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最後まで頑張りますよ!

 飛び退いた変異種とやらがとびかかってくる。


「うおぉら!!」


 それをディアンさんが全力で受け止める。


 あの攻撃を止められるなんて、さすがはAランクの冒険者だね。

 私は感心しながらも変異種に【爪撃】で攻撃を加える。


 でも私の攻撃は変異種に大した傷を与える事は出来なかった。

 時間をかければ倒せるかもだけど、この戦い方だとディアンさんへの負担が大きい。


 ディアンさんがあと何回攻撃を防げるのかはわからないけど、もしディアンさんが崩れたら私じゃ抑えきれない。


 どうしたら……そんな不安が胸の内に広がってくる。


「おいおい、何ビビってるんだ?」


 私の不安を読みとったのか、ディアンさんがそんな事を言ってきた。

 本当にこの人は、よく周りを見ているね……


「いつディアンさんが、へばってしまうか不安なだけですよ」

「安心しな。別に俺らは二人で戦ってるわけじゃねえだろ?」

「それは……」


 指摘されてハッとした。

 そうだった。ここにはまだAランクの冒険者が他に三人も居るんだ。

 今は後ろに下がってはいるけど、戻ってこないわけじゃない。


 だから、私達は耐えていればいい。

 ライオスさん達が戻ってくるまで。


 そう考えたら気が楽になった。


「そうそう……それくらい力を抜いた方が体は動くもんだ」

「さすがは先輩冒険者ですね。戦いの中でもよく見てる」

「おうよ。知りたい事があるなら戦闘、冒険、野営から夜の運動まで何でも教えてやるぜ?」

「その最後の発言がなければ、素直に教えを請う事も出来たんですけどね……」

「俺の性分なもんでな」


 ディアンさんがニカッと笑う。

 戦闘中だって言うのに本当にこの人は……



 感心半分と呆れ半分の視線をディアンさんに向けた後、私は変異種に竜鱗を投げつける。


 それをアッサリと避ける変異種。

 牽制になれば良いなぁ、と思ったけど足止めにもならないね。


 そこからはディアンさんが防いで、私がかすり傷をつけるの繰り返しだった。


 時折、変異種が尻尾での攻撃を交えてくるので厄介だけど、それは一度見ているので易々と受けたりはしないよ。


 そんな攻防の中でお互いに相手の動きに慣れてきた頃、変異種が私達から距離をとった。


 何? 逃げるの?

 逃げてくれるのなら、それはそれで構わないのだけれど、ライオスさん達はそうはいかないよね。


 変異種がどう動くか分からないので私もディアンさんも動けない。

 下手に動いて攻撃に反応できなかったら、そこで終わりだから。



 そして変異種が体を低くした。


 それはまるで走り出す為に力を溜めているような……


 変異種の足下が爆ぜる。


 スタートダッシュで地面が大きく抉れるなんて、どんな脚力してるんだよ!


「ディアンさん!」


 私は咄嗟に叫ぶが、ディアンさんの耳に届いたかは分からない。


 さっきまではどうにか反応できていたけど、今回の攻撃は速すぎた。

 変異種の前足がディアンさんへと迫る。


「うおぉぉ?!」


 それをディアンさんは、辛うじて大剣で受け止めた。


 凄い。


 私はそう思ったけど、変異種の攻撃は甘くはなかった。


「ぐおぁ!」


 ディアンさんが攻撃の勢いを殺しきれずに大きく吹き飛ばされる。


 変異種の驚異的な加速で繰り出された攻撃は、さすがのディアンさんでも受け切れなかったらしい。


 私はすぐに変異種へと攻撃を仕掛ける。

 こうでもしないと、すぐにでも変異種はディアンさんにトドメを刺そうとするだろう。

 だから私が時間を稼がなきゃ!


 私の攻撃は虚しく空を切る。


「くっ、この…!」


 足止めをしなければと焦る私に、変異種の尻尾がぶつかる。

 思っていたより長い!


