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第57話 囚われていた時

 病院からの避難者は体育館に寝泊まりする人達もいれば、学校の校舎内で寝泊まりしている人達もいる。


 精神的ダメージが低く、身の回りの事が出来る人達が主に体育館を利用していて、まだ集団の中での生活が出来ない、精神的ダメージが大き過ぎて心の傷が回復していない人達が、校舎を利用していた。


 沙織達は校舎に避難している人達の身の回りの手伝いや、可能であれば他愛のない会話をして、心に傷を負った人達のケアに当たっていた。そんな沙織達は手伝いがひと段落したらしく、かなり遅い昼食を取り始めていた。


 小田先生が沙織達に


「どう、あれから医師や看護師達の中にもヒールが使用出来た人はいたかしら」


 西條さんがシチューをスプーンでかき混ぜながら


「損傷個所からの出血が止まる程度だったり、手をかざすと発光はするけど効果はみられないとかですね」


 沙織が焼肉を頬張る前に


「クリーンやサイレントは殆どの方々が使用可能になったのですが、ヒールに関しては難しいみたいでした」


 麗奈がパスタの麺をフォークに絡めながら


「でも、クリーンとサイレントが使えるだけでもかなり負担の軽減になるって、皆さん喜んでましたよ」


 小田先生が腕を組んで天を仰ぐと唸りながら


「う~ん、やっぱり難しいのかも知れないね~」


 午前中に沙織達は小田先生と既に自己紹介は済ませていて、小田先生と一緒に、医者や看護師さん達に魔法を教えていたようで、小田先生は校舎を離れてからの状況を沙織達から聞いていた。


 沙織が焼肉をモリモリ食べながら


「あかね先生が、停電してからどうしてもクラスに馴染めなかった生徒が、患者さんの身の回りの手伝いを率先する姿を見て、複雑な心境よって言ってました」


 麗奈がパスタを一口食べて


「そういえば、何人かの患者さんが子供達が頑張ってるんだから、いつまでもふさぎ込んでちゃダメだよねって元気を貰ってましたね」


 西條さんがシチューを見つめながら


「あっそれ、私も見てた、大人も子供も辛い状況なのに前向きに頑張ってる姿を見てて、すっごく胸が熱くなったなあ」


 小田先生が腕を組んだまま、顔を戻すと


「弱っていると自分自身で心の整理をしたり、立ち直るのが困難だったりするんだけど、そういった感じで外部からの刺激がきっかけで回復したりもするから、大人も子供も良い傾向に向かって良かったねえ」


