第82話 呼び出すモノ
千春がカエルの頭を指先で撫でると、カエルは気持ち良さそうに目をつむっていた。そんなカエルを見てレーナさんが
「ええ、お話しした通り、漂っていたモノが加藤さんから感情を引き出すために、加藤さんの気持ちに反応して起こった現象ですね」
すると、レーナさんは千春の手の平で大人しくしているカエルを見て、微笑んでいた。
「ですので、コレは加藤さんが呼び出したモノなのではなく、加藤さんが創り出したモノですよ」
千春がカエルを頭に乗せると
「そっかあ、せっかく召喚士になれたと思ったんだけどなあ。でも頑張ればそのうち何かを呼び出せるのかなあ」
レーナさんは真剣な表情をすると
「呼び出すことに必要となる対価の事を考えますと、とてもリスクが高い行為となるので、遊び感覚で行わない方が良いですよ」
すると、千春が少し頬を引きつらせて
「召喚魔法ってそんなに危険な事なんですか」
「加藤さんがおっしゃってる召喚魔法とは、おとぎ話や魔法が存在してる物語のなかで、精霊や悪魔を呼び出し身の周りの事を手伝ってもらったり、呼び出したモノと一緒に協力して戦ったりする魔法の事ですよね」
「そうです。もし、呼び出せたら格好良いなあって思ったんですけど、何か危ないって話しなので止めておきます」
千春が残念そうな表情で答えると、レーナさんは
「ええ、そうですね。仮に呼び出す事が出来て、こちらの要求に相手が応えた場合は、要求に見合った対価を払う事になります。なので、安易に呼び出そうとは考えない方がよろしいかと思います。ですが、簡単に呼び出す事は出来ませんし仮に呼び出せたとしても、こちらの要求に応じる事など滅多に御座いませんので、大丈夫かと思いますが、絶対とは言い切れませんので、やはり呼び出そうとは考えない方が良いでしょう」
と言って、白石先生と麗奈がいる方を見て黙ってしまった。すると、千春が俺に目配せして来た。う~ん、その眼差しが意味する事は、召喚が成功したと思ったら、実は自分の感情によって創り出されたカエルだったから、少し落ち込んでいるとか。あるいは、召喚士になりたいって思っていたけど、レーナさんに危険な行為だから止めとけって釘を刺されて残念がっているとか。
多分だけど、今の千春はそんな感じの心境なんだろうな。でも、カエルの正体が分かったんだし、召喚魔法は危険だって分かったんだから、良しとしようぜって思いながら
「なあ、千春。明日なレーナさんとこのお嬢様からランチに誘われたから、みんなで昼をご馳走してもらいに行くぞ」
すると、千春は目を見開いて少し興奮気味に
「えっ、沙織ちゃん達が話てたお嬢様と食事が出来るの」
「ああ、そうだ。もちろん行くよな」
絶対に断らないと分かっているけど、あえて聞いてみると千春はニコニコしながら
「いくいく、絶対に行くよ」
と言って、頭に乗せていたカエルを持ってはしゃいでいた。
よしよし、気持ちの切り替え完了って感じだな。って思っていると、俺の目の前にフワフワとちょっと気の強そうな妖精が飛んで来て
「お姉さまから伝言です。私も明日のランチは行きますよ。との事です」
驚いていると妖精はもう用事は済んだとばかりに、プイッと方向転換するとフワフワと麗奈達がいる方へと飛び始めた。すると、麗奈がこっちを見ていて「いぇ~い」って感じでブイサインをしていた。
アレか、沙織か西條さんから念話で既に明日の事を聞いていたんだろうな、やっぱ念話って便利だなあって感心していると、レーナさんが少し難しい顔をして、俺達を見ると
「先ほど加藤さんがおっしゃっていた召喚魔法について、少しお話ししようと思います」
と言って来た。千春が目を見開き俺を見て嬉しそうにレーナさんを見た。俺は急にどうしたんだって思ったので、尋ねてみると
「四階でもお話ししたように、少しでも世の中のことを川内さん達にも知っておいて頂きたいと思ったからです」
レーナさんは四階でモノの存在について話してくれた時のように、真剣な表情をしていた。俺はちょっと気になったので
「俺達が知らない事を教えてもらえるのは本当に嬉しいのですが、色々と俺達に話しちゃって、後でダーシャお嬢様に叱られたりしませんか。そこら辺については大丈夫なのでしょうか」
すると、レーナさんが真剣な表情を少し柔らかくすると
「川内さんが私達にしてくださった行為に対して報いるのであれば、私のスリーサイズや体重の数値を包み隠さずお伝えしたとしても、まだ足りないくらいの事なのです。つまり、それほどの事をして頂いているのです。それに、お嬢様でしたら「時間が許す限り、川内さん達がまだ知らない世の中の事を知ってもらいなさい」とおっしゃると思いますので、何も心配する事は御座いませんよ」
ふむ。色々と話した事でレーナさんが後で責められたりはしないって事なので、安心はしたけど、スリーサイズかあ。それも気になるけど、好きな食べ物とかも気になるなあ。って思っているとレーナさんが
「先ほども話した通り、加藤さんのカエルはモノが反応し具現化した現象です。本人の強い感情から変化したモノと、付近を漂っていたモノが集まり一定量を超え、自身が強くイメージし想像した事柄にモノが反応して、引き起こされた結果に過ぎないのですが、結果として具現化されたモノを、本人が呼び出したモノと勘違いしてしまい、本人にとって都合の良い現象であれば善として、都合の悪い現象であれば悪として捉えますので、具現化したモノを精霊として崇めたり、悪霊や悪魔として恐れたりもします」
