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第50話 掃除

「スゲーな、こんなにゴミって出るもんなのか」


「けっこうな量だな」


 俺と直樹は野菜の仕込みが終わったので、他に何か手伝える事がないか調理エリアの人達に聞いてみた。すると、校舎裏のゴミ置き場に集められたペットボトルを潰して来て欲しいと言われたので、早速やって来た。


 俺達の目の前には、ゴミ袋に詰まった状態のペットボトルが、学校の二階くらいの高さにまで山の様に積み重なっていて、俺と直樹はあまりの物量の多さに唖然としてしまい、しばらく声も出さずにただ突っ立ていた。


 ん~、停電してからずっとゴミの収集ってやっていないのかって当たり前か、車がうごかないんだもんな。いつも何も気にしないでゴミ箱に捨てていたけど、収集されないんだから、ドンドン空のペットボトルは溜まって行くよなあ。


「んじゃ、さっそく始めるかねえ」


「だな、潰しまくるか」


 足で踏みつぶしたり、両手に挟んで圧し潰したりして、俺と直樹はしばらく無言でペットボトルを潰しまくっていた。


 ここは校舎裏なので滅多に人は来ない。小学校だけど全校生徒がいないから、子供達の元気の良い声は聞こえて来ない。学校のフェンスの外は住宅地だけど全く人が歩いていない。車も動いていない。だからなのかゴミ置き場はとても静かだった。俺と直樹が潰すペットボトルの音だけが、やけに大きく聞こえていた。


「ちょっと、かっちゃん見ててくれ」


 直樹が片膝を着いて足元に二本のペットボトルを横に寝かせて重ねていた。すると、その場でジャンプして直樹は両足で二本のペットボトル一気に踏み潰した。


 グシャッって感じで見事に二本のペットボトルが潰れて体積が小さくなっていた。潰れたペットボトルを見て直樹が満足気な表情で俺を見る。なるほど、一本ずつチマチマ潰さないでいっぺんに潰してしまおうって魂胆か。


 ふむ。ただ、飛び跳ねて潰すとかって子供っぽい感じだけど、誰も見ていないんだから、たまには童心に帰るじゃないけどガキみたいな事したって良いかもな。


「よし、直樹、見ててくれ」


 俺は足元に三本のペットボトルを横に寝かせてると、積み重ねて崩れない様にそっと手を離し、ジャンプして両足で踏みつけた。上手く均等に圧が掛からなかったのか、下から二番目、真ん中のペットボトルが勢いよく飛び出し俺はバランスを崩してひっくり返った。


 直樹が腹を抱えて笑っている、ひっくり返っておケツが痛むけど、直樹が涙を流しながら爆笑しているから良しとしよう。


 俺は地面に手を着いたまま


「ちょっと、潰すの飽きて来たぞ」


 直樹が涙を拭きながら


「だな、けっこう潰してるけど、なかなか減らないな」


 俺はズボンの砂を払い


「ペットボトルって回収したら機械とか使って潰してたのかな」


「ペットボトルのリサイクルとかって機械で溶かして再利用じゃなかったか」


「そうだっけ」


「いや、実際にはどんな感じでリサイクルしてるのかは、知らん」


「だよなあ」


 直樹が飛んで行ったペットボトルを拾って、両手で挟んで潰すと


「とりあえず、昼の炊き出しが出来るまでは潰しまくるか」


「あいよ~」


 俺達はペットボトル潰しを再開した。


 他のゴミってどうしているんだろうか、燃やしているのかな、穴を掘って埋めているのかな。どちらにせよ、早くゴミ収集が始まらないと、ここのゴミ置き場が一杯になって今後、ゴミの処分に困りそうだな。


 俺と直樹は積まれているペットボトルの山を少しでも低くしようと、しばらく無言でペットボトルを足で踏みつぶしたり、両手に挟んで圧し潰したりしていた。


「なにしてるの~」


 ペットボトルが入ったゴミ袋を持って西條さんが歩いて来た。


 俺は持っていたペットボトルを潰して


「えっ、ペットボトルを潰してます」


「うん、見れば分かるよね」


 西條さんは俺に軽いツッコミを入れると、学校の二階くらいの高さにまで積み上げられたペットボトルのゴミの山を見て


「この量を二人で潰してるの」


 俺と直樹は、拳を握って頑張ってますって感じで頷く。西條さんは積み重なったペットボトルの山の高さや奥行きを見たりしている。


「西條さんはどうしたんですか、沙織達と一緒じゃなかったんでしたっけ」


「じゃんけんで負けたから、ゴミ捨てに来たの」


「へ~、そうなんですか。んで、そっちはどんな感じなんですか」


 西條さんは少し表情を曇らせると


「麗奈ちゃんから聞いてるかもだけど、今はゆっくり静かに休んでたいって人が多いかな」


「あ~、やっぱり、そうなんですかあ。俺達と違ってスゲー大変な思いをしてたみたいですからね」


 すると直樹が


「当事者の気持ちの整理が出来るまでは、見守るしかないですね」


 西條さんが直樹に


「うん、そうね、今はゆっくり色んな事を見つめ直す時間が必要だと思うの、だから静かに見守ってる感じよ。身の回りの手伝い事や声掛けとかって必要かも知れないけど、状況によっては良かれと思った行為が相手にしてみたら、煩わしい行為に感じる事もあるからね」


 直樹が浮かない顔をして


「心の中の問題ですから色々と難しそうですね」


「うん、でも中には前向きな人達もいるから、そんな人達に今は魔法を教えてる感じよ」

 

 昨日、ヒトガタに埋もれていた人達もスゲー前向きだったもんな、救出されて今って学校にいるのかな。家族に会うみたいな事を話していたから、もう出発して学校には居ないかもな。でも、もし俺があの人達みたいな状況だったら、例え救出されたとしても直ぐには立ち直れないと思う。それこそ、そっとしておいて下さいって感じで、布団に入ったままずっと外を眺めて過ごしちゃいそうだ。


 そろそろ話しを切り上げてペットボトルを潰しまくるるかなって思っていると、西條さんが


「私もペットボトルを潰すの手伝っても良いかな」


 直樹を見ると頷いたので


「構いませんけど、沙織達の所に戻らなくて良いんですか」


 西條さんは俺と直樹にもっと後ろに下がってって感じの仕草をして


「うん、そんくらいで、おっけ」


 俺達を後ろに下がらせた西條さんは


「直ぐに終わるから大丈夫よ」


 口元に笑みを浮かべていた。


 すると突然、潰す予定だった山積みのペットボトルの周りに、校舎の二階に届くくらいのデッカイ魔法障壁が四枚現れた。


「蓋をしないと上から溢れちゃうかしら」


 西條さんは更に魔法障壁を追加して、ペットボトルの山を囲んでいた巨大な魔法障壁に蓋をした。すると、俺達の目の前には巨大な立方体が出来上がった。西條さんは立方体に向かって右の手の平を向けると、左手で右手首を掴み


「潰れちゃえ」


 って言って、立方体に向けていた右手をぎゅっと力強く握った。すると、校舎の二階に届く程の巨大な立方体が、一瞬で教室の教卓くらいのサイズに小っちゃくなった。


 直樹が驚いて目を見開いていた。俺もビックリだよ。


 西條さんは振り返ると


「んじゃ、また後でね」


 と言って、立ち去ろうとする。


 俺は軽く頭を下げて


「あっ、ありがとでした」


 直樹も軽く頭を下げて


「どっ、どうもでした」


 西條さんは満面の笑顔で


「いえいえ~」


 と言いながら、手をヒラヒラさせて歩いて行った。


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