そして部屋に入るとエレナさんは執務机に座っているギルマスに目もくれずに振り返り、頭を下げてきた。どうしたんだろう?


「嘘をついてスミマセンでした!」

「嘘……?」

「シラハちゃんに引退した冒険者による実地訓練と嘘を言って送り出した事です」

「ああ……その事ですか」


 私は頭を下げているエレナさんを見て困ってしまう。エレナさんは仕事の一環で私に嘘の依頼内容を伝えたのだろうが、それを気に病んでいるらしい。真面目な人だなぁ……と心から想う。


「嬢ちゃん。エレナは俺に言われただけだから責めないでやってくれよ」

「つまり嫌がるエレナさんに無理強いさせたわけですか。パワハラですね、死ねばいいのに……」

「ぱわはら? っていうか嬢ちゃん俺に対して言葉がキツくないか?」

「自分の行いの結果ですね。私がレギオラさんを好く要素が微塵もありませんし」

「えぇ……これでも嬢ちゃんが冒険者に絡まれないようにしてやったつもりなんだが……」

「それは昇格だけじゃなくて、私にやって欲しいことがあるからやった事じゃないんですか? お礼を云えば帰っていいならそうしますが?」

「悪かったって……頼むから帰らないでくれ」


 レギオラさんは困ったように頭を下げた。私としてはもう少しやり返したかったけど、これ以上は話が進まないのでこの辺にしておいてあげよう。


「それで何の話ですか?」

「嬢ちゃんにとっても悪い話じゃないぞ」


 ギルマスがそう言いながら執務机の前に置いてあるソファーへと移動して、私にも席を勧めるとエレナさんが三人分の紅茶を用意してくれた。あ、美味しい。


「実はな領主様から依頼がきているんだ」

「あ、お疲れ様でした。失礼します」


 面倒事だと察知して、すぐに席を立った私は悪くないと思うんです。






パタン(扉を閉める音)

レギオラ「帰るなよおぉぉ!」

シラハ(無視)

エレナ「シラハちゃん待ってー」

シラハ「はい、待ちます」

レギオラ「この扱いの差……」


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[一言] シラハさんの解毒液を飲まないと死んでしまうッ!
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