確かに千春のカエルや麗奈の妖精は、俺みたいにファンタジー作品に馴染みのある者からしたら、何の疑いもなく召喚魔法って思っちゃうよなあ。呼び出したいと思ってイメージしていたモノが出現して来るんだから、自分の感情から生じたモノが具現化したって事を教えてもらっていなかったら、召喚が成功したぜって思っちゃうよなあ。って思っていると、千春が
「でも、幽霊とか怪奇現象とか怖い話しは沢山聞くけど、精霊とかの良い感じの話しって、童話とか創り話ではよくありますが、普通にあまり耳にしませんよ」
「人の感情で幸福感ですとか安心感。もしくは心が温まる心地良い感覚などは、一瞬で終わってしまったり、あまり長続きはしないものです。なので、イメージを具現化出来るほどのモノが、一定量を超える事が少ないのです。ですが、恐怖だったり恨みや憎しみといったような感情は、ポジティブな感情よりも長く思い続ける事が出来て、忘れたくても簡単には忘れる事が出来なかったりします」
千春がウンウン頷いている。俺も思い当たる節があるので良く分かる話しだった。レーナさんが少し浮かない表情をすると
「そして、本人が望んでない状況で死を迎えた人々の多くは、自身のやり残した事への諦めきれない未練でしたり、今までの人生に対しての不満等のネガティブな感情を抱いて、息を引き取る方が殆どです。死ぬ間際の強い感情はその場に留まり続けたり、人から生じる感情を求めて漂い始めます。中には自然に消滅するモノもございますが、自然消滅しなかったモノが、世の人々のネガティブな感情に反応して色んな現象を引き起こしているのです」
千春がレーナさんの話を聞くと、難しい顔をして
「確かに感謝の気持ちや嬉しい気持ちって、直ぐに忘れちゃうけど、イヤな事とかってけっこう覚えてたりするし、場合によっては寝る前に思い出しちゃったりして、僕なんてなかなか、寝付けなかったりする時があったりしますよ」
ふむ。布団に入ったらすぐに眠っちゃうから、俺には寝付けないって感覚が分からないんだよなあ。
「そんで、そんな時に漂ってるモノと僕から発生したモノが反応して、部屋が段々イヤな雰囲気になって、急に物音がしたり人の気配がしたりすると、急激に不安になって怖くなったりしますもんね。そしたらその感情にモノが反応して来るから、僕が気持ちを切り替えないでいると、ドンドン怖い感情が僕から発生して、それがまたモノに変化して部屋中がモノだらけになると、更に色んな現象を引き起こし始めて」
すると千春がハッとした表情をして
「何となく、世の中から怪奇現象が無くならない理由が、ちょっぴり分かった気がしました」
と言うと、手に持っていたカエルに頬ずりし始めた。浮かない顔をしていた千春の表情がみるみる明るくなると
「このカエルが僕の感情から生まれたモノって事は分かったんですけど、召喚魔法と何が違うんでしょうか」
レーナさんは千春のカエルを見ながら
「加藤さんがおっしゃている召喚魔法は、遠く離れた場所で既に存在しているモノを、こちらの場所へ呼び出す行為となります」
ちょっとよく分からないので千春と一緒に首を傾げると、レーナさんが
「突然ですが、ご自身の興味のあるテレビ番組が何日の何時から放送されるのかは番組表があると便利ですよね。そして、見たい番組の放送日と時間が分かればその番組を鑑賞するために、放送開始時間までに色々とやるべき事を済ませておきますよね」
レーナさんの言う通り、楽しそうな番組があれば放送時間に合わせて宿題を先に片付けたり、食事や入浴を済ませておく場合もあるな。
「ですが、番組表を確認出来なかった場合は適当にチャンネルを変えて面白そうな番組を探しますよね。そして、楽しそうな番組がなければ専門チャンネルで、他に興味のある番組を探したりもしますよね。もしくは、ご自身にとって都合の良い番組が、時間帯によっては全く放送されてない場合もございますよね」
千春がウンウン頷いている。俺も普段からそんな感じなので同意して頷く。
「呼び出すモノもテレビ番組のように数え切れないくらい存在しております、そして、日時によって呼び出せるモノが違ってきます。呼び出すモノの特性や呼び出せる時間帯を把握してないと、こちら側にとって都合の悪いモノばかり呼んでしまう事にもなりかねません。そして、ここで言う日時とは、惑星の主に太陽や地球の公転の周期から導き出す日時であって、国際協定により人工的に維持されている、セシウム原子時計が刻む、時刻から導き出される日時とは違いますので注意してください」
すると、千春がレーナさんに
「話しを聞いてると、何かテレビのリモコンを操作するみたいに簡単に呼び出せそうな感じがするんですけど」
「分かりやすく詳細を省き、例えを用いて説明しておりますので、簡単そうに聞こえますが、実際はとても大変ですよ」
と言い、レーナさんは俺と千春を見て
「ちなみに、私達は遠い場所に存在しているモノを呼び出す行為を喚起魔法とし、遠い場所に存在しているモノを、自身の肉体に取り込む行為の事を召喚魔法と言っております」




