表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

80/97

第80話 心に傷を受けた人達

 俺はレーナさんと一緒に、各教室を覗きながら西條さんを探していた。すると、廊下の壁にもたれて、窓の外を眺めている白いパーカー姿の女性がいた。


 西條さんだった。やっと見つけたぜって思いながら


「休憩ですか」


 すると、西條さんは少し浮かない表情で


「う~ん、そんな感じだねえ」


 俺はレーナさんを紹介するが、どうも元気がないような感じだったので


「何か問題発生ですか」


 西條さんは言いづらそうな感じで


「う~ん、ちょっと困ってるのよねえ」


 少し考えるような素振りをして


「笑わないでよ、昨日までは平気だったのに、急に教室でお化けが見えるようになっちゃったのよ」


 と言って、俯いてしまった。


 ん~、つまり、西條さんはお化けが怖くて廊下で避難していたのかな。


「ちなみに、どの教室ですか」


 西條さんは目の前の教室を指さした。とりあえず、俺は西條さんがお化けが見えるって言った教室を覗いて見る事にした。


 他の教室と違って黒いカーテンで外からの光を遮っているからなのか、教室内は薄暗かった。簡易ベッドで横になっている人もいれば、膝を抱えて座っている人もいた。眠っている感じの人もいれば、何かブツブツ言っていたり唸っている人もいる。


 そして、西條さんの言う通り、何かが見えちゃっていた。


 ベッドで横になっている人の足元に、薄っすらと人影のようなモノが立っていた。膝を抱えて座っている人を、後ろから抱き締めている人影も見える。眠っている人の周りにも複数の人影が立っていた。何気なく天井を見ると、沢山の人影が横になって床を見ながら浮いていた。


 人影が何なのかしっかり見ようとすると、何故かぼんやりとした人影にしか見えなくて、男性なのか女性なのかの区別すら出来ない。でも、視界の隅で捉えるようにしてみると、男女の区別が分かるし、着ている服装も分かるくらい輪郭がハッキリしてくる。何度か試して見てみるが、何度やってもぼんやりとした人影を、しっかり意識して見ようとすると、ぼんやりとしか見えなかった。


 まあ、そんな事はどうでも良いとして、俺は西條さんに


「見えるのって西條さんだけなんですか、他の人達は見えてないんですか」


「見えてる看護師さん達は、気にしなければ問題無いって言ってたわ、もちろん見えない看護師さん達もいたけど、この教室はちょっとイヤな雰囲気ねって言うだけで、全然平気な感じだったのよねえ」


 へ~、看護師さんってこういうのって慣れてるのかなあ。ちょっと気になった事を聞いてみる。


「なんでこの教室はカーテンを閉めて、暗くしてるんですか」


 西條さんは少し表情を曇らせると


「病院で心に深い傷を受けた人達がこの教室を利用してるんだけど、当初から部屋が明るいよりは暗いほうが落ち着くって要望があって、ずっとこの教室は暗いままなのよ。でも、昨日学校が襲撃されるまでは、何人かの人は会話が出来てたんだけど、今日はみんな急に塞ぎ込んじゃって、会話すらしてもらえない状態なのよね」


 すると、教室を覗いていたレーナさんが小声で


「このままですと近いうちに、教室内の人達が川内さん達がおっしゃている、ヒトガタと似た状態になってしまいます」


 レーナさんを見ると難しい顔をしていた。西條さんは聞こえなかったのか、俺とレーナさんを見て首を傾げていた。


「ん~、それはつまり、何とかしないとマズイって事ですよね」


「あまりよろしくない状況ですが、一般的には薬を使って対応してますので、何とかなるかと思います。ただ、病院から必要となる医薬品を運搬してるのかは不明です」


 ちょっとどういう事なのか分からないので、俺が首を傾げていると、レーナさんが俺の事をジッと見て眼を閉じた。すると、ゆっくりと目を開けて何かを決意したような真剣な表情で