 僅かに止まってしまった私には見向きもせず、地面に倒れたディアンさんに追い打ちをかけようと、構え直す変異種。


 どうやら本気で終わらせるつもりみたいだ。


 このままではディアンさんが殺される。


 考えろ。


 この変異種を足止めするには、どうしたら良い?


 私は竜鱗をいくつも取り出すと変異種の進行方向へと投げ、それらを弾けさせる。


「ギャウ?!」


 目の前で弾けた竜鱗に驚き僅かに動きを止めた変異種。


 こうなったら賭けだ。


 もう一発くれてやる!


「【竜咆哮】!」


 一瞬とはいえ動きを止めてしまった変異種は、ディアンさんに向かって飛び出そうとしていたのもあって、私のスキルの直撃を受けて吹き飛んだ。


 二度目の【竜咆哮】を使うと立ちくらみと虚脱感がした。

 でもこれで倒せるのなら安いものだ。


「あ……でも、ちょっと無理かも……」


 私はその場で膝をつく。


 今まで【竜咆哮】を二回使った事なんてなかったけど、どうにかなるもんだね。

 私も成長しているってことなのかね?


 もう動けそうにはないけど……あー吐きそう。




「グルルルルルッ……」


 変異種の唸り声が聞こえた。

 無理をしたけど、やっぱり駄目だったか……


 最初の一撃で倒せなかった【竜咆哮】では、変異種を倒す事は無理なんじゃないかな? とは思っていたけど、普通に歩いてくるとはね……



 それにしてもアレは完全に怒ってらっしゃる気がするよ。

 私を睨んでるよ確実に……


 これは詰んだね。

 もう動けないし、気持ち悪いし、殺されるわ。

 せめて痛くしないでください。


 とか考えてみるけど無理だよね……


 変異種が飛びかかって来る。

 大きな口が迫ってくるのを見るのは本当に嫌だ。

 あの時の恐怖を思い出すから。


 私はキュっと目を瞑る。


 ガギリ、と硬いもの同士が擦れる嫌な音が聞こえた。


 私が目を開けると、ディアンさんが大剣で変異種を抑えていた。


「ディアンさん…?」

「おう、無事か? 動けるんなら――」

「ちょっと無理ですね」

「マジか……」


 よく見ればディアンさんはボロボロだ。

 あれだけ吹き飛ばされれば、そうもなるよね……


 私が邪魔なら、すぐにでも移動したいところなんだけど、気持ち悪くて動けそうにないんだよね。

 足もガクガクだし……


「嬢ちゃん、わりぃ!」

「え……?」


 一歩も動けずに困っていると、唐突に謝るディアンさんに私は困惑する。と同時に蹴り飛ばされた。


 あいたっ!


 いきなり女の子を蹴るなんてっ……

 心の中で悪態を吐きながら視線だけをディアンさんに向けた。


「あ……」


 そこには大剣が折れ、腹を深く切り裂かれたディアンさんがいた。

 何度も何度も攻撃を受け止めていた大剣も、限界が近かったんだ。


 しかも変異種は、もう一度飛び掛かろうとしている。


「ディアンさん!」

「……そんな心配そうな声出すなって、俺は見た目通り頑丈だからよ」


 頑丈とは言っても限界があるでしょ!

 お腹から血が沢山出てるし……


「それに……そろそろ俺らの役目も交代だ」



 私が、その言葉の意味を理解するよりも速く光が走った。


「ギギャウゥゥゥ!」


 変異種が悲鳴を上げ、その場に倒れ伏す。


 今のは……


「大丈夫ですか?! ディアン」

「おーぅ、どうにかな……マジで死ぬかと思ったが……」

「とにかく治療します」


 私が状況を把握するよりも前に、ルーアさんが駆けつけてきてディアンさんの傷に手を翳す。


 すると淡い光を放ちながらディアンさんの傷を覆っていく。

 あれって、もしかして治癒魔法ってやつ?


