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第84話 再び病院からの避難者

 そろそろお昼を食べる時間帯になるので、調理エリアや飲食兼休憩エリアはそれなりに混雑していた。俺はまだそんなにお腹が空いていないので、焼きそばだけを注文して飲食兼休憩エリアに向かった。


 直樹達の姿が見当たらなかったので、俺は比較的人が少ない場所を選び一人で焼きそばをいただく事にした。


「いや~、酒盛りしてた時に学校が襲撃されてなんて、全く知りませんでしたもんねえ」


「だなあ、それと俺達が飲んでた店が襲われなくて良かったよな」


「ですね、うちら二人だけじゃあ、襲われたら一溜りも無いッスもんね」


 俺が座っている隣のテーブル席に、俺に背中を向けて細身のおじさんが座っていて、こっちを向いて座っているスキンヘッドのおじさんが、焼き魚を食べながら会話をしていた。昨日、俺と直樹の隣で炊き出しを食べていたおじさん達だった。


 そういえば昨日、口元に悪そうな笑みを浮かべて、お酒を飲みたいって言ってたなあ。おじさん達は学校の外にいたから無事だったのか、素性の知らないおじさん達だけど、昨日の惨劇を見たからなのか、ただ顔を知っているだけのおじさんなのに何故かホッとした。


 スキンヘッドのおじさんがしかめっ面をして


「結構な人数が殺られたって聞きましたよ」


 細身のおじさんは箸を止めることなく焼肉を食べながら


「ああ、俺もさっき炊き出しを作ってるヤツに軽く話しを聞いが、何の躊躇もなく襲って来たらしいな」


「ええ、今は綺麗に片付いてますが相当酷かったらしいッスからね」


 すると、細身のおじさんがお茶を飲みながら


「俺がもっと若かったら立ち向かったかもしれないが、流石にこの年になると気合いでどうにかなる問題じゃね~からなあ」


「ですね~、相手が殺る気で来るなら、こっちもそれなりに覚悟を決めて殺っちまいますけど、束になって掛かって来られたらどうしょもね~ッスもんね」


「だなあ、今までなら金を使って何でも出来たが、今となっちゃ札束をちらつかせたところで、誰も俺を守ろうって思わねえだろうしな」


「ですね~、こうなるといくら金を持ってても意味ないッスよね。今は金より食料の方が断然価値がありますからね」


「だなあ、これからは財力よりも腕力の時代になっちまったんかも知れね~な。食い物がないなら、ある所から奪っちまえばい~んだからよお」


「ですね~、こうなると、ますます家の事が心配になって来るッスよね」


「だなあ、はえ~とこ家に帰らね~とだよな」


 おじさん達の言う通り、いくらお金があっても食料が無ければ売買は出来ないもんな。それに、食料が無かったら昨日みたいに奪い取れば良いって、考えるヤツ等が相手の生死などお構いなしに襲撃しに来るんだよなあ。お金でボディーガードの依頼をしたとしても、食料が売っていなければ空腹をお金で満たす事が出来ないんだから、いくらお金を積つんでも、護衛依頼は受けてくれないんだろうな。


 そう考えると、細身のおじさんのいう通り、財力よりも腕力って考え方は間違っていないように思えるなあ。


 スキンヘッドのおじさんが魚の身を箸でほぐしながら


「ですね~、それに食い物が無くなっちまうって、心配もありますね」


 細身のおじさんが焼肉を食べながら


「あ~、そ~なんだよなあ。このまま電気が普及しなくて車も使えないってなると、俺の爺さんや婆さんの時代に逆戻りする感じになっちまうんだよなあ」


「えっ、そんな昔に逆戻りしちゃうんッスか」


「あったりめ~だろ。今迄みたいな流通形態は取れねえし、機械が動かねえんなら大量生産もできね~だろうが。そうなると畑を耕すのは人力だし、田植えや稲刈りだって人力になっちまうだろ。それに、家畜だって今迄みたいに機械で管理ができね~んだから、簡単には市場になんて出回らなくなるぞ」


 俺は学校で炊き出しを頂いていたから深く考えていなかったけど、確かに言われてみると、かなり深刻な問題なのかも知れないって俺でも分かったぞ。


 すると、細身のおじさんがお茶を飲みながら


「でだ、俺が密かに考えてる計画なんだがよ、家族と合流したら山や平野部じゃなくて、海側で生活しようって考えてるんだ」


 スキンヘッドのおじさんが焼き魚を食べながら


「うみっぺりッスか。そりゃまた何でナンスか」


「この年で畑仕事だの田植えだのやってらんね~だろ。だから、海岸で魚を釣って生活しようってんだよ」


 スキンヘッドのおじさんが目を見開いて


「あったま良いッスね~。俺も家族と合流したら海岸沿いで生活するッスよ」


 細身のおじさんは笑っているのか、肩を上下に揺らしながら


「おうよ、良い考えだろ。じゃあ、とりあえずまだ昨日の店に酒が残ってるから、先ずはどんな感じのルートで家に帰るか飲みながら考えるか」


「ですね~、途中の店で地図とか拝借して、じっくり飲みながら考えましょう」


 と言って、おじさん達は席を離れた。


 おじさん達の言葉使いには困惑したけど、話しを聞けて良かったかもだな。ちょっとこれからの生活について、改めてしっかりと考えとかないとダメかもって、思わせてもらえたからな。盗み聞きだったけど「貴重な話しを聞かせて頂き、ありがとうございました」って感じだな。


 でもやっぱり、食糧問題は深刻かも知れないなあ。だからと言って、海の近くで生活するってのは困るんだよなあ。どうしても食べ物が無いって状況なら俺でも魚が食べられるようになるのかなあ。





