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第74話 再びエンチャント

 千春と小田先生と飲食兼休憩エリアで朝食を頂いていると、小田先生が「何故だが分からないけど今って本人の意思で何でも出来ちゃう、そんな世の中になっちゃたんじゃないか」と言って来た。その話を聞いて千春は夢の様な話しって言って喜んでいたし、俺も自分の思い通りに色んな事が出来るんだから、話しを聞いていてワクワクもした。


 でも、小田先生は難しい顔で「全ての人達がこの事に気づいてしまったら、物凄く大変な世の中になるんじゃないのか」と言い、医学の知識を活用し、意思の力で俺の腕や口の周りの動きや感覚を司る神経伝達を阻害して、俺の動きを制限して来た。


 俺は腕を動かす事が出来なかったし、声を出す事も出来なくなった。身をもって意思の力で何でも出来ちゃうって恐ろしさを体験した。そして、確かに色んな人がこの能力を悪用したら大変な事になりそうだって事も実感した。


 隣で見ていた千春もこの能力の危険性を実感した様子だった。


 俺はこの能力を悪用された場合はどうやって身を守れば良いんだって考えていると、千春が


「何でエンチャントが効かなかったんだろう、うっちー今ってティーシャツ着てるよね」


「あっ、確かにそうだな、何でエンチャント効果が無効になってるんだ」


 そうだった、腕が動かなかったり声を出せなかったりして、驚きすぎて忘れていたけど、俺って千春が魔法攻撃から身を守る為のエンチャントを施してくれたティーシャツを着ているんだった。


 すると小田先生が目をパチパチさせながら


「エンチャントってなに」


 って、聞いて来た。千春が小田先生に


「魔法で相手を眠らせたり出来るんで、そんな攻撃から身を守る為に、うっちーのティーシャツにイヤな魔法を無効にする為の防御魔法を施してたんです」


「ふ~ん、エンチャントねえ。ちなみに加藤君もそのエンチャントって魔法は使ってるのかな」


「はい、白沢先生がエンチャントしてくれました」


 小田先生はお粥を一口食べると千春に


「ちょっと右腕を伸ばしてテーブルに乗せてちょうだい」


 千春が腕を伸ばしてテーブルに乗せると、小田先生が


「じゃあ、腕を曲げてみて」


 千春が普通に腕を曲げた。すると、小田先生が眉毛をピクッと動かして


「あら、動かせるの」


 少し驚いている様子だった。さらに千春は腕を曲げたり伸ばしたりしながら


「えっ、はい動きますよ」


 と言って首を傾げている。


 小田先生が目をパチパチさせると、千春の腕から視線を移動させて俺を見た。先生と目が合ったと思った瞬間、突然視界が真っ暗になった。


「ええええ」


 思わず声が出た。すると小田先生が


「問題無く使えてるわねえ」


 と言ったと同時に、視界が元に戻った。アレか試しに俺の視神経をいじっていたのか、ビックリだよ何か言って下さいよ。って思っていると小田先生が


「そのエンチャントって魔法はどうやって発動させてるのかな」


 すると千春が


「イヤな魔法攻撃が無効になるような言葉を、思いを込めて刺繍する事で常時発動させてるって感じです」


 パーカーを捲って胸元の刺繍を小田先生に見せた。


「川内君のエンチャントも同じなのかな」


「俺のは千春のエンチャントとは言葉が違いますよ」


 ワイシャツのボタンを外して、ティーシャツの刺繍を小田先生に見せた。小田先生は俺と千春のティーシャツの刺繍を見比べて頷きながら


「加藤君が刺繍をする時に思いを込めたのって、魔法攻撃に対して無効になるようにって事だったわよね」


「はい、睡眠とか麻痺とかそんな感じのイヤな魔法攻撃が無効に出来るようにって思って、チクチク頑張りました」


「私がさっき君達にしたヤツね、私的には魔法って認識でやってなかったのよね。一般的に超能力って言われてる、意思の力だけで物体を動かす能力、サイコキネシスとか念力、もしくは念動力って感じの認識でこの能力を発動させてたんだけど」


 小田先生は少し考えると


「後で、白沢先生に確認してみないと分からないけど、白沢先生の刺繍って『無病息災』じゃない、確か病気をしないで健康にって意味だと思ったけど、これってワザワイから身を守るって捉え方も出来るわよね。つまり、自分にとって不利益となる全ての災いから身を守ってて、魔法攻撃って事に囚われてないエンチャントなんじゃないかな」


 そして千春を見ると


「そんで、加藤君が施したエンチャントって、魔法攻撃に対しては準備を万全に整えてはいるんだけど、他の目に見えない攻撃に関してはエンチャントの魔法が発動してないんじゃないのかしら。もしそうなら追加でエンチャントしとかないと、このままだと目に見えない攻撃に対して、無防備な状態って事になるわよ」


 すると、千春が何かに気づいた様子で目を見開きながら


「先生の言う通りです。魔法攻撃に対して準備万端にしてたので、他の攻撃に関してはエンチャントの効果が発動しないのかも知れません。だから新たに魔法以外の攻撃も無効に出来るようにエンチャントを施さないと、うっちーとなおっきーは小田先生にやられてしまいます」


