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第93話 赤い目の集団

 ダーシャお嬢様とのランチが終わり、お嬢様の屋敷から外に出ると今にも雨が降り出しそうな、どんよりとした天気になっていた。ランチ中は食堂の窓から暖かな陽の光が差し込むくらい、天気が良かったのに今日はこれから雨が降り出すのかな。せめて、学校にたどり着くまでは雨が降らないで欲しいな。ってな事を考えながら、お嬢様の屋敷を後にした。


 先頭を沙織と麗奈と西條さんが歩いている。学校からアレさんと一緒にお屋敷に向かっていた時は、三人ともゲラゲラ笑っていたけれど、今は何か考え事をしているのか、お喋りをすることなく静かに歩いていた。


 沙織は腕を組み俯きながら歩き、麗奈はいつも通り背筋を伸ばして歩いてはいるが、時折空を見上げたりしながら歩いていた。西條さんは、考え事をしたり何かに集中している時は、歩く速度が遅くなるらしく、沙織と麗奈との距離が離れるたびに、早歩きになっていた。


 俺と千春は並んで歩いているけど、千春も考え事をしているようで、屋敷を出た時に「雨が降りそうでイヤだね」と言ったっきり黙り込んでしまった。直樹は俺の少し後ろを歩いているが、やはり考え事をしているようで、屋敷を出てからはずっと腕を組んで黙っていた。


 みんなそれぞれ、ダーシャお嬢様とのランチ中に聞いた話しに衝撃を受けているみたいだった。俺も自分ではどうにも出来ない話しの内容だったので驚いていた。


 俺はそのうち電気が復旧して、今まで通り学校に通い始めたら、そろそろ自分の学力に見合った進学先を真剣に考えいとなあってな感じで、停電中に復旧後のことを漠然とだが、一応考えていたりもしていた。けれど、そんな未来はこれから先絶対に訪れることが無いって知ってしまうと、何だか物凄く色んな事を考えることが億劫になって来るし、これから先のことなんてどうでも良いって感じてしまう。


 ランチ中に話しを聞いていた時は、今まで知らなかった世の中の事を少し垣間見れた気になって、多少気分が高揚していたのか話しを聞きながらちょっとワクワクもしていた。でも、こうして時間が経って落ち着き始めると、何とも言えない心境になる。


 将来の夢や何か目標とかあったりすれば、たとえ世の中の環境が変わったとしても、夢や目標に向かって新たな取り組みを考えたりもするんだろうけど、あいにく俺には夢や目標なんて物は持っていない。


 でも、これからはもう当たり前のように過ごしていた生活が出来なくなるんだから、今後はどんな感じで日々の生活を送って行けば良いのかってことを考えないといけないんだけど、その考えるって行為が面倒くさく感じて、やっぱりこれからのことなんてどうでも良いって思ってしまう。もう、面倒くさいことは考えないでダーシャお嬢様のとこでお世話になれば良いのかなあ。ってな事を考えていると


「ちょっと~、お嬢ちゃん達どこに行くのかなあ。俺達と遊びに行かないか」


 先頭を歩いている女子達の斜め前方から、三人組の男達がニヤニヤしながら近づいて来た。沙織が立ち止まり


「忙しいので放っといて下さい」


 と言うと、多少は鍛えているのか、厚い胸板を強調するかのように三人組の真ん中の男が胸を張り


「この辺りは危険だから途中まで送って行くよ」


 と言うと、腕を組んで首を左右に倒しながらコキコキ首の骨を鳴らした。


 麗奈が腕を組んで


「間に合ってますので大丈夫です」


 と言うと、左右の男達が女子達の進路を塞ぐ感じで立ち塞がり


「そんなこと言わないで俺達が守ってあげるからさ、一緒に行こうよ」


「どこまで行くんだ、何だったらもっと人数を増やしてやるぞ」


 と言って、ニヤニヤしていた。


 西條さんは沙織と麗奈の半歩後ろに下がって様子を伺っている。


 参った、色々と考えながら歩いていたので周りの警戒を全くしていなかった。


 改めて周りを見回してみると、道を挟んで反対側の歩道には、五人の男達がこっちの様子を伺っていた。そして、三人組が歩いて来た方向を見ると、コンビニの店内や駐車場にそれなりの人数の男達の集団がいた。


 気掛かりなのが、目の前の男達と反対側の歩道にいる男達の目が、真っ赤に充血していることだ。あいにくコンビニにいる集団は距離があるので確認は出来ないが、もし充血しているのならば、出来る限り関わりたくないって思っていた集団なんだよなあ。


 沙織が深いため息をつきながら、腰に手を当てて


「こっちはホントに忙しいんだから、放っといてちょうだい」


 麗奈が腕を組んで首を傾げると


「本当に大丈夫ですので、お引き取り下さい」


 マズイぞ。沙織の仕草は相手に対して拒絶しているって分かりやすいけど、顔が整っているから見る人からしたら綺麗に見えちゃうし、麗奈は腕を組むことで胸が強調されちゃうから、下心のある男共には逆効果なんだよなあ。


