第91話 再びモノって言われているモノ
食事が出来るまでの間に、ダーシャお嬢様とリサッチさんから色んな話しを聞かせてもらった。
世の中の社会システムのことや、太古の昔っから感情をエネルギーにして存在している者達のこと。お嬢様達が、俺達の精神年齢を肉体年齢よりも高くすることを掲げて、色々と水面下で活動していたこと。普段なら千春か沙織が色々と質問したりするんだけど、今回は流石に相手がお嬢様だからなのか、緊張しているようでいつものような元気はなく、ずっと静かにしていた。
貴族が使うような細長いテーブルのお誕生日席には、ダーシャお嬢様が鎮座しすぐ近くの席にはリサッチさんが座っている。そして、レーナさんがダーシャお嬢様の後ろに立っていた。
俺達は男女に分かれて座ってお嬢様の話しを聞いていた。俺はお嬢様が座っている方をずっと向いていたので、直樹と千春の表情は見てなかったし、女子に関しては俺の正面に座っている沙織が視界に入っている程度で、麗奈と西條さんの表情も全く見てなかった。
ダーシャお嬢様から「テーブルマナーとか全く気にしないで良いから、気をラクにして食事をしてね」と言われたが、みんなそれぞれ普段よりも姿勢を正して椅子に座り、会話をする事なく静かに食事をしていた。
俺はトンカツを食べながら、これから先の事を考えると簡単にこうしてトンカツを食べる事が出来なくなるかもしれないと思い、これが人生最後のトンカツだってくらいの気持ちで、しっかりカツを噛み締め味わっていた。直樹は分厚いステーキとカツ丼を注文していた。千春はチーズハンバーグだった。お嬢様の前だったので、メニュー表を見ながらみんなが何を注文するのか聞くことが出来なかったが、男子はいつも通りの感じの注文内容だった。
沙織はうどんで麗奈はお蕎麦だった。俺はラーメンが好物だけど、うどんも蕎麦も大好きだ。もし可能であれば、ざる蕎麦とか追加で注文したいなあ。
そして、西條さんはお寿司だった。俺は魚介類がダメなのでお寿司を食べに行っても、納豆巻きとかカッパ巻きとかしか食べないし、魚がダメなのでお寿司に魅力を感じない。だとしても、ダーシャお嬢様のランチでまさかお寿司を注文するとは思わなかったので、ちょっと驚いた。
ダーシャお嬢様は、パンと赤いスープに豆と野菜の入った煮込み料理を食べている。確かあの煮込み料理はボルシチってヤツじゃなかったかな。リサッチさんはパンと野菜がタップリ入ったシチューを食べてた。
それぞれみんな静かに食事を進めていると、ダーシャお嬢様が
「レーナ、彼らに環境の変化の説明と、それによる弊害について話してもらえるかしら」
と言って、ボルシチに浸したパンを一口食べた。レーナさんがダーシャお嬢様に一礼して
「では、皆様どうぞそのまま、お食事を進めながらお聞きください」
う~ん、この部屋は日当たりが良いみたいで、窓から差し込む陽の光が丁度レーナさんに降り注いでいてとても美しい。ってな事を考えていると
「停電が発生して三日が過ぎたあたりで、私達が今いるこの環境が、夢を見てる時と同じ状態に変化してしまいました」
何それ、じゃあ今って実は俺は布団で眠っていて、夢を見ているって事なのか。んなわけないよな。
「御承知の通り、眠ってる時に夢を見てると認識した時は、自身の体の感覚を感じてません。例えばベッドと接してる体が沈んでる感覚や、布団に触れてる肌の感触も夢を見ている時は感じません。ですが、本人が今いる場所が夢だと気づくか、眠っている体の感覚が分かるようになると、意識が戻って夢から覚めるか眠りから目覚めてしまいます。つまり、夢を見ている状態の人は、意識が夢の中の出来事に対してとても集中していて、身の周りのことや自身の体にすら意識が全く向いていない状態なのです。ですが、今は夢を見てる時と同じ状態の意識のまま、普通に過ごし生活が出来ている、そんな特殊な状況なのでございます」
ふむ、幼稚園の頃にトイレの夢を見てスッキリしたけど、パジャマが濡れ始めて夢だったって事に気づいて、目を覚ましてビックリしたりもしたなあ。でも、別に今が夢を見ている状態と同じだって言われても、現実ってことには変わりないのなら、何が問題なんだ。
