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第9話 下校

 俺達の学校は小高い丘の上に建てられている。学校の周りには、数件の住宅が建っているがコンビニは無い。


 通学路を利用するのは、ほとんどが生徒か先生で、後は数件の住宅に住んでいる人達で、他の人達はあまり見かけない。


 つまり、俺達の通う学校は市街地から離れた場所に建っているので、人通りの多いい車が行き交う道路にたどり着くまで、徒歩だとだいぶ時間が掛かるのだ。


 停電発生から五日目、相変わらず電気は復旧していないし、電車もバスも動いていなかった。


 一昨日から降り続いていた雨が上がったので、俺達は面倒くさいと感じながらも、徒歩で下校し始めた。五日ぶりに学校の敷地から外に出たなどと、他愛もない会話をしながら、バスだとあっと言う間なのに、徒歩だとやたら長く感じる下り坂が終わって、やっと交通量の多い道路にたどり着いが、俺達五人は目の前の状況にビックリしていた。


 色んな車両が道路に停まったままの状態で、乗り捨てられていた。


 交差点で並んで停まっている車の最後尾に、トラックが突っ込んでいた。車の後部座席は潰れていて、トラックのフロントガラスは粉々になっていた。


 交差点の真ん中でトラックの横に車が突っ込んでいた。車の部品や窓ガラスが散乱していて、オイルが漏たのか路面に黒いシミが広がっていた。


 事故車を避けようとしたのか、車がガードレールに突っ込んでいた。バンパーの壊れた車が、ガードレールに乗り上げて、車体を傾けた状態で停まっていた。


 事故発生時は車に閉じ込められた人を助けたり、負傷者に応急処置を施したりして、物凄く大変な状況だったんだろうってことが、容易に想像出来る光景だった。


 直樹は腰に手を当てて、眉間に皺を寄せながら周りを見ている。


 千春はガードレールに腰掛けて、青い顔で足元を見ている。


 沙織は事故車の近くをウロウロしている。


 麗奈は破壊されて中の構造が剥き出しになった、自動販売機の中を覗いていた。


 俺は顔色が優れない千春に近づき


「大丈夫か」


「うん、ちょっとビックリしただけ」


 声は出てるし震えてもいない。俺が思っていたよりは大丈夫そうだ。


 難しい顔をしている直樹に近づき


「なんかすげーな」


「ああ、学校にいたから外の状況なんて分からないからな」


「だよな、まさかこんな酷い状況になってるなんて思ってなかったもんな」


「先生達の車や、スクールバスが動かないってのは知ってたし、道路に車が乗り捨てられてる話しも聞いてはいたが、ここまで酷い状況とは思わなかったな」


 直樹と話していると、沙織が険しい顔をしてこっちに近づいて来た


「座席に血痕とかあったわよ、けっこう大変だったみたいね」


 直樹が沙織がウロウロしていた事故車の方を見て


「よく平気だな」


 沙織が腰に手を当てて


「目の前に負傷者がいたら流石にウロウロなんてしないわよ、麗奈は何やってんの」


 後ろを振り向くと、自動販売機の中を覗いていた麗奈が


「ここに置いてある全ての販売機から商品とお金が無くなってますね、もしかしたら飲み物が欲しかったけど、停電で販売機が動かないから破壊したのかも」


 破壊された販売機を見て沙織が


「私達は学校から飲み物が支給されてたけど、他の人達は飲み物が手に入りにくかったのかもね」


 沙織と麗奈の話しを聞きながら辺りを見回していると、ガードレールに腰掛けている千春が遠くを見ていた。


「どうした何かあるのか」


 遠くを見つめたまま千春は


「考えすぎかもしれないけど、もしかしたら家に帰るまで大変かも」


 だいぶ顔色の良くなった千春が、荷台の扉が開いたトラックを指さし


「荷物を荒らされているよね」


 宅配業者のトラックの荷台の扉が開いていて、荷物が散乱していた


「みたいだな、他にも扉の開いてるトラックが目立つな」


 改めて辺りを見回してみると、見える範囲で全てのトラックの荷台の扉がこじ開けられていた。


 すると千春がこっちを見て