 あ~、やっぱり三人組の男達が下心アリアリの目つきにかわって、麗奈の胸をチラチラ見ている。そして、三人組が沙織と麗奈を口説こうと必死に話し掛け始めた。西條さんは、沙織と麗奈の半歩後ろに下がった状態のまま、三人組の様子を伺っている。


 どうやってこの場を切り抜けるかなあ。直樹が後ろに控えているのにたじろぐ様子を見せないって事は、コンビニや歩道にいるヤツ等は仲間なのかな、人数がいるから直樹のことを脅威には感じていないのかもなあ。


 そうなると、やっぱりここから見える男達はみんなこの三人組の仲間になるのかな。反対側の歩道の五人組がこっちを見ながら何か話し始めていて、よく見ると手には鉄パイプや柄の長いハンマーを持っているヤツもいた。


 う~ん、マズイなあ。この三人組は話しが通じるのかなあ。見た感じ腕力至上主義って感じで、話し合いを好むような印象でもないんだよなあ。この間みたいに相手が油断しているうちに眠らせちゃうかなあ。ってな事を考えていると、千春がコンビニの方を見ながら


「ね~、アレって、ごみっちとくずっちじゃない」


 ニヤニヤしながら五味と久津の二人が小走りでこっちに向かって来ていた。


「う~ん、コンビニに集まってる男達は、あいつらが所属していた集団だったのか」


 まさかこんなに早くあいつ等と接触するとはなあ。面倒くせ~なって思っていると、直樹が渋い顔をしながら


「マズイな。面倒なことにならなければ良いんだが、あっちからも来たぞ」


 反対側の歩道から近づいて来る五人組を見ていた。


 沙織達を口説こうとしている三人組のところに五味と久津が合流すると、五味が沙織をチラッと見て


「吉田は昨日ぶりだな、中井は元気そうだな」


 と言い、充血した目で麗奈を見つめていた。


 久津は沙織と麗奈を見て


「二人とも久しぶりだな、相変わらず可愛いな」


 と言うと、沙織達の後方にいる俺達を見ていた。すると、三人組の胸板を強調しているヤツが


「なんだお前らの知り合いなのか」


 久津が直樹を見ながら


「同じ学校のヤツ等ッス」


 反対側の歩道にいた五人組が、俺達の後ろを取り囲むようにして立ち止まると、鉄パイプを持っているヤツが


「何やってんだ」


 胸板を強調しているヤツに向かって言い、鉄パイプで自分の肩をポンポン叩き始めた。


「いや~、可愛い女子がいたんで護衛をしようと思い声を掛けてました」


 う~ん、察するにこの胸板を強調しているヤツよりも、鉄パイプのヤツの方が序列的には上になるのかな。すると、柄の長いハンマーを持っているヤツが


「ふ~ん、それで、こいつらはどうするの」


 何かを見定める様な目つきで、自分から離れた位置に立っている直樹を見ると、俺を見て千春を順番に見ていた。


 どうやってこの場を切り抜ける。コンビニの方からもゾロゾロと男達がこっちに近づいて来ているんだよなあ。五味と久津に頼めば見逃してくれるのか。それとも話し合えば何とかなるのか。あるいは実力行使で切り抜けるしかないのか。ってな事を考えていると、胸板を強調しているヤツが


「いや、どうするも何も、いつも通りで良いんじゃないッスか」


 って言うと、鉄パイプを持っているヤツが千春に向かっていきなり鉄パイプを振り下ろした。千春が頭を抱えて悲鳴をあげた。


「ひっ」


 鉄パイプが千春に当たる寸前に、直樹が鉄パイプを掴んだ。俺は突然のことで反応できずに、ただ驚くことしか出来なかった。すると直樹が


「ぐっ」


 痛みに耐えるような声を上げた。直樹を見ると後ろにいたヤツが、直樹の背中にナイフを突き刺していた。


「なおっきー、だいっじょ」


 柄の長いハンマーが千春の腹部にめり込み、千春は目を見開いてその場に倒れ込んだ。千春と直樹のどっちに駆け寄ろうか迷っている間に、俺の顔面に向かって鉄パイプが迫って来た。咄嗟に腕でガードしたが、イヤな音を立てて腕が変な方向に曲がった。一瞬、沙織達の叫び声が聞こえたような気もするし、直樹の声も聞こえたような気がした。


 俺は何とか体勢を立て直そうとするが、突然激しい頭痛に襲われていてその場に片膝を着いてしまった。頭部は腕でガードしていが、腕が折れているので何発か激しい打撃を頭部に受けてしまい、出血し始めた。そして、肩や背中も蹴られているのか鈍器のような物で殴られているのか、強い打撃を受けていて衝撃は感じているが、頭痛の方が酷くて体の痛みが感じない。


 視界の隅で沙織と麗奈が三人組の男達と戦っているのが見えた。女子達はとりあえず大丈夫そだが、俺自身がマズイ事になっている。


 頭部を何とかしてガードしているが、そのぶん腹部のガードが出来ないのでかなりボコスカ打撃を喰らっている。たまに良い角度で打撃を喰らって、何度か呼吸が止まった。ジッとしていると相手に好き放題やられてしまうから早く動かないとダメなんだけど、とにかく頭痛が酷くて頭が働かない。


