第66話 夜ごはん
小学校を襲撃して来た物騒な連中の鎮圧と、ヒトデナシの駆除が終わる頃には夕方になっていた。
物騒な連中は学校から徒歩で七、八分程度の場所にある警察署へ人数が多かったので数回に分けて連行された。襲われた人達なのか、連行されるヤツ等をみて罵声を浴びせたり、石を投げたり唾を吐きかける人達がいた。そんな元気があるのなら、荒らされた校庭の片付けを手伝ってくれって思った。
ヒトガタは学校の教室で一時的に保管する事になった。後日、消防署か病院もしくは近くのお寺さんに移動させる予定との事だが、最終的にどこに移動させるのかはこれから検討するとの事だった。
警察や消防の人達や、一部の避難者達と協力してヒトガタを移動していたのだが、殆どの避難者は体育館や学校の校舎で休んでいた。
怪我して動けないとかなら分かるけど、魔法で怪我は治っているんだから、休んでいないであんたらも手伝えよって思った。それに警察や消防の人達も襲撃されて重傷だった人もいたはずだし、手伝っている一部の避難者の中にもボロボロだった人はいたはずだ。
物騒な連中に襲われてショックなのかも知れないけど何もやらないでただ眺めているだけの大人達を見ていたら、何故か心がざわついてイライラして来た。
夜になってようやく飲食兼休憩エリアと調理エリアの片付けが終わった。ただ、体育館や学校の校舎は、壁や備品が破壊されていたりガラスを割られたりしたので、完全に片付けが終わるには、もう少し時間が掛かりそうな感じだった。
飲食兼休憩エリアは、壊れたテーブルと椅子を撤去したので規模が縮小されていた。いつもならば色んな人達でちょっぴり騒々しいんだけど、今夜は食事をしている人が少なかっし、大きな声で会話をしている人がいなかった、そして笑い声も聞こえては来なかった。
だからなのか、飲食兼休憩エリアは全体的にどんよりとしていて、くら~い感じの雰囲気だった。仮設テントや簡易かまどが壊れてしまっていたので、調理エリアの規模も縮小されていた。なので、今夜はいつもよりも炊き出しのメニューが少なかった。
でも、メニューが少なくたって何も不満は御座いませんって感じだった。俺としてはツライ事があったのに調理をして頂き、本当にありがとうございますって感謝の気持ちでいっぱいだった。
沙織達は校舎で病院からの避難者の身の回りの手伝いをしてくるそうで、俺達に夜は先に済ませててって言うと、校舎に向かった。なので、お腹がペコペコだった俺と直樹と千春は、沙織達を待たずにお言葉に甘えて先に食事を済ませる事にした。
「僕はずっと生徒達といたから、ほとんど外の様子を見てなかったんだけど」
千春は一度辺りを見回して
「けっこう酷い状況だったみたいだね」
俺はカレーを頬張り
「だな、それに千春は校舎で簡単な片付けと掃除だったんだろ、外と比べたら校舎内はそんなに酷くなかったって話しだしな」
千春はお粥をフーフー冷ましながら
「一階と二階は荒れてたみたいだったけど、三階と四階に関しては怪我人は出たけどヒトガタは発生しなかったからね」
俺は福神漬けをスプーンで掬いながら
「ヒトガタが発生してないって事は、命を落とした人がいなかったって事だから、やっぱ被害は少なかったんだな」
直樹がシチューを頬張りながら
「良かったな。知らない人だとしてもヒトガタを見るのはツライからな」
すると、千春が急に魔法障壁を展開させた。
「気にはしてたけど、僕たちって抑えてるつもりでも、意外と声が大きくなってたかも」
俺は千春の周りへの配慮に気づき
「なるほど、サイレントを発動させたのか」
千春は片目を閉じて
「うん、一応ね」
と言って、お粥を口に運んだ。
〇
学校の校舎の一階は、警察や消防の人達が待機場所として利用していた。なので、校舎に物騒な連中が侵入した時は、一階に待機していた人達が直ぐに応戦したんだそうだ。
でも、物騒な連中が何の躊躇も無く襲って来たので、校舎内での戦闘はそうとう激しかったそうで、学校の校庭や体育館が大変な事態になっていても、直ぐには駆け付ける事が出来なかったんだそうだ。
一階で抑え切れなくて二階に移動した物騒な連中を、たまたま二階で会議をしていた警察や消防の人達が応戦し、職員室にいた教師達も駆け付けて、物騒な連中の相手をしていたんだそうだ。そして、状況確認の為に三階から職員室に向かった白沢先生も参戦して、二階で物騒な連中の相手をしていたらしい。
そんで、二階でも抑え切れなくて三階と四階に移動して来た物騒な連中は、麗奈と西條さんが、一階と二階から駆け付けた大人達と協力して、応戦していたんだそうだ。
千春がお粥をレンゲで掬うと
「そしたら急に沙織ちゃんが、うっちーのとこに行くって言って校舎の窓から飛び降りたんだよね、ビックリしたよ。でも、生徒達は喜んでたけどね。んで、それから少して麗奈ちゃんと西條さんが、小田先生と教室にやって来て四人で話してたんだけど、校舎内の物騒な連中が片付いたみたいで、麗奈ちゃんと白沢先生が校庭に向かったんだよね」
