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第85話 バーベキュー

 西條さんの家はお金持ちなのかも知れない。庭はキャッチボールが出来るくらい広かったし、バーベキューセットも結構しっかしとした物が揃っていた。


 それなりの大きさの折り畳みのテーブルや、大量に肉や野菜を焼くことが出来るグリル。そして、鉄板や鍋など多種多様な物が揃っていた。聞くところによると、なんでも西條さんのお父さんがアウトドアが好きな人らしく、家族みんなで野外でも色んな料理を楽しめるようにと、張り切って購入してたんだそうだ。


 昼ご飯を済ませた俺達は、調理エリアの人からお肉や野菜を少し分けてもらい、西條さんの家にやってきた。沙織達がキッチンで野菜やお肉の下ごしらえをして、俺達は庭でテーブルをセットしたりグリルに炭を入れたりしていた。


 千春が椅子を用意しながら


「こうやってみんなと一緒にやるのって、何だかワクワクして楽しいね」


 と言い、ニヤニヤしている。俺は折りたたまれているテーブルを広げながら


「だなあ、普段滅多にやらない事だから新鮮な感じで楽しいな」


 直樹は炭を箱から取り出しながら頷いていた。すると、千春が


「でも、学校には家族に会えなくて寂しい思いをしている生徒達がいるし、襲撃で被害に合った人達は、まだ怖い思いをしてたり、悲しんでたりもしてるのに、僕たちだけが楽しいことをしちゃったら、悪いんじゃないのかなって思うし、こんな事してて良いのかなって、一瞬考えちゃうんだよね。そんで、こんな事してないで、他にもっとやるべき事があるんじゃないのかって、考えちゃったりもしちゃうんだよね」


 表情を曇らせながら椅子を並べている千春に


「そんな感じの事を俺も考えたけど、俺は一緒に楽しめる時は全力で楽しんどかないと、後で後悔するんじゃないかって思ったぞ。それこそ昨日の襲撃の話しじゃないけど、自分が命を落とす場合もあるし、俺達の周りの誰かが命を落とす事になってたのかも知れないだろ、当たり前のように一緒に楽しむことが出来ていた日々が、ある日突然出来なくなるかも知れないって考えると、他人の事で塞ぎ込んでないで、一緒にいる仲間達と楽しい時間をたっぷり堪能しないとモッタイナイって思うぞ」


 千春は俯いて黙っている


「あとな、俺達が知らないだけで、学校以外の場所ではもっと悲惨な出来事が起きてるのかも知れないんだし、今でも俺達の知らない場所で、知らない人達が悲しんだり苦しんだりしてる。でも今までは、たまたまその人達のことを考えてなかったから、気にしてなかっただけで、普通に俺達は生活してたじゃんか。だから、俺からしたら、変に塞ぎ込んで一緒にいる仲間達に気を使わせて、心配をさせることの方が悪いんじゃないのかって思うぞ。せっかく楽しもうとしているのに、塞ぎ込んでるヤツのせいで場の空気が悪くなっちゃうんだからな」


 千春は俺を見るとまた俯いてしまった。すると、直樹が千春に


「かっちゃんが言いたい事って、要は気持ちを切り替えろって事なんじゃないのか。困っている人のために自分の事は後回しにして、相手の事を優先する自己犠牲の精神は尊いって感じるが、何でもかんでも自分の事を犠牲にしてまで生活してたら、いつか自分が壊れるぞ。だからと言ってツライ思いをしている人達の事を放っといたり、知らんぷりしろってことじゃなくって、楽しむときはいったん他の人達の事は忘れて、自分のために仲間達と思いっ切り楽しむべきなんじゃないのか。そして、心と体を回復させて気持ちも一新させて、それからまた困ってる人達の手伝いをすれば良いだろ」


 千春が地面を見つめながら


「そっかあ、気持ちの切り替えって難しいかもだけど。そうだよね、せっかくの楽しい時間が僕のせいで台無しになっちゃうかもって考えると、それはそれで僕自身の事が、嫌いになっちゃいそうだもんね。頑張るって表現が正しいのか分からないけど、頑張って気持ちを切り替えてみるよ」


 千春はゆっくりと顔をあげると、何かを理解したような、あるいは何かが吹っ切れたような表情をしていた。


 それから、俺達は特に会話もする事なく黙々と作業を行い、あっという間にバーベキュー会場を作りを終えた。





 直樹と千春と俺達三人は、椅子に座って食材が来るのを待ちながら、ゆっくりとくつろいでいた。三人ともグリルの中の真っ赤に燃えている炭や、すでに白くなっている炭を見つめていた。


