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溢した記憶

 周りが騒がしい……

 体が重いし、アスファルトが冷たくて寒い。


 周囲を埋め尽くす人達が、私にスマホを向けている。

 そんなに事故現場が珍しいのかな。


 それで呟くのはそっちの勝手だけどさ……


 せめて、この子だけは助けてあげて……


 私は必死に、その子に手を伸ばす。


 でも、その手が届く事はなかった。











 ふっ、と景色が切り替わる。


 私の目の前には長い、長い階段があるだけで、他の一切は真っ白だ。


 さっきまでの寒さも、体の重さも感じられない。


 ここに居ると、今日の夕飯や明日の仕事、週末の友達との予定も全部がどうでもよくなってくる。


 ああ……それでも。

 あの子が無事かどうかだけは知りたかったな。



 登る。

 長い階段を上がっていく。


 階段を一段上がる度に、何かを忘れていっている気がするけど、欠けたナニかが何だったのかは、もう思い出せない。


 上を見上げると、どこまでも続く階段の終わりが見えた。

 いつから登っていたのかは分からないけど。



 ふと視線を動かせば、階段以外にも足場を見つけた。

 何処とも繋がっていないその足場の上には、沢山の人がいるように見える。

 でも、そっちには行ってはいけない気がするのは何でだろう。


 階段を上がる。

 すると、さっきまでの事は気にならなくなった。



 頂上に辿り着く。

 そこには、一人の男性が立っていた。


 男性だよね?

 なんか中性的な顔をしているから自信がないな……



「いらっしゃい。そして、お疲れ様。君の旅路はここで終わり、そして新たに始まるんだ」

「ええっと……」


 あまりに堂々と喋り出すものだから、誰だと聞こうか迷ってしまう。

 私は昔から、こういう勢いに流されちゃうんだよなぁ……って、昔って……いつ?


 自分で思った事に首を傾げながら、相手を見てみる。


 何というか神々しい、とでも言うのかな? そんな感じの人だ。

 いや、人じゃない……この人が神様なんだ。


 よくは分からないけど、そう理解できた。



「さて……それでは、次の人生を楽しんできたまえ」

「あの、ちょっとお聞きしたいんですけど」


 神様は、とくに世間話をするわけでもなく私を送ろうとしていたけど、それを止めてみる。


「……なんだ?」


 少しムスっとしているけど、まぁ大丈夫でしょ。


「あっちの離れた所にいる人達って、どうするんですか? なんか、ずっとあそこに居ますけど……」


 ちょっと前まで忘れてしまっていた事を聞いてみた。

 何故だか気になって仕方がないんだもの。


「君は余計な事は気にせずに、次に向かえばいい」


 私の質問に神様は答えない。

 なんかムカついた。


 いやいや、早まるな私。

 その場の勢いで神様に喧嘩を売るんじゃない。

 いつものように流されるんだ。


「別に次の人生とか望んでないですし? 貴方には頼らないので失礼しますね」


 無理でした。なんか我慢できなかったよ。

 でも後悔はしていない!


「ほう……」


 あ、声のトーンが下がった。

 ヤバイかも……


 とにかく、ここにいるわけにもいかないし、あっちの人が沢山いる場所に移動しよう……!

 身の危険を感じつつある私は足早に移動する。


「うっ……」


 移動しようとして、私はすぐに足を止める。

 そうだった。

 ここは、あの自称神様の所に向かう為の階段しかないんだった。


 あっちの足場に移動するにはジャンプするしかない。

 でも、届かなかったらどうしよう……

 って言うか、これ底とかあるのかな?

 足を滑らしたら永遠に落ち続けるとか発狂するよ?


「なんだ? 私に頼らないなんて啖呵を切ったわりに進めていないようだが?」


 こいつぅ……!


 熱くなるな私。

 クールにいかねば……!


「周囲の事に気が付く者はそれなりにいるが……大抵は君のように口先だけで、何も実行する事ができない。嘆かわしいことだ……」


 ムカつくー! なんだコイツ!

 喧嘩売ってるのか?!

 引っ叩くぞ!


 いやいや……私だって大人なんだ。明らかに挑発されてるんだから、わざわざそれに乗ってやる必要なんてないじゃないか。


 私は自称神様に向きなおして、ニッコリと笑う。


「なんだ、先程の発言を取り消すとか言うつもりか? 人間は自己の発言に責任を持つ、という事が本当に不得手だな」



 ぷっちん。

 ヤメタ。

 アンタがどこの誰だろうと知ったことか!

 喧嘩上等だ!