「そして、夢の中では本人の思い通りに色んな事が出来たりする時がたまにあると思います。なので、そんな夢を見た人達の中には、もっと夢のままでいたかったとか、夢の中だからやりたい放題だとかおっしゃり、本人の望み通りに色んな事が出来てしまう、そんな夢の世界から抜け出すのが勿体ないと感じる人達もいらっしゃいます」
うんうん、気になる人とデートしている夢とかって、夢の中でも物凄く緊張はしているんだけど、ドキドキもするんだよなあ。そろそろ手を繋ぎたいって思って、勇気を振り絞って相手に声を掛けようとすると、タイミング悪く時計のアラームで起こされたりするんだよなあ。
「世の中には夢の世界の中だけではなく、現実の世界でも本人の意志の力で様々な現象を引き起こすことが可能であることを、理解している方々がいらっしゃいます。その方々は、環境が変化する前までは、様々な手段を使って目が覚めていても、意識や肉体が覚醒していても、夢を見ている時と同じような意識を保って、様々な現象を引き起こしてました。ですが、その事が出来る方々は、ごく限られた一部の人達だけでしたのでとても少人数です。仮にその方々の存在を知ってたとしても、それも限られたごく一部の人達だけでした。なので、世間的にその方々の存在を知る人達は多くありません。ですが、今は環境が変化した事により、ごく限られた方々だけでなく、全ての人達が、本人の望む現象を引き起こすことが可能となってしまいました」
へ~、夢で出来るからってリアルで出来るとかって考えて、しかも実行しちゃってる人達もたんだあ。夢と現実の区別がつかないだなんて、ある意味子供っぽいな。
「なので、全ての人達が環境が変わったことに気づけば、川内さんや小学校で避難してる人達のように、意思の力を上手に使って生活に役立てる人達もこれから沢山現れることでしょう。ですが、今まで物事を深く考える機会に恵まれなかった、精神年齢の低い愚かな者達は、今まで以上に周囲の事などお構いなしに、好き勝手に自身の思うがままに振舞い始めるでしょう。なので、世の中が混乱する事は容易に想像する事ができ、避けられない事態となります」
う~ん、夢の世界かあ。小田先生が『今って本人の意思で何でも出来ちゃいそう』って言ってたけど、その通りになっちゃってたんだなあ。それに『意思の力で何でもある程度は思い通りになるって事は、良い事もあれば悪い事も沢山起こるんだから、これからは色んな意味で、本当に大変な世の中になりそうだ』って言ってたのも、的中しちゃったなあ。
「そして、今のこの環境は、私達にとって都合の良くない現象を引き起こすモノ達にとって、とても適した環境となっております。なので、モノ達の動きは活発になり特性も十二分に発揮されており、モノ達が人々の感情に今まで以上に強く反応し、人体にまで影響を及ぼしております。例えば皆さんがヒトデナシと呼んでらっしゃる、人が人ではない何かに変化して、私達に襲い掛かって来る現象ですが、あれはモノによって人体にまで影響を受けてしまった結果でございます」
ちょっとビックリして箸が止まってしまった。ヒトデナシってモノが原因で変化してたのか。でも、どうして変化しちゃったんだ。感情が昂って頭が真っ白になるか、我を忘れるくらいの激しい感情の変化が原因なんじゃなかろうかって、北野先生が話していたけど、何でなんだろう。
「人の感情から生じるモノは、私達の目で見て確認する事は出来ません。それと同様に、世の中には私達の目で見ることが出来ずに存在を認識出来てないモノが、多数存在しております。そのモノ達も人の感情を糧にしておりますので、強い感情を抱いている人達に近づき纏わりつきます。そして、モノが纏わりついた人物の感情が自身の許容出来る範囲を超えるまで高まりますと、普段でしたら理性が働いて思い留まるような行為だったとしても、纏わりついてるモノに影響されてしまい、自身が抱いている感情に簡単に流されてしまい結果、感情的な行動を取ってしまいます。たまに耳にすると思われますが、俗に言う『魔が差す』という現象でございす。皆さんがモノの存在を認識していないだけで、昔から私達の身の周りにはモノが存在しているのです」
