表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/97

第7話 沙織と麗奈の魔法

  朝から降り出した雨は、夕方になっても止むことはなく一日中降り続いていた。


 雨が降っているからなのか、外が暗くなるのが早い気がする。


 今は停電で照明が使えないから、教室内は徐々に暗くなり始めていた。


 窓側はまだ大丈夫だけど、廊下側の席は明かりが無いとそろそろ厳しいかもしれない。


 そんな薄暗い教室の窓側、後ろから二番目の席に俺、その後の席に直樹。


 窓側から二列目、後ろから二番目の席、つまり俺の隣の席に千春。そして千春の後ろ、直樹の隣の席に麗奈が座って、机に沙織が腰掛けている。


 俺は沙織に


「んで、沙織達はどんな魔法が使えるようになったんだ」


「私達は麗奈。直樹にアレやってあげて」


「おっけい、直樹君そのままでいいですからね」


 麗奈は直樹に体を向け椅子に座り直した。そして、目をつむり何かに祈る様に胸の前で指を組む。すると直樹の体全体を淡い光が包み込んで、ゆっくりと光が消えた。


 沙織がニヤニヤしながら直樹に


「どう、直樹、分かるでしょ」


 直樹が目を見開いて、腕や足元を見ながら


「ああ、サッパリした、シャワーを浴びたみたいにサッパリした」


 千春が椅子から腰を浮かし、直樹の方へ身を乗り出しながら


「えっ、なにそれってもしかしてクリーン」


 俺もクリーンの魔法を知っていたのに、思いっ切り忘れていた。


 そして、俺もサッパリしたいので麗奈に


「すげーな、俺もお願いしたいぞ」


「おっけい、克也君もそのままでいてね」


 麗奈は俺に体を向け椅子に座り直すと、さっきと同じように目をつむった。そして、胸の前で指を組むと淡い光が俺を包み込み、ゆっくりと光が消えた。


「おおお、本当だ。シャワー浴びたみたいにサッパリしてる」


 麗奈と沙織がハイタッチしている。俺達を驚かせる事に成功してご満悦の様子だ。


 俺は素直に驚いたので


「すげーな、よくこんな魔法を使えるようになったな」


 沙織が胸を張って


「でしょ、でしょ、凄いでしょ」


 麗奈は髪を撫でながら


「お風呂は無理でも、せめてシャワーは済ませたいですからね」


 沙織と麗奈は体全体を使って嬉しさを表現していた。上下に腕を振って体を右へ左へ揺らしながら、変なダンスを踊っている。


 身を乗り出していた千春が、椅子に座り


「そっかあ、クリーンがあったんだよねえ」


「俺もクリーンの事を思いっ切り忘れてたぞ」


 麗奈と一緒に左右に揺れながら、沙織がこっちを見て


「クリーンてなんなの」


「ファンタジー作品の中で、体や衣類を清潔に保つための魔法があって、クリーンってのがあるんだよ」


「へー、そんな魔法もあるのね。そっかあ、体だけじゃなくて衣類もかあ。ねえ、麗奈出来そう」


「うん、大丈夫だと思う。体も衣類も一緒に綺麗にするイメージで、魔法を使えばたぶん出来ると思うよ」


 千春がなんだかちょっぴり悔しそうな顔をしていたので

 

「千春もクリーン使えるようになればいいじゃん」


「うん、風魔法よりクリーンを頑張ろうと思う」


 左右に揺れるダンスを止めて沙織が


「なに、どうしたのよ」


「千春は火魔法と水魔法を使ってお風呂に入って来たんだ」


 沙織と麗奈が目を合わせて何かに気づいたのか


「私は、千春が校舎の窓から火の玉を飛ばしてるのを見てたから、魔法の事を知ることが出来たんだし、こうして私が、魔法を使えるようになれたのは、千春のおかげだよ」


「実際に見てなかったら、半信半疑でこんなに早く魔法を使えなかったと思うよ。だから魔法が使えたのは、千春君のおかげだよ」


「ありがとね、でも僕そんなに落ち込んでる様に見えたのかな。そんな深刻な状態じゃないから。ただ知っていたはずの魔法を思いっ切り忘れてて、そんな自分にビックリした感じだよ。たぶん魔法が使えて興奮しすぎてたんだと思う。いつもならもっと効率の良い行動を取ってたはずだもん」


 俺が勝手に千春が悔しがっているって思ってフォローして、沙織達は千春が落ち込んでいるって思ってフォローしたけど、実際は普段と比べて冷静さに欠けている自分に驚いていたのか。


 人の考えている事って、やっぱ聞いてみないと分からないもんだな。


 麗奈の使える魔法がクリーンって事は分かったけど、沙織の魔法がまだなので聞いてみると


「私はトイレの個室くらいの広さなら、音が外に漏れない魔法よ」


 俺が千春を見ると、千春は察したのか


「サイレントだね」


 やっぱりサイレントの魔法みたいだ。でも何でサイレントなのか気になったので、沙織に


「そんな防音っていうか、音を遮断する魔法って必要なのか」


「必要よ、必要だから頑張って使えるようになったんじゃないのよ」


 沙織は少しムッとした表情で答えるが、何で必要なのかは教えてくれなかった。


 すると千春が、ニヤニヤしながら


「女子って内緒話しとか好きだもんねえ」


 沙織が呆れた表情で


「違うわよ、使う目的が全然違うわ」


 すると麗奈が


「でも、人に聞かれたくない話しをする時には良い魔法かもね」


 サイレント魔法の新たな可能性を見つけたみたいだった。


 沙織が千春に使う目的が違うと言っているが、その目的ってのが分からなくて俺は首を傾げてる。


 沙織は眉間に皺を寄せてこめかみを押さえていた、隣で麗奈は困った表情をしている。


 直樹に目配せするが首を傾げている。同じく千春に目配せするが、両手の平を上に向け首を傾げている。


 男子はお手上げみたいだ。でも、サイレントの使用目的は特に気にはならないので、俺は他に気になった事を沙織に聞いてみる。


「他にどんな魔法が使えるようになったんだ」


「麗奈はクリーンで私はサイレントだけよ」


 麗奈の体を綺麗にしたいって事でクリーンは分かる気はするが、沙織は音を遮るだけの魔法に情熱を注いだのか。


 俺は思わず沙織に


「クリーンは分かるがサイレントだけって」


 むすっとした表情で沙織が


「なによ、なんか文句あるの」


 暗い時に便利な光の魔法を使えるようになった俺は、音を遮るだけの使用目的が良く分からない沙織に対して、ちょっと勝った気分になった。


 俺は沙織を見下す感じでライトボールを発動し


「俺は光で夜の闇を、明るく照らす事が出来るのに」


 千春に目配せすると、ファイアーボールとウォーターボールを発動させて


「僕は水で喉の渇きを癒し、炎で冷えた体を温めることが出来るのに」


 直樹は左右の腕に身体強化を発動し


「ふん」


 でっかい力こぶを作った。


「筋肉でっかくする意味ってなんなのよ」


 沙織が顔を赤くさせて直樹の腕を指さしていた。


「麗奈戻るわよ、男ってデリカシーが無くてホント子供だからイヤよ」


 急に沙織が怒り出して、教室を出て行った。結局沙織のサイレントの使用目的は不明のままだったけど、そのうち分かるのかな。


 夜になり暗くなった教室では、俺のライトボールが大活躍し、クラスメイトからは大いに感謝された。


 そして、停電発生から三日目の夜は過ぎ、俺達は四日目の朝を迎える。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