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第62話 体育館

 直樹が左腕を押さえながら俺を見ると


「格闘技経験者が相手だと、手こずるぞ」


 ここまで傷だらけの直樹を見るのは初めてだった。とりあえず、直樹と合流は出来たしオニ型は駆除したので、俺は直樹の左腕を見ながら


「なかなか骨の折れるバトルだったみたいだな」


 ちょっぴり冗談交じりに言うと、直樹は緊張の解けた穏やかな表情になり、左肩を少し上げて


「ふっ、実際に折られたんだけどな」


 と言って、苦笑した。


 沙織の事が気になったので見てみる。床に倒れている人達にヒールを発動していて、既にオニ型の駆除は終わっている様子だった。


体育館内を見回すと、三人の大人が刃物を振り回しているヤツに対してまだ説得をしていた。鉄パイプと刃物を持って喚いていたヤツは、スキンヘッドのヒトデナシに変化していて大人達と交戦中だった。まだヒトデナシの駆除が終わっていないけど、危なくなったら沙織がいるから何とかなるだろう。俺は早いとこ直樹の治療をしちゃおうかなって思っていると


「駆け付けた時には既に何人か血だらけだったし、倒れてる人もいた」


 直樹が床に倒れて縛られている人を見て


「奇声を上げながら刃物で斬りかかって来たり、鉄パイプやハンマーをフルスイングしてたヤツもいたから酷い状況だった」


「あれってヒトガタをロープで縛ってるのか」


「気づくと動き出して抱き着いて来るからな」


 俺も抱き着かれて危ない目にあったもんな、絶命して動き出すって厄介だよな。体育館で何があったのかは後で聞くとして、俺は直樹の背中に刃が半分くらいまで突き刺さったままの鎌を見て。


「とりあえず、鎌を抜くから座ってくれ」


 直樹が気の抜けた顔をして


「カマ」


 って言って来たので


「背中に鎌が刺さってるんだけど、気づいてないのか」


「必死過ぎて分からなかった、言われてみると背中が痛むな」


 背中が痛むのか左腕が痛むのか、直樹は少し唸り声を上げて胡坐になると


「逃げ惑う人達を守りながら、襲って来る連中を相手にするのは、本当に骨が折れた」


 またその件か、でも今回は左腕の事はスルーして直樹の傷の具合を確かめる。


「刃物でやられた傷が目立つな」


 打ち身なのか腫れて内出血してる個所があるけど、それよりも背中や横っ腹、腕にも足にも刃物で斬られたのか、刺されたのか出血している傷が複数個所あり、身体強化で筋肉量を増やしていなかったら、腹部の傷は内臓まで届いていたのかしれないって思うとゾッとした。


「横からとか後ろからとか、囲まれた状態だったし威嚇とか牽制じゃなくて、何の躊躇も無く襲って来たからな」


 俺は直樹の後ろに立ち、鎌の柄の部分をそっと握る。そして、傷口を広げない様に注意しながら、ゆっくりと背中に刺さった鎌を引き抜いた。


 直樹が体を硬直させて「ぐぎぎ」って小さく声を漏らし、血にまみれて真っ赤になった鎌の刃が、ヌ~ルって感じで引き抜けた。


 刃を抜いた傷口からドクドクと大量の血が流れ始めたので、俺は傷口が消毒されてから傷が塞がる事をイメージして、ヒールを発動させた。傷口からの出血は止まり直ぐに傷は塞がった。


 手に持っていた鎌を足元に置き、刃が思っていた以上にデカいというか、長かった事に驚いた。刺さりどころが悪かったら不味かったし、直樹は肉体強化をしていて正解だったかもな。って思っていると


「おっ、痛みが引いた」


 直樹は顔だけ横に向けて、見えないのに背中を見ようとしていた。


 俺は直樹の正面に移動して


「じゃあ、次は左腕だな」


「うっ、動かすと、響くな」


 体を右に少し倒した直樹が、苦痛に顔をゆがませて左腕を俺に差し出して来た。


「当たり前だろ、ムリしないでそのままの体勢で良いから、ラクにしてろよ」


 直樹はゆっくりと変な方向に曲がった腕を下して


「たっ、頼んだ」


 と言って、眉間に皺を寄せて痛みに耐えているのか目をつむって、荒くなった呼吸を整えていた。俺は直樹の左腕が元通りに治る事をイメージして、ヒールを発動させる。曲がった腕が元の位置に戻り腫れが引いた。


「おっ、お~、助かった。本当に魔法って便利だな」


 手を握ったり開いたりしながら、直樹は肘を曲げたり伸ばしたりし始めた。


 直樹の様子を見てると左腕はもう問題なさそうなので、体中の切り傷や刺し傷にも鎌の傷と同じで、傷口が消毒されてから傷が塞がるイメージで、ヒールを発動させるかなって考えていると


「なあ、かっちゃん」


 直樹がいつもと違う雰囲気で


「俺さ、もしかしたら襲って来たヤツ等の何人かは、殺っちゃったかも」


 と言いながら、床に倒れてロープに縛られているヒトガタを見つめていた。


 ん~、ヤツ等は殺めるつもりで襲って来たんだし、逃げ惑う人達を助ける為だったんだから、別に良いんじゃねって思って直樹を見ると、さっきまで気づかなかったんだけど、おでこの生え際に親指くらいの突起物が生えていた。


