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第8話 今日も雨

 俺は水魔法と言って良いのか、お湯を出現させる事が出来るようになった。今は火魔法が使えないか頑張っている。


 直樹は伸びるパンチを使えるようになった。腕が伸びるのではなくジャブを打つと腕の延長線上に衝撃波を飛ばせる魔法だ。


 お馴染みのファンタジー作品の魔法だと風魔法に分類されるのかな。コツが掴めたら次は蹴りで衝撃波を飛ばす予定だ。


 千春はメンバー達と転移魔法が使えないか頑張ってみるそうだ。家に転移出来たら楽だもんな。


 停電が発生してから電車もバスも動かなくなった。俺は電気が復旧したら帰るつもりなのでずっと学校に泊まっている。


 授業は停電が発生してからずっと中止状態、だから毎日暇している。暇を潰したいけどスマホは壊れて使えない、だから日中は将棋やチェスで遊んだり、昨日から使える様になった魔法で遊んだりしていた。


 学校での生活が四日目になった。そろそろ部屋の布団で眠りたい。そして今日も朝から雨が降っていた。


 俺は机に頬杖をつき、窓の外の雨を眺めながら


「なあ、直樹」


「ん」


「雨が止んだら電車もバスも動いてなくても、帰ろうと思うんだ」


「っじゃ、晴れたら一緒に帰るか」


 まだ停電の原因は不明だし、車も動かない。どこの地域まで停電しているかも不明のままだ。先生達は情報が遮断され、状況把握がいつまで経っても出来ないからなのか、最近はイライラしている。


 校内では、俺達以外にも魔法が使える生徒が現れ始めていて、そんな生徒が火魔法で遊んでいたら、壁に貼っていたポスターを燃やしてしまった。


 危うく建物火災にまで発展しそうな勢いだったが、近くにいた生徒が水魔法を使って火を消し止めた。


 大きな火事にならなかったのにも関わらず、先生達は物凄く怒っていた。


 それに、風魔法で女生徒や女教師のスカートをめくっていた生徒にも、物凄く怒っていた。


 確かに、スカートめくるって幼稚園児や小学校の低学年じゃないんだから、俺もどうかと思ったけど、ちょっと怒りすぎなんじゃありませんかって感じた。


 なんかいつもみたいに冗談が通じなくっていて、先生達はすっごく怒りっぽくなっている気がする。


 節水もしないといけないし、非常食にも飽きてきた。先生達はピリピリしてる。そろそろ肉とかラーメンとか食べたい。なので、俺は雨が上がって晴れたら、直樹を誘って家に帰る事にした。


 沙織と麗奈が挨拶しながら教室に入ってきた。


「おはよう」


「おはようございます」


 俺と直樹も挨拶する。


「おっすー」


「おはよう」


 俺の隣の席に沙織が座って、直樹の隣の席に麗奈が座った。沙織が椅子に座って足を組むと


「ねえ、晴れたら帰ろうと思うんだけど一緒に帰らない」


「おう、俺達も晴れたら帰るつもりだから問題ないぞ。でも晴れても、電車とバスはまだ動いてないかもだけど良いのか」


「麗奈が泊めてくれるから問題ないわ」


 沙織の隣で麗奈が頷いていた。


「魔法が使えるんだから急いで帰らなくても、色々と復旧してからでも良いんじゃないのか」


 すると沙織が困った表情で


「ちょっとクラスで問題があってさ、居心地が悪いのよ」


 沙織の話しによると、魔法が使える生徒の中で、魔法が使えない生徒の事を見下し始めたり罵声を浴びせたりする生徒がいるらしい。


 そして、そんな生徒に対して「魔法が使えるからって調子に乗るな」って感じでクラス内が殺伐とした雰囲気になっているらしいのだ。


 俺は疑問に思ったので、沙織に


「なんで魔法が使えたくらいでクラスメイトを見下せるんだ」


「私だって分からないわよ」


「そんで、なぜ便利なのに魔法を使おうとしないんだ」


「魔法を使わないんじゃなくて、使えないのよ。色々と試してるんだけど、魔法が発動しないのよね」


「魔法の存在を受け入れられてない感じなのか」


「まあ、そんな感じね」


 俺からしたら、別のクラスで勝手に勃発している騒動なので、浮かない表情の沙織に


「なんか色々と面倒くさいクラスなんだな」


「たぶん家に帰れない不安とか、家族の心配とかがあって、たまたま今回みたいな、人を傷つけちゃう感じになったのかも」


 麗奈も浮かない表情で


「言い争ってる生徒って、停電前は困っている人がいたら手を差し伸べる事が出来るくらい優しかったのに、見ていて胸が痛いよ」


 普段は優しいクラスメイト達なのに、些細な事から罵り合っている姿なんて見るのは辛いから、早く帰りたい。って俺には聞こえるのだが。


 そんなに気になる優しいクラスメイト達ならば、自分達が仲裁して争い事を無くせば良いのに、ただ嫌な事に対して目を背けているだけ。って思ってしまうのは、友達に対して思ってはいけない感情なのだろうか。