う~ん、確かにニュースとかで犯行の動機が、魔が差したからとかって聞いた事もあるし「頭に血が上ったから殴った」だとか「頭が真っ白になって気がついたら、凶器を持って刺してしまっていた」ってのも聞いたりはするけれど、本人が感情をコントロール出来なかっただけじゃなくって、実際はモノが悪さしていたんだなあ。
「俗に言う『魔が差す』の魔は多数存在しており、一説によると人が抱く全ての感情と同じ数の魔が存在し、それぞれの魔によって好む感情が異なり姿形も異なってるとも言われております。そして、今まででしたら魔に纏わりつかれた人物の抱く激しい感情に流されるだけでしたが、環境が変化した事により、自身の感情が許容出来る範囲を超えた人物の存在自体を、魔に変化させ魔が自ら人々の感情を煽り求めて、さまよう様になりました。なので、小学校が強盗に襲撃された時は、逃げ惑う人々から発生した大量の感情につられて、学校周辺のヒトデナシが集まって来ておりました」
あ~、だからあの日はヒトデナシが異様に多く出現していたのかあ。う~ん、でも話しを聞く限りだと、結局はヒトデナシに変化する条件って感情が原因みたいだから、感情を上手くコントロール出来れば大丈夫って事だよな。早いとこ直樹が言ってた『明鏡止水』って言葉をエンチャントしておきたいなあ。って思いながらも気になったので、レーナさんに
「その、魔と言うか俺達が見ることが出来ないモノ達の姿形って、どんな感じなのですか」
「姿形は様々でして、液体や気体のように決まった形を持たないモノ達もおりますし、好む感情によって見た目が異なり、決まった容姿をしているモノ達も存在しております。皆様がヒトデナシと呼んでらっしゃるモノ達の容姿が、そのモノ達の姿となります。ちなみに、死体が動き人々を拘束する現象は、形を持たないモノ達が死体と同化し、人々から恐怖や悲しみ等の感情を煽り引き出すため活動しております」
すると、レーナさんが直樹を見て
「ちなみに森下さんのツノに関してですが、我を忘れた人物達をヒトデナシに変化させたモノとは異なる、他の種類のモノが森下さんの強盗達から避難者を守りたいという、強い気持ちに反応した為に起こった現象です。モノ達が森下さんに力を与えて逃げ惑う避難者達を強盗から守る事が出来ましたので、皆様の解釈からしますと、人々に悪い影響を与える魔とは呼ばないで、我々に良い結果をもたらす聖なるモノとでも認識されるのでしょうか」
直樹を見るとホッとしたような表情をしていた。とりあえず、直樹がオニ型のヒトデナシに成りかけていたんじゃないってことが分かったから、俺だって安心したよ。
「例えば難攻不落の城を攻め落とす時に、モノの影響によって肉体が強化された人物が、城を守る者達に激しく攻め込み活躍すれば攻める側からしたら、英雄ともてはやされるかもしれませんが、城を守る側としたら、戦友や守るべき家族を亡き者にしようとする、ただの化け物ですよね」
う~ん、確かに上手く説明が出来ない現象が起きた時って、自分らにとって都合が悪いと祟りだとか災いだとか言って怖がって、都合の良い現象だったら聖なる力が働いた~って言って喜ぶもんなぁ。そういえば、体育館で助かった避難者達は直樹のことを鬼神様だの荒神様だの言って物凄く敬ってたな。
「私達の目に見えないモノ達は、それぞれの好む感情を人からより多く発生させる為に、様々な現象を引き起こしますが、そういう生態とでも言いましょうか感情を糧に存在しているモノなので、モノ達からしたら当たり前の行動なのです。そして、モノ達は私達のように、それぞれの都合によって善悪の区別はいたしませんし、その判断も出来ません。そもそも、私達との意志の疎通はできません」
社会システムを作った者達と同じで、生存するために人からより多くの感情を引き出そうとしているって事か。う~ん、でも負の感情やネガティブな感情からじゃなくて、俺達の良い感情を糧に生存してくれていれば、そんなに迷惑なヤツ等とは思わないんだけどなあ。
「モノたちは人の強い思いに反応し近寄り、その人の強く思っている感情をさらに引き出す為に、その人が望む望まないは別として、その人が強く思ってたり、強く囚われている感情に反応して、様々な現象を引き起こし感情を煽って来ます。それは環境が変わったことにより如実に現れておりまして、皆さまが最近使えるようになった魔法ですが、小田先生から川内さん達の使用する魔法について伺ったところ、川内さん達は、魔法を使う時は本人が望む現象あるいは望む結果をイメージし、想像力を膨らませ、強い意志で思い浮かべた望む結果を実現させてますよね。それは今いたるところで漂っている、全てのモノ達が皆様の思いや感情に反応して、引き起こされた現象の一つでございます」
