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第42話 ヒトガタ

 北野先生が椅子から立ち上がり


「病院内のヒトデナシとヒトガタの駆除、そして生存者の救出活動は私達大人が頑張ります」


 俺の肩に手を置いて沙織達を見ると


「君達は落ち着いたら学校に戻って下さい」


 と言って、診察室から出て行った。


 俺はあまりにも衝撃的な話しを北野先生から聞いて、気分が悪くなっていた。たぶん、女性陣も話しを聞いてショックを受けているんだろう。でも、今の俺には彼女達の事を考える余裕は無かった。


 昼の炊き出しを食べていたら沙織達から病院に行かないかと誘われた。沙織と麗奈と西條さんは小学校で手伝える事が無くなったので、病院に向かった大人達の手伝いを魔法を使って、何か出来ないかと考えていた。俺は午後から予定が何も無かったので沙織達と一緒に病院に行く事にした。


 俺達は外来病棟にいた北野先生を見つけたので、今は使われていない病院の診察室で病院内の状況を教えてもらえた。


 病院には停電が発生しても電気の供給を止めない為に、自家発電装置や蓄電池、太陽光発電を備えたエネルギーセンターと呼ばれる施設が建設されていた。でも、今回の停電では、エネルギーセンターに設置されている機器が何故か作動しなかった。そのため、集中治療室で治療中だった患者さんや、電気を使用する医療機器で体の状態を維持していた入院患者さん達は、機器が動かなくなった事で息を引き取る事となった。


 まだ正確な人数は不明だが、ここの病院はベッド数が六百二十床もあり、全ての入院患者が医療機器を使用していないとしても、かなりの数の患者さん達が息を引き取った事になる。もし、停電がここの地域だけじゃなかった場合は、死亡者数が物凄い数になるだろう。


 そして、耳を疑いたくなったのが、息を引き取った患者達が動き出して生存者を拘束し始めた話だ。拘束から逃れられなかった生存者は、身動きが取れないまま衰弱するかヒトデナシに捕食されてしまうらしい。


 病院の医師達が色々調べたが、なぜ息を引き取った患者が動くのかは全く分からなくて、人の形をした何かとしか、言いようが無いとの事だった。


 北野先生達は息を引き取って動き出した患者さん達の事を、人の形をした何かなのでヒトガタと呼ぶ事にした。更に、医師達が検証した結果、ヒトガタは頭部を潰すか首を切断する事で活動が停止するらしい。


 映画やドラマだったら、主人公や登場人物達が生き残る為に、死体と戦うってのは鑑賞していてハラハラしたしドキドキもした、ゲームなら色んな武器や火力の強い銃器を使って、敵である死体を倒しまくって爽快感すら感じていた。


 でも、現実に死体が動くだなんて、とにかく気分が悪い。もちろん、身の危険を感じたら撃退すると思う。だとしても、頭部を潰すか首を切らないと動きが止まらないