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第71話 モノを追っ払う

 俺と千春は、夜中に一人で校舎裏で手を叩いていた山口さんの行動が気になったので、飲食兼休憩エリアで話しを聞かせてもらう事になった。


 山口さんの話しによると、人から生じた恐怖の感情が変化してモノになり、ある一定量モノが集まると、一般的に言われている幽霊に変化しちゃうんだそうだ。なので、山口さんは学校で幽霊騒ぎが起きる前に対処しようと考え、幽霊になる前の状態のモノを掃除していたんだそうだ。


 幽霊ってまだ見た事なかったけど実際に存在していたんだなあ。って思っていると、千春が上目遣いで山口さんに


「僕でも幽霊って言うか、そのモノってヤツを追っ払う事は出来ますか」


「あら、簡単に出来るわよ。気持ちを落ち着かせれば、モノなんて消えて無くなるからね」


 と言って、笑いながらお茶を飲んだ。


 千春は首を傾げて


「それだけで大丈夫なんですか」


 山口さんはニコッと笑顔で


「ええ、それだけよ」


 と言うと、千春に


「さっき、私達が呼んでるモノの事を水蒸気と雲に例えて話しをしたじゃない。ちょっと極端かも知れないけど、例えば部屋で加湿器を使ってて、水蒸気で視界が悪くなってたら、加藤君ならどうするかしら」


「加湿器を止めるかなあ」


「そうよね、加湿器を止めるわよね。後は放っとけばそのうち部屋の水蒸気が無くなって、視界が元に戻るわよね」


 ウンウン頷いている千春を見て山口さんが


「加湿器があなたで、加湿器から出てる水蒸気が、怖いとか恐ろしい感情って置き換えると分かるかしら。つまり、気持ちを落ち着かせれば怖いって感情が生じないでしょ、だからモノはそのうち自然と消えて無くなるのよ」


 千春が困った感じで


「でも、怖いって思っちゃってるから、直ぐには落ち着けないと思いますが」


 すると、山口さんが口元に笑みを作り


「でも、その怖いって感情を無くさないと、いつまで経ってもモノは存在し続けるし、たまたま近くで漂っていたモノまで近寄って来ちゃうのよ」


 千春が難しい顔して考え込んでいた。


 あ~、確かに難しいかもだな、一度怖いって思ってしまうと、色んな事を想像しちゃって自分で勝手に恐怖を増しっちゃてるもんな。そんで、その恐怖を吸収したいモノがドンドン集まって来ちゃって、今度はモノが怖がっている人に反応して、その人が怖いって思っている事を見せたり聞かせたりして来るんだから、自分自身とモノとの相乗効果で、ますます恐怖から抜け出せなくなるもんなあ。


 すると千春が


「でも、そしたら、どうやって気持ちを落ち着かせれば良いんですか。ちょっと僕には簡単に出来る気がしないんですが」


 もう仕方ないわねって感じの表情で、山口さんが


「そうねえ、そうなると違う事を考えて気持ちを切り替えるとかかしらね。無理やりにでも嬉しかったり、楽しかった出来事を思い出すとか。後は好きな人の事を思い出すとか、両親を思い出すとかね」


 千春がほっほ~、って感じで話しを聞いていると、山口さんは続けて


「もしくは何か心の拠り所になる様な物を用意するとかかしら。これを持ってるから、これがあるから大丈夫って思える、安心できる何かを肌身離さず持っておくとかね」


 なるほどね~、気持ちを切り替えるかあ、そして拠り所になる様な物ですかあ。って思っていると、山口さんが


「結局は本人の気持ち次第なのよ。モノが寄り付かないようにしたり、モノによって恐怖に囚われないようにするには、本人の心の状態を良好に保っておけば良いだけの事なんだけどね」