 額から血が出ているから何かで殴打されてタンコブが出来たとのかなあ、でも、どう見てもタンコブって感じではないんだよなあ。先が尖がった突起物はコブって言うよりかは、最近目にするオニ達の角の様に俺は見えた。


 直樹はゆっくり体育館を見回し


「逃げる人達を斧や鉄パイプで殴ろうとしてるし、刃物を持ったヤツが馬乗りになって、めった刺しにしようとしてたりして、早く助けないとって必死になるうちに手加減なんて出来なかった」


 一瞬、直樹がオニに変化しちゃうって思ったけど、我を忘れている訳では無いし、直樹は普通に話しをしている。


「今回はハッキリ言って見ず知らずの人達だった。でも、俺の身近な人達が突然襲撃されて、目の前で命を落としたら。たぶんだけど、俺も体育館にいた警察や消防の人達みたいに、我を忘れてヒトデナシになってしまう気がする。それに、強盗達を撃退するはずの人達が、ヒトデナシになって逃げ惑う人達を襲う姿は見ていて本当に、ツラかった」


 直樹が戦っていたオニ型は警察や消防の人達だったのかな。人を捕まえるプロと戦っていたんだから、そりゃ~腕の一本くらい持って行かれちゃうよなあ。


「そのうち避難者達が、強盗から奪った凶器を使って争い始めた。どっちの味方をすれば良いのか分からなくなって、それでも逃げ惑う人達を助けたくて、ヒトデナシを駆除してたんだけど、警察や消防の人達がヒトデナシに変化してたし、ヒトガタになった人達が抱き着いて来たりして、ヒトデナシやヒトガタになった理由を知っていたから、駆除するのが正直ツラかった」


 ん、これって直樹は自分を責め始めているのか、このままだと青オニ型に変化しちゃうんじゃないのか。俺は今、直樹にはどんな言葉を掛けるべきなんだ。


「なあ、かっちゃん。俺がもしヒトデナシになったらそん時は頼むな。それと、もし俺がヒトガタになっても、かっちゃん、変に迷ったりしないで頼むよ」


 確実に直樹が精神的に参っている。こんな時って何て言葉を掛ければ本人の気持ちがラクになるんだ。このままだと本当に直樹が青オニ型になっちまう。


 俺は少し焦りながら直樹の打ち身、捻挫、擦り傷、切り傷、刺し傷、もう全ての外傷が治って、気持ちも落ち着つく様に強くイメージしてヒールを発動させた。


 突然ヒールを発動されて驚いたのか、直樹が振り向いた。


 俺は直樹の目を見ながら


「俺も直樹と同じ状況だったら逃げ惑う人達を助ける為に、襲って来た連中を全力で排除したと思う。それに相手の命を奪ってしまったとしても、誰かの命を救ったんだから良しとする。そんで、何か理由があったとしても何の躊躇も無く人を傷つけて来る様な連中に、手加減なんて必要無いと思うぞ。俺達を殺める気で襲って来るんだから、俺達だってそれなりの覚悟で撃退、もしくは返り討ちにしてオッケーだろ」


 ヒールで傷が癒えたからなのか、気持ちが落ち着く魔法の効果なのか、直樹の顔色が良くなった感じがする。


「俺から言わせてもらえば、逃げないで抵抗するとか、嘆いてないで立ち向かってれば、もっと助かってた人がいたんじゃないかって思う。弱い立場だから何も出来ません、だから強い立場の人達に何とかしてもらおう、って考え方は好きになれない」


 直樹は俯き床を見ていた。


「それに逃げ惑う人達を何とかしなきゃって思うのは、もしかしたら無意識のうちに、ちょっと格闘技が出来るからって俺達は調子に乗ってたのかも知れない。俺達なら逃げ惑う全ての人達の事を助けられるって、ちょっと自分の事を過大評価しちゃって自惚れてたのかも知れない」


 まだ血だらけの直樹にクリーンを発動する。


「何か問題が発生したら解決しないとだけど、全ての問題を滞り無く解決出来るほど、俺達は万能じゃ無いぞ、それに大人達が頑張るんだろうから、面倒な事は大人達に任せちゃえば良いんだよ。だから直樹は俺みたいにもっと面倒くさがり屋になるべきだ」


 直樹はまだ床を見つめていた。


「ヒトデナシに変化した警察や消防の人達や、助けが間に合わなくてヒトガタになった人達の心境を考えると、辛くなるのも分かる。でも、駆除しないと残った人達が大変な思いをするじゃんか、だったらそれこそ心を鬼にして駆除するしかないよな。直樹が傷だらけになって頑張ったんだから、助かった人がいたんだし、ヒトデナシも駆除出来たんだから胸を張って良いと思うぞ」


 俺はクリーンでサッパリした直樹の肩に手を置いて


「だから直樹が自分を責めて傷つく必要は無いと思う」


 直樹がこっちに顔を向け何か言いそうになったが、俺は話しを続けて


「そんでな、直樹に頼み事なんだが、俺がもしヒトデナシになったり、ヒトガタになった時は、キツイかも知れないけど」


 俺は直樹に握り拳を突き出して


「直樹が俺を駆除してくれよな。俺も直樹を駆除するからさ」


「ありがとな、かっちゃん」


 直樹も拳を握って、俺の拳に軽くコツンっと当てて来た。


 直樹はもう大丈夫そうなので俺は


「ところで直樹」


 ずっと気になっている事を聞いてみた。


「なんで角が生えてるんだ」

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