 今までなら「そっかクラスで揉めてて居心地が悪いのね。うんうん、一緒に帰ろうな」って感じだったと思うのだが、俺も知らないうちにストレスが溜まっていて、イヤな性格になっているのかな、気をつけないとだな。


 特に問題は無いと思うが、一応俺は直樹に


「沙織達が一緒でも問題ないよな」


 直樹に確認すると頷いている。直樹も沙織達と一緒に帰っても良いみたいなので、沙織と麗奈に


「オッケー、晴れたらバスのルートで駅まで行って、それから麗奈の家を目指すって感じで良いかな」


「さんきゅ、そんな感じでお願いね」


「ありがとう、早く晴れないかな」


 いつもの明るい表情に戻った沙織と麗奈は、ニコニコしながら教室を出て行った。





 夕方になっても電気は復旧しなかったし雨も止まずにずっと降り続いていた。


 日中は魔法で遊ぶのに飽きたので、直樹と将棋やチェスで暇を潰して過ごしていた。


「こりゃあ、今日も泊まりになっちゃうのかなあ」


「だな。そろそろ電気が復旧しても良さそうだけどな」


「だよなあ、根拠は無いけどそろそろ復旧しても良さそうだよなあ」


 俺と直樹は乾パンを食べながら、日が暮れ始めて薄暗くなっていく窓の外を眺めていた。


「うっちー、また乾パンもらったからあげるねえ」


「サンキュー、いつも貰っているけど千春の分はあるのか」


「うん、僕の分もちゃんと確保してあるから大丈夫だよ」


「そっか、ありがとな」


 俺の隣の席に座って乾パンを食べ始めた千春に


「なあ、転移魔法って使える様になったのか」


「ん~、消しゴムとかペンなら転移出来るようになったんだけど、手のひらより大きい物になるとまだ来ないんだよねえ。実用化はまだまだ先になりそうだよ」


「簡単には出来ないのかあ。転移魔法って色んな作品の中でも、難易度が高い上級魔法の部類だもんな」


「イメージや想像力で効果や威力が変わると思うんだけど、転移に失敗して壁にめり込んだら怖いし、変な空間に転移とかしても怖いから、失敗したらどうしようって事が頭をよぎっちゃうんだよね。少しづつ転移させる物を大きくして、自分の転移魔法に自信を持てないとダメかも」


 千春はメンバー達と転移魔法が使えないか色々頑張っているみたいだけど、思うように成果が出ていない様子で浮かない表情だった。


 俺はフォローを入れる感じで


「そっかあ、他に何か新しい魔法は使えたりしたか」


「んにゃ、他には魔力を電力に変換できないか試したり、アイテムボックスとか創れないか頑張ってるよ」


「アイテムボックスか、確かにそれは試してみる価値はあるな。でもアイテムボックスも難易度が高い部類だよな」


「うん、でもメンバー達はもしもに備えないといけないから頑張ってるよ」


 そうだった、千春とメンバー達は「もしも」に備えて頑張っているんだった。


「もしも」とは千春達が立てた仮説「地球が異世界に転移した」の事だ。もしも仮説が正しかった場合は、今後モンスターが現れたり勇者となって魔王を倒しに旅立つ時が来るので、千春達は念のため異世界生活に必要な準備を始めているのだ。そしてメンバーとは千春のゲーム仲間の事だ。


 俺は乾パンを食べながら千春に


「そだ、俺と直樹は電車やバスが動いてなくても、晴れたら帰ることにしたぞ」


「えっ、帰るの」


 千春が少し驚いた表情をしたので俺は


「おう、そろそろ自分の布団で眠りたい」


 すると直樹が


「俺は腹いっぱい飯を食べたい」


 俺も直樹も自分の思いを口にした。すると千春は少し考えて


「そっかあ、僕も一緒に帰っても良いかな」


 てっきりバスが動くか、電気が復旧するまで千春は学校に残ると思っていたので、少し意外だった。


「全然おっけいだけど、もしもの準備はしなくて良いのか」


「家に過去の作品を取りに行きたいんだよね。魔導書もしくは魔術教本と成り得るからね」


 魔法がこの先ずっと使えるのか分からないけど、千春達の仮説「地球が異世界に転移した」に備えるのであれば、俺も同じ事を考えていたと思い


「ああ、なるほどね。確かに小説や漫画から魔法の模倣が出来るもんな」


「でしょでしょ、メンバー達も作品を持ってるけど、書籍となると家にある数が少ないんだよね。みんな電子書籍だったり電子コミックなんだよ」


「じゃっ、千春も晴れたら一緒に帰ろうな」


「うん、よろしくね」


 雨が上がったら、千春も俺達と一緒に帰る事になった。

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