またビックリして箸が止まったぞ。今まで便利に使っていた魔法って、実はモノが引き起こしていた現象だったって言われてもなあ。にわかに信じがたいんだけど、そもそも、何で魔法が使えるのかってこと自体が分かってなかったんだし、謎が解明されるから嬉しいはずなんだけど。せめて今まで眠ったままで使われていなかった、未知なる力が覚醒したんだって言われた方が嬉しかったんだけどなあ。
「例えば火が必要となった場合は、何か可燃物を用意して火種を使って火を起こしてましたが、今は何も用意しなくても魔法を使って火を起こすことが可能ですよね」
そうなんだよなあ、今は強くイメージすれば簡単に火が発生するんだよなあ。
「当たり前のことですが、火を起こすには何かしらの準備をしないと、火は発生しません。紙を燃やす程度でしたらそれほど労力は必要としませんが、焚火になると多少準備に時間が必要かもしれませんね。さらに、建物を燃やす程の火力となりますと、準備にはそれなりの時間と人手も必要となり、かなりの労力が必要となると思われます。ですがモノ達は、建物を燃やすために色々な準備をするはずだった人達の肉体的な疲れや、建物を燃やすための準備が整うまでに費やすはずだった、時間を奪い取り建物を一瞬で燃やしてしまいます。言い換えるならば、建物を燃やすためのに起きるはずだった様々な出来事を、モノ達が奪い取り、私達の代わりに建物を燃やす結果を実現させた事になります。そして、モノ達は願いの叶った人物から生じる満足感でしたり達成感を糧にしております」
何が問題なんだろうか。建物を燃やす為の準備で疲れることも無いし、時間も掛からないでこっちの願いは直ぐに叶うだなんて、素敵なことじゃないですか。それに、モノだって俺達から満足感やら達成感を得られるんだし、負の感情やネガティブな感情をとかじゃないんだから、全然いい感じだと思うんだけどなあ。
「そして、加藤さん達が小田先生からお願いされた、机の消しゴムを手を使わないで動かす試みですが、皆様の思いに反応したモノ達が、本来ならば手で動かすはずだった出来事をモノ達が奪い、皆様のイメージに従って消しゴムを動かすという結果を実現させていたのです」
ふむ、魔法ってヤツが自分の力じゃなくってモノの仕業だったとしても、結果的にわざわざ手を使わないで消しゴムを動かせたんだから良いんじゃないか。それに、色んな事をしなくても簡単に思い通りの結果を出してくれるんだから、ラクで良い感じじゃん。
「先ほど、モノ達に善悪の区別はなく、判断も出来ないとお伝えいたしましたが、モノの存在を知らない人達が、誰かに対して良い感情を抱いているのでしたら私達にとってよい結果をもたらしてくれることでしょう、ですが、誰かに対して悪意や敵意をもって強い思いや感情をぶつけていたらどうなるでしょうか」
あっ、昨日小田先生から言われて気づいたヤツで、魔法が犯罪行為とかに使われたらマズイだろって話しと似てるかも。
「今まででしたら、モノ達の動きが鈍く、それぞれの特性も十二分に発揮出来てませんでしたし、我々のイメージが鮮明にモノに伝わるという事もございませんでした。何故なら、眠ってる時のような特殊な意識の状態でないと、我々のイメージがモノに伝わりにくいのです。なので、今迄はモノによる様々な現象の発生件数は多くありませんでしたし、モノが原因で発生する我々にとって良い現象も悪い現象も、真実として受け入れる人は少数でした」
なるほどね~。超能力だの怪奇現象って、信じる信じないは必ず意見が別れるもんなあ。それに良く分からない現象だったりするから、超能力なのか手品なのか分からないもんなあ。でも、手品とかって見ていてビックリさせられるから楽しかったりもするんだけどね。
