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第73話 意思の力

 俺と千春でいつもよりもゆっくりとした時間に、朝食を頂いていると小田先生がお粥を持って現れた。


「お~、君達もお粥なんだね。美味しいよねえ」


 千春が飲み物を動かして、テーブルのスペースを開けながら


「おはようございます。はい、お粥って美味しいですよね」


 俺は一度レンゲから手を離し


「おはようございます。お粥って今まであまり食べた事が無かったんですが、食べてみると意外と美味しくて驚いてます」


 小田先生が頷きながら席に着いて


「そっかあ。まあ君達はまだ食べた事の無い料理って沢山あるはずだから、これからも色んな発見があると思うよ」


 話しを聞いて俺と千春が頷いていると、小田先生が


「さっき森下君に言われておでこに生えたツノを診てたんだけど、私の見立てだとアレはツノだね」


 千春が目をキラキラさせて


「やっぱりツノだったんですか」


 小田先生はお粥を混ぜながら頷くと


「ただ、詳しく調べる事が出来ないのが残念なんだけどね」


 残念そうな表情でお粥を掬って冷まし始めた。すると千春が


「でも、何でツノが生えたんですか」


 首を傾げていると、お粥を一口食べて小田先生が


「ん~、私の勝手な見解と言うか推測になっちゃうんだけど、森下君から色々話しを聞いた感じだと、意思の力で肉体が変化してしまったんだと思うよ」


 小田先生はお粥を冷ましながら


「逃げ惑う人達を早く助けたいって気持ちから、もっと強くなりたいって思いが強く働いた為に、彼が子供の頃に絵本で読んで憧れてた、強靭なオニのように人々を守りたいってイメージが働いちゃって、肉体が変化してしまったって感じだね。ほら、病院にいたクローン病の彼じゃないけどさ、やっぱり意思の力で肉体を変化させる事が可能なのかも知れないよ」


 そんな事ってあるはずないじゃんって思うんだが、実際に直樹にはツノが生えて来たんだよなあ。それに、病院にいたスウェットのお兄さんは、食べ物からじゃなくて人の感情をエネルギーとして、活動が出来る体に進化したって言っていたんだよなあ。


 すると、千春が隣で何かブツブツ言いうと少しニヤけて粥をかき混ぜていた。たぶん意思の力でどんな肉体に変化させようか考えているんだと思う。


 小田先生はお粥を一口食べると


「あとさ、君達が魔法って言ってる現象ってイメージと想像力で発動させてるって話しだけど、アレも結局は意思の力でしょ。でね、私なりに色々と調べてみたんだけど、イメージと想像力をいくら膨らませてもある程度ちゃんとした知識があると、それがジャマして魔法って現象を起こす事が出来ないのよね」


 千春がニヤニヤを止めて小田先生の話しに耳を傾けている。俺も興味があるので耳を傾ける


「君達が使う治癒魔法ね、アレって私達みたいな医療従事者だと上手く使えないのよ。例えば擦り傷だったら摩擦で皮膚が剥がれて無くなってる状態なんだけどさ、簡単に傷が治るまでの流れを説明すると、新たに皮膚になる為の細胞が生まれて徐々に皮膚細胞が増えて、傷口が新しい皮膚で塞がるって感じなんだけど、傷が治る事をイメージしても知識がジャマして、傷が瞬時に治る訳が無いって考えちゃうのよね」


 小田先生はお粥をかき混ぜながら


「それと、魔法で傷が治るって事に対しての裏付けと根拠が全く無いから、本当に治るのか不安になるし、上手く治れば良いけどもし失敗して傷が悪化したらどうしよう、って事とか考えちゃうから、怖くて魔法を使って傷を治そうって思えないのよね、仮に魔法を信じてイメージと想像力を膨らませたとしても、心のどこかでそんな事はあり得ないってブレーキを掛けちゃってるみたいで、やっぱり魔法は発動しないのよね」


 あ~、確かに俺はファンタジー作品に馴染みがあったから、魔法を使えば傷は治るって思っていたし、千春が使えたから俺も使えるんだろうなって感じで、あまり深く考えないで魔法を発動してみたら使えちゃったんだけど。改めて何で魔法を使うと傷が治るのかって、理由や説明を求められても「何でなんでしょう」としか言いようがないもんなあ。


「でね、体や衣類が綺麗になるとか、音が聞こえなくなるとかってさ、理由は分からないけど便利だし人員不足で大変なんだから、使っちゃいましょって感じで私達でも使えちゃってるの」


 すると、小田先生が口元に笑みを浮かべて千春の飲み物を宙に浮かべた。それを見て、千春が驚きながら


「先生も出来たんですね」


 すると、小田先生が千春の飲み物を手元に引き寄せて


「ふっふっふ。でもね、重力とか運動力学とか物理学とかに詳しい人達は、その知識がジャマしちゃってるみたいで、クリーンやサイレントは使えないし、物体を浮かせたり手を使わないで物を動かすって事も出来なかったのよね」