「普通はトラックから荷物を勝手に持って行ったりしないよね」


 俺は千晴の言いたい事を察して


「自動販売機と同じって事か」


 千春は自動販売機を見ながら


「うん、物が不足してるんだと思う。でもね物が欲しいからって勝手に荷物を持って行ったり、自販機を破壊したりしないよね」


 沙織が腕を組んで真剣な表情で


「そんだけ切羽詰まってたって事なのかしら」


 千春は困った表情を浮かべながら


「うん、でもトラックの運転者さんがみんなに必要な物を配ったのかもしれない。だから僕の考えすぎかもしれない。でも、自販機に関しては業者の人が鍵を無くしたからこじ開けたってのは、ちょっとムリがあるよね。そう考えたら、帰り道でトラックの荷物を盗る様な人達とか、販売機を破壊して中身を盗る様な人達に遭遇したらイヤだなって」


 沙織が周りを見渡し表情を曇らせ


「そうね、考えすぎかもしれないけど、この状況を見ちゃうとね。駅までずっとこんな感じなのかしら」


 千春が苦笑いで


「たまたまこの辺りが荒らされているだけかもしれない。でも駅までこの状態だったらちょっと怖いかも」


 麗奈が千春に


「こっちには直樹君と克也君がいて、私達もいます。人数も多いいから変な人たちは近づいて来ないと思いますよ」


「僕たちはお互いを知っているからそう思えるけど、知らない人が見れば男子高校生三人と女子高校生が二人。なおっきーとうっちーを何とか出来れば後は問題ないって考えると思うよ」


 沙織が腰に手を当てて千春に


「そうね、知らない人から見たら直樹と克也さえ何とかしちゃえば後はラクって思うかもね」


「うん、沙織ちゃんと麗奈ちゃんを見て怖いって思う人っていないと思うよ。それにまさか格闘技経験者だなんて思わないよ」


 俺は沙織と麗奈に


「面倒くさいけど、絡まれたら追っ払えば良いんだから大丈夫だと思うぞ」


 すると直樹が


「だな、心配するな」



 俺達は乗り捨てられた車両と、破壊された自動販売機を横目で見ながら下校を再開した。





 歩きながら見える範囲の自動販売機は全て破壊されていた。事故を起こして燃えたのか、焼け焦げた車が何台かあった。トラックの荷台の扉は全て開いていて、荷物が散乱していた。店のシャッターはこじ開けられていて、店内は荒らされた様子だった。いつもスクールバスから眺めていた街並みは、変わり果てていた。


 麗奈と千春が、横に並んで俺達の先頭を歩いている。


 辺りを見渡しながら麗奈が


「家に人はいるみたいですが、歩いてる人を見かけないですね」


 千春は乗り捨てられた車を見ながら


「だね、あと車が動いてないから凄い静かだよね」


 麗奈が千春を見て

 

「ですね、この静けさが不安を煽って来ますね」


 千春が頷いている。


 千春と麗奈が歩く後ろを、俺は沙織と並んで歩いている。


 沙織が荒らされた店を見ながら 


「ずっとこんな感じね」


 俺も店を見ながら


「シャッターを壊してまで物色するとか、必死すぎやしないか」


 沙織が眉間に皺を寄せて


「やっぱり商品を盗りに入ったって感じよね」


「だよなあ、なんで普通に買わないで盗ったんだろうな」


 すると、前を歩く千春が振り返り


「停電の影響なのかなあ、ATMは使えないだろうし、カードも使えないだろうからね」


 沙織が表情を曇らせて


「お金が無いから盗るって、もしそうだとしても、なんで平気で出来ちゃうんだろう」


 千春が肩をすぼめて、手の平を沙織に向けると


「みーんなやってたんじゃないのかなあ、一人だと出来ないけど、複数だと普段やらない事でも平気でやれちゃうからね」


 沙織が浮かない顔で


「何となく分からなくはないけど、やっぱイヤな感じね」


 先頭を歩いている麗奈が振り返って


「あそこに人がいますよ」


 斜め前方を指さしながら麗奈が


「でも何だか言い争ってる感じですね」


 麗奈が指さした先には、スーパーの駐車場で言い争っている人達がいた。


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