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第78話 直樹と沙織

 直樹と沙織にレーナさんを紹介して


「ダーシャお嬢様から明日のランチに誘われたんで、みんなの予定を確認しに来た」


 沙織が目を見開き


「やった、お嬢様とランチだなんて夢みたいね」


 そして、俺の肩をバシバシ叩きながら


「ちゃんと知り合いになれたみたいね」


 と言って、親指を立てて来た、俺は直樹に


「詳しい事は後で話すけど、明日は大丈夫だよな」


 直樹が頷き


「ああ、問題無いぞ」


 すると、レーナさんが


「沙織さんと直樹さんは苦手な食べ物や、アレルギー反応が出る食材はございますか」


 沙織がニコニコしながら


「何でも食べられます。食物アレルギーもありません」


 直樹が続けて


「俺も特にありません」


「分かりました」


 レーナさんは一度頷くと、後ろに下がった。俺はランチに誘われて上機嫌な沙織に


「麗奈と西條さんって四階かな」


「麗奈は千春と授業を手伝ってたわよ、西條さんは四階ね」


「そっか、分かったサンキューな。ところで、二人は汗まみれになって、何をしてたんだ」


 すると、沙織が


「病院から持ってきた荷物を四階に運んでたの」


 肩にかかった髪を手で払った。俺は他人の汗が苦手なので


「やめてくれ。髪の毛を払うな汗が飛び散るだろ」


 沙織が目を細めて口元に笑みを浮かべると


「世の中には簡単に乙女の汗に触れる事なんて出来ない人もいるのよ。しっかり聖なる汗を堪能しなさいよ」


 と言いながら、俺の両肩をしっかり掴むと、体全体を上手に使い遠心力を利用して、汗まみれの髪の毛を俺の顔にバサーッと当てて来た。


 確かに、人によっては物凄く嬉しい事なのかも知れないけど、俺はイヤなんだ。なので、すかさずクリーンを発動させた。すると沙織が


「あら、何もったいない事してるのよ」


「俺は嬉しくないし、汗は邪悪でしかないからな」


 沙織がムッキーって感じで、鼻に皺をよせていたが俺は無視して、直樹に


「病院からの荷物って」


 直樹がもう終わりなのかって感じの表情で、少し笑いながら


「ああ、消防や警察の人達が、病院から栄養補助食品や栄養補助飲料とかを運んできたんで、それを四階まで持って上がってたんだ」


 沙織が手櫛で髪を整えながら


「そんで、ただ運ぶだけじゃ面白くないから、直樹とどっちが沢山運べるか競争してたのよ」


 直樹が胸を張り


「筋力と持久力アップのトレーニングにもなるだろ」


 俺も体を動かすのは好きだけど、直樹と沙織みたいにそこまでストイックにはなれないなあ。って思っていると沙織が


「でさあ、さっき荷物置き場で克也たちが一年の時に同じクラスだった、五味がいたんだけど相変わらず気持ち悪いヤツだったわ」


 その時の事を思い出しているのか、沙織は渋い顔をして


「これから俺達が世界を変えるから一緒に来ないか、俺が吉田を守ってやるぞっとか言っちゃってて、一瞬で体中に鳥肌がでたもんね」


 昇降口には久津しかいなかったけど、こっちにも集団の一部がいたのかな。


 ちなみに、五味と久津は常に女子からチヤホヤされたりクラスの話題の中心でいたいらしく、学校行事とかイベント事では毎回目立つために、何かしらやらかしてクラスの和を乱して、結果的にはみんなに迷惑を掛けていた。


 やる事成す事全て女子達からは評判が悪く、クラスでも陰でみんなが迷惑だって話題にしていた。でも、本人たちは良くも悪くも自分達が話題になっている事が、嬉しくて仕方ない感じだった。つまり、物凄く自己顕示欲が強くて面倒くさい二人なので、なるべく関わり合いたくないって思うようなヤツ等なのだ。


