第95話 西條さんの思い
西條さんの家でのバーベキューが終わり、男子も女子も入浴が済んだので、俺達は西條さんの家のリビングで、女子お手製のフルーツゼリーを食べながら今後の予定を話し合っていた。
すると、沙織から西條さんとはこれからも一緒に行動すると聞かされた。どうやら前の日の晩に、女子三人で既に話し合って決まっていた事らしく、後は俺達に伝えるだけの、事後報告みたいなものだった。でも、俺もそうだけど直樹も千春も全く異論は無いので快く西條さんを受け入れた。
すると西條さんは
「みんな、改めてこれからもよろしくね」
と言い、ニコニコしながら二個目のゼリーを食べ始めた。
ゼリーを食べながら、この後みんなで何して遊ぶのか話していると、西條さんが何だか思いつめたような表情で
「この先もし私がみんなの足枷になるような状況や事態になったら、私の事は放っといて良いから、戦って欲しいの」
と言った。すると、沙織がゼリーを食べるのを止めて
「いや、絶対にかなえさんを助けてから戦いますよ。ねえ」
と言い、麗奈を見ると、麗奈もゼリーを食べるのを止めて
「ええ、先ずはかなえさんを何とかしてから戦いますよ」
と言って、首を傾げていた。
まあ、そうだよなあ。先ずは仲間の安全を確保してからバトルって流れになるのは、当然なので俺はゼリーを食べながら頷く。直樹も千春も頷いていた。
そんな俺達を見て、西條さんは表情を柔らかくすると
「その気持ちは嬉しいんだけど、私のせいでみんなが辛い思いをしたり、痛い思いをしたりするかも知れないって考えると、凄くツラくなるのよ」
と言い、表情を曇らせた。すると、沙織が困った様な表情をして
「あ~、私は気を失っていたから、どんな状況だったのか知らなかったし、みんなの事を見てなかったけど、確かにかなえさんの気持ちも分からなくは無いかもだわ~」
どうやら沙織は病院で人質になってしまった時の事を思い出している様だった。他のみんなも病院での出来事を思い出しているのか、浮かない表情をしていた。西條さんは少し困った感じの表情をすると、手元のゼリーを見つめて
「人それぞれに考え方があると思うんだけど。私は、私が人質になってしまったせいでみんなが不利な状況になるのなら、私の事は放っといて欲しいの。私は、私のせいで苦しんでるみんなの姿を見たくはないの。想像しただけでも胸が痛くなるし、胃がキリキリして痛くなるのよ」
と言い、俺達を見ると
「だから、この先もし私がみんなの足枷になるような状況や事態になったら、そんな時はお願いだから絶対に」
と言い、強い眼差しになり
「私の事は放っといて良いから、戦って」
と言った。
〇
西條さんは声を枯らしながらも、俺達に向かって叫び続けている。
「たたかってー」
俺達に向かって叫び続ける西條さんを、五味と久津が蹴りまくっていた。沙織と千春がそんな五味と久津に向かって止めろと怒鳴り続けている。直樹は沙織と千春に男達からの打撃が通らないように、体を盾にして守り続けている。俺は麗奈を守りながら、男達からの容赦ない打撃を体に受け続けていた。麗奈は泣いているのか、時折嗚咽を漏らしながら西條さんの名を叫んでいる。
自分の痛みなら耐えられるが、仲間が苦しんでいる姿を見るのはイヤ過ぎる。早く何とかしたい。他人の事はどうでも良いが、身近な存在が苦しむ姿は耐えられない。誰か助けに来てくれないのか、警察や消防の人達は巡回していないのか。物凄く困っているのに大人達はいったい何をしているんだ。
このまま耐えていれば、赤目の集団が諦めて退散してくれるのか。だとしたら、それまではでずっとこの状態なのか。何か動きがあれば状況が変わるのかも知れないんだけど、いつになったら助けが来るのか分からないし、助けが来ることを期待して待っていたとして、どのくらい待っていれば助けが来るんだ。そして、いつまで耐えていれば助けが来るんだ。俺は大丈夫だけど西條さんが既にボロボロだ。それに、西條さんが殴られたり蹴られたりしている姿を見ているのが辛い。
大人達はいつやって来るんだ。そもそもここは巡回ルートじゃなかったりするのか。もしくは雨が降っているから今日はもう巡回はしていないのか。大人達が現れれば、状況が変わって西條さんを助けられるのに、早く西條さんを助けたいのになんで誰も来てくれないんだ。いっこうに状況が良くならない事にイライラしてくる。
