3話
前半はライル、後半は新キャラさんの視点です
次の日。
暇だからとナギやソーニャと鍛錬を続けていると、辺境伯の使いが俺達の元にやってくる。
どうやら昨日の夜にナギの家にはついていたらしい。
朝、シバさんとの最終確認ということで軽く話合いをしていたようで、それで遅くなるということは先ほど聞いていた。
馬に乗り颯爽とやってきた、冒険者のような恰好した男女。
それぞれ灰色のコートを見に纏い、いかにも出来る冒険者の雰囲気を醸し出していた。
「よろしくねチミたち。私はウィンディ。今回の防衛学校の受付まで一緒に同行させてもらいます。それこっちがコンラッド。無表情で厳ついけど、コミュ障でおしゃべりが苦手なだけだから、気にしないでね」
「……よろしく」
快活に話を進めるウィンディさんという女性。スレンダーな体型だが、ひ弱そうという印象は受けなかった。緑色のショートカットが良く似合っている。
そしてコミュ障というところに共感を覚えたコンラッドさん。身長はナギ以上に高く、かなりガタイが良い。
あと二人とも、冒険者っぽい恰好をしているが、気品が感じられる。
辺境伯直属の騎士なのだろう。
「よろしくお願いします」
「よろしくオナシャス」
「お願いしまーす」
俺、ナギ、ソーニャのそれぞれの挨拶に、「こちらこそね」と返すウィンディ。コンラッドは小さく頷くのみ。
ていうか、二人とも。
年上なんだからもうちょっと挨拶をピシっとした方がいい気もするけど。
「とりあえず! ナギ君はいいとして、ライル君とソフィアちゃんだっけ? 君たち、見送りは?」
周りを見渡すように言うウィンディさんはそう言う。
彼女の発言に、すぐさま応える。
「家族と挨拶は済ませましたが、『見送り』が必要でしたか?」
「……え、いや、長期間家を空けるんだし、ここまで着いてくるかなぁ、と思ったんだけど」
ウィンディさんが困ったように返事。
入口での家族の見送りというのは、王都の街では一般的なのだろうか。
「別に死に行くわけでもなし。見送りは要らないんじゃねぇか?」
「そうそう。楽しんでくるねって言ってきましたよ~」
村でいう『見送り』というのは、死地に向かう時に行っているものだ。
今生の別れになるかもしれないため、最期の一瞬を過ごすための特別な行為である。
王都には魔物はいないという話だし、学校に行くぐらいなら、特に必要ないと思っていたのだが……。
「王都には、危険が多いのですか?」
聞いておかねばならない。
父さんや母さんが話していた内容以上の危険が待ち受けているのだろうか。
「あ、いやいや。えーっと、どうかな? 多分、ここらより危険が多いところはないと思うよ……?」
慌てたようにウィンディさんはそう言った。
はっきりしないが、僕たちより王都に詳しいであろう彼女の発言だ。
「それじゃ心配ねーな!」
「そうそう、早く行きましょ!」
ナギとソーニャの反応に「……開拓村らしい」とコンラッドさんは呟いて、ニヒルに笑っている。
これがハードボイルドというやつなのだろうか。かっこいい。
「……はい! 分かりました! それなら出発しましょう! とりあえず3日ぐらいで辺境伯領の中心地ドレスベルグに到着後、領主様に挨拶。その後、また3日かけて王都まで移動! ざっくりした内容だけど、何か質問ある?」
気を取り直したウィンディさんの発言にとりあえず挙手。
「どうぞ、ライル君」
「はい。あとこれは質問ではなく提案なのですが、身体強化して走れば四時間ぐらいでドレスベルグに着けますが、急がなくてもいいですか?」
「「――――」」
ウィンディさんとコンラッドさんから表情が消えた。いや、コンラッドさんは元々無表情だったけど……。
あれ、もしかしてまずい提案だった?
っちょ、言い訳しないと!
「あ、えっと、その……すみません。差し出がましいことを言いましたか? はやく行けばその分、領主様? に挨拶できるとおもったので、その、何というか……」
すごい! 話にまとまりなし!
