第89話 リサッチさんの上司
ダーシャお嬢様の話しによると、今の世の中の社会システムは、一般的に負の感情とかネガティブな感情って言われている、俺達にとって良くない感情を生み出すために出来上がっているらしく、その社会システムを作った者たちは、太古の昔から存在していて、負の感情をエネルギー源にして生存しているんだそうだ。
そして難しい事はよく分からないが、お嬢様達は俺達の精神年齢を肉体年齢よりも高くすることが目的らしく、今までは世間の人達に気づかれないように水面下で目立たないようにして、何でもかんでも世間の出来事に介入しないようにしながら、精神年齢の高い人達を見守っていたんだそうだ。
精神年齢が高い人達は、負の感情に囚われて苦しんでいる人達を、色んなやり方で助けようと試みているんだけど、負の感情をエネルギー源として生存している者達からしたら、負の感情が無くなるってことは、俺達からしたら食料が無くなることと同じなので、常に精神年齢の高い人達を亡き者にしようとしているんだそうだ。
なので、お嬢様達は超有名大企業でもある自身の会社の力を使って、精神年齢が高い人物を特定して、物事の本質に気づけそうな人物は監視対象とし、物事の本質に気づけた人物に関しては、亡き者にされないように保護し、負の感情に囚われて苦しんでいる人達に対して行う、何かしらのアプローチに関しての援助や支援を行っていたんだそうだ。
そうする事で精神年齢が肉体年齢に達してない人達を導いてくれるし、ある程度精神年齢が高い人ならば、誰かが声高に訴えてる事や、誰もが称賛するような主義主張であっても、物事の本質からはかけ離れていれば何かしらの不自然さや違和感に気づくので、彼等が上手く間違いを軌道修正してくれるんだそうだ。
なるほどね~、超有名企業のお嬢様達は人知れず今まで色々とやったいたのかあ。だとしたら、なおさら気になるので俺は
「なんで、苦しんでいる人達をお嬢様達が助けないんですか」
すると、リサッチさんが目を見開いて
「あら、あなた。うちらの上司と接触してるはずなのに、まだ考えがお子様なままなの」
えっ、リサッチさんの上司って誰なの、俺の周りで年上の人って両手で数えるくらいしかいないんですけど。って考えていると
「あなた、レーナを見ると安心するでしょ、うちらの中だとレーナが上司と一番雰囲気が近いからね」
安心というか、ドキドキしちゃうんですけど。だなんて言えないので
「はい、とても安心しますね」
「その感じだと、二、三日くらい前に接触してるはずよ。今のあなたの雰囲気がうちの上司やレーナと近いから気づいたんだけど、おかしいわね、何処かで接触してるはずなんだけど」
リサッチさんは、俺を見ながら首を傾げて黙ってしまった。俺はチラッとレーナさんを見ると、レーナさんも首を傾げていた。そんな姿も美しいなあって思っていると、ダーシャお嬢様が
「金髪で色白の女性で瞳は青いんだけど、そんな人物と何か話さなかったの」
う~ん、この二、三日の間にそんな目立つ人とは会っていないぞ。でも、それってそのままレーナさんの特徴でもあるなあ。レーナさんをチラッて見ると柔らかな表情をして俺を見ていた。うおっ、やっぱ美しいぜ。って思っていると、リサッチさんが
「うちの上司は、おとぎ話やファンタジー作品に登場するエルフっぽくて、耳の先が尖がってるんだけど、覚えてないの」
ん~、綺麗なエルフってワードで何か思い出せそうな気がするんだけど、何故か思い出せそうで思い出せない。するとレーナさんが
「もしかしたらですが、眠っている間に接触したのではないでしょうか。私達が小学校に滞在している間は上司の存在を確認しておりません」
リサッチさんが目を見開いて
「あ~、そういうことね」
胸元で手を叩くと納得した様子で
「思い出せないって事は、眠っている間に接触してたのかもね」
俺が首を傾げていると
「真っ暗闇の部屋でロウソクに火を灯すと、ロウソクの光で多少は部屋が明るくなるでしょ」
そりゃそうだ。って思いながら頷くと
「カーテンを開けて太陽の光を取り込むと、部屋全体が明るくなってロウソクに火が灯ってても、ロウソクの光って太陽の光でかき消されちゃって、見えなくなってるわよね」
ふむ。確かにカーテンを開ければロウソクに火が灯っているって事は分かるけど、全然眩しくはないしロウソクの光は確認出来ないな。
「それと同じ感じで、存在感が強過ぎる物が近くにあると、存在感の弱いほうは消えて無くなっちゃうのよ。だから、接触する時は上手く強さを調整して弱い存在が消えて無くならないようにするんだけど、弱い存在ってどうしても強い存在からの影響を受けやすいから、何かしらの変化が起きちゃうのよね。今回は記憶が薄れちゃってるか、忘れちゃってるみたいね」
