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1話

久しぶりに書き始めます。

宜しくお願い致します。


「――俺たちが、王都の防衛学校へ……ですか?」


 晴天。

 空には雲一つない。

 昼下がり、俺たち三人は、村長に呼び出されて魔物討伐の仕事を一先ず終え、村長宅に集合している。

 そして聞いたのが―ー


「そうだ。三年の間だが、王都で色々勉強してこい」


 俺の言葉に返事をしたのが、この第二開拓村の村長たるシバ=タチバナ。

 年齢的には彼らの二回り以上ではあるが、その引き締まった肉体と、常人ならざぬ雰囲気は、いつ見てもガクブルする。

 本人は子供に怖がられているのを気にしているようなので、あまり口には出さないが。

 とりあえず、ただの村の長ではないことがよく分かる。


「――――そう、ですか」

「何でだよ。最近は南東部分の開拓も進んできていたじゃねーか。俺らの戦果を横取りされろってことかよ」

「えーいいじゃん別に。私、学校とか憧れてたんだよね」


 俺と一緒に集まっていた二人は、それぞれ別の反応を見せた。

 片や困惑、片や歓喜。

 そしてやんややんや言いだした二人に、シバさんは小さくため息をついて、「すまんが辺境伯のお言葉なのだ」と続けた。


「第二開拓村による戦果はかなり大きい。その影響下、有望な人材もそろっていると王都で話題になっているそうだ。王様から、何人か防衛学校に入れてほしいとのお達しがあったそうでな」

「だからってなぁ、親父・・


 迷惑そうな顔をしていた青年。


「仕事は放っておけないだろ。てか、俺たちいなくなってもいいのか?」

「お前たち三人が開拓していた地区は、第三部隊に引き継がせる」

「そういう意味じゃないって分かるだろ。開拓スピード落ちるんじゃないか?」

「――自意識過剰だな、ナギ」

「だが事実だ」

 

 ハッと鼻を鳴らす、シバさんを親父と呼んだ青年。

 彼の名はナギ=タチバナ。俺と一緒に第八魔物討伐隊を組んでいる切り込み隊長。

 そして唯一、村長たるシバさんに減らず口が叩ける人物でもある。

 赤色の髪と鋭い瞳。顔は幼さも残しつつも、そのがたいは大の大人にも引けを取らないほど完成されている。

 そして彼の言わんとしていることに対し「そんなことないぞ」と言えないことに、シバさんは再び溜め息をつくことになった。


「そうかもしれないが、辺境伯の要望を断ることはできない」

「そうそう! いいじゃないナギ。私たちの年齢って、普通はもうちょっと遊んでるものよ」


 シバさんの肩を持つようにそう言ったのは、いつまでも見ていられるほどの美貌を持つ少女だった。

 滑らかな金髪と吸い込まれそうな碧眼。がたいの良いシバさんやナギにもひけをとらない、女性にしては高めの身長。

 出るとこ、引くところがはっきりしている、引き締まった見事なプロポーション。

 第二開拓村の青年達のマドンナ。そして俺たち第八魔物討伐隊の紅一点。

 ソフィア=ルゥ=ブランシェット。愛称はソーニャ。

 開拓村、という名前の場所には似合わない容貌を持った彼女は、数少ないエルフである。


「他のとこなんて知らん」


 彼女の言葉に反論するようにナギは言う。

 

「でもでも、第三開拓村のナギサちゃんは去年から防衛学校に通っているじゃない。それもローランドと」

「……そんなことはどうでもいい。ていうか、ライルはどうなんだよ」


 誤魔化すようにナギは俺の名前を呼んだ。

 ライル=オルドリッジ。それが俺の名前。

 こいつら二人とは違い、目立つような容姿はしていないし、目立つような実力もない。

 ただ二人のまとめ役という、厄介な仕事をシバさんに任されて、たまたまうまくいっているだけの男である。


 今この場面でも、シバさんは俺に期待をするような目線を向けている。

 ていうかナギも、ソーニャも俺の方を見ている。

 全部丸投げしないで。ていうか、村長という職務を放棄していいのかシバさん?

 いいんだな? 俺に任せちゃっていいんだな?

 

 ――まあ、答えは話を聞いて最初から決まっているんけど。


「辺境伯はこの村によく投資をしてもらっていると父さんから聞いている。村がここまで発展したのも、辺境伯のおかげだからだろう。……そんな相手の要望を断ることもできないんじゃないか?」

「あんまりはっきりした意見じゃないな、ライルにしては珍しいじゃねぇか。……本音はどうなんだ?」


 前置きを置いてお茶を濁す。

 そうすればナギが突っ込んできてくれることは、よく分かっているからだ。

 俺の答え? そりゃもちろん。


「いいじゃないかちょっとくらい王都で羽目外してみよう」

「よく言ったわライル! 流石よ!」


 喜んで俺に腕組みしてくるソーニャ。

 やめて。君のその悩殺ボディを押し付けないで!