 俺は炊き出しの焼きそばが食べ終わったので、今は一人で飲食兼休憩エリアでくつろいでいる。


 さて、今日の午後は何をしようかな。千春と一緒に生徒の授業の手伝いでもするかな、あるいは直樹と調理エリアの人達の手伝いでもするかなあ。でも、何となく手伝いって気分ではないんだよなあ。


 学校の手伝いはまた今度にして、今日はゆっくり山口さんとレーナさんが話してくれたモノについて考察とかするかなあ。でも、何か物事をじっくり考えるって気分でもないんだよなあ。


 ん~、午後から何しようかなあ。ってな事を、ゆっくりと考えていられる今の状態って、実は贅沢な時間なのかも知れないんだよな。昨日の襲撃で知り合いや身近な人が息を引き取っていたのなら、胸が張り裂けるんじゃないかってくらいの悲しみに苛まれているんだろうし、四階の教室でモノに纏わりつかれていた人達なんて、ずっと辛い出来事を繰り返し思い出しちゃっているんだから、今の俺みたいに「何か気分が乗らなくて、特にやりたい事が思いつかないんだけど今日は何しようかな」だなんて、とてもじゃないけどそんな気楽な心理状態じゃないんだよなあ。


 そう考えると、今の俺の状況ってある意味、幸せなのかも知れないよな。


 悩みや不安があれば、その事で常にイヤな気分になっているんだろうし、最優先で片付けないといけない用事が無いから、今の俺は時間を持て余している。だから「何をしよ~かな」って、考える事に時間を費やせているわけなんだが。


 う~ん、ツライ思いをしている人や必死で何かしている人達には申し訳ないけど、今の俺って物凄く贅沢で幸せな時を過ごしているのかも知れないなあ。てな事を考えていると、沙織が炊き出しをテーブルに置き、俺の正面に腰掛けて


「探すのが大変なんだから、行先はチャンと伝えておきなさいよね」


「あ~、すまんかった」


 西條さんが沙織の隣に座ると


「念話が使えないんだから、使える人となるべく一緒に行動しておかないと、何かあった時に困るからね」


「うい、すいませんでした」


 直樹が俺の隣に座り


「昨日の事があるからな、なるべく単独行動は避けた方が良いぞ」


「だよな、気をつけるよ」


 えっと、一応みんなは俺の事を心配してくれていたのかな。もしそうなら、本当にゴメンねって感じなんだが、ただ探すのが面倒くさいから言って来てるのかな。どっちなんだって思っていると、沙織がシチューをかき混ぜながら


「でっ、明日のランチなんだけどお嬢様の家ってどこなのよ、学校から近いの遠いいの」


「あっ、場所って何処なのか聞いてなかった」


 完全に場所の確認をする事を忘れていた。西條さんがお茶を一口飲んで


「えっ、場所って聞いてなかったの」


 と言って、ビックリしていた。


 校長室で色々話しているうちに何だか居心地が悪くなったんで、急いで退室しちゃったんだよなあ。よし、適当に誤魔化そうと思い、西條さんに


「ほら、俺ってこの辺りって地元じゃないじゃないですか。だから場所を聞いたとしても分かりませんからね」


 西條さんの隣で、沙織が目を細めて


「何それ、そんな言い訳が通用するとでも思ったの、克也が知らなくたって西條さんが知ってるかもしれないでしょ」


 ダメだった全然誤魔化せなかった。


「う~、すまん。場所についての確認は完全に忘れてた」


 すると西條さんが


「ちょっと麗奈ちゃんにお願いしてみるわ」


 と言った、西條さんに沙織が


「ですね、お願いします」


「おっけ~」


 西條さんが目を閉じた。ん、念話を使ってやり取りでもするのかな。って思っていると沙織が


「お昼を食べたら今日はみんなで西條さんの家に行くからね」


「えっ、これからみんなで行くのか」


 直樹を見ると肉を頬張りながら頷いていた。


「そう、みんなで西條さん家でバーベキューをして夜はお泊りよ」


「みんなで泊まるのか」


 直樹を見るとウンウン頷きながら肉をモリモリ食べている。俺以外にはすでに周知されていたイベントのようだった。


「そんな話し、いつ決まったんだ」


 すると西條さんが


「昨日、寝る前に沙織ちゃんと麗奈ちゃんと一緒に何かやろうよって話しになってね。それでやるんだったら私達だけじゃなくて、川内君達にも声を掛けようって話しになったの」


 あ~、昨日の西條さんが俺達と別れると寂しくなるって話してたからなのかな。そんで、俺だけ午前中はみんなと別行動していたから知らなかったのかな。


「ぜんぜんオッケーですよ。しかも鍋じゃなくてバーベキューってのが良いですね」


 すると、沙織が人参を頬張って


「克也って鍋がダメだったでしょ」


「お~、覚えててくれたのか。いくら仲が良くても直箸で鍋をつつくのが、ダメなんだよなあ」


 鍋って食べ始めの最初のうちは、取り分け用の箸を使ってるんだけど、そのうちみんな直箸になっちゃうんだよなあって思っていると、沙織が片方の眉毛をピクッとさせて


「は~、何言ってんの。魚介類を入れない鍋なんて、全然美味しくないでしょ~が」


 直樹と西條さんが苦笑いしていた。二人とも鍋には魚介類が必須だったのか。てっきり、軽い潔癖症の俺のことを考慮してくれたから、鍋からバーベキューになったのかと思ってたんだけど。なるほど、魚介類が使えないって事で鍋が却下されていたのか。魚介類が苦手でごめんなさい。


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