「アンタが此処でどれだけ偉いのかは知らないけど、私に聞かれて面倒だと思うなら最初から隠しておきなさい!」

「何故、君の為だけにそのような事をする必要があるのだ? それなら君と対話をしなければ良いだけの事だ」

「仮にも神様であるアンタに不敬な態度をとったから、相手にしないって事? 都合の悪い事を聞かれたくらいで随分と大人気ない対応ね。まるで子供みたい」


 私の発言に自称神様が明らかに不機嫌な表情になった。


「あら? そんな表情もできるのね。私にあっちの足場の事を聞かれただけで不機嫌になってたし、我慢の限界かしら?」

「口の利き方には気を付けた方がいい。私の機嫌を損ねれば、君を二度と転生させない、という事も可能なのだぞ」

「それが子供みたいだって言ってるのよ。相手を言いなりにさせられないからって、脅せばいいと思ってるあたりが特にね」


 ヤバイ。

 なんかドンドンあとには引けなくなってきている。


 とにかく、ここから移動したい。切実にっ!

 なので、私も腹を括るとしよう。

 下を見ないように……下を見ないように……


「そこから落ちれば魂が燃え尽きるぞ。それも、百年程かけてゆっくりとな……」


 今それを言うんじゃないよ!

 決心が鈍るでしょうがっ


 この自称神様はアレだ。

 ドSに違いない。


 このドS神めっ


 だけど私は屈しない!

 こんなヤツに負けてやるもんかっ

 あとMでもないしね!



 私はビシっとドS神を指差した。


「アンタなんか神じゃない! アンタの思い通りになんかなってやるもんか!」



 言いたい事だけを言って、私はその場から飛び出した。

 これで落ちたらカッコ悪い! とか余計な事が頭を過ぎる。そんな事はどうでもいいんだよ!


 そんな馬鹿な事を考えてる間に着地する。

 おおぅ……思ったよりジャンプできたな……

 私的に新記録な気がする……アレ? 私って何メートル跳べたっけ……まぁ、いいか。



 私は若干震えたままの足に力を入れて、私を見ている人達の下に歩いていく。


 そして、一番手前にいた女の子に……女の子だよね? なんか顔とかがはっきりと見えないんだけど……

 まぁ、なんでも良いや。


 私は、その子に手を差し出した。


「一緒に行こう」

「え……どこに?」


 ……ごもっともだね。


 まだジャンプした時の興奮というか、恐怖というか、そういった諸々が抜け切っていないのかもしれない。


 これじゃ私、不審者みたいだよ。

 手を出した時もビクっとされたし。



「えっとー……アナタのお名前は?」


 こういう時は、まず自己紹介からだよね。


「名前は覚えてないです……。ここにいる人達は皆そう」

「そ…そうなの……」


 失敗したよ……

 名前、たしかに私も自分の名前分からないや。


 なにか、会話の取っ掛かりになる事ってなかったかな……


「皆、ここで何してるのかな?」


 これは私も知りたかった事だし、ここから会話を広げていけば……


「私達は皆、廃棄待ちなんです。魂が摩耗し過ぎていて転生ができないって……」

「おおぅ……」


 アウトー!

 どうしよう……会話を広げるどころか地雷だよ!

 なんて声をかけたら良いんだ……元気だせよ? いやいや廃棄待ちなのに、どうやって元気出せって言うんだよっ!


「ゴゴ、ゴメンね! なんて言ったら良いか分からないけど、そんな事になってるとは思わなくて!」

「ふふ……」


 私が一人であたふたしていると、女の子が笑い出した。


「どうしたの?」

「あ、ごめんなさいです。ただ、さっきからお姉さんが一人で慌ているから、ちょっと…可笑しくって……」


 女の子がお腹を抱え出した。

 盛大に笑わないように必死に我慢しているのは伝わってくるんだけど……つまりアレか。

 私の行動がとっても滑稽だったと言いたいのかい?


 どうしよう……泣きたい。


 くっ…子供に泣かされてたまるもんかっ!

 私は大人だ。毅然とした態度で接するんだ。


「あー、苦しかった。お腹痛いや……」


 女の子が息を整えながら呟いた。

 こんのガ……落ち着こう。

 私は大人……



 そんな事をしていると、いつの間にかドS神がこちらに来ていた。

 こっち側には興味ないのかと思ってたのに……


「何の用?」

 

 私は敵対心剥き出しで声をかける。


「その魂達を守るのか?」

「悪い? 聞いたわよ。アンタ、この子達を廃棄するんですって? 全部を拾い上げる事もできないなんて、ドS様も大した事ないのね」

「なんだ、そのドS様とは……」

「言ったでしょ? アンタを神とは認めないって……」

「だから、その呼び方だと?」

「ええ、悪い?」


 ドS様の冷たい視線が突き刺さる。

 いやー、完全にドSな目だよ。ゾクゾクしちゃう。

 あ、私…Mじゃないよ?