 直樹が着ているシャツで汗を拭いながら


「五味が所属してる世界を変える集団とやらが、この辺り一帯の治安を守るから見返りに衣食住を提供しろって、学校に交渉をしに来ていたらしく、しばらくは病院を拠点に活動するって話しにまとまったらしい。それで五味達は、学校で保存してる食料や病院からの荷物を物色してたみたいだったぞ」


「ふ~ん、衣食住を提供しろかあ。でもまあ、病院には使ってないベットや布団があるから、拠点にするには良い場所なのかも知れないな」


 すると沙織が


「でさあ、五味が吉田がいるって事は中井もいるんだろ、二人とも俺が守ってやるから一緒に行こうぜってしつこくって、どうしようか困ってたら、丁度直樹が荷物を取に来たんだけど。直樹を見たら五味がお前たちってそういう関係だったのかって急に騒ぎ出してさ、何で男子って女子が男友達と一緒にいただけで、直ぐにそんな考えになるんだろうね、毎回ホント理解に苦しむわ」


 いや、女子だって男子が女友達と一緒に歩いているだけで、直ぐに噂にするだろうがって思っていると


「でね、今回はそれを逆手に取って、私が直樹と腕を組んだのよ。そしたら直樹が空気を読んで、俺の女に手を出すなって言ってくれたのよね」


 さすが直樹だ。普段から一歩後ろに下がった感じで全体をしっかり見てるし、何気に頭の回転が早くて機転が効くからな。今回も状況をいち早く理解して、女子との交友が少ない残念な男子に、かなり良いダメージを与える事が出来たんじゃないのかな。


「そしたら五味が顔を真っ赤にして、今までの俺とは違うんだ、俺は覚醒したから森下にだって負けないぞって、体をプルプルさせながら怒っちゃってさ、直樹を睨みつけて何かしようとしてたんだけど、一緒に来てた人達に呼ばれると、直ぐに私達の前からいなくなっちゃったんだよね」


「そっかあ、なあ、五味の目って充血してたか」


「そういわれてみれば、充血してたかも」


 小首を傾げた沙織を見て俺は、直樹に目配せすると


「ああ、充血してたな」


「そっか、久津も充血してたぞ」


 直樹が片方の眉毛をピクっとさせて


「何かして来たのか」


「まあ、そこら辺の話しは後でするよ」


 直樹は眉間に皺を寄せながら頷いていた。そして、俺は沙織に


「直樹は大丈夫だと思うけど、あんまり張り切り過ぎて、腰とか痛めないようにしろよ」


 すると沙織が腰に手を当てて


「ああ、ビックリ腰でしょ。若いんだからなる訳ないじゃないのよ」


 と言った、俺は直樹に目配せすると直樹が頷き


「なあ、沙織。一般的にはビックリじゃなくて、ギックリって言いかたの方が多いかも知れないぞ」


 沙織が目を見開いて、驚きながら


「えっ、そうなの。急にビックリするくらいの激痛になるから、ビックリ腰って思ってたんだけど違ったの」


 少し赤い顔をしている沙織に俺が


「いや、違ってはいないと思うけど、ギックリ腰って呼び名の方が一般的かもだなあ」


 直樹が続けて


「俺達からしたらその言い方でも理解出来るから問題は無いが、人によっては言い間違えとかを激しく指摘して喜ぶヤツもいるだろ」


 沙織がイヤそうな顔をして


「ああ、そういう事か。分かったありがとう」


 さらに表情を少し曇らせると


「たまにいるもんね、言い間違えとか方言を指摘して喜ぶ人、イントネーションや言葉の違いに驚いて、感心してるとかなら良いんだけど、正しいイントネーションとか標準語って呼ばれてる言葉を使えるって事だけで、優越感に浸っているのか知らないけど、相手を茶化してる人って、見てて気持ち良くないもんね」


 浮かない表情の沙織に俺は


「まあ、とにかく張り切り過ぎて怪我しないようにな。んじゃあ、俺は西條さんに明日の確認して来るな」


 俺は後ろで控えていたレーナさんに


「お待たせしました、移動しましょう」


 と言って、階段へ向かった。

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