「川内さんから受けた恩に対して少しでも報えればと思い、普段でしたらこのような話しをしたりはしないのですが」


 と言うと西條さんを見て


「少しでも世の中のことを川内さん達にも知っておいて頂きたいと思いましたので、お話し致します」


 すると、レーナさんは表情を硬くして


「ここにいる人達の何人かは、病院での出来事が衝撃的過ぎてその時の光景がずっと頭の中で繰り返されています。なので、その時に生じた恐怖も同様に繰り返し生じてます。つまり、終始絶え間なく恐怖に襲われてる状態です」


 西條さんは思い当たる節があるのか、難しい表情をして頷いていた。


「そして、衝撃的だった現実を受け入れられない、あるいは起こった出来事を認める事が出来ない人達も、この教室を利用しております。中には現実から目を逸らし、考える事を放棄する事で、自分の心が壊れないように、自己防衛手段として自分の意志で思考を停止させてる方々もいらっしゃいます」


 すると、西條さんが難しい表情から、痛みに耐えているような感じの、ツライ表情をしていた。


「こちらの声掛けに対して何も反応しなかったり、体を揺さぶっても鈍い反応しかしないくらい、自身の思考を深い状態で停止させて、外部からの情報を遮断している状態です。ただ、長い時間思考を停止し、外部からの情報を遮断し続けると、無意識のうちに自身の体を操る事を放棄した状態になります」


 レーナさんが俺と西條さんを見て


「するとここにいる方々は、周りで漂っているモノに体の操縦を奪われて、攻撃的な行動を取ったり自傷的な行動を取るようになります」


 西條さんは何故か驚いた表情をしていた。俺は恐怖の感情が繰り返されるとか、周りで漂っているモノってフレーズが、山口さんの話しと通じる何かがありそうな気がして、モヤモヤした気分になっていた。


「今現在、モノの存在を全ての人々が認識出来ていないのが現状です。なので、先ほども話した通り、このような状態の方々に対して一般的には薬を使って対応しています。薬を上手く利用する事で、身体に侵入していたモノが自然と消えて本来の姿に戻る場合もございますし、状況によっては本人が体の主導権を握れまいまま、一生を終わらせる場合もございます」


 つまり、レーナさんは目に見えないモノが存在しているって事を認めているって事だよな。なので俺は


「とりあえず漂っているモノを消滅させとけば、直ぐには体を乗っ取られないって事ですよね。昨日学校が襲撃された時に沢山の人達が襲われて命を落としたので、その時に発生した死ぬ間際の感情が、この教室の人達に反応して集まって来てて、ここにいる人達の恐怖の感情を更に引き出そうとしてるって感じですよね」


 レーナさんが驚いた表情で


「何故、川内さんはその事をご存知なのでしょうか」


「最近知り合った人に、世の中には人の感情が好きなモノが存在してるって教えてもらいました。ただ、人の体を乗っ取るって話しまでは教えてもらえませんでしたけどね」


 と言うと、レーナさんが更に驚いた様子になり、表情をもとに戻すと


「心に深い傷を負った人の中で、気持ちの整理が上手く出来いない人や、意思の弱い人だったりしますと、いつまで経ってもその人からは不安や恐怖の感情が消えて無くなりません。なので、周りに漂っているモノも消えて無くなる事はなく、常にその人の周りを漂い続けます。そして、漂っているモノが感情を引き出すために常にその人の恐怖や不安に反応し、色んな現象を引き起こしてきます」


「俺にモノの存在を教えてくれた人も、同じ様な事を話してました」


 西條さんは隣で驚きの表情を浮かべている。するとレーナさんは頷いて


「辛い出来事を忘れようとしても、モノが本人の感情に反応して、その時の匂いや音を鮮明に再現して来たりします」


 山口さんが話していた、漂っているモノが水蒸気の状態、もしくは雲の状態の時に起きる現象と同じだな。


「なので、当事者たちはいつまでも辛い出来事を忘れる事が出来ず、心が耐えられないと感じた場合は、思考を停止し自己防衛手段として、自分の殻に閉じこもるようになります。もちろん、辛かった出来事を受け入れられたり、上手く気持ちの切り替えや整理が出来る方々もいらっしゃいます」