 治された事はあるけど、いつも意識がなかったから見るのは初めてだ。


 じゃあ、ルーアさんは体力回復薬と治癒魔法の併用で私の怪我も治してくれたんだ。


 それならディアンさんは、もう大丈夫だね。


 私は安心すると、周囲を確認する。



 すると、ライオスさんが肩で息をしているのが遠目からでも見て分かった。


 となると、さっきの攻撃はライオスさんの祝福(ギフト)だろうね。ルーアさんの話だと魔力を消費しているって話だし、今の私みたいに魔力枯渇状態なのかも。


 そんな絶不調そうなライオスさんに肩を貸しているサシャさんが、ライオスさんに魔力回復薬を手渡している。

 ああ、そっか……私も魔力回復薬を用意しておけば良かったんだ。


 でもまぁ皆、無事って訳ではないけど、生きてて良かった……


 そう思った私の耳に、獣の唸り声が聞こえた気がした。


「まさか……」


 嘘だと思いたいけど現実はこんなもんだ、と諦観している自分がいる。


「まだ生きています! 警戒を解かないで!」


 私の声に全員が反応するけど、既にまともに動ける人はほとんどいない。


 そして変異種がゆっくりと立ち上がる。


「グルル……」


 私の攻撃が通らなかった変異種の皮は黒く爛れている。


 見ただけだと分からないけど、私の【竜咆哮】もそれなりにダメージを与えているはずだ。


 あと少し……あと少しで倒せそうなのに、その少しが遠い。


(いっ)せ……がっ!」

「うぁ!」


 祝福を使おうとしたライオスさんが、サシャさんと一緒に変異種によって前足で弾き飛ばされる。

 弾き飛ばされる直前にサシャさんが槍で防いでいなかったら、爪でやられていたかもしれない。


 もう変異種は私の方を見てはいない。

 祝福の雷閃を放てる余力があるライオスさんを脅威と見做したのだと思う。


 何かない?

 私にできる事は……


 最後まで諦める事はしたくない。

 そうだ、アレは……ウッドゴーレムの魔石から手に入れたスキルは役に立たないかな……?

 私はスキルの説明を確認する。


【根吸】地に根を張り養分を吸う。


【光合成】日光を吸収し、そこから養分を生み出す。


 両方とも養分じゃん……私の知ってる光合成と違うし。

 どうなってるのナヴィ! とか言ってても仕方ないね。


 とにかく少しでも足掻いてみよう。


 私は【根吸】を使ってみることにした。

 すると少しだけど気持ち悪いのが和らいだ。


 これは……もしかするとアタリかもしれない。


 説明に記されていた養分が何かは分からなかったけど、もしそれが魔力だとしたら……

 まだ戦えるっ!


「サシャ!」


 そんな希望が見え始めた時、ライオスさんの悲痛な叫びが聞こえてきた。


 その叫びにつられて、ライオスさんの方を見ればサシャさんが血を流して槍で体を支えながら立っていた。


 ダメだ……これじゃ私の魔力がある程度回復するまでに誰かが殺されちゃう。


「うおぉぉ!!」


 すると、ディアンさんが折れた大剣を手にして変異種へと向かって行く。


 何やってるの?!

 怪我だって治ってないし、叫んだら奇襲にはならないじゃないですか!


 変異種がディアンさんにチラリと目を向けた。


 もしかして自分に注意を向ける気なんじゃ……

 そんな事したら今度こそディアンさん死んじゃうよ!