俺は校舎内の出来事が気になっていたので、千春に聞いてみたが、外も大変だったけど校舎内もそれなりに大変だったみたいだ。俺は調理エリアで物騒な連中を早く何とかしてくれない大人達に、チャンと働けよって思っちゃっていたから、千春から話しを聞いて、校舎内で頑張っていた大人達に対してごめんなさいって感じで、少し申し訳ない気持ちになった。
千春がお粥を冷ましながら
「三階から飛び降りても大丈夫な肉体って凄いよね。そのうち沙織ちゃんも、なおっきーみたいに角が生えて来るのかな」
直樹が苦笑いしながら二杯目のシチューを食べ始めていた。
千春が直樹の角を見た時は予想通りテンションが上がって、ずっと格好良いなあとか、羨ましいなあって、目をキラキラさせて言っていた。そして、何故だか麗奈と白沢先生もテンションが上がっていて、直樹の角を触りまくっていた。
麗奈はちっちゃい角が可愛いって言っていたし、白沢先生は何だか凛々しくて格好良いわよって言っていた。
そんな直樹は角については謎だけど、とりあえずみんなが角で喜んでくれているのだから、まあいっかって感じになったみたいで、みんなが角を触りやすい様にわざわざしゃがんで、みんなの気が済むまで角を触らせていた。
千春がお粥を口に運んで
「もしかしてさ、なおっきーって僕らには隠してたけど、実は鬼の一族とか両親が鬼だったとか」
すると、直樹がシチューを食べるのを一旦止めて
「いや、いたって普通の家系だし両親に至っては普通に人間だぞ」
千春がお粥をレンゲで掬うと
「え~そうなんだあ。てっきりばれると騒がれちゃうから秘密にしてるのかと思ったよ。でもさ、何か特別な家系とか実は歴史的に有名な一族の末裔とかって、格好良くって羨ましいって思っちゃうよね」
直樹がシチューを掬い
「いや、普通が良いと思うぞ。特別ってだけで色々と比較されるから、イヤな事の方が多いと思うぞ」
あ~、確かに血縁者が偉大な人だったり著名人だったりすると、あの方は数々の偉業を成したのに、君は何も役に立っていない、って言われそうだし、悪い意味で有名な人が血縁者だったりしたら、君もあの人と同じなんじゃないのか、って言われて面倒くさいかもなあ。
千春がお粥を冷ましながら
「でも、特別ってだけで、周りのみんなから称賛されたりするじゃんよ」
直樹がシチューを見つめながら
「特別な家系だからとか、家が金持だからとか、親が会社の社長だからとかって、ちやほやされても、自分自身を称賛している訳じゃ無いからな」
だよなあ、もし自分の家が金持ちっだったら、俺も親から色んな物を買ってもらえたんだろうなって思って羨ましいけど、相手に対しては色んな物を買ってもらえているから、ズルいとか妬んでいるだけなんだよな。
結局、生まれた環境や育った環境に対して羨ましいって感じているだけで、本人に対しては羨む気持ちじゃなくて、妬む気持ちしか生まれて来ないんだよなあ。
後は、自分が凄いんじゃ無くてご先祖さんが凄いのに、自慢して来くるヤツとかいるな。自分の事じゃなくても、きゃ~すご~い、とかって言われたいのかなあ。まあ、そこの家に生まれて来なかったら、末裔にはなれなかったんだもんな。そんな人には「たまたまそこの家に生まれて来れて良かったですね」って感じだな。
直樹は千春を見て
「ただ、自分の能力や成果を称賛してもらえたら、もちろん嬉しいぞ」
と言うと、シチューを頬張った。
千春はお粥を口に運んで
「そっかあ、そうだよね。じゃあ、なおっきーの角は遺伝じゃなくて小田先生が話してた、意思の力で変化したのかなあ」
俺はカレーを掬って千春に
「ん、千春も小田先生とその話したのか」
「うん、色々話しをしたよ、プラシーボ効果やノシーボ効果とかね。でもさ、お医者さんだからなのか、大人だからなのか、あの人なんか凄いよね」
「ああ、俺も思った。物の見方が違うっていうか、発想力というか、とにかくもっと色々な話しを聞きたいって思わせるような、大人の人だったな」
すると直樹が
「気がついたら生えてたから、その意思の力が関係しているかどうかは分からないぞ」
俺は直樹に
「まあ、小田先生が暇な時にでも診てもらおうぜ」
直樹はおでこに生えた角を触りながら頷いていた。
「だね、お医者さんだから何か分かるかもしえないしねえ」
って言って、千春はウンウンと頷くと俺達に
「ね~、ちょっと見てみて~」
見ると千春がお粥の入った器とレンゲを宙に浮かせていた。俺は宙に浮いている器とレンゲを見て、千春に
「ん、それがどうしたんだ」
直樹は一度は千春の方を見たが、またシチューを食べていた。
「ちょっと~、物が宙に浮いてるんだよ、もっと驚いてよ」
少し千春がすねていた。俺は直樹に目配せすると頷いたので、千春に
「おっけ~、分かった、やり直しだ」
すると、千春が
「ね~ね~、ちょっと見てみて~」
千春は嬉しそうに両手を広げて、上下左右に動かしながら、またお粥の入った器とレンゲを宙に浮かせていた。
俺は目を見開いて
「ちゅっ、宙に浮いてるぞ」
って言って、スプーンを手放して下に落とした。
直樹も目を見開いて
「どっ、どういうこっちゃ」
って言って、スプーンを手放して下に落とした。
すると、千春は一度目をつむり口元に笑みを浮かべると
「ついに僕は覚醒してしまったんだよね」
って言うと、顎に手を当て得意げな表情を浮かべて、俺達を見ていた。