「ですが、漂っているモノが善悪の区別なく、ただ生存のためだけに感情を煽っていたんだとしても、モノの存在を知らず、モノから自分を守るすべを知らない人達は、様々な場所で感情を煽られ色々な現象を引き起こされてしまい、モノのせいで穏やかだった生活が一変して、生き苦しい生活になってしまう人達は大勢いらっしゃいます。己の感情をある程度コントロール出来る人や、物事に捉われない自由な心の持ち主だったりすれば、モノによる被害は少なくなるでしょうが、全ての人達がその様な考え方は出来ませんし、物事を深く考える時間や隙を与えないようにし、精神年齢を上げさせないための社会のシステムが出来上がっておりました」
モノに纏わりつかれているせいで、いつまで経っても悩み事から抜け出せなかったり、自分自身の恐怖の感情から生じるモノが反応しているだけなのに、怪奇現象って思っちゃって、いつまでも怖がっている人もいるけど、人によっては体調を崩して寝込んでしまったり、病院にお世話になってる人達もいるんだもんなあ。それに、感情を抑え切れなかった人が、モノの仕業で感情的な行動を取ってしまって、取り返しのつかない事態になっちゃう場合もあったんだろうしなあ。
じっくりと物事を深く考える時間や切っ掛けがあったならば、辛い出来事が起きないように、普段から思慮深い生活を心掛けていただろうし、色んな物事を深く考えられていれば、自分の思い通りにならないからって直ぐに感情的にならないで、思い通りになるような、環境作りや人間関係を構築しているだろうしなあ。
確かに生活の質が向上して便利な世の中ではあるけど、ダーシャお嬢様が話していた通り、色々と精神年齢を成長させにくい世の中でもあるし、負の感情やネガティブな感情を大量生産させるための社会システムでもあるから、なかなか厄介な世の中だなあ。
「なので、世の中に存在している目に見えないモノ達が、人の感情に反応してあらゆる現象を引き起こしている事を理解している方々が、モノによって苦しんだり悲しんだり、あるいは自分自身の力と勘違いしてつけ上がって高慢にならなくて済むように、色んな働きかけを行って来ているのですが、受け止める側の知識や教養が乏しかったり、精神的に未熟なために物事の本質をつかめないまま、異なる解釈をしてしまう人がいたりと、実際は多くの人達がいまだに己の感情と、その感情に反応するモノによって苦しみ続けております。ですが、モノの存在を理解されている方々の中には、善意でモノによって苦しんでいる人達を助けたり、モノから人を守ることを生業としている方々もいらっしゃいます。身近な方ですと、山口さんもモノの存在を理解して苦しむ人々を助けてらっしゃる方々の内の一人ですね」
あ~、なるほどね~。最終目的と言うか、みんな目指している場所は人々を苦しみから助けるって感じで同じなんだけど、受け止め方や解釈がそれぞれ異なっていたりするから、たとえ目的は一緒だったとしても、色んなコミュニティーが出来ちゃっているのね。なかなか上手く行かないもんだなあ。それと、何気に山口さんは見た目は普通のおばちゃんなのに、実は世のため人のために色々と頑張っていた人だったのか、何かスゲーな。今度会ったら、もっとモノについて色んな話しを聞いてみたいな。
「漂っているモノ達は、人の勝手な都合による善悪の判断は出来ません、ですが、何度も言うように、人々は自分にとって都合が良い出来事は善とし、都合が良くない出来事に関しては悪とします。そして、どんな出来事でも受け止める側の解釈により、良し悪しは左右されます。例えますと自分や周囲の人々にとって良い結果を招く思いは願いとして、悪い結果を招く思いは呪いとして語ってたりしますね」
う~ん、受け止め方の違いかあ。確かにどっちの立場で物事を見るかで、全く違う出来事になるし、本人の都合で良し悪しも変わるからなあ。道具だってそうだよなあ、草を刈るのに便利な鎌だって、人に向かって使えば凶器になるし、移動に便利な車も、歩道に突っ込めば大量に人を傷つけたり殺めたり出来るもんなあ。なんだか色々と難しい問題だったりしそうで、考えるのが面倒くさくなって来るなあ。するとレーナさんが少し表情を硬くして
「そして環境が変化した事により、今まで遠くの場所で存在していたモノが、私達と同じ場所に存在するようになりました。つまり、川内さん達が召喚魔法とおっしゃっている行為が、環境の変化により容易に出来るようになりました」