 私は【根吸】の使用を止めると変異種に向かって走り出す。


「シラハさん?!」


 後ろでルーアさんが驚いていた感じだけど今はいい。


 私は【跳躍】で大きく跳ぶと【鎌撫】を発動させ、変異種にカカト落としを喰らわせた。


「くっ……!」

「ギャ!」


 爛れていても変わらず硬い皮に阻まれて、ほとんど切れない。

 おかげで足が痛い。


 でも変異種も多少は痛かったみたいで、少しは怯んでくれた。


「嬢ちゃん突っ込み過ぎだ! 退がれ!」

「それを言うならディアンさんもです! そんな怪我で何ができるんですか!」

「俺なら壁になれる!」

「そんな今にも倒れそうな壁がありますか!」


 出血こそ止まってはいるものの、見た限りでは傷は開きっぱなしなので見てて痛々しい。


 今の状態で一撃でも止められるとは思えない。


 私がどうにかしないと……


 でも、さっきの攻撃だけで、また気持ち悪さが込み上げてきている。

 もう長くは戦えない。


 どうにか倒すための糸口を――


 変異種が動き出す。


 それをディアンさんが前に出て止める。


 私も変異種の頭に蹴りを叩き込む。


 ダメだ。こんな攻撃じゃ……

 攻撃を仕掛けながら、使える攻撃手段を模索する。


 そこへ急にその場で回転する変異種。


 何をする気なのかと思っていたら、勢いよく尻尾が振り回されてきた。


 この尻尾は長いし、ちょくちょく攻撃の邪魔をしてくるから本当にやり難い。

 それが鞭のようにしなり軌道を変える。


 マズイ……! そう思った時には遅かった。

 横か縦で振るわれていた尻尾が、唐突に槍のように突いてくるかの如く私の右肩を貫いた。


「うあぁぁぁ!」

「嬢ちゃん!」


 ディアンさんの声が聞こえたけど、私はそのまま尻尾を振るわれ放り投げられる。


 その放り投げられた先に変異種が先回りする。


 あ……スキルも間に合わない……


 何回目かの殺される、という思考に至った時、視界の端から誰かが飛び出して来た。


 ディアンさんだ。


 ディアンさんは私を抱きかかえると、変異種の攻撃を折れた大剣で受け止めた。


 そしてディアンさんは私を抱えたまま吹き飛ばされる。


「……嬢ちゃん、無事か……?」

「先に自分の心配をしてくださいよ……」


 吹き飛ばされた先で、頭から血を流しながら真っ先に私の事を気にかけるディアンさん。

 この人は女性相手だと自分の事を顧みない傾向が強過ぎる。


 握られていた大剣は砕けているし、ディアンさんはもう戦えない。


 私も魔力枯渇がぶり返してきて、正直言って体を起こすのさえ億劫だ。


 私は、動かない体を無理矢理動かして地べたに座り込むと、ディアンさんの頭を膝の上に乗せる。


「嬢ちゃん……?」


 不思議そうな顔をして私の顔を覗くディアンさん。


「さっき庇ってくれたお返しです。これくらいしか出来ないですけど……」

「いや……へへっ、悪くねぇな……」


 ディアンさんがヘラリと笑う。


 変異種が迫ってくる。

 さすがにもう抵抗できそうにもない。


 諦めるつもりはなかったけど、ここまでやって無理ならどうしようもない。


 それでも、仮りとは言え仲間とここまで戦えたんだから私としては悪くなかった。



 変異種が私達の前で立ち止ると前足を振り上げる。


「悪りぃな、俺達の都合に巻き込んじまって……」

「いえ……私が勝手に首を突っ込んだだけですから」



 その短いやり取りを終えると、変異種の前足が振り下ろされた。






狐鈴「が、頑張れー! そこだー!」

シラハ「ねぇ、敵強すぎない?」

狐鈴「地域によって魔物の強さが極端に変わる事って良くあるよね」

シラハ「いや、あれはどう考えてもボスクラスじゃない?」

狐鈴「フィールドにボスがいると、何とか倒してみようって気になったりしない?」

シラハ「襲われたから、どうにかしようとは思うけど……あんなの命がいくつあっても足りないよ」

狐鈴「だよねー。リアルに考えるとあんなのが普通に野外にいたら、周辺の国とかが必死に倒そうとするよね。なのに割とスルーされている件」

シラハ「そこは創作物だから……」

狐鈴「だから私もシラハに沢山エンカウントさせるよ!」

シラハ「やめて?!」

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