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最終話 俺の考え


 やけに毛並みの良い黒い大型犬が、ツインテールの女の子を取り囲んでいる。ダーシャお嬢様が、俺の隣に地面を滑るような感じでスーッと移動して来た。腕を組んで宙に浮いたまま、俺を見ると


「後は任せなさい」


 と言って、ツインテールの女の子の方へ飛んで行く。


 ツインテールの女の子の周りに乗り捨てられた車が、数台浮き上がり取り囲んでいた大型犬に向かって飛んで行く。物凄い音を立てて次々と車が地面にぶつかり、ガラスや部品が辺りに散乱する。


 大型犬達は飛来してくる車を素早い動きで全て躱すと、後ろに下がりダーシャお嬢様を中心にして、左右に整列した。ツインテールの女の子が、ダーシャお嬢様を睨みながらゆっくりと後ろに下がると


「お姉ちゃんなんて大っ嫌い」


 と言って、宙に浮くと飛び立って行った。すると、ダーシャお嬢様の左右に整列していた大型犬が一斉に走り出し、ダーシャお嬢様はその場から空高く上昇し、物凄い速さで飛んで行った。


 気づくと一羽の鳥が俺の頭上を旋回していて、俺は心地良い光に包まれていた。


「ダーシャが急に飛び出したから驚いたけど、あなた達こんなところで何やってたの」


 振り向くとリサッチさんが傘をさして立っていた。


「赤い目の集団に襲われてまして、助かりました」


 頭上を旋回していた鳥がリサッチさんの右肩に乗ると、リサッチさんが


「ありがとうね」


 鳥にお礼を告げていた。体中の気怠さが消えていたので、あの鳥が俺を回復してくれていたのかな。


 地響きがして腹に響くほどの轟音がした。振り返ると、ツインテールの女の子が逃げた方向の建物が、何かの衝撃で数件崩壊していた。それを見てリサッチさんが


「派手にやってるわね」


「なにが起きてるんですか」


 リサッチさんが少し表情を曇らせて


「う~ん、私達の妹がちょっとね。病院に入院してたんだけど、環境が変化した時に四階の住人と取引しちゃって、家出しちゃってたのよ」


「ツインテールの女の子ですか」


 すると、リサッチさんが片方の眉をピクッとさせて


「アヤネはあんな見た目だけど、あなた達よりもずっと年上よ。とっくに成人してるわよ」


 てっきり小学生かと思っていたからビックリだよ。って思っていると、遠くの方で閃光が走り、激しく地面が揺れると物凄い爆風と共に轟音がした。リサッチさんの傘が爆風で飛んでしまい、肩にとまっていた鳥も爆風で吹っ飛んでしまった。


「早く終わらせて帰りたいわね。赤い目の集団は私達で処理しとくから、あなた達はゆっくり休んでて良いわよ」


 と言うと、さっきの鳥がリサッチさんの頭上で旋回していて


「い~わよ暴れてらっしゃい、でも程々にね」


 リサッチさんが鳥に話し掛けていた。俺はそれを見て


「えっと、言葉が通じるんですか」


「ええ、チャンと伝わるわよ。うちのピヨ彦は賢いからね」


 沙織達が戦っている男達の頭上で、ピヨ彦が目から光線を出しながら旋回していた。それを見ながらリサッチさんが


「小桜インコって言うんだけど、かわいいでしょ」


 ピヨ彦のビームを喰らって男達がドンドン消滅していく。あんな鳥がもし大量に飛んで来たら脅威だなって思いながら


「ええ、とっても可愛いですね」


 と答えると、リサッチさんが微笑み両手を広げ


「じゃあ、私も行って来るわね」


 と言うと、その場で高くジャンプし空中で停止した。すると、両手が黄色や緑色の羽に変化し、バッサバッサと羽ばたいて沙織達の方へ飛んで行ってしまった。あっけに取られていると、地響きがして遠くで何かが爆発したような音がした。


