第63話 親指くらいの突起物
体育館で逃げ惑う人達を助けたり、ヒトデナシやヒトガタと戦闘をして精神的に参っていた直樹だったが、体の傷も心の傷も癒された様なので、俺はずっと気になっている事を聞いてみた。
「ところで直樹、なんで角が生えてるんだ」
直樹は右手で頭頂部を擦りながら
「どこだ」
俺は直樹のおでこを指さして
「いや、そこじゃ無くておでこだ、生え際付近だ」
直樹は右手でおでこを擦り角に触れると、目を見開き左手も使い両手で左右それぞれの角を指で摘まんだ。すると、目をパチパチさて
「なんだ、これ。抜けないぞっ」
直樹が床を見つめて無言になる。すると直樹の顔が赤くなり、手の甲や腕に血管が浮き始めた。角をむしり取ろうとしているのか、かなり力強く角を摘まんでいる様子だった。
直樹は角を摘まんだまま目を見開き
「全く、抜ける気がしない」
すると、今度は身体強化の魔法を発動させて、歯を食いしばり再び角をいじり始めた。しばらくすると、角を摘まんだまま、また目を見開いて
「引っ張ると、根元が痛むぞ」
そして、直樹はウンウン唸りながら角と格闘し始めた。体のでかい直樹が、体を丸めて角を摘まんで唸っている姿を見ていると、吹き出して笑いそうになるが
「それって、やっぱり角なんじゃね」
って言うと、直樹は身体強化の魔法を解除し角から手を離すと、俺を見て
「なんで、角が生えてるんだ」
何故か涙目で聞いて来た。俺は吹き出しそうになったが、グッと堪えて
「いや、分からん」
すると、直樹は腕を組んで俯くと考え込んでしまった。
角が生えているからなのか、普段の直樹の数倍は見た目が恐ろしくなっている。こんな時に不謹慎なのかも知れないが、早く千春にオニ直樹を見せてやりたい。
沙織の事が気になったので見てみると、床に倒れている人の近くで数人の大人達と言い争っている感じだった。
体育館内を見回すと、刃物を振り回しているヤツに対して五人の大人が、まだ説得をしていたが、ヒトデナシの姿はもうどこにも見当たらなかった。避難者達は隅の方で座り込んでいる人達もいたけど、散らかった段ボールを片付け始める人やヒトガタを縛る手伝いをしている人達もいた。
怪我をしていた警察や消防の人達が復活したみたいで、周りの人達に色々と指示を出しながら、作業をしている感じだった。
腕を組んで考え込んでいる直樹に、沙織を迎えに行こうと伝えると、深く考え込んでいたのか、声を掛けたら一瞬肩をビクッとさえて
「ああ、そうだったな」
と言って立ち上がり、沙織の方を見ると
「何か揉めてるのか」
俺も沙織の方を見て
「みたいだなあ」
面倒くさい事じゃなければ良いんだけどなって思いながら
「とにかく、行ってみようぜ」
と言って、大人達と言い争っている沙織の方に直樹ともに向かった。
〇
「何でダメなんですか、怪我して苦しんでるんですよ」
「吉田ちゃんが治す必要は無いよ」
「俺達が後で治すから、吉田ちゃんは放っておいて良いよ」
「後は俺達がやるから、もう休んで良いよ」
沙織が体格の良い大人と言い合っていた。
「何してる、早くぶっ殺せ」
「殺してしまえ」
「こんなヤツは死んだ方が世の為になるってもんよ」
「でも、苦しそうじゃないですか」
眉を吊り上げて怒っている人達とも、沙織は言い合っていた。
たぶんだけど、さっき襲って来たヤツが怪我していて、沙織は治療を施したいけど周りに止められているって状態なのかな。酷い言葉を吐いている人達が、今にも怪我人に飛び掛かりそうだけど、体格の良い大人達が怪我人の前に立って遮っている感じだった。
「オニ型を駆除してくれたし、俺達の怪我も治してもらった。それだけでもう十分だよ」
「危なかったけど、本当に助かったよ。ありがとうな」
「後は俺達に任せてくれ」
「でも、その人すっごくツラそうですよ」
沙織が床に倒れている人を見て、困惑した表情を浮かべている。
体格の良い大人達は警察や消防の人達なのかな、だったらヒールも使えるだろうし、後は大人達に任せれば良いのになあ。
「もっと苦しめば良いんだ」
「いい気味だ」
「自分のしでかした事を後悔しながら死んじまいな」
「なんで、このままだと本当に、早く治療しないと」
倒れている人に酷い言葉を浴びせている人達を見て、沙織が更に表情を曇らせていた。
怒っている人達は避難者なのかな、襲って来た連中に対して思う事があるんだろうけど、ちょっと見てい気分が悪くなる感じだった。
警察や消防の人達が近づいて来た直樹に気づくと
「おお、森下」
「おっ、治ったのか」
「森下が二体のオニ型を相手してたから何とか粘れたが、結果的には吉田ちゃんの活躍で駆除出来たよ」
直樹が警察や消防の人達に軽く頭を下げながら
「お疲れ様でした。俺もけっこうギリギリでした」
どうやら直樹と一緒に、物騒な連中から避難者達を守っていた人達のようだった。
「おお、荒神様だ」
「鬼神様だ」
「ありがとうございました」
眉を吊り上げていた人達が、表情を緩めて直樹に丁寧に頭を下げていた。
直樹も頭を下げると
「皆さんも無事で良かったです。ただ、力不足ですいませんでした」
すると、避難者達は一斉に両手を突き出し顔を引きつらせながら
「ああああ、頭を上げください」
「やめてください、頭を上げてください」
「あなた様のお陰で今の俺達があるのです。どうか頭を上げてください」
直樹が避難者達から物凄い丁寧な扱いをされている。物騒な連中から必死になって守っていたんだもんな、助かった人達はそりゃ~直樹を神様みたいに崇めたくもなるよなあ。
沙織は俺と直樹が来て一瞬ホッとした表情をしたが、避難者達の変わり様に驚いている様子だった。
俺は大人達に
「俺達は少し休ませ貰いますね、後は皆さんにお任せしても宜しいでしょうか」
すると、警察や消防の人達が
「もちろんだよ」
「ああ、ゆっくり休んでくれ」
「森下も吉田ちゃんも、ありがとな」
沙織が俺を見て何か言おうとしていたので、俺は沙織の腕を掴み
「ここは大人達に任せて俺達は少し休むぞ」
と言って、歩き始める。直樹を見ると頷いて着いて来た。
沙織が俺に腕を引っ張られながら
「急に何なのよ」
と言って、歩き始める。
体育館の壁まで移動すると沙織が不貞腐れた表情で
「どうして任せるのよ」
俺は近くに人が居ない事を確認して
「そんな事より直樹を見てみろ」
「何なのよ」
と言って、沙織がムスッとした表情で直樹を見ると、直樹がおでこを指さして
「角が生えたぞ」
沙織が目を見開いて
「何それ、触っても良い」
直樹が返事をする前に角を摘まんだ。
ふむ。思っていたとおり、沙織は単純な思考回路の持ち主だった。




