4話
前半がライル、後半がウィンディ視点となります
ハウンドドッグの群れ――目視で二〇匹以上はいるか。
放っておけば街や村を襲う可能性もあるので、とりあえず狩っておくことにした。
周囲にはハウンドドッグ以外の魔物もいなさそうなので、横やりはないだろう。
ナギもソーニャも乗り気みたいなので、即座にハウンドドッグに距離を詰めていく。
こちらを見ていた数匹が即座に立ち上がり、遠吠え。
敵が警戒態勢を整えていく最中。
「はーい、いくよーっ!」
ソーニャが杖を振るい、練り上げていた魔力を解放した。
刹那、ド派手な爆発が眼前に広がる。
熱風と共に、いくつかのハウンドドッグが、文字通り飛び散った。
閃光と振動。そしてハウンドドッグの悲鳴が辺りに響き渡る。
――今ので半分以上は吹き飛んだか。
「オラァアァアアア!」
爆発が引き起こったが、逃げ延びた数体に対してナギが大剣で迫る。
運よく爆発を避け、攻撃に転じた数体が、近づく侵略者に対して各々の牙、爪を振り払う。
「甘ェッ!!」
横薙一閃。
鈍い鋼鉄の一撃が振り払われると、ワンテンポ遅れて血しぶきが飛び散る。
仲間がやられたことを悟り、即座に後退をする者、怒りに我を忘れて再びナギに突貫する者と別れる。
――後始末っと。
ナギに突貫しているものは任せていいだろう。
残りの元々弱腰だった、もしくは少なくとも生き残ろうとするハウンドドッグたちを狩るのみ。
「ほいほいーっと」
俺の意図を悟ったソーニャが、散らばろうとするハウンドドッグたちの行く先に、土属性魔法で地面を盛り上げる。
ロックウォール。土属性の中級魔法の中で、覚えるべき一つ。
文字通りの土で壁を作る魔法だが、その用途としては防御壁はもちろん、地形操作による簡単な誘導や妨害も出来てしまう。
複数のハウンドドッグが、突如として目の前に盛り上がってきた地面に足が止まる。
――ここだな。
逃げようとしていたのは五体。
内、二体は近接で攻撃するには距離が離れすぎている。
そいつらに対しては、
「ファイアバレット」
火属性初級魔法のファイアアローを弄った魔法で、母親の直伝だ。
速度上昇のため、風属性も併せて付与。形を針状にして、とにかく命中までの風の抵抗を少なくしている。
オオォン、と遠くからの悲鳴。
二匹に放ったファイアバレットは無事に命中したようだ。
あとは――
「――イケるな」
残った三匹はほぼ固まったままだ。
足を止めている隙に切り込む。
まずは一匹。前足を薙ぐように一閃。
――次。
二匹目、怯んで伸ばしたままの首元を薙ぐ。
鈍い感触。そして喘鳴。
飛び散る血を避ける。
――もう一匹。
手前の仲間たちのやられるところを見て、一瞬で距離を取ろうとしている。
ただ、もう遅い。
その距離は一歩で届く。
「――――ッセイ!」
突き刺し。
しかし距離があったからか、寸前で体を捻られて避けられる。
突き刺しの体制から上に払い、砂埃を起こす。
一瞬の怯み。
見逃すはずもなく、斜め上から薙ぎ払う――ッ!
「ッチィ……!」
また避けられる。
回避に専念しており、反撃の様子を見受けられない。
生き残ることに全力をかけている。
そして薙ぎ払いのモーションが大きかったからか、そのまま後方に飛びのくように距離を取られる――
――そう動くと思ってたよ。
槍の動きに合わせ、体を捻って反転させ、槍を持ち替える。
投擲の準備ができ、矛先は既に標的をとらえている。
強化された腕力で、そのまま振るう。
風を切り裂く音が心地よい。
放たれた矛先が、狙っていたハウンドドッグを脳天から突き刺さった。
「……オォオオ」
事切れる前の声がやけに響く。
「よぉし、終わりだなッ」
「お疲れ~。いやぁ、最後の一匹はちょっと賢そうだったね。群れのボスだったのかな?」
すでに戦闘を終えていた二人が、声をかけてくる。
待たせてしまっていたのが恥ずかしい。
やはり、二人には助けてもらってばかりである。
「ごめん。時間かけてしまった」
「いやいや、思わず見惚れてしまった。流石ライルだな」
「ほんとほんと。ナギのがさつな戦闘スタイルとは大違い!」
「はあ~? お前俺の繊細な技術がわかんねーのか!」
「うっさい。ね~ライル~」
血生臭いところでよく燥げるもんだと思うが、これがいつも(・・・)なので、別段何も思わなくなっている自分が怖いものだ。
「さて……」
派手にやってしまった。
ナギとサーニャのやったハウンドドッグは原型がほぼないため売れないだろう。
