表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/97

第52話 エンチャント

  直樹が頭をポリポリかきながら、気まずい感じで


「なあ、千春。準備万端と書いて、じゅんびばんたんって読むんだぞ」


「えっ」


 千春はキョトンとした表情で直樹を見ていた。


 そして、少し顔を赤くしながら


「えっ、これって、マンタンじゃなくてバンタンって読むんだったの」


 千春がいつもより早口で、直樹に問いただすと、直樹は口角を下げ口をへの字にして頷く。


 千春は更に顔を赤くして


「でも、色んな準備が整って満たされてるって事だよね」


 直樹が今度は眉毛の辺りをポリポリかきながら


「だとしたら、少し言葉が足りないかもな、準備万端で整ったって言わないと、支離滅裂だぞ」


「ええ、でもでも、いっぱい準備して、もうやる事が無いから、いつでもオッケーで準備はマンタンだって意味なんじゃ無いの」


 あ~、なるほど。燃料が満タンとかって表現とごっちゃになっているんだな。だとしたら、満タンのタンはタンクの容器の事を略した言葉だと思うぞ。直樹が千春の言い間違いと言うか、覚え間違いを察した様子で


「千春の言う意味合いだと、準備万端よりも準備万全とか、用意周到なのかもしれないぞ」


「どゆこと」


「万全だったら完全で少しの不備もない事を意味するし、用意周到なら何事にも用意が隅々まで行き届き、手抜かりが無い事を言うから、もし千春の意味合いで使うのなら、準備万全か用意周到が正しいのかもだな」


 千春が顔を真っ赤にしながら


「えぇ、どうしよう、僕今までずっと準備万端の事を、準備マンタンって言っちゃってたよう。すっごく恥ずかしいんだけど」


 直樹が苦笑いしている。千春の間違えが改善された所で俺は


「なあ、この四文字熟語で魔法攻撃を無効に出来るってのが気になるんだが」


「あ~、ホントにすっごい恥ずかしいんだけど、今までずっとマンタンって言ってたよう」


 手でパタパタ顔に風を送りながら、なかなか顔の火照りが治まらないまま、千春が魔法を無効にする取って置きの方法とやらを話し始めた。


 絶対とは言い切れないけど、一昨日の訓練の時に相手が何か魔法を使って来るって分かっていたり、何かされても上手く対処するぞって、感じで心構えが出来ていれば、相手から受ける魔法の効果が薄かったり無効にする事が出来た。


 でも、油断していたり不意打ちで魔法を喰らうと、体の動きが遅くなったりして、イヤな魔法の効果を受けてしまっていた。


 だからと言って、四六時中魔法を警戒して生活するのは無理がある。そこで千春が思いついたのが、武器や道具に魔法を使って属性や特殊スキルなど、特定の要素を追加するファンタジー作品ではお馴染みのエンチャントだった。


 千春は魔法の力を利用して、不意打ちとかに太刀打ち出来る様に、常に準備しておけば良いと考えた。


 でも、俺達は武器や防具は持っていない、じゃあ、アクセサリーにエンチャントって考えてはみたが、俺達は指輪やネックレスとかピアスすら身に着けていない。どうしたもんかと千春はずっと考えたいたらしい。そしたら今日、警察の武田さんからティーシャツを頂いた。


 そこで、生徒達に刺繍を教えるついでに、ティーシャツにエンチャントを施してみようと考えて早速作って来たんだそうだ。


 俺はデフォルメされたカエルを見ながら


「このカエルに何か魔法的な効果はあるのか」


「んにゃ、何も無いよ。でも可愛いでしょ」


 千春がニコニコしながら答えて来た。確か千春はあまり可愛い物とか好きじゃなかったと思ったんだが、まあ良いか。


 千春が焼きそばを食べながら


「四文字熟語の方にはしっかりと状況異常を無効に出来る様に、思いを込めて刺繍をしたから、エンチャントの効果は問題無いよ」


 直樹がワイシャツを脱ぎながら


「要はエンチャントってのは御守りみたいな、厄除けとか魔除けみたいな感じの事なのか」


「うん、そうだね。今回のティーシャツに関しては、なおっきーの解釈でオッケーかな」


 そっか、直樹みたいにファンタジー作品に馴染みが無いと、エンチャントって言葉は普段からあまり耳にしない単語だもんな。


「ちなみに白沢先生にエンチャントの話をしたら、なおっきーとおんなじ事を言ってたよ」


 白沢先生もファンタジー作品には馴染みが無さそうだもんな。直樹が千春の持ってきたティーシャツに着替えて、カエルと準備万端と刺繍された場所を強調するかの様に胸を張った。


