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第96話 ツインテールの女の子

 麗奈が


「ありがとう、お婆ちゃん」


 と叫び、起き上がって走り出した。


 西條さんの方を見ると、小学校の廊下で見かけた道着姿の胸の大きいおばさんが、五味と久津を薙刀で串刺しにしていた。


 俺は四つん這いの状態で、背中辺りにライトボールを発動させる。男達が呻き声を上げて後退った。急いで立ち上がり、インパクトの瞬間にダメージが増すように、拳と脛に魔力を込めて片っ端から男達に打撃を与える。一撃で男達が消滅していき、地面には男達が着ていた衣類が散らかって行く。


 男達を駆除しながら、沙織が西條さんと麗奈の方に走って行くのが見えた。沙織も西條さんの方に駆け付けたのなら、もう心配は無いはずだ。薙刀のおばさんは、てっきり学校関係者か生徒の保護者かと思っていたけど、察するに麗奈のお婆ちゃんだったみたいだな。そういえば麗奈が小田先生に、魔法を使う時は毎回お婆ちゃんにお願いしているって、話していたって千春が言ってたな。麗奈の誰もが見てしまう立派なお胸は、お婆ちゃんゆずりだったんだなあ。


 男達の攻撃を躱しながら直樹の方を見てみる。直樹は既に身体強化の魔法で筋肉量を増加させていて、怒鳴りながら戦っていた。ツノは生えているし怒りの表情で男達を駆除しているので、まさに鬼の形相って感じだ。千春はいつもよりもバカでかいファイアーボールを使って、男達を一瞬で焼失させていた。


 思っていた通り、西條さんを助けることが出来たので、直樹達も反撃を始めたようだ。なので俺は目の前の男達の駆除に専念する。何体か調子よく駆除していると、突然呼吸が出来なくなり、激しい頭痛に襲われ俺はその場に倒れ込む。


 打撃による攻撃ならいくらでも対処は出来るんだが、それぞれの思いによって生じる超能力みたいな、目に見えない現象に対しては、今の俺は無防備な状態なのでモロに攻撃を受けてしまう。


 沙織と麗奈に男達の能力が効かなかった事で、俺にも能力が効かないって、男達が勝手に思い込んでいてくれたなら助かったんだけど、流石にそんなに調子良く、自分の思惑通りには行かなかった。


 地面に倒れ雨に打たれながら、激しい頭痛と呼吸が出来ない苦しみに耐えつつ、男達の物理的な攻撃と目に見えない攻撃に耐え続ける。すると、男達が激しい炎に包まれ消滅し衣類だけが地面で煙を上げながら燃え残った。激しい頭痛は無くなり呼吸も元に戻った。


「うっちー、大丈夫」


 千春が地面に蹲っている俺にヒールを発動する。


「すまん。助かった」


「どういたしまして」


 千春が微笑むと、表情を硬くして


「まだ仲間はいるみたいだよ」


 沙織達が戦っている方を見た。麗奈のお婆ちゃんが先頭で薙刀を振り回し、沙織と麗奈が横から迫って来る男達を駆除している。西條さんは路上に乗り捨てられた車の屋根の上から、光る弓矢を使って沙織達の攻撃範囲の外にいる男達を駆除していた。


 直樹は西條さんの近くで、西條さんに気づいて近づいて来る男達を衝撃波で駆除している。直樹が最前線じゃなく、後方で戦っている姿を見て驚いている俺に、千春が


「近づくとあいつ等の能力にやられちゃうからね。なおっきーには西條さんの援護をしてもらってるよ」


「あ~、なるほどね。となると俺も遠距離からみんなの援護をする感じだな」


「うん、そうなるね」


 千春が周りを見回して


「ここにいる連中を駆除すれば終わりなのかな。赤い目の集団はまだいるのかなあ」


「う~ん、どうなんだろうな。でも、ここにいる連中を駆除しない限り、俺達は帰れないんだから、頑張るしかないだろ」


 すると、千春は前線で戦っている沙織達を見ながら


「そうだよね~。じゃあ、超火力で一遍に数を減らすかなあ。ってアレって子供じゃない。マズくない」


 紫色のワンピースを着た女の子が、傘をさして歩道をゆっくりと歩きながら、こっちに向かって来ていた。


「ちょっと、行って来るよ。場合によっては保護する感じでも良いよね」


 俺はみんなの状況を見て、危なげない感じだったので


「だな、俺達が落ち着いた後にでも、家まで送ってあげる感じになるかもだな。こっちは大丈夫そうだから、とりあえず俺も行くぞ」


 女の子は長い髪をツインテールにしていて、傘を持っていない方の手で、束ねた髪をいじりながら歩いていた。俺と女の子とでは身長差があるので、彼女の表情は見えていないが、近づく俺と千春に驚いたり怯える様な素振りは見せなかった。千春が女の子に


「何処に行くのかな。この先は危ないからここで待っててもらえるかな」


 すると、女の子は立ち止まり髪から手を離すと


「私の分身を亡き者にしているのは、あなた達なのかしら」


 女の子が顔を上げると


「私のジャマをしないで」


 真っ赤に充血した目で俺達を睨んだ。と同時に、俺は胸が苦しくなりその場に膝を着く。隣で千春が


「えっ、なに」


 と言って、俺に近寄る。マズイ、この子は敵だ。早く離れろって千春に伝えたいのだが、胸が苦しくて声が出せない。すると、女の子が


「あら、あなたには効かないのね」


「がっ」


 千春が声を出したと思ったら、乗り捨てられた車のドアに激しく体をぶつけて地面に崩れ落ちた。マズイ、まさかこんな子供が襲って来るなんて思ってもいなかった。呼吸は出来るけど、胸が締め付けられて息苦しくて動けない。