 その場に蹲りながらも、沙織達のバトルを五味と久津が少し離れた場所で見ている様子を視界の隅で捉えた。何とかして体勢を立て直さないとマズイんだけど、ダメージのでかい決定打を喰らわないように、ガードをする事に精一杯で身動きが取れないでいる。


 地面に蹲り激しい頭痛と打撃に耐えていると、直樹の周りにいた男達がいなくなっていて、うつ伏せで倒れている直樹に、千春が駆け寄って行くのがチラッと見えた。って事はもう少し踏ん張れば何とかなりそうだな。とにかくこのままガードに専念しとくか、にしても頭痛が酷くて目を開けるのも辛くなってきたぞ。


 ふと、俺に対しての打撃が止んだと思ったら、激しい頭痛が一気に引いた。顔を上げると西條さんが俺の肩に手を置き


「直ぐに治すから」


 と言って、目をつむった。すると、俺の体が淡い光に包まれて、体中の痛みや打撃を受けていた個所から熱が引いて行った。俺は西條さんに


「ありがとうございます。助かりました」


 西條さんは少し硬い表情をして


「どういたしまして。本当に何の躊躇も無く襲って来るのね」


 また淡い光が俺の体を包み込むと、制服の血痕が綺麗に消えて無くなって行く。西條さんは眉間に皺を寄せて


「気をつけてるつもりだったけど、私達ってまだ考えが全然甘かったのかもしれないわ」


 小田先生には大変な世の中になるから気をつけろって言われてたし、ダーシャお嬢様との会話をしながらも、分かっていたつもりだったけど、全然理解出来ていなかったってことだよなあ。ホント自分の危機感の無さに腹が立って来るなあ。って思いながら、周りの状況を確認し始める。


 沙織と麗奈を確認すると、二人の足元には沢山の衣類が散らかっていて、コンビニにいた集団と少し距離を取って睨み合っていた。男達は口々に「何で能力が効かないんだ」ってな感じのことを言いながら、沙織と麗奈に襲い掛かろうとはしていなかった。


 俺の斜め後ろにいる直樹と千春を確認すると、千春が直樹の治療をしていた。直樹と目が合うと


「急に呼吸が出来なくなって何も出来なかった」


 と言って来たので


「俺は激しい頭痛だったな」


 すると、千春がハッとした表情をし、直ぐに申し訳なさそうな顔をして


「ごめん。多分だけど僕のエンチャントのせいかもしれない」


 俺と直樹が千春を見ると


「僕はすぐに魔法障壁を展開したら西條さんが助けてくれたし、沙織ちゃんと麗奈ちゃんはすぐに反撃してたんだ。けど、うっちーとなおっきーが全く反撃してなかったから何か変だって思ってたんだ」


 千春が少し俯き足元を見ながら


「うっちーとなおっきーは、魔法攻撃に対してならエンチャントが発動して身を守れるんだけど、相手が超能力とか魔法ではない何か違う力って認識で攻撃を仕掛けて来ると、僕のエンチャントって反応してくれないじゃん、でも、僕らは全ての災いから身を守るためにって思いを込めて、白沢先生が刺繍をしてくれてたエンチャントが施されてたでしょ。だから大丈夫だったんだと思う。ホントごめん」


 そう言って、しょんぼりしている千春に直樹が


「でも、学校に戻ったら俺とかっちゃんにまた刺繍をしてくれるんだろ。そんな顔すんな」


 と言って、千春の太ももをバシッと叩いた。それを見て西條さんが


「ホント不思議よね。魔法による行為に対して身を守るって思いを込めて、加藤君が刺繍をしてたから効果が現れなかったんだけど、魔法にしろ超能力にしろ私達の思いに反応したモノ達が引き起こす現象なのに、考え方や捉え方、解釈の違いで私達の思惑とは全く違う結果になるんだから厄介よね」


 と言い、俺と直樹を見て


「でも、とにかく二人とも無事に回復出来たんだからオッケーでしょ」


 俺と直樹は同時に拳を握って親指をグッと突き出した。千春はしょんぼりした表情から、少し柔らかい表情に戻り西條さんは俺達を見て微笑んでいた。俺は直樹に


「俺の激しい頭痛と直樹の呼吸が出来なかったのが、ヤツ等の能力だったとして、俺と直樹はあいつらとどうやって戦ったら良いんだ」


 直樹が沙織と麗奈を見ながら


「だな、このままヤツ等が諦めて帰ってくれれば良いんだが、野放しにしてはダメな連中だろうしな」


 すると西條さんが


「そ~ね、多少人としての記憶や意志は残っているみたいだけど、アレはもうヒトデナシとして、私達は対応するべきだと思うわよ」


 沙織と麗奈が連中と睨み合っている間に、ヤツ等から向けられる敵意に対して、何か良い戦い方を考えないとマズイかもなあ。

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