 小田先生が苦笑しながら


「いや、私は君達に攻撃なんてしないから安心してよね。でも、そのエンチャントって魔法を使えば、意思の力で何でも出来ちゃう攻撃から身を守る事が出来るって分かったから助かったわ。この事に気づいてからはずっと自衛手段を考えてたのよねえ」


「いえいえ、僕も新たにエンチャントしないとダメって事が分かったので、こちらこそありがとうございましたって感じです」


「でも、そのエンチャントって魔法で身を守る為には、どんな思いを込めてエンチャントを施すのかって事が重要になりそうね」


 千春が頷きながら顎に手を当てると


「ん~、自分に向けられる悪意とか敵意を無効にするとかじゃダメなのかなあ」


「私も少し考えてみるけど、そんな感じで良いんじゃないのかしら。相手の意思が何か悪さをして来るんだから、なるべく広い範囲でカバー出来るようにしておいた方が良いからね。そう考えると、御守りの無病息災って広範囲で色んな事から守ってくれるから有り難いわよね。昔の人は旨い事考えたもんね、感心するわ」


 う~ん、確かにそう言われてみると御守りって神社の人が参拝者へ良くない事が起こらないようにって思いを込めて作るんだろうし、昨日の山口さんの話しじゃないけど、御守りを持ってる人はこれがあるから大丈夫って思えるから、無意識のうちに自分の意思の力で災いとか山口さんが言っていたモノからも身を守っていたのかも知れないよなあ。


 そう考えると、俺達って昔っから知らないうちに意思の力で色々とやって来てたんじゃないのかなあ。ってな事を考えていると小田先生が


「患者で急に体調が良くなったり悪くなったりした時にさ、何が原因なのか突き止める為に色んな検査をするんだけど、原因が特定出来ない事って結構あるのよ。今まで必死になって検査結果の数値を調べたり、何の薬の効果で変化したのか、どの治療が切っ掛けで変化したのかって根拠を探しまくってたんだけど、もし停電の前から実は意思の力が多少なりとも色々と働いてたって考えると、原因が特定出来なくて当然よね。だって目に見えない人の心の状態が原因だなんて思いもしないからね」


 アレか実は昔から言われている、病は気からってヤツが迷信じゃなくて真実だったって事か。でも、医者に家族の病状を聞いて気分が良いから回復しましたとか、気分が滅入っていたから、病状が悪化しましたって言われても困るもんなあ。


「もちろん本人の心のありようで病状が変化するって事を踏まえた上で、治療に当たるし看護もするわよ、ほら君達に話したプラシーボ効果とノシーボ効果ね。ただ、そんな不確かな事に重きを置いてる人って少数だし、そんな不確かな事を患者や家族に説明するのは難しいからね」


 すると小田先生が表情を柔らかくして


「でも、今後は意思の力で治療は出来るし、本人の意思で病気を治す事も可能になりそうじゃない、そうなるともう病気で苦しむ人達がいなくなるんだから、そんな世の中って素敵よね」


 話しを聞いて千春が頷いている。俺も病気や怪我で苦しむ人がいなくなるのは、本人もラクだろうし周りの家族もラクになるんだろうから良い事だなって思っていると、小田先生はお粥の最後の一口を掬って


「でも、そうなると世の中で医者の役割が無くなるから私は無職になるのよね。それに、今まで注いでた医療への情熱をどこに向ければ良いのかって事が今後の課題にもなるのよね」


 これからは病気の無い世の中になるって感じで、良い話しを聞けたって思っていたけど、小田先生の心境については別にどうでも良かったんだよなあ。良い感じの話しが台無しだよって思ったけど、年上で医者だったりして俺にとっては遠い存在って思っていた人物が、急に自分の事の心配をし始めたりすると、小田先生も普通の人なんだなあって思えて、親近感が湧いて来るから不思議だ。


 すると千春が


「僕はそろそろ白沢先生のとこに行ってこようかな」


 と言い、席を立とうとしたが


「ん、あの人って小田先生の知り合いの人ですか」


 千春につられて見てみると、スーツ姿の外国の人がこっちに近づいて来て


「オ~、ヒトーミさ~ん。今日もペチャパイですーネ」


 って言いながら、小田先生にバックハグをかました。


 いきなり登場して来て小田先生を後ろから抱きしめたのと、ちょっと耳を疑うような発言だったので、俺と千春が固まっていると、小田先生が


「アレクセイ、いつも言ってるわよね。あなたの国ではフランクな挨拶かも知れないけど、この国では過剰なスキンシップって捉えられて相手を不快にするだけよ」


 と言うと、スーツ姿の外国の人がその場に膝から崩れて地面に寝そべってしまった。


「申し訳ございませんでした。ちょっと調子に乗り過ぎてしまいました。なので体をもとに戻して下さい」


 カタコトの日本語しか喋れないのか思っていたけど、けっこう流暢に日本語を使って謝罪している事にちょっと驚いた。


 けど、それよりもこの状況って小田先生が意思の力で外国の人を無力化させているんだよな。ここまでスムーズに能力を発動出来るだなんて小田先生ってやっぱスゲーな。


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