 なんで、火ってずっと眺めていられるんだろうか。ってな事を考えながら、メラメラ燃えている、形の定まらない火の輪郭をずっと見つめていると、直樹が


「久津がしてきた事って何だったんだ」


「あ~、たぶん念力で俺の心臓に圧力を掛けて来たんだと思うぞ。スッゲー胸が苦しくなって、一瞬息が止まったからな。そんで、五味はどんな能力を使うのかってのは、分からないんだよな」


「何か仕掛けてこようとしてたんだが、一緒にいた連中に呼ばれて結局何もしないで去って行ったからな」


 千春が炭に風魔法で風を送りながら


「ん~、ごみっちの能力が不明だけど、やっぱ早いうちに僕らのエンチャントを強化しとかないとマズイかもだよねえ」


 俺は足元の箱から炭を取り出し


「だよなあ、久津が所属してるって集団は何か怪しい感じだったしなあ」


 すると、千春が渋い顔をして


「あ~、世界を変えるってヤツね。ちょっと考え方が極端過ぎてついて行けないよねえ」


 千春は久津との昇降口での会話を思い出しているようで、渋い顔をしていた。すると直樹が


「俺達に干渉してこなければ良いが、自己顕示欲の強い二人の内の一人が、タイミング悪く沙織と接触して、麗奈も一緒に行動してるって事を知ってしまったからな」


 千春が困った表情をして


「あ~、ごみっちが資材置き場で沙織ちゃんに言い寄ってたってヤツね。あの二人って、沙織ちゃんと麗奈ちゃんの事が大好きだもんねえ。いっつも二人を意識して何かしらやらかしてたもんね」


 学校では沙織と麗奈は、常に男子生徒から注目される存在だった。二人はモテモテだったので、常に複数の男子生徒達から意識されていて、色んなアプローチをされていた。ただ、五味と久津のアプローチの仕方は例えるなら小学校の低学年がやるような、好きな子に対してやっちゃういたずらみたいなことを、スケールアップした感じだったので、沙織達は迷惑していたし、周りの生徒達も非常に迷惑していた。


 直樹も五味と久津の数々の愚行を思い出しているのか、渋い顔をしていた。俺は炭を箱から取り出しグリルに投げ入れながら


「俺達がこれから先、変な集団や五味と久津達と関わり合いを持つ事は無いと思うけど、念のため明日のランチが終わってからでも、早々にエンチャントの強化をしといた方が良いかもだなあ。刺繍道具って学校にしかないんだっけ」


 炭に風を送りながら、千春が


「たぶん裁縫道具は、学校で借りる感じになるのかなあ」


 直樹が腕を組んで


「エンチャントってのは刺繍じゃないと駄目なのか。他に方法はないのか」


 風の強さを調整しながら、千春が


「あ~、そうだよねえ。ほかのやり方でもエンチャントを出来るように考えとかないとだよねえ」


 難しい顔をしてる千春に


「刺繍以外で何か良い方法がないのか考えとかないとだけど、とりあえず明日は刺繍でエンチャントをしておこう」


「おっけ~。じゃあ、うっちーも手伝ってよね」


 すると直樹がウっと顎を引いた。それを見て千春が


「なおっきーは細かい作業が苦手なのは知ってるから、僕がやっとくんで心配しなくて良いよ」


 直樹がホッとした表情をして


「すまん。助かる」


 頭をポリポリかいていた。


 すると、麗奈が綺麗に切られた野菜を持って


「お待たせしました~」


 後ろから西條さんが、野菜や肉が刺さった串を持って


「いや~、意外と時間が掛かったよ~」


 そして、沙織が


「肉って細かく切るのが面倒くさいから大きくなっちゃったけど、問題無いわよね」


 多少食べやすく切られた肉もあったが、ほとんどが分厚いままの肉をトレーに乗せてやって来た。それを見た千春が、頬を引きつらせながら


「お肉に火が通るまで時間が掛かりそうだね」


 沙織は眉を吊り上げて


「はーっ、何言ってるの火を通し過ぎる肉は硬くなるんだから、レアで食べれば良いじゃない」


「え~、しっかり火が通ってないと、お腹を壊しそうで怖いじゃん」


「そんなことを心配してるんなら、食べなきゃいいでしょ」


 沙織はジャンジャン肉を網の上に乗せ始めた。


 西條さんも肉や野菜が刺さった串を網の上にドンドン乗せながら


「お腹が空いて来たわね、早く焼けないかしら」


 それを見ていた直樹が、麺を袋から取り出し


「じゃあ、俺は焼きそばを作り始めるかな」


 すると、麗奈がニコニコしながら野菜を網に乗せて


「お野菜を焼くスペースも考えて、お肉もおソバも焼いて下さいね」


 こうして、俺達だけで行う初めてのバーベキューパーティーが始まった。


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