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第70話 モノって言われているモノ

 夜中に千春に起こされてトイレに付き合うと、調理エリアで野菜の仕込みの手伝いをしていた時に、シイタケの切り方を教えてくれた山口さんが、夜中に一人で手を叩いていた。


 何をしていたのかと尋ると、掃除をしていたとの事だった。


 俺と千春は謎の行動に興味が湧いたので、飲食兼休憩エリアに移動して話しを聞くことにした。


 山口さんは椅子に座って足を揉みながら


「世の中には、私達が怖いとか恐ろしいって思った時に生じる感情を、好んで吸収するモノが存在してるんだけど」


 と言うと、俺達の様子を伺いながら


「君達は信じられるかなあ。あははは、ちょっと難しいかなあ」


 って言いながら、不安気な表情をして俺達の返事を待っていた。


 すると千春が笑顔で


「大丈夫ですよ~。最近似たような話しがあったので信じますよ」


 俺も続けて


「分からない事でもまずは否定しないで受け入れようってスタンスですので、俺も大丈夫です」


 ってか、感情を吸収って物凄く興味の湧く話しじゃないか。ちょっとワクワクして来たぞ。


 山口さんが少しホッとした表情をすると


「そっか、じゃあ何から話せば分かりやすいのかなあ」


 と言い、少し考え込むと


「花の香りやボディーソープの香りって、良い匂いって思うわよね」


 俺と千春が頷くと山口さんが


「じゃあ、もしイヤな香りが漂ってたらどうするかな」


 千春が


「下敷きで扇いで匂いを散らすかなあ」


 俺は


「窓を開けて換気するかなあ」


 山口さんは頷きながら


「消臭剤とか違う香りで誤魔化すってやり方もあるけど、大概の人は風を起こして匂いを散らしたり、換気で空気を入れ替えたりするわよね」


 俺と千春が頷くと、山口さんが


「でもね、さっき話した感情を吸収するモノは、風を起こしても空気を入れ替えてもその場にしばらくは留まっていられるの。留まるって表現が正しいかって言われるとまた色々と説明が必要になって来るから、今はそう言うモノなんだって感じで聞いててね。でね、そのモノをその場から無くす為には、自然に消滅するのを待つかシンドウを与えないと消えて無くならないの」


 千春が首を傾げて


「シンドウって何ですか」


 あ~、それ俺も思った。シンドウって言われても分からんかった。


 すると山口さんが


「音って言った方が分かりやすいのかしら。今話してる声ってなんで聞こえるのかって知ってる」


 千春が気づいた様で


「ああ、その振動ですか。それなら分かります。音って振動が伝わって耳の鼓膜を揺らして聞こえるんですもんね」


 山口さんが頷きながら


「そう、だから手を叩いて振動を起こして、あの場所に存在してたモノを掃除してたんだけど、じゃあ何で掃除をしてたのかってなると、モノって存在を掃除しないで放っとくと、私達にとって怖いって思わせたりツライって思わせる現象が発生しちゃうからなの」


 千春が少し首を傾げると、山口さんはそれを見て


「ん~、そうねえ。私達が呼んでるモノを湿気に例えるとして、湿気だったモノが集まって水蒸気に変化するとするじゃない、そうすると、その場にいる人が急に寒気がして来たり急に体の具合が悪くなったって感じたりするのね。そして更に、湿気が集まって水蒸気が雲に変化すると、その場にいる人が恐ろしいって思ってる現象が発生したり、その土地に残された人の強い思いが目で見える様になっちゃうの」


 すると山口さんは少し表情を曇らせて


「今回だったら昼間に襲われた人達の恨みだったり悔しさとかね。後は命を奪われる事への恐怖心だったり、大切な人や家族への思いだったり、そんな死ぬ間際の人達の強い思いがモノと反応して、見える様になっちゃうの」