「うちのお嬢様達はスゲーだろ」


 振り返るとアレさんが傘もささずに立っていて、苦笑いしていた。


「空を自由に飛び回れるって時点で反則だよな。しかも、俺達護衛を置いてけぼりにして行っちまうんだから、毎回ヒヤヒヤさせてくれるぜ」


 リサッチさんを見るとピヨ彦と一緒に飛び回りながら、目からビームを出して男達を駆除しまくっていた。アレさんもリサッチを見ながら


「鳥と一緒に目からビームを出すって時点で、リサッチ嬢も反則だけどな。怪我はしないと思うけど、やっぱ護衛の身としては毎回ヒヤヒヤさせられるんだぜ」


 また地響きがして爆発音が鳴り響いていた、そっちを見ると地上から上空に向けて太い光の線が何本も飛んで行った。アレさんが目を細めながら


「今のはダーシャお嬢様だな。数年前に地球に落下する可能性のあった隕石を、粉々に粉砕した技だ。環境が変わる前から、超弩級の破壊力を持つ技を複数持ってるお嬢様だからな、正直な話し俺達護衛は必要無いんだわ」


 アレさんは肩を落として少し項垂れていた。自由に空を飛べて、しかも兵器なみかそれ以上の破壊力を有する技を持つお嬢様には、確かに護衛って必要ないかも知れないよな。アレさんがリサッチさんと一緒に戦うマックスさんを見て


「既にレーナが向かってるけど、リサッチ嬢はマックスに任せて、俺はダーシャお嬢様のとこに行くかな」


 こんな時は何て声を掛ければ良いんだ、頑張って下さいって言って良いものなのか、いってらっしゃいですとかって言えば良いのかって考えていると


「なあ、今日はもう帰らないでお嬢様の屋敷に泊まったらどうだ、雨で体も冷えてるだろ。まあここの処理が終わるまでもう少し待っててくれ」


 と言って、一瞬でアレさんは建物の屋根に飛び移り、そのまま爆音が鳴り響いている方向へ、屋根伝いに走って行ってしまった。





 昨日の雨は夜のうちに止んだみたいで今日は朝から天気が良い。


 俺はダーシャお嬢様のお屋敷の敷地内に設置されているベンチに座って、空を眺めている。結局昨日は学校には戻らずお嬢様のお屋敷に泊まる事になった。ダーシャお嬢様とリサッチさんの妹にあたるアヤネさんは、ダーシャお嬢様の激しい攻撃から逃れて今も逃走中らしい。


 レーナさんが言うには、ダーシャお嬢様の攻撃は火力が強過ぎるので、普通に戦うとここら辺一帯の地形を変えてしまうほどの破壊力なんだそうだ。なので、街を破壊しない様に火力を調整しながら戦っていたのが、アヤネさんを逃してしまった原因らしい。


 リサッチさんの話では、アヤネさんはとても向上心があって努力家でもあるが、年齢の割には考え方が幼いらしく、周りから優秀な存在だと認められることで優越感に浸る性格で、常にダーシャお嬢様とリサッチさんに対しては、憧れと嫉妬を抱いたんだそうだ。アヤネさんは自分の能力や努力の成果を二人の姉に褒められる事を糧にして頑張りもするけど、その反面、二人の姉の能力に強い嫉妬心と劣等感も抱いていたんだそうだ。


 たまたま怪我して入院していた時に、環境の変化が起こり四階の住人と接触してしまったらしく、アヤネさんは更なる力を手に入れるために、四階の住人と何かしらの取引を行ってしまったんだそうだ。そして、その事を知った二人の姉に怒られてアヤネさんは病院から抜け出してしまったんだそうだ。


 確かに、自由自在に空を飛べて地形を変えてしまうほどの力を持っている姉が二人もそばにいたら、自分が劣っているって思ってしまうかも知れないけど、俺には比較対象の次元が高すぎて比べる気も起きないんだけどなあ。