 すると千春が浮かない顔で


「でも、万端じゃ無くて万全が正しい意味なんだよねえ」


 直樹が胸元の刺繍を指でなぞりながら


「使う言葉が誤りだったとしても、千春は万全の気持ちで、思いを込めて刺繍をしてくれたんだろ。だったらこのままで良いだろ」


 俺も早速着替えながら


「だな、千春がイメージと想像力をフル活用して作ってくれたんだから、神社の人達に怒られるかも知れないけど、そこら辺の御守りよりも効果は絶大だろ」


 千春が少し照れた様子で


「あんがとね」


 と言って、焼きそばを食べ始めた。


 俺は気になったので、千春に他のティーシャツにもエンチャントは施しているのかを聞いてみる。


「んにゃ、僕達三人のシャツは終わってるけど、まだ沙織ちゃん達のシャツに刺繍はしてないよ」


「俺達のシャツだけなのか。物騒になって来てるから、早くみんなのシャツにもエンチャントしておきたいな」


「女子達のシャツはこれからどんな言葉を刺繍するのか話し合うみたいだったよ。んで、僕のシャツには白沢先生が刺繍してくれたんだけど」


 千春は箸を置くと、ティーシャツの胸元が俺達に見える様にトレーナーを捲った。


 胸元には『無病息災』って言葉が刺繍されていた。





 時間が経つにつれて、学校の飲食兼休憩エリアで食事をする人の姿がだいぶ減って来た。


 俺達の周りのテーブルも人がまばらになって来たので、俺達は少し椅子の間隔を広げて、ラクな体勢でくつろぎ始めた。


 俺は体を千春に向けて足を組み、テーブルに右肘を乗せ頬杖をついた状態。正面に座っている直樹は、椅子の背もたれに体を預けて腕組み状態。千春は俺の隣でテーブルにうつ伏せて、腕を枕にし頭を乗せた状態。


 三人ともラクな姿勢になって、エンチャントに使用するのに何か良い効果が期待できそうな言葉や熟語がないのか、それぞれ考えていた。


 千春が何か言葉を思いついた様で


「冷静沈着、ってのはどうかなあ」


 俺はお茶を一口飲んで


「良いかもな。警察や消防の人達でも、目の前の状況で頭が真っ白になってオニ型に変化しちゃうんだから、エンチャントの効果で常に感情の起伏を抑えとくのは良いかもな」


「でしょでしょ、良いのを思いついたでしょう」


 千春がニコニコしていると、直樹が


「なら、明鏡止水って言葉はどうだろうか」


 千春が腕に頭を乗せたまま、直樹の方に顔を向けて


「明るい鏡で止まる水って書くんだっけ」


 直樹が頷いたのを見て千春が


「習字の授業で誰かが書いてたけど、それってどんな意味なの」


 俺も何かで言葉は聞いたり見たりした事はあるけど、意味ってなると分からない。


 直樹が組んでいた腕を解くと


「心を乱すものが何も無く、落ち着いていて静かな状態とか、怒りや欲とか、よこしまな心の無い明るく澄んだ穏やかな心境、という意味とかで使われてるから、冷静沈着よりも効果は強い様に思ったんだが、どうだろうか」


 千春が体を起こすと


「良いと思うよ、なおっきーの説明でちゃんと言葉の意味は理解したし、後はしっかり思いを込めて刺繍をすれば効果は出来ると思うよ」


 色んな効果を期待して、エンチャントの刺繍を沢山しておけば、もし不意打ちとかを喰らったとしても何とかなるかも知れないなあ。ってな事を考えていると、白沢先生が白衣姿の女性を連れてやって来た。


「川内君達に確認したい事があるんだけど、良いかしら」


 白衣の女性と目が合ったので軽く会釈しておいて、白沢先生に何を確認したいのかを尋ねると


「昨日、入院病棟の六階でヒールって使ったかしら」


 俺は使ったけど、他にも誰か使っていたのかな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