 一瞬背筋がぞわっとして、急に空気が冷たくなった様に感じた。千春も察した様で肩に力が入っていた。


 山口さんは俺達の表情を見て


「そうね、一般的に言われている幽霊ってヤツね」


 千春が顎を引いて顔をしかめていた。


 山口さんが千春と俺を見て


「どうする、この話はもう止めておく」


 って心配そうな顔して聞いて来た。


 千春は軽く頬を引きつらせて


「だっ大丈夫です。ちょっとビックリしただけですから、続けちゃって下さい」


 俺も続きが聞きたいので


「大丈夫です、続けて下さい」


 山口さんは一度頷くと


「物凄く強い感情から発生したモノって、直ぐには消滅しないでしばらくその場に留まるか漂うの。っで、死ぬ間際の人の感情って物凄く強力なのよね」


 と言って山口さんは表情を曇らせた。俺は傷だらけで衣類が血だらけだったヒトガタを思い出し少し気分が悪くなった。


「今日さ、結構沢山の人達が亡くなったでしょ。学校中に沢山のモノが消滅しないで漂ってたから、水蒸気が出来やすくなってたのよね、それで放っておくと水蒸気から雲に変化して幽霊になっちゃうじゃない、だからそうなる前に、掃除してたって感じかな。だって、幽霊が出たって騒ぎになったら色々と面倒な事になるでしょ」


 千春がテーブルに手を着き身を乗り出して


「じゃあ、幽霊をやっつけてたって事ですか」


「ん~、幽霊になる前のモノを払ってたんだけど。まあ、その認識でオッケーよ」


 幽霊かあ。俺はまだ見た事が無いけど実際にいたんだなあ。って感心しながら面倒な事になるって、どんな事なのか気になったので尋ねると、山口さんは少し考えて


「一般的に人って幽霊が切っ掛けで心を病んでしまったり、幽霊が発生した場所を悪い場所って考えてしまうじゃない。それに室内で幽霊が現れたら誰も住み着かなくなったりして、場合によっては生活が破綻してしまう人達もいるでしょ。それに今って停電中でただでさえ先行き不安な状況なのに、もし学校で幽霊騒ぎが起きたら、避難している人達の中には精神が耐えられない人も出て来て、色々と大変で面倒な事になるでしょ」


 う~ん、確かに今の学校って病院で受けた心の傷がまだ回復出来ていない人達がいるし、物騒な連中に襲撃されて精神的に参っている人達も沢山いるんだよなあ。そんな時に幽霊騒ぎとか起きたら山口さんの言う通り、色々と面倒な事になりそうだなあ。


 千春は青い顔して山口さんに


「やっぱり幽霊って僕たちに何か悪い事をして来るんですか」


 すると山口さんは表情を曇らせて


「人から生じる感情を好んで吸収してるだけで、ただ怖がらせてるだけなんだけど」


 と言うと、山口さんは何か思案中なのか顎に手を添えてテーブルを見つめていた。俺と千春は話の続きが気になるので静かにしている。


 すると山口さんが千春を見て


「例えば、暗い部屋で友達と集まって怖い話をしてる時や、部屋を暗くして一人で恐ろしい映画を観てると、ゾワッとしたりゾクッてしたりして、怖いとか恐ろしいって感じた事ってないかしら。その時に生じた感情が、私達の呼んでるモノになるんだけど」


 確かに怖くてゾクってなる経験は何度もした事があるな。その時の「こえ~」って感情がモノって事なのか。さっきの例え話の湿気の状態って事か。


「でも、大概の人は恐怖に耐えられなくなったら部屋を明るくするでしょ。すると安心するからもう怖いって感情は消えて無くなってるわよね。そしたら新たにモノは生じて来ないし、漂っていたモノはしばらくすると消えて無くなるのよね」


 ふむ。怖すぎたら確かに照明器具で部屋を明るくするな。そして明るくなったら一気に怖いって感情は無くなるけど、ちょっとドキドキしながら後ろを振り返ったり、そっと扉を開けてみたりして、しばらくは怖がっているかもな。でも、真っ暗だった時と比べたら全然怖くは無くなっているな。


「でね、モノが集まってる場所、例えるなら水蒸気状態の場所ね、そういう場所って何となくイヤな雰囲気の場所だなって感じたり、急に不安を感じたり寒気がしたり体の具合が悪くなったりする人がいるんだけど、たぶん本能的にこの場所から離れろって体がシグナルを発してるんだよね。でも、意思の強い人だとその場にいても何にも感じなかったりするんだけどね」


 ん~、単純に怖がりなのか怖がりじゃないのか、後はオカルト的な事を信じているのか、信じていないのかの違いとかで、人によって差が出て来るのかなあ。でも、魔法でイヤな攻撃を受けない為に、強い気持ちでいれば魔法の効果が無効になるってヤツと似ている気もするなあ。


「でね、私達がモノって呼んでる存在ってさ、人の感情が好きみたいで水蒸気の状態だったらイヤな雰囲気だったり不安にさせるくらいなんだけど、雲に変化しちゃうと人が思い描いている事を目で見える様にしたり、耳で聞こえる様にしたり、匂いを発生させてみたり、状況によっては触れる事も出来る様にして、とにかく人から恐怖の感情を引き出そうとして来るの。後はその場に強く残ってる人の思いや感情みたいな物も見せたり聞かせたりして、怖がらせて来るんだけど、何の為にそんな事をして来るのか分からないのよね」


 一般的に言われている幽霊もしくは怪奇現象そのものじゃないですか。う~ん、人の感情を引き出す為に、色々と仕掛けて来るのかあ。病院にいたスウェットのお兄さんと同じなんだよなあ。って思っていると、山口さんが俺達を見て


「モノは感情を食べてるんじゃないかって言う人もいるけど、私達が感情て言っているだけで、本当は何を吸収してるのかは分からないし、吸収って言ってるけど本当に感情を吸収してるのかも分かっていないのよね。しかも、生き物なのか何なのか正体がまったく分からない存在だったりするんだけど、色々と説明したりするのに名称が無いと不便だから便宜上、私達はモノって呼んでるんだけどね」


 すると山口さんが千春を見て


「そんで、さっきの答えなんだけど。始めは何かイヤな雰囲気ねって感じだったけど、だんだん怖くなって来るじゃない、すると何か音が聞こえた様な気がしたり、人の気配の様な物を感じた気がして、もしかして何か出て来るかも知れないって思ってビクビクし始めるでしょ」


 確かになるな、何かイヤな感じがして部屋の隅とか自分の後ろを振り返って確認したりしちゃうもんな。


 山口さんは千春に


「さっき話した自分の感情が変化したモノと、感情を吸収する為に漂ってたモノが集まり始めてる段階で、まだ水蒸気の状態ね」


 千春が頷くのを確認すると、山口さんは


「今度はかすかに音が聞こえたり何かの影が薄っすらと見えちゃったりすると、一気に恐怖が増して集まってたモノが水蒸気から雲に変化するのね、すると今度は音がしっかりと聞こえて来るし、人影がしっかりと見えちゃったりして、そうなると必死に急いでその場から離れようとするでしょ」


 千春は思い当たる節があるのか、話を聞きながらちょっと苦笑いしていた。俺も話を聞きながら、ほとんどの人ってそんな感じかも知れないって思って、少しニヤけてしまった。


 そんな俺達を見ながら山口さんが


「それでビックリしてその場から必死になって離れる時に、何かにぶつけて怪我したり、ぶつけた拍子に何かが壊れたりって事が殆どで、モノが悪さをしたって言うよりは、慌てた人が冷静な行動を取らなかった為に自分で招いた不幸な結果が多いと思うわよってのが私の答えね」


 て言うと、山口さんはお茶を一口飲んだ。


 千春もお茶を一口飲むと


「えっと、つまり幽霊が悪い事をしてるんじゃなくて、人が勝手に怪我してるだけって事ですか」


「私達はそう思ってるわ。もし本当に幽霊が悪さをしてるのなら、警察や刑務所みたいに、幽霊を取り締まったり悪さをした幽霊を収容する為の施設が無いとダメでしょ」


 あ~、そう言われてみると確かに、人は悪い事をしたら捕まるけど、幽霊が悪い事をして捕まったって話しを聞いたことが無いな。


 千春も言われて気づいた様で、納得した感じだった。

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