ちょっと、どういう事なのか分からないので
「はっ、は~。そうなんですかあ」
って、返事をするとダーシャお嬢様の後ろに控えていたレーナさんが
「どこかの企業の社長や芸能人や有名スポーツ選手とか、そんな方々と一緒にいると、元気を貰えた気がするとか、物凄く勇気を貰えたとかって聞いた事はございませんか。影響力の大きい方々と接触した事で良い変化が働いた結果です」
あ~、元気いっぱいでテンションが異様に高いヤツだと一緒にいて疲れるけど、やる気に満ち溢れているヤツと一緒にいたりすると、俺も何か新しい事にトライしてみようって思ったりもするけど、そういう事なのかなって思っていると、リサッチさんが
「共振とか共鳴って聞いた事ないかな。色んな物には振動しやすい特定の振動数ってのがあってさ、外部からの振動が徐々にその特定の振動数に近づいて来ると、急激に揺れが大きくなるって現象で、そのままずっと特定の振動数で揺れてると、色んな物が外部からの振動に耐えきれなくなって崩壊しちゃうのよ。そんで、今回はあなたの存在その物が崩壊して消滅しちゃいそうだから、そうなる前に上司はあなたとの会話を止めたと思うんだけど、結果的にあなたの存在その物に影響は及ばなかったけど、記憶が薄れちゃったのか消滅しちゃったみたいね」
う~ん、今の説明でも良く分からなかったし、振動って言われて真っ先に思い出せたのは、山口さんが手を叩いて学校に漂っていたモノを掃除していた事くらいだったぞ。するとリサッチさんはニコニコしながら
「あなたがうちの上司と接触してたのは短時間だったのかもしれないけど、上司と一緒に揺れてたから、その影響で振動数が上司に近くなってるのよ、振動数が変わると雰囲気も変化するんだけど、要はハチョウが変化するから雰囲気も変化するのよのね」
ちょっと分からなかったので首を傾げて
「すいません、ハチョウって何ですか」
リサッチさんは一瞬目を見開いて
「あ~、ハチョウって言うのは波紋って言えば分かりやすいのかしら、水面に水滴を落とすと波の輪が広がるでしょ、水面に振動を与えると激しく水面が揺れて波が発生するじゃない、それと同じ感じで、目で見えてないだけで世の中の全ての物には何かしらの波が発生してるのね、短い波だったり長い波だったり、波にも色々種類があるんだけど、波長って言うのはその波の事よ」
いきなりハチョウって言われたから戸惑ったけど、通信に使う電波も波の一つだし、確か電子レンジで温める時は電磁波って波を使ってるんだったよな。
「うちの上司とレーナって親族みたいなもんなんだけど、個体数が少ないから珍しい部類なのよね、だからあなたの雰囲気が上司やレーナと近かったから気づいたんだけど、それにあなた、レーナを見ると安心するかって聞いたら否定しなかったでしょ」
安心するどころかドキドキしちゃってますけど。って思っているとリサッチさんが
「昔っから言うじゃない『この人とは波長が合う』ってよく聞くでしょ」
えっ、俺がレーナさんを見てドキドキしてるのって、恋が芽生えたとかじゃなくって、リサッチさんの上司の振動ってのが影響して、波長が変わって波長が合っているからドキドキしていたってことなの。てっきり、一目惚れとかって密かに思っていたのにちょっと残念だ。でも、このままずっとレーナさんとは波長が合っていたいな。って思っていると、リサッチさんが柔らかった表情から一変して真剣な表情で
「それでさっきの、何で私達が苦しんでいる人達を助けないのかって質問だけど、あなたは忘れてるかも知れないけど、多分うちの上司はあなたと色んな話しをする中で『答えを聞いて知ってしまった事で、理解出来たと誤解するから自分自身で気づかないと理解は出来ない』って感じの事を言ったと思うのよね」
う~ん、リサッチさんの上司って人との会話は全く覚えていないけど、それってよく大人達が使う、知りたい事を教えて欲しいって聞いても『まだ若いから』とか『これから沢山経験していくうちに分かるんだ』とか上手いこと言って、結局答えを何も教えてくれないヤツなんじゃないのかって、さっきまでは思っていたんだよなあ。
だけど、どうもダーシャお嬢様とリサッチさんの話しを聞いていると、ただ単に俺の知識や教養が乏しいとか、人生経験が浅いとか、精神的に未熟だから物事の本質をつかめなくって核心をつけていなかったから、大人達の言ってる事が理解できていなかっただけなんじゃないかって思い始めてるんだよなあ。って考えているとリサッチさんが
「そもそも、何であなたは、私達が苦しんでいる人達を助けないといけないって思ったのかしら」