 ドS様は一度目を瞑ると溜息を吐いた。


「それが君の意思ならば、それを尊重しよう」

「ようやく私の前から消えてくれる気になったのかしら?」

「勘違いしているようだが、ここは私の世界であって君のモノではない。君が私を拒絶するというのなら、ここに君の居場所はない」


 ドS様の言葉にゾワリとした。

 SだMの話じゃなくて、本能的に身の危険を感じたのだ。


「そこの魂達も私の世界には必要のないモノだ。汚れ、削れた魂に用はない」

「それでも、最後まで手を差し伸べてあげようとか思わないの?!」


 言っても無駄だと知りながらも私は叫ぶ。

 思い止まって欲しいなんて考えてはいない、これが私の意思だと示しただけだ。


「そんな薄汚れた魂はいらない。それを庇うと言うのなら、一つの魂にして別世界に飛ばしてやろう」


 ドS様の言葉はよくは分からなかったけど、もう私が生きてきた世界には居られないんだとは理解できた。



「な、なに……?」


 不意に後ろから声が聞こえ振り返ると、さっきまで話をしていた女の子や他の子達が淡く光る玉となって宙を浮いていた。


「何をしたの?!」

「今しがた伝えただろう……。アレらと君はこれから一つになるのだ」


 ドS様の言葉と共に、光の玉が一斉に私に向かって飛んできた。

 光の玉は私にぶつかることもなく、吸い込まれるようにして私の中に入っていく。

 

 それを見て私は、あの子達が廃棄されずに済んだ事に安堵していた。

 そう思った時だった。


 ピシリと私の体に亀裂が生じた。


「え…?」


 理解できなかった。

 人の体に罅が入るなんて……

 訳もわからないまま、体にはどんどん亀裂が増えていく。


 そして、それと同時に襲ってくる痛み、熱さ、寒さ、息苦しさ、目眩、動悸、吐き気と、恐怖、悲しみ、寂しさ、怒り、嫉妬、ありもしない感覚が押し寄せてくる。


「ぃやぁ……ぁああああああ!!」


 自分の声が遠く聞こえる。

 その場に倒れ伏す。

 光の奔流は、まだ止まらない。


 壊れる。

 砕ける。

 身体が心がおかしくなる。


 無意識に伸ばした手の先にはドS様がいた。


 こんなにも苦しんでいる私を、先程と変わらない冷めた目で見下している。

 それを見て少し力が戻った気がした。


 伸ばした手を握りしめて引っ込めた。


 絶対に負けてやるもんか!





 どれくらい経ったのか。

 気付けば光は止んでいた。


 私の体はボロボロだ。

 四肢は砕けて、もう一歩も動けない。


 それでも、ドS野郎を睨む事だけは止めない。


「砕け散るかと思ったが……思いのほか意思が強いらしい」


 意思というよりは、負けまいとする意地だったりするんだけど、もう喋れそうにもないな……


「減らず口を叩くかとも思ったが、もう口を動かす気力もないと見える」


 その通りなんだけども、だからと言って、そのままでは負けた気がする。

 なので私は精一杯力を振り絞って、舌をベッと出してみる。

 どうだ、まだ口は動いたぞ。

 これが私の最大の抵抗である。



 それを見たドSが口元を緩めた。


「ふっ……私に最後まで反抗的な態度を取るとはな。おかげで退屈せずに済んだ」


 退屈凌ぎだってか。

 本当にコイツは……


「もう会う事もないだろうが、せいぜい新しい人生を楽しむがいい」


 ドSが私に手を翳すと、私の体がフワリと浮き上がる。


 もう抵抗なんて出来そうもないね。

 あとはなるようになれだ。



 そして、急激にその場から遠ざかるように、どこかに飛ばされていく。

 速すぎて周囲の景色さえも分からないよ。


 しばらくして、バリンというガラスでも突き破ったような音と共に景色が変わった。


 空の上だ。


 眼下には森や小さな村が見える。


 その村に近付いていく私。


 一つの家に降りていく。


 赤ん坊だ。

 家に入って最初に目についたのは、取り上げられたばかりの赤ん坊だった。


 そして、その赤ん坊は動いていなかった。


 私の体は、その赤ん坊に近寄っていく。



 私は理解した。

 ああ……私はこの子になるんだと。


 本来なら一歩も歩む事が出来なかった、この子の人生。

 それを私が代わりに歩むのなら、うんと幸せになってやろう。


 そう思いながら私の体は、ポロポロといくつもの記憶を溢しながら……赤ん坊の中に吸い込まれていった。







シラハ「私が転生する時に、こんな事があったとはー」

狐鈴「うわー、興味薄そう……」

シラハ「だって知ったとしても、どうにもならないし」

狐鈴「だよねー」

シラハ「それにしても、せっかくの100話なのに、こんな過去話を入れるなんてね」

狐鈴「たまたま、そうなっただけだよん」

シラハ「読者サービスとかないの?」

狐鈴「私は媚びない!」

シラハ「以前、ブクマ100件ありがとー、とか言ってなかったっけ?」

狐鈴「さーて、次の話はー……」

シラハ「コイツ……」

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