 顔には出さないが、必死にその感触を味わっている俺に対し、呆れたような表情をナギは浮かべた。


「おいおい、まさかそんな言葉をライルから聞くとは思わなかったぞ」


 基本喋り下手なのと、彼らが喋っていた方が面白いので黙っていることの方が多いが、俺にだってやりたいことはあるのである。


「俺の両親はどっちも王都の防衛学校出身だから。その話を聞いていたからか、憧れが大きい」


 そう、俺の両親は開拓村の冒険者だったが、元々は王都出身だった。

 数々の王都でのイベント―ーもとい、日常の話を聞くにつれ、それほど愉快な場所なのかと、俺はいつしか都会に対し憧れを抱いていた。

 といっても、この村での仕事もある。半ばあきらめていたところでのこの話。

 

 ――受けるしか、ない。


「しかし費用とかはどうなんですかシバさん。正直家にはあまり迷惑をかけたくありません」


 そして第一の懸念材料。

 家計には迷惑をかけたくない。これがクリアできなければ、諦めるほかないとも思っている。


「それは辺境伯持ちだ。安心してくれていい」

 

 シバさんのその返事に、思わず一安心した。

 とりあえずグッジョブ、辺境伯。


「大丈夫だってライル。いざとなったら村長が出してくれるわよ!」

「俺んちの財布は構わないのかよ」


 訝しげに見るナギ。そしてそんなナギをあざ笑うかのように見つめるソーニャ。

 昔から、この二人は仲がいい。付き合えばお似合いだと思うが、双方から否定されている。

 確かに、彼氏の前で他人おれに抱き着いたまま喋りはしないだろう。

 ……ていうか、そろそろ離れて。恥ずかしい。


 ポーカーフェイスを貫く俺とソーニャを見て、父親のようにナギは小さくため息をこぼした。


「……まあ、ライルがそういうならいいけどよ」


 あれ、意外と折れてくれるんだね。

 もうちょっと粘る感じかと思ってたけど、思わぬ誤算だ。


「本当はナギサさんがいるからでしょ~?」

「うるせぇ! お前はちょっと黙ってろ!」

「もう、仕方ないなぁ。ねえねえライル。王都にはおいしいパフェって甘味が楽しめるところがあるんだって! 一緒に行こうよ!」

「パフェ、か。果物と乾パンくらいしか食べたことがないから楽しみだな」


 パフェ――なんとも魅惑な響きだ。

 母から聞いたことがある。生クリームという純白に、様々なフルーツが混ざっている、それは大層美味であるものであると。

 中毒になる人も多いと聞いたが……楽しみすぎる。


「羽目は外すなよ」


 シバさんから聞こえてきた言葉は、とりあえず。聞こえないふりをした。

 ぎゃーぎゃーと二人が喋ってるから、大丈夫だろう多分。



*****




「羽目は外すなよ」


 という俺の発言は、キャッキャッとはしゃぎ始める若人には届かない。

 まあ、彼らもまだまだ一五歳になったばかり。年並みのしぐさが見て取れて、小さく笑みをこぼす。


 しかし、一二歳で第八魔物討伐部隊として結成させ、最初はちまちま三人で雑魚狩りをさせようと思っていたのが――。

 あっという間に初期メンバーと同等の戦果を持ち帰るようになり、今では欠かすことのできない第二開拓村の主力になったことは、思わぬ誤算であった。


 ――その矢先に、辺境伯からの依頼である。


 最初は断ったが、それでも、と依頼をされた。

 辺境伯がこちらに対し下手に出ていた。かなり珍しいことだ。

 王族に、それこそ何かしろの対価を基に依頼された……とか。そこが一番ありえる線だろうか?


 ――ただただ、勿体ない。


 彼らの実力は学生の枠に最早収まらない。

 また実際の話、彼ら三人がこの村から離れるデメリットは大きい。

 大きすぎるのだ。

 それについても辺境伯には具申している。戦果が落ちるでしょう、とはっきり言った。

 しかしそれでも、という話なのだから仕方あるまい。

 

 ――まあ、これも経験だな。


 今後どうなるか分からない。

 彼らが王都で色々と経験を経て、こちらに戻ってこない可能性もあるのだ。

 

「この戦闘馬鹿! あんたはさっさとこっち戻って魔物でも斬ってればいいじゃない! 私とライルは王都でぬくぬく都会生活を営むから!」

「お前みたいな見た目だけのがさつ女は、この辺鄙な村が良く似合ってるがなぁ!? 田舎臭い雰囲気ぷんぷんしてるぜ!?」

「ふっざけんなこの脳みそ筋肉! いいわよ!? そっちがそういうこと言うなら、ナギサさんにこの前の情けない姿を晒した話をしてやるわ!」

「この野郎! それはなしだろうが! いいのか? 喧嘩だぞそれ以上は!」

「……パフェ、素晴らしい響き」


 ――なんか大丈夫そうだな。


 彼らの物言いを見て、いつかは戻ってくることを願い、明日来る使者の出迎え準備を行うことにした。



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