大人達はいつ現れる。早く来てくれ。早く西條さんを助けたいのに、なんで大人達は助けに来てくれない。とにかく早く何とかしたい。一層のこと来るか分からない大人達になんて期待しないで、早くこの状況を何とかしたいのなら、早いとこ自分で何とかするしかないのか。結局は自分でやるしかないのか。
あれっ、待てよ。って事は、俺は自分で問題を解決しようとしないで、そのうち駆け付けて来てくれるであろう、大人達に期待をしていて、この問題を大人達が解決してくれるって思っていたって事だよな。
俺は大人達に頼って甘えていたって事になるのか。俺は自分で気づかないうちに当たり前のように大人達に頼っていたって事になるのか。ひょっとしたら現れるかもしれない大人達の事なんて考えていないで、今この場にいる俺達だけで、問題を解決する方法だけを考えるべきなんじゃないのか。
何か問題が発生したら大人達に任せとけば良いって、当たり前のように考えていたけど、任せられる大人達がそばにいないのなら、自分の力で何とかするしかないんだよな。ましてや急を要するような状況だったなら、なおさら悠長に待ってなんていられない。
俺は自分で深く物事を考える事を、今までしっかりとやっていなかったって事なのか。今まで俺は困難な状況になると大人達に頼って何とかしようとしていて、単純に大人達に甘えているだけの子供でしかなかったって事なのか。
もっと早い段階で色々と深く物事を考えていれば、今みたいに、西條さんが五味と久津に捕まってしまうような状況を、事前に回避出来ていたんじゃないのか。この状況って、俺の考慮や思慮が足りなかった為に起きてしまった出来事でもあるんじゃないのか。
五味と久津の行動は確かに問題だけど、もっと早い段階で色んな事態を考慮して、危険を予測し回避する行動を選択していたら、今みたいな状況にはなっていなかったんじゃないのか。
俺は黙っていても手を差し伸べて助けてくれる大人の優しさに甘えて、実はちょっと考えれば自分で出来る事でも、お任せしちゃっていて、いつの間にか色んな物事に対して、深く真剣に考える事を放棄して、ただラクをしていただけだったって事なのか。
だったら、それって俺が一番キライなタイプの人物像じぇねえか。弱い立場を利用して、強い立場の人達を自分に都合よく使ってラクしてる人物そのものじゃね~か。同学年のヤツ等と比べたら、俺の方が大人だって思ってちょっといい気になっていたけど、その考え方だって子供みて~じゃね~かよ。
もっと早くに自分の考え方がまだ子供って事に気づいていれば、人に頼らないといけない状況にならないように行動が出来ていたのかも知れない。そしたら、西條さんにツライ思いをさせるような状況を回避する事が出来ていたのかも知れない。そして、直樹や千春それに沙織と麗奈も、今みたいなツライ思いをする状況も回避する事が出来ていたのかも知れない。そう考えると、子供だった自分に対して腹が立って来る。
でも、今はそれどころじゃない。自分に対してイラつくのは後でも出来るが、今は急がないと取り返しのつかない事になるかも知れないし、早く思考を切り替えて西條さんを助けないとダメだ。
相変わらず体中に容赦ない打撃を浴びせられているが、俺はゆっくりと辺りを見回す。
西條さんは地面に転がされた状態で、俺達に向かって戦ってと叫び続けている。五味が西條さんの腰辺りを足で踏みつけてニヤニヤしていた。久津は西條さんの顔を足で踏みつけてニヤニヤしていた。沙織と千春が、五味と久津に向かって止めろと怒鳴っている。直樹は足の裏に刃物が突き刺さったままの状態で、沙織と千春を男達からの打撃から守っていた。麗奈は俺の下で泣きながら西條さんの名を叫んでいる。どうする、考えろ、どう動けば最短で西條さんを助けることが出来る。
既に五味と久津が西條さんに手を出している時点で、俺達が大人しくしとく意味なんて何も無いんじゃねえのか。なんで俺達は馬鹿正直にあの二人の指示に従っていたんだ。何でだもっと深く考えろ。