 すると、山口さんが顎に手を添えて


「人から相談されて、その場に留まってたモノを綺麗にしたとしても、本人が不安を感じたままだと、結局その人からまたモノが発生してしまって、いつまで経ってもモノが無くならないのよね。でね、日を改めて何回かその人の所のモノを綺麗にして行くうちに、その人がもう大丈夫だって安心出来た途端に、モノは発生しなくなるのよ。それと、困ってる人が凄く信頼してる人から私を紹介された場合だと、一回で済む場合が多いわね。後は少し料金を上げて、相手にこんだけお金を払うんだから、もう大丈夫だろうって思わせるやり方もあるんだけどね」


 ちょっとプラシーボ効果に似ているような気がするけど、どうなんだろうか。って思っていると、千春が


「お祓いってヤツですか」


 目をキラキラさせて山口さんを見つめていた。すると、山口さんは困った感じの表情で


「そうね、一般的にはお祓いって言われてる行為になるわね。モノが引き起こす現象って常に恐怖が付き纏うし、モノの存在を知らなかったりするから、一般的には怪奇現象って言ってるわよね。でも、さっきも話したけどモノって感情を好んで吸収してるだけなのよ、だから、モノの存在を知らない人達が恐怖で勝手に自分を追い込んでるだけなんだけどね」


 千春が首を傾げながら


「でも体調が悪くなったり家族に不幸が訪れたりして、怪奇現象ってやっぱ怖いじゃないですか」


 山口さんはため息を吐くと


「病院に行っても原因不明って言われたり、幽霊を見たり怪奇現象が起こってからは、立て続けに不幸が訪れたりするって話しね。でもね、それって殆どが本人の思い込みなのよ。人ってその時の心境で体調が良かったり悪かったりするし、その時の心境で良かった事ばかり気になったり、悪い出来事ばかりが気になったりするものなのよ。あと、詳しい説明は省くけど、人って心境の変化で自分の周りの環境がガラリと変わるものなのよ」


 う~ん、人の心境で体の動きが変わるってのは、小田先生と話していた人体って思っている以上に心と結びついているってのと似ているなあ。


 千春が腕を組んで考え込んでいる。それを見て山口さんが


「でも今まではただ怖くて不安になってただけだけど。これからは、とにかく心を落ち着かせれば、怖い現象が無くなるって分かったんだから、もう怖い思いをしなくなるんじゃないのかしら」


 すると、千春は眉間に皺を寄せて、ブツブツと気持ちの切り替えかあ、後は御守りみたいな物があれば良いのかなあって言いっていた。


 俺はずっと気になっていたので、山口さんに


「俺達も手を叩けばモノって消滅させる事って出来るんですか」


「叩き方を覚えれば誰でも出来るわよ、別に音が出る物なら何でも良いんだけどね、ただし、決まった振動を与えるってなると、それなりに練習が必要で大変よ」


 すると、山口さんは人差し指を立てて、口元に持って行くと


「でね、ここだけの話なんだけど。正しい叩き方って教えるのにも覚えるのにも、時間がすっごい必要で大変だから、私達は雰囲気作りを丁寧に教えてるの」


 千春が首を傾げている、俺もちょっと分からなくて首を傾げる。すると、山口さんは


「えっと、一定の形式やルールに基づいて行う行為の事なんだけど、一般的には儀式や式典って言われてるヤツね。体や部屋を綺麗にする事で気分転換を図れるし、進行の順番や作法を手順通りに行う事で、間違えない様にって集中するから、余計な事を考えなくなるでしょ。それとお香とか使えばリラックス効果も期待できるし、いかにもって雰囲気も作れて、気持ちの切り替えも出来るのよね」


 なるほど~って感じで俺と千春が頷くと


「もちろん、突き詰めればちゃんとした理由があるから儀式や式典って行事があるんだけど、そんな事なんか細かく知らなくたって、イヤなモノを払う為にこれだけの準備をしたんだから、もう心配する事なんて無いって思えるし、これで問題無くモノは取り払われるんだって思えるから、本人達からはもう不安や恐怖の感情って湧いて来ないでしょ。それと、一般の人達が手を叩いたり道具を使って振動を発生させて、仮に間違った振動を発生させて、モノに対して効果が無かったとしても、気持ちの切替が出来てて、もうその場には新たに不安や恐怖は発生しなくなってるから、放っといてもモノはそのうち消滅しちゃうしね」