 どうする。考えろ。このまま俺が人質になってしまったら、みんなが不利な状況になってしまう。そんな状況にはしたくない。千春は車に叩きつけられた衝撃で気を失っていた。直樹達は男達の集団と戦っていて、こっちの状況に気づいていない。


 ツインテールの女の子は、胸の痛みに耐えている俺を鋭い目つきで睨んでいる。マズイ、女の子の能力で俺は死ぬのか。そう思った瞬間。死を間近に感じ急に恐ろしくなった。激しい頭痛や呼吸が出来なくて苦しかった時よりも、ジワジワ胸を締め付けられている方が、さっきよりも色々と考える事が出来るからなのか、精神的にはキツイのかも知れない。でも、考えろ。何とかしてこの状況から脱出する方法を考えろ。


 急に胸の締め付けが強くなった。女の子を見ると目を細めて俺を見降ろしていた。俺はこの子にここで殺されてしまうのか。恐怖で一気に血の気が引き、変な汗が噴き出して来た。すると、女の子は口元に笑みを浮かべた。


 俺の感情の変化を楽しんでいるのか。なら直ぐに殺される事は無いかも知れない。でも、彼女の気分次第で直ぐに俺は殺されてしまうって状況には変わり無いんだよな。だとしても考えろ。何とかしてこの状況から脱出する方法を考えろ。


 女の子が首を傾け目を細めてた。更に胸の締め付けが強くなった。呻き声を上げる前に俺は血を吐いた。この子の能力は何なんだ。俺は何をされているんだ、吐血するって事は内臓を傷つけられたって事なのか。


 自分の体を好き勝手に何かされているって思うと、更に怖くなり、自分ではどうしようも出来ないって思うと、体から力が抜けそうになり、その場に倒れ込みそうになる。女の子は俺を見て微笑んでいる。


 仮に今のこの状態で女の子に襲い掛かろうとしても、彼女に触れる前に俺はこの子に瞬殺されてしまうのか。立ち上がった瞬間に俺は殺られてしまうのか。でも、このまま俺が人質になってしまったら、みんなが不利な状況になってしまう。そんな状況は絶対に避けたい。


 更に胸の締め付けが強くなり、また血を吐いた。胸の痛みに耐えきれなくなり、自分で吐いた血溜まりに、顔を埋めて倒れ込む。徐々に視界が狭くなってきている。


 不味いダメだ。この場から逃げるにしても、反撃するにしても早く行動に移さないと何もしないで終わってしまう。とにかく、みんなが助かるんだったら俺のことはどうでも良い。俺のせいでみんなが苦しむような状況は耐えられない。だったら人質にされる前に死んだ方がマシだ。


 どうせ、やりたい事も将来の夢も何も無いんだから、みんなの足枷になって最悪な状況になるくらいなら、そうなる前に死んでしまった方が気がラクだ。また胸の締め付けが強くなった。口から血を流しながら、痛みに耐えて奥歯を噛み締める。


 あ~、自分のせいでみんなが不利になるかも知れない、そんな状況になって初めて理解した。西條さんが思っていた事ってこういう事だったんだな。確かに自分の事は放っといて良いから、みんなには戦って欲しいって思うな。


 みんなにはツライ思いなんかさせたくないから、人質になる前にこのまま逝ってしまうか、どうせならみんなの戦いが有利になるように、この子にダメージを与えてから逝っておきたいな。胸の締め付けが強くなり、また血を吐いた。


 自分の苦痛には耐えられるけど、仲間が苦痛に耐える姿は見たくない。自分は死んでも良いけど、仲間が死ぬのは見たくない。このまま無理して動いたら、俺は本当に死んでしまうかものかも知れない。そしたら、今までやって来た事が全て無駄になるのかも知れない。


 でも、何か夢があった訳でも無いし、何かに備えて日々努力して来てた訳でも無い。夢も明日も何もいらない、仲間が生きていたならそれでいい。


 胸の痛みが更に増し、今度は呼吸が出来なくなってしまった。痛みと苦しさで魔法に意識を集中させることが出来ない。視界が更に狭まり徐々に景色が暗くなって行く。不味い、このままだと何も出来ないまま終わってしまう。


 どうしたら良い。考えろ。何とかしてこの状況から脱出する方法を考えろ。自分の吐いた血溜まりに顔を埋めて考える。痛みに耐えているだけで、頭がしっかり働かない。


 急に目の前を黒い物体が横切った、肉がぶつかる様な音と女の子の軽い悲鳴が聞こえ、目の前に女の子がさしていた傘が落ちてきた。


 胸の痛みが消え呼吸が元に戻った。ゆっくりと顔を上げると、真っ黒いツヤツヤした毛並みの大型犬が、ツインテールの女の子を威嚇するように牙を剥きだして唸り声を上げていた。


 事態を把握出来ないで困惑している間にも、次々と黒い大型犬が現れてツインテールの女の子をあっという間に取り囲む。ツインテールの女の子が後退りながら、悔しそうな顔をしてこっちを見ると


「お姉ちゃん」


 と言った。すると俺の背後から


「逃がさないわよ」


 ダーシャお嬢様の声がしので振り向くと、ダーシャお嬢様が腕を組んで仁王立ちの状態で、宙に浮いていた。


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