 話しだけ聞くと、ただの姉妹の喧嘩なんだけど、それが原因で俺達はかなり危ない目にあっていたんだよなあ。なのに嬢様達を憎めないのは何でなんだろうか。まあ、みんな無事だったからオッケーかな。空を眺めるのを止めてゆっくりと辺りを見回す。


 直樹と沙織はマックスさん達の訓練に参加して体を動かしている。麗奈は訓練に参加しないで筋肉を眺めている。千春と西條さんは、芝生の上で千春のカエルと戯れている。


 今回はタイミング良くダーシャお嬢様達が現れて何とかなったけど、こうして天気の良い日にのんびりと柔らかな日差しを浴びながら、物思いにふけることなんて、もしかしたら出来なかったのかも知れない。


 場合によってはもう二度とこんな穏やかな気持ちでくつろぎながら、ゆっくりと時を過ごすことも出来なかったのかも知れない。そう考えると本当にみんな無事で良かったって思い、ホッとした気持ちになる。


 見ず知らずの他人が目の前で酷い事をされていれば、そりゃあ出来る限りの事をして、何とかしてあげたいとは思う。でも、実際は俺の知らない所で、今この瞬間にも沢山の人達が苦しんでいるし悲しんでもいる。だからと言って、見ず知らずの他人に対して命を懸けてまで、何とかしようとは思わないし、思えない。


 でも、自分の周りの身近な人だったり仲間のためだったなら、俺は命を捧げるだろうし、その覚悟も出来た。結局は、自分の周りが平和ならそれだけで十分で、世界の平和はどうでもいいって思ってしまう。


 ただ、昨日の出来事のお陰でダーシャお嬢様が言っていた「自分の周りの平和を維持し続けたいのなら、様々な力をつけなさい」って言葉の意味は理解出来た。単純に相手を打ちのめす力があれば、西條さんが顔を殴られる前に助ける事が出来ただろうし、アヤネさんに何かされても反撃出来ていたのかも知れない。


 でも、そんな状況に陥らない為にも、もっと早い段階で色んな選択肢があったはずだ。そして、最適な選択をする為には、色んな物事を深く鋭く見抜く力だったり、先を見通す洞察力も必要になる。そして、危険を回避する判断力も必要だ。他にも危険かどうかをジャッジする為に必要となる、色々な経験や知識も蓄えておく事も必要になってくる。


 だから、ダーシャお嬢様が「語尾に力ってつく言葉は全て本人次第でいくらでも伸ばせることが出来るんだから、自分の周りの平和を望むのならば、全ての力を伸ばしなさい。自分に足りないと思われる言葉を見つけたら、望みを叶えるために励みなさい」って言っていた言葉の意味も、同時に理解出来た。


 目の前の芝生で休んでいる千春達が騒がしい。


 千春が


「だめー」


 って叫んでいる。


 西條さんが


「逃げてー」


 って叫んでいる。


 千春のカエルが、口から火を噴くピヨ彦から必死に逃げ回っている。ピヨ彦はカエルをエサだと思っているのかな。


 そして、自分の周りの平和を維持する為には、物騒な連中がいなくなれば、俺も仲間も危険な状況に出くわすようなことは無くなり、平穏な日々を過ごせるんだろうっなて事に気づいた。


 身近な人達や仲間が生活している環境を整えさえすれば、例えば小学校で避難している人達や、北野先生や小田先生みたいな考え方が出来る人達を増やせれば、奪い合ったり争ったりする事なく、みんなで手を取り合ってお互いに協力し合って、穏やかで平穏な生活が出来る、平和な世の中になるんだろうから、そんな人達を増やして地域を拡大して行けば、徐々に物騒な事を考える人達は減って行き、自然と危険な状況は発生しなくなるんだろうな。