 すると沙織が俺を見て


「だけど、どっかの誰かさんは胸を見て鼻の下を伸ばしてたもんね」


 むむむ。もう俺に関しては放置にしといて、みんなは楽しく食事をしていれば良いのにな。俺を話題にしなくて良いのになあ。


 続いて麗奈が


「男子はどうしてもそこに目が行っちゃいますもんね」


 そして西條さんが


「本能みたいな物で仕方のない事なのかしら」


 小田先生が組んだ腕を解いて


「ふふふ。アレに関しては川内君へのご褒美なんだから、彼を責めないであげてね」


 沙織が呆れた感じで


「もっと違うご褒美は考えなかったのですか」


 麗奈は困った感じで


「そうですよ、なぜ胸の鑑賞をご褒美にしたんですか」


 西條さんはシチューを頬張りながらウンウン頷いていた。


 小田先生は姿勢を正して


「川内君には、ご褒美である私の胸に顔を埋める行為は既に済ませてるので、鑑賞はオマケみたいなもんだよ」


 小田先生、別にそれって言わなくても良い事ですよねえ。何で言っちゃうんだろうか。女子三人の視線が痛い。すっごく見られているって言うか睨まれている気がする。


 すると、小田先生がスッと椅子から立ち上がり


「ちなみに私は」


 腰に手を当てて胸を張ると


「ノーブラです」


 って言い放った。すると女子三人が同時に


「ぶぅっ」


「べぇっ」


「ぼぉっ」


 食べ物を吹き出した。


 沙織が手の甲で口元を拭いながら


「そっ、そこまでしなくても」


 麗奈が口元をハンドタオルで拭きながら


「やり過ぎですよ」


 西條さんもハンドタオルで口元を拭きながら


「もっと、大事にしましょうよ」


 小田先生が腰に手を当てたまま


「ふっふっふっ。だってボロボロだった私を助けてくれたんだよ」


 肩を動かしながら、また胸をゆらし始めた。


 俺は沙織達の事を忘れ、目の前で揺れている見事な胸に心を奪われてしまっていた。


 小田先生は更に胸を激しくゆらして


「助けて貰えなかったら私の胸は切り刻まれていたからね。ほ~ら、ほら。こんなにゆれたりは、しなかったんだよ~」


 激しく揺れている胸に意識が集中していたので聞き間違えたのかも知れないが、今、切り刻まれたって言ったよな。女子三人を見ると深刻な表情に変わっていた。


 小田先生が三人の表情の変化に気づいて、一瞬ハッとした表情をすると、沙織達に両手の平を向けてパタパタ振りながら


「あ~、そんな顔はしないでえ。私の中では既に終わった事だからね」


 と言うと席に座り


「それに体の欠損部は全部元通りになってるし、損傷個所も全て治ってるからね」


 と言って、お茶を飲み始めた。


 う~ん、ご褒美に関しては素直に嬉しくて有難いのだが、胸を切り刻まれるとかって物凄く辛い出来事なんじゃないのかな。何でそんなに明るく振舞えたり、話したり出来るんだろうか。女子三人を見ると相変わらず浮かない表情で俯いていた。だよなあ、普通に考えたら当事者じゃなくても、話しを聞いただけで気が滅入るよなあ。


 チラッと小田先生を見ると、特に無理して明るく取り繕っている様には見えない、今は女子三人の暗くなった雰囲気に困っている様子だった。


 小田先生は仕方ないわねって感じの表情をすると


「えっとね、怒りや悲しみの感情が最高だって言ってた彼ね、色々と私にやって来たけど。所詮素人って言うか、私たっだらもっと違うやり方をしてたと思うのよ」


 女子三人が小田先生に目を向ける。


 小田先生は三人が話しに耳を傾けた事を確認すると


「たぶんだけど、映画やドラマとかの残酷なシーンとかコミックや小説とかの気分が悪くなる様な描写を真似て、何とかして私達から感情を引き出そうとしてたんだと思うのよ」


 流石にその時の状況を思い出したのか、小田先生の表情が少し暗くなる


「髪を毟ってみたり、耳を引き千切ってみたり、骨を折ってみたり、関節を砕いてみたり。全ての爪を剥いだり、指をペンチで潰したり、前歯や奥歯をペンチで引っこ抜いたり、アキレス腱をハサミで切断したり、舌をハサミで切ったり、肩や背中の皮膚を剥がしたり、瞼を切り取ったり、鼻の穴にペンを差し込んだり、胸をハサミで切り刻んだり、陰部を傷つけたり、ヤギに私を襲わせたり」


 お~い、小田先生。スッゲー壮絶な体験じゃないですか。映画や小説だったとしてもそんなシーンは見たくないし読みたくもないですよ。作り話じゃなくて今話している小田先生がされていた事だから、聞いてるこっちが辛くなって来るじゃないですか。沙織も麗奈も西條さんも女子三人の顔色が悪くなっちゃってますよ。


「でもね、所詮その程度の事って感じちゃうのよね。そりゃ~もちろんやられたら、すっごく痛いし、ひ~、もうやめて~って感じだったわよ。でもね、映画のシーンや小説とかの描写ってある程度の規制が設けられてるから、人体の構造とか機能を知ってる私からしたら、痛いけど怖くは無いのよ。だって私ならもっと酷い事を考える事が出来るからね」


 確かに、小田先生は医者だから人体についての知識も豊富だし、医者としての経験も蓄積されているから、その豊富な知識と経験を使って時間を掛けてじっくりと、相手の身体に壮絶な痛みを味わわせながら、破壊する事は容易なんだろうな。


「たぶん彼の元々の性格は普通の人だったんだと思うの、だから相手の感情を引き出すにも、今までに観て来た事しか思いつかなかったんだと思うのよ、でも世の中には精神や脳の構造に問題があって、完全に一般人とはかけ離れたぶっ飛んじゃってる人達もいるから、そんな人が相手だったら流石に不味かったかも知れないんだけどね」


 あ~、そんな人達に捕まったら不味いかもなあ。説得しようにも話しが全く通じない可能性もあるもんな、価値観と言うか考え方や思考回路が俺達とは全く異なるんだろうから、全く予想出来ない事をして来そうで怖いよなあ。


「でね、もし腕や足が使えなくなってたとしても、最先端の医療技術で義手とか義足を使えば良いって思ってたし、既に出産も経験して子供もいるから、子供が産めない体になってしまってても、もういいやって感じだった。それに皮膚は剥がされて耳は千切れて無くなっちゃったけど、再生医療で新品の皮膚や耳に交換すれば良いって思ったし、胸だって新しくするついでに少し盛っちゃっても良いかもって思ってたのよ。結構体中色々されたけど、私って医者じゃない、だから今の医療でけっこう何とかなるなって分かってたしね」


 う~ん、医療従事者だから最先端の医療で体の機能を復活させたり、器具で補助したり出来るって知っていたとしても、肉体と精神にダメージを喰らっていたのに、そんな感じで話しが出来ているってだけでも、スゲーって思うんだけどなあ。


 俺は医者とか関係なく、小田先生だったから乗り越えられた出来事だったんじゃないのかなって、思うんだけどなあ。


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