 と言って、千春の飲み物を一口飲むと


「つまりね、何故だが分からないけど今って本人の意思で何でも出来ちゃいそうなのよね。医療に携わってなくたって傷を治したいって思えば、自分や相手の傷を治す事が出来るし、物体やら物質やらに働いてる色んな力の存在を知らなくても、汚れは消えて無くなるし、音も遮る事だって出来ちゃうじゃない」


 小田先生が俺達に手の平を向けて肩をすくめると


「それに水や火を何もない所から出現させたり、食べ物を凍らせてみたりとかさ。どうも専門的な事を知らない人ほど意思の力が有利に働くみたいなんだけど、多分それは難しく物事を捉えたり考えたりしないで、素直に思った事をイメージや想像力に出来てるからなんじゃないかなあ」


 すると千春が、小田先生が持っている飲み物を手を使わないで引き寄せると


「それってまるで夢のような話じゃないですか」


 宙に浮いている飲み物を掴んで、得意げな表情をした。千春の話しを聞いた小田先生はウンウンって何度か頷くと、難しい表情をして


「ただね、全ての人達がこの事に気づいてしまったら、物凄く大変な世の中になるんじゃないのかなって私は思うのよね」


 何でだろう。自分の思い通りに色んな事が出来るんだから、俺は話しを聞いていて既にワクワクしているんだけど。なんで、小田先生は難しい顔をしているんだって思っていると、千春が


「えっと、なんでみんなが知っちゃったらマズイんですか」


 小田先生はお粥を見つめ、俺達を見ると


「治癒魔法は良いとして、クリーンとサイレントって人の役に立つ魔法って思ってるでしょ」


 俺と千春が頷いたのを確認すると


「犯罪の痕跡を消す為にクリーンを使ったり、助けを呼ぶ声を遮る為にサイレントを使ったらって考えたりはしなかったのかしら。君達とは全く違う使い方も出来るのよ」


 千春が一瞬驚いて声を漏らしていた。俺も今言われて初めて気づいたかも、今まで全くそんな使い方が出来るって考えていなかったので驚いた。すると小田先生が


「川内君ちょっと協力してもらうわね。右腕をあげてもらえるかしら」


 なんだろう、とりあえず言われた通りに右腕を上にあげてみる。


「えっ、あっ上がりません」


 何でだ腕があがらないぞっていうか肩から指先にかけて、腕の感覚が無いんだけど、どうしちゃったんだろうか。


「次は私の事を呼んでもらえるかしら」


 俺は小田先生を呼ぼうと声を出そうとして口が開かない事に気づいた。口というか舌や顎の感覚が変になっている。そんな状況に俺が困惑していると小田先生が


「ありがとうね、元に戻すわよ」


 と言うと、一気に腕と口周辺の感覚が戻った。突然の事で驚いていたからか息をする事すらも忘れていたみたいで、物凄く息苦しかった。激しく呼吸をしている俺を見ながら、小田先生が


「ごめんなさいね。驚かせたみたいね」


 すると千春が


「えっと、何が起きたの。ちょっと分からないんだけど」


 心配そうに俺を見ていた。


 小田先生はお粥を一口食べると


「治療魔法は知識がジャマして上手く使えないんだけど、知識を利用して意思の力で川内君の腕や口の周りの動きや感覚を司る神経を圧迫して、脳から伝わる神経への伝達を阻害して、動きを制限してたの。だから腕を動かす事が出来なかったし声を発する事も出来なかったでしょ」


 千春が顎を引いて小田先生を見ると、小田先生が


「やり方次第で大変な事になるって事を、分かってもらえたかしら」


 片目をパチッと閉じて、またお粥を食べ始めた。


 う~ん、身をもって体験したから分かったけど、この意思の力で何でも出来ちゃうってのは、改めて物凄く恐ろしい能力って事が実感できた気がする。


 小田先生が言ったように全ての人達が、この事に気づいて悪用したら物凄く大変な世の中になるって事が俺にでも簡単に想像出来たぞ。別に凶器を持っていなくったって意思の力で相手を無力化出来るようになるし、何よりも、その人の気分次第で気に入らない相手の息の根を止める事も出来るって事だもんな。この能力からどうやって身を守れば良いんだ。って考えていると千春が


「何でエンチャントが効かなかったんだろう、うっちー今ってティーシャツ着てるよね」


「あっ、確かにそうだな、何でエンチャント効果が無効になってるんだ」


 すると小田先生が


「エンチャントってなに」


 目をパチパチさせていた。


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