 ちょっと極端かもしれないが、校長先生や警察や消防の大人達が、小学校でやろうとしている環境作りの規模をでっかくしたのが、ダーシャお嬢様達が世界規模でやろうとしていた事なんじゃないのかって思えた。


 もちろん、人それぞれに色んな考え方があって、人それぞれ解釈の違いもあるんだから、例え穏やかに過ごせている環境だったとしても、そこで生活する人達の受け止め方や、その時の本人の都合によって、善し悪しは変わるんだろうと思うけど、小学校の校長達の目指している環境が、お嬢様達が目指している社会に近い環境だと俺は思った。


 沙織が


「なんで私の頭を突っつくのよ~」


 と言って、ピヨ彦から逃げ回っている。


 沙織を追っ掛けているピヨ彦を見て、リサッチさんはニコニコしている。


 千春が沙織に


「がんばって~」


 って言いながら、腹を抱えて笑っている。


 車椅子に座ったダーシャお嬢様の周りで、大型犬がウロウロしている。


 大人しく座っている大型犬を撫でながら、麗奈が


「この子達は賢いんですね」


「私の自慢の子達よ」


 ダーシャお嬢様が誇らしげに言うと、犬たちの尻尾が一斉に凄い速さで左右に振れまくった。


 西條さんが大型犬を撫でながら


「千春君ならこの子達に乗っかれるかもね」


 直樹が頷いて


「だな。でも、こんなに喜んで興奮している状態なのに、吠えたり騒いだりしないんだな」


 すると、ダーシャお嬢様の後ろに控えていたレーナさんが


「ラブラドール・レトリーバー。元々は狩猟犬として活躍しておりましたが、近年では身体障害者補助犬や警察犬、軍用犬としても活躍しております」


 西條さんが少し驚いた表情で


「随分と労働意欲が高くて、知的な犬種なんですね」


 レーナさんが笑顔で


「はい、とても働き者ですよ。それに泳ぎがとても得意でして、足には水かきがついております」


 直樹が目を見開いて


「水陸両用とは恐れ入った」


 って驚いていると、ダーシャお嬢様が胸を張り得意げな表情をしていた。


 やっぱ色んな煩わしい事に気を使うことなく、こんな感じで穏やかな時を過ごせる生活ってのは本当に有難いよなあ。


 環境が変わる前は、漠然と当たり前のように穏やかな日々を過ごしていたけど、改めて穏やかに過ごせる環境を、色んな大人達が日々整えてくれていたって事にも気づかされた。今までは大人なんだからとか、先生なんだからとかって考えて、何でもやってもらって当たり前の感覚だった。


 たまたま環境が激変した事で気づけたけど、その事に気づかぬままずっと大人に頼ってばかりの生活をしていたら、俺はいつまでたっても成長出来ないまま、自分一人では何も出来ない、肉体年齢は大人なのに精神年齢が子供のままで、成人を迎えてしまっていたのかも知れない。


 その事に気づけたことは正直な話し有難かった、自分では俺はもう大人だって思っていたのが、本当に恥ずかしく思う。でも、今はまだ力も無いし経験や知識も乏しい。だから色んな力をつけなければいけない。だからそれまでは、大人達に都合良く甘えてしまうかも知れない。


 でも、色んな物事を自分一人の力で解決出来るくらいまで成長出来たなら、自分の周りの平和だけじゃなくて、ゆくゆくは自分の周りの平和の為にも、規模を広げて地域平和の為の手伝いをしたいと思う。


 ダーシャお嬢様が俺を見て


「どう、考えは纏まったかしら」


 そして、更に力を蓄えて成長できたなら、自分の周りの平和の為にも、ダーシャお嬢様達と一緒に世界の平和の手伝をしたいと思う。


「ええ、お嬢様のところでお世話になろうかと思います」


 だから、それまでは


『自分の周りが平和ならそれだけで十分だ、世界の平和はどうでもいい』



<了>


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