 俺はまだそんな経験をしたことがないから、よく分からないけど、この教室を利用している人達が、まさにそんな状況なんだろうな。


「そして、辛い出来事に囚われることから抜け出せた人達は、今までとは全く違う行動を取り始めます。色んなパターンはありますが、例えばボランティア活動に参加したり、絵を描いてみたり、気持ちの切り替えが出来たので良い事なのかも知れません。中には辛い出来事と向き合えるようになる人達もいます。ただ、人によっては優しかった人物が、平気で人を傷つける行為をしたり、倹約家だった人が突然浪費家になってみたり、まるで別人のような振る舞いを始めたりする場合もございます。今までと同じ生活では、忘れたい辛い出来事を思い出してしまうからだそうです」


 ん~、俺はまだ心が耐えられないって程のダメージを喰らった事がないけど、そういう人もいるのかあ。


「そして、気持ちの切り替えを行ったとしても、中には考え方に物凄く偏りが生じてしまう方達もいらっしゃいます。モノによって常に感情を揺さぶられている人は心に余裕が無くなっているので、漂っているモノからの影響を受けやすくなっております。なので、産まれた環境や周りの人達のことばかりを憎んで、幸福の意味すら考える事が出来ない精神状態に陥ってしまい、簡単に過去を呪い、差し伸べられる手を全て振り払い、他者から距離を取ろうといたします。すると、その人は周りの人達からは良くない感情を浴びる事になり、漂っているモノが好むネガティブな感情を常に集める事が出来るようになるのです」


 落ち込んでいたり何かグジグジ言っているヤツって、ただ心が弱いからとかじゃなくって、モノの影響も受けているから、いつまで経ってもグジグジしてたりするのかも知れないな。そんで、そんな姿を見ていると、こっちまでイライラして来るのって、俺もその人から漂っているモノの影響を多少なりとも受けているって事なのか。今度からは落ち込んでいたりクヨクヨしている人がいたら、今までとは違う感じの接し方をしてみるかな。


 にしても、モノって存在が人に与える影響がデカすぎて驚きだよ。感情をコントロールすれば良いのかな、そうすれば自分の感情からはモノが生じなくなるから、モノからの影響を受けなくて済むって事だよな。でも、それが簡単に出来ないから、この教室にいる人達みたいになっているんだよなあ。


 衝撃的な出来事から逃げる事なく、しっかりと現実を受け入れて、心の整理をして今まで通りの生活を送るっていうのは、俺の想像以上に困難な作業なのかも知れないな。ただ、何となくだけど、モノの存在については分かった。でも、教室にいる人達がヒトガタと似た状態になるってのが分からなかったので、レーナさんに尋ねてみると


「先ほど、体の主導権や操縦とお話ししましたが、人の体を車に例えますと、運転手が殻に閉じこもって運転を放棄した状態になります。なので、モノが勝手にハンドルを握り車を運転する事が出来るようになります。モノは車を暴走させる事で、周りにいる人達から更に不安や恐怖の感情を引き出そうとしているのです」


 すると、静かに話しを聞いていた西條さんが、青い顔をして


「それって霊が体に乗り移った状態って事ですか」


 レーナさんが少し困った表情をして


「確かにこの現象は一般的にはそう言われてますね。後は似たような現象ですと、憑依ですとか国や地域によっては、狐憑きだったり悪魔憑きと言われてたりもします。ただ、モノによって引き起こされた現象が、自分や周りの人達にとって都合の良い結果だった場合は善として、自分達に都合の悪い結果でしたら悪として捉えがちです。今回ですと、西條さんにとって怖くて恐ろしい状況ですので、悪いモノとなるのでしょう。ですが、何か良い事があったりすると「今日はツイている」とおっしゃったり感じたりする事って、今までにあるのではないのでしょうか」