いきなり鉄パイプや柄の長いハンマーを持った五人組に襲われたてビックリして、ヤツ等の能力が原因の頭痛に苛まれて、西條さんが宙に浮いて移動した事に驚いて、西條さんが人質になった事で焦って、西條さんが顔を激しく殴られている状況を目の当たりにして、動揺してさらに焦って、傷だらけの西條さんの顔を見せつけられて、これ以上は西條さんが傷つくのを見たくないから、大人しく五味と久津の指示に従っているんだよな。
もし、沙織や千春が普段通りなら、素直に五味と久津の指示になんて従わないで、上手く相手を騙しながらでも、魔法を使って切り抜けていたんだと思う。直樹は機転を利かせて麗奈を俺に預けてくれたが、その後は沙織と千春を守ることで精一杯だったんだと思う。麗奈は殴られている西條さんを目の当たりにしてから、気が動転しちゃっている感じだ。
つまり俺達は、非日常的な事柄が連続で発生していた為に、落ち着く暇がなくって、ずっと気が動転していたって事になるのか。もちろん、原因を探せばもっと出て来るんだろうけど。とにかくいつも通りの俺達じゃなかったって事だよな。西條さんを助けてここの連中を全て駆除したら、その後はみんなで反省会だな。
とにかく、五味と久津から西條さんを引き離せさえすれば、いくらでも反撃は出来る。たとえあいつ等の能力が俺にとって脅威だったとしても、西條さんが殴られたり蹴られたりするのに比べたら、全然脅威だなんて思わない。どうやってあの二人から西條さんを引き離す。もっとよく考えろ。
ボコスカ殴られて考えに集中出来ない。でも痛みに関してはとっくに感じなくなってるんで、衝撃に耐えながらも必死に頭をフル回転させる。ん、いや、待て。コレって痛みを感じていないんじゃなくって、殴られながらもこのままじゃ不味いって感じていたからなのか、あるいは痛みに耐えているうちに無意識に行っていたのか、今の俺って魔法防御を発動している状態だぞ。
五味と久津には沙織と千春、そして麗奈の感情がずっと向けられていたから、俺の体の変化に二人は気づかなかったのか。いや、そもそもあの二人は俺達が魔法を使えるって事を知っているのか。俺の胸元で泣きながら西條さんの名を叫んでいる麗奈に
「おい。麗奈」
麗奈は大声で叫んでいるからなのか、俺の声掛けに気づかない。
「麗奈、おい、れなっ」
気づいたのか麗奈が叫ぶのを止めた。
「五味と久津は俺達が魔法を使えるって、知ってるのか」
「分からないけど、多分知らないんじゃないかな」
「さっき、千春は魔法障壁を使ったって言ってたが、見てたか」
「千春君の声で振り返って、直樹君が刺されたのと克也君が鉄パイプをガードしたところまでは見てたけど、私と沙織ちゃんは後ろから三人組の誰かに抱き着かれて、すぐに三人組の相手をしてたから、千春君が魔法を使ったのは見てないよ」
「そん時って、西條さんは」
「沙織ちゃんがこっちは大丈夫だからって言ったら、克也君達の方に走って行ったわ」
西條さんが魔法を使って俺達に襲い掛かって来た五人組をやっつけたのか、千春が魔法でやっつけたのかは分からないけど、俺達が魔法を使えるって分かっていたら、五味と久津はもっと警戒しているはずだよな。麗奈と沙織に念話でやり取りしてもらうよりも、とにかく西條さんを五味と久津から引き離せば、直樹達も反撃し始めるだろうから
「麗奈、魔法で西條さんを五味と久津から引き離せ、そしたら西條さんの回復を頼む」
「えっ、でも。抵抗したら、かなえさんが」
「あの状態の西條さんを見て、俺達が大人しくしとく意味なんて何も無いんじゃねえのか、とにかく西條さんを助けたら反撃するぞ」
俺は直ぐに動けるように傷の回復を始めながら周囲を確認する。俺に群がっている連中は、ライトボールで目潰しでもして動きを止めてしまえば、俺一人でも駆除は出来る。
沙織と千春は声がかれるほどの大声で、五味と久津を怒鳴っている。二人があそこまで感情的に怒っているのを見るのは初めてかも知れない。普段よりも明らかに頭に血が上っている状態だ。仮に沙織と千春が直ぐに反撃が出来なかったとしても、状況が動けば、直樹なら直ぐに反応して対応するだろうし、何なら直樹に群がる男達にもライトボールの目潰しを喰らわせても良いかも知れないな。って考えてと麗奈が
「ありがとう、お婆ちゃん」
と叫び、起き上がって走り出した。
西條さんの方を見ると、小学校の廊下で見かけた道着姿の胸の大きいおばさんが、五味と久津を薙刀で串刺しにしていた。