俺がやった奴は、最初に前足を切り裂いた奴と、ファイアバレットで貫いたやつぐらいは、まだ毛皮などを剥ぎ取れそうだが……。
――二人に聞いてみるか。
こっちにゆっくり歩いてくるウィンディさんとコンラッドさんを見て、素材を持ち帰るか相談することにした。
*****
「……噂って本当なのね」
以前、辺境伯領の外駐騎士団の連中が言っていたことを、私は今更ながら思いだしていた。
開拓村に住む冒険者は精鋭だらけ。辺境伯が直接雇用し、通常冒険者が稼ぐ以上の給金を出しているが、相応の実力がなければすぐさま死んでしまったり、成果がなければ即解雇されるようなシビアな世界である。
魔物の領地を、それこそ武力だけで切り開く集団。
並大抵の実力ではないとやっていけないからだ。
――その中でも、第二開拓村の戦果は異常だという話は、王都でも響き渡っている。
他の開拓村が拓いた土地をはるかに上回る広大な土地、資源を、彼らは切り開いている。
辺境伯も、彼らの結果には喜んでいる。
たかだか村の長であるナギさんに、少なからず便宜を図るくらいなのだ。
つまり、彼らがいなくなることのデメリットが大きすぎるという話。
「いやぁ、そりゃそうだよねぇ」
先ほど見せられた光景は本当なのか、ちょっと信じられないくらいだ。
「ていうかサーニャ、まとめてハウンドドッグぶっ飛ばしんてじゃねぇよ。討伐証明取れないじゃねぇか」
「えー、何のことかわかんなーい。そんな魔力込めてなかったんだけどぉ? ……ていうかナギだって、斬った? 魔物が肉片になってんじゃん。それじゃ毛皮売れないよ?」
「うるせぇ、日頃そんなに気にしてねぇんだから仕方なしだ」
「うわぁ、人のこと棚にあげて――」
ガミガミと言い合うようになったナギ君とソフィアちゃんに、ちょっと恐怖を覚えている。
周りに広がる惨劇の跡。
最初のソフィアちゃんの大きな一撃は、炎属性特級の爆発系の魔法であることは分かっていたが――まさかの無詠唱。そして魔力を練り上げるまでの時間も早い。
なにより、自分に対して風属性の移動用の魔法を張っている最中でのアレ(・・)だ。
いわゆる平行詠唱。上級魔法使いのみ使える技術である。
魔力量もさながら、技術もまたトップクラス。
次にナギ君。
彼の一撃は、遠目では雑な大振りに見えたが、隙は全く見えなかった。
体重の移動、踏み込み、すべて芯が通っている。
一目で分かるぐらいの卓越した技量。
大振りに見えた一撃も、すぐに切り返しできるぐらいに調整していた。
そもそも自分の背丈ぐらいある大剣を、まるで棒切れのように振るっていること自体がおかしい。
「すごいな」
馬がスピードを落とし、声が聞こえるようになると、ぼそりとコンラッドが呟いた。
実際、彼は辺境伯直属の騎士の中では、トップクラスの強さを誇る。
その彼が人を褒めることはなかなかない。
――というより、恥ずかしいな私。
私とコンラッドは第二開拓村に着くまで、魔物を蹴散らすように移動してきていた。
しかし魔物の集団がいれば喧嘩を売るようなことはせず、距離を置く、もしくは別の魔物を餌にするよう誘導して移動してきていたのだ。
「そっかぁ……そんな必要、ないよね」
日頃、より最深部で強敵と戦っている彼らにとって、これぐらいのハウンドドッグなど、取るに足らないというわけだ。
いやぁ、怖いなぁ。
こんな子たちに常識とか教えられるのかなぁ。
「二人とも落ち着いて。元々奇襲だったんだし、力加減が難しかったよ。僕もちょっとしか取れなくしちゃったし」
と、ガミガミ言っている二人に声をかけたのは、丁寧にハウンドドッグを五体ほど狩っている青年。
ライル君。彼もまた通常ではないことを知った。
最初魔法で倒した魔物二体。
同じ魔法を二重で飛ばしていた。
それもアレンジ。
見たことない炎属性魔法。ファイアアローの改造か。付与で速度を増していたのか、目視ではとらえきれないほど高速な一撃で敵を貫いている。
そして槍捌き。最初の一匹は、きれいに前足の腱だけ切り裂いて動けないようにしており、いつでも喉元一閃で討伐できるようにしている。
そこから残り二体を倒すまでの動きも洗練されていた。
「ねぇ、コンラッド。私たち、いらなかったんじゃないこれ」
「そうだな」
「出る幕なかったよね。まあ最初から無視しようと思ってたってのもあるんだけど――ちょっと自信なくしちゃうな」
「俺もまだまだ鍛錬が足りないようだ」
いたって普段通りな様子を見せる青年たちに、苦笑いをうかべながら私たちは近づいた。