 西條さんは思い当たる節がる様で頷いていた。それを見てレーナさんが


「皆さんがモノの存在を認識していないだけで、昔から私達の身の周りにはモノが存在しているのです」


 う~ん、山口さんが話していたモノと、レーナさんが存在を認めているモノって同じモノみたいだよなあ。もっと色々と詳しく知りたいけど、今は目の前の事を何とかしないとだな。なので、俺はレーナさんに


「ここの人達をもとに戻す方法って薬以外で何かあるんですか」


 すると、レーナさんは表情を曇らせて


「申し訳ございません。私達は直接介入しない事になっております」


 下唇を噛んで悔しそうな表情をしていた。う~ん、良く分からないけど何か事情があるんだろうなあ。


「いえいえ、気になったのでちょっと聞いてみただけですんで。ちなみに、俺にモノの存在を教えてくれた人は、手を叩いたり音が出る何かを使って、振動を発生させてモノを消滅させるって、話しをしてたんですけど、レーナさん達もそんな感じなんですか」


 レーナさんが驚いた表情で


「詳しくお話しをする事は出来ませんが、私達も概ねその様な方法でモノを処理しております」


 すると、レーナさんは真剣な表情になり


「私は川内さん達にモノの話しをしても変な目で見られるか、全く聞き入れてもらえないと思っておりました。なので話しを信じてもらえてとても嬉しいです」


「俺はどんな事でも、まずは否定しないで受け入れようってスタンスなんです」


 レーナさんは一瞬ホッとした表情をすると、少し申し訳なさそうな表情になり


「川内さんにお願いがございます。川内さんにモノの存在をお話しされた方を、私に紹介して頂けないでしょうか」


 俺は特に問題は無いので


「はい、後で一緒に探しに行きましょう」


 すると、西條さんが俺の袖を引っ張って


「いつそんな人と知り合ったのよ」


「昨日の夜更かしの原因です」


「ああ、そうだったのね」


 納得した表情をしていた。


 さて、レーナさんは手だし出来ないって事だし、ここの人達がヒトガタトみたいになるってのも勘弁してもらいたいので、ダメもとでちょっと試してみるかなあ。


 俺は西條さんとレーナさんに


「ちょっと待っててくださいね」


 と言って、モノが充満している教室に一歩踏み込んだ。


 う~ん、空気が重たいと言うか、何か体に纏わりついて来る感じがするし、廊下よりも室温が低い感じもするなあ。この教室に長い時間いたいとは思えないな。用事が無ければ直ぐにでも立ち去りたいって感じだ。


 さてさて、山口さんみたいに手を叩いて振動でモノを消滅さえる事は出来ないけど、意思の力をフル活用して魔法でモノを消滅させてやるぜ。俺はその場で何度か深呼吸して、気持ちを落ち着かせた。


 教室に充満しているモノを聖なる光で、綺麗サッパリ消滅させるイメージを膨らませながら、昨日の千春のように足元からゆっくりと光を広げて行き、教室の隅々まで光が行き届いたところで一気に聖なる光を解放させた。教室内の空気が一気に軽くなり寒気も無くなった。そして、無数の光の粒子が室内をゆっくりと漂っていた。


 ふむふむ。意外と簡単に出来るもんだ。いきなりだったら難しかったけど千春が発動させたのを見ていたので、イメージがラクに出来たぜ。振り返ると西條さんとレーナさんが目を見開いて驚いていた。


「意外と簡単に出来たんで良かったです」


 って言うと、レーナさんが


「いや、なかなかそこまでは出来ませんよ」


 と言い、西條さんは


「どうやったの、教えてよ」


 と言って、俺の腕を掴んで興奮している様子だった。


「千春が昨日やった光属性と聖属性で創った浄化魔法をマネしてみました」


 すると西條さんが


「そっか、そうだよね。浄化魔法を使えば良かったんじゃんねえ。もう思いっ切り忘れてたよ~」


 もう怖い思いをしなくて良いって分かったからなのか、西條さんはとても上機嫌だった。そして、俺を見ると


「そういえば、川内君は何しに四階に来たの」


 俺は西條さんに明日の予定を聞いて、三階で授業の手伝いをしている千春と麗奈の所にレーナさんと一緒に向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