 話しを聞いて俺と千春がなるほど~って感心していると。


「ただね、雰囲気作りに使う道具を何種類か揃えて値段を替えて差別化を図る事で、相手に高額な道具なんだからより優れてるって、思わせて安心させるやり方もあってさ、道具の値段が安かろうが高かろうが使う本人がそれで納得してるんだし、たとえ金額が異様に高かったとしても、安心をお金で得られるのなら、本人に好きなだけ、いくらでも払わせれば良いじゃんって私は思うんだけど、人それぞれ考え方が違うからさあ、私達の業界はいつも怪しい連中って思われちゃってるんだよね」


 と言って、山口さんが肩を落として項垂れていた。


 それを見て千春が


「人には目に見えないモノですから話しても信じて貰えなかったりしますし、もう大丈夫って言っても本人次第で状況が変化しちゃうから、色々と大変そうですね」


 と言うと、肩を落として項垂れている山口さんに


「ふぁいとですよ~」


と言って、エールを送った。それを見た山口さんが


「少しでも私の苦労を分かってもらえて嬉しいわ、始めは話しても信じてもらえないだろうって思ってたし、話しても変な目で見られちゃうかなって思ってたからね」


 山口さんは嬉しそうに表情を緩ませると、一口お茶を飲んだ。俺はまだ気になった事があるので


「えっと、俺達がもし振動でモノを掃除したいと思っても、山口さんからちゃんとしたやり方を教えてもらわないと、直ぐには出来ないって事になるんですか」


「そうね、流石に直ぐには難しいかなあ。私だって小さい頃からずっと練習して来た事だからね。試しにやってみると分かるけど、毎回決められた同じ音を出すのって手を叩く時の力の入れ具合や叩く場所によって変わるから、意外と難しいのよ」


 千春が隣で手を叩き始めた、確かに何度か叩くが同じ音では無かった。それを見て山口さんが


「モノの状態によって効果的な振動があるから、実際は色んな叩き方を使い分けてるのよ。だから、人によっては安定して決まった振動を出す為に、道具を使う人もいるわね。太鼓だったり、鈴だったり、楽器を利用したりする人もいるわよ。他には歌でモノを消滅させたりする人もいるんだけど、見方を変えるとそれだけ色んな状況に応じて振動を使い分けないとダメって事だから大変よ」


 ん~、俺も掃除の手伝いが出来たらって思たんだけど、ちと大変そうだなあって思っていると、千春が突然席から離れると大きく深呼吸をして目をつむった。


 すると、千春の足元の地面が薄っすらと光り始め、そこから淡い光が地面を伝って広がり始めた。


 飲食兼休憩エリアから調理エリアへと徐々に地面を伝って淡い光が広がって行く。


 急な事で驚きはしたけど、ちょっと幻想的だったので徐々に広がって行く、淡い光を目で追っていたら突然、足元から目が眩むほどの強い光りが放たれた。反射的に目を閉じたが強い光は一瞬だったのでゆっくりと目を開ける。


 すると、辺り一面に無数の光の粒子が出現していて、校庭全体が薄っすらと明るくなっていた。光の粒子はふわふわと舞いながら、ゆっくりと空高く舞い上がって行く。


 山口さんが目を見開いて


「凄い、モノが浄化されてる」


 千春が振り向き


「ふっふっふっ、山口さんの言うモノを不浄な物って意識して、光属性と聖属性で浄化魔法を創っちゃいました~」


 すると山口さんが


「私の家に養子として来ないかしら」


 と、真剣な表情で呟いていた。

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