こういう時にコミュ障は困る!
どうしようかと迷っていると、
「だ、大丈夫大丈夫! 話は通じてるから! ……ていうか君たち、そんな長時間強化魔法使えるの?」
「行けるぜそのぐらい。移動だけならそこまで魔力使わないし、いざとなればソーニャの強化でさらに速度上げれるぜ?」
「村の東側は危険なんで、みんなにず~っと強化を施してますから、それぐらいは簡単簡単。一気に魔力込めれば長時間持つし、切れそうになった時には魔力も十分回復するもんね~?」
ソーニャが笑みを浮かべて俺に問いかける。
今日もめちゃくちゃ美人だね。
相槌で応える。
「……あ、そうなんだ。なら大丈夫、だね」
ナギとソーニャの発言に、ウィンディは困ったように返事をしていた。
……多分、年上相手なのに、二人の言葉遣いが悪いからだろう。
後々言っておかないと。
「とりあえず、俺とライルに強化いらないから、お二人さんの馬にバフかけとけば?」
「おっけー。ほいほいーっと」
そう言って、ソーニャは息をするかのように、強化魔法を重ねがけして二人の馬に付与していく。
流石の速さである。
一気に持久力強化や筋力増加のバフを付与し、途端に軽くなった体に馬が驚くようにジタバタしだす。
「あー……なんていうか」
「行くか」
ウィンディさんの言葉を遮るようにコンラッドさんが発言をし、ドレスベルグへの一歩を歩み始めた。
*****
――何なんだ、この異常な子供たちは。
コンラッドと共に馬を操りながら、私は領主様に言われた内容を反芻する。
『シバからも、今回呼び出す三人は異常という話を聞いている。いざこざを起こさず、うまいこと王都まで導くように』
簡単簡単と思いながら「承知しました」という発言を、今では取り消したいぐらいだ。
死地に向かうわけでもないから、見送りは不要――まあこれは分かる。
私が少し過保護に考えすぎていただけだ。
数時間の強化魔法?
意味わかんない。何それ。
せいぜい三〇分くらいが関の山じゃないかしら? 常時発動なんて無理無理。
――なぁんて、思ってたんだけどなぁ。
馬たちがいつも以上に喜びながら大地を走り抜けている。
羽でもあるかのようだ。
「――――ッ!」
「――――?」
「……――」
あまりのスピードで風の音が大きく、前を進む子供たち三人の発言は耳に届かない。
だが! しかし!
このスピードアップした馬と同時並走――というより、馬にペース合わせている?
よく舌も噛まず、余裕そうに喋りながら移動しているではないか。
――私、この三人と一週間一緒なのよねぇ。
怖さしかない。
……そういえば、と朝方のシバさんとの会話を思い出す。
『彼らには、王都での常識も一緒に教えてやって欲しい』
所詮村育ち。マナーや言葉遣いくらいだろうと考えていたが、予想をはるか斜め上――どころか、垂直に突き抜けてしまっている。
常識ってそういうところなのかーっと、今更後悔しているところだ。
お任せくださいなんて言わなければよかった。
何だかんだで私、村長と領主様の依頼をほいほい受けすぎていない?
私の常識の方が壊れていってるんですけど。
――頑張るしか、ない。
と、改めて今回の任務に対し、気合を入れなおしていたところで――
唐突にそれは起きた。
「――――ッ!」
ライル君が指をさして何かを言っている。
えーっと、アレはハウンドドッグの群れ、かな。
多分こちらには気付いているのだろう。鼻はいいだろうし、襲ってくるのであればさっさと来ているはずだ。
ということは、一度人間との戦闘で痛い目を見ている何匹かが、襲わないように統制をしているのだろうか。
魔物といっても、ある程度の学習能力があるものがいる。ハウンドドッグもその一匹だ。
放っておけば問題ない。あれだけの数、喧嘩を売ればただではすまな――
――あれ? 嘘でしょ? 待って?
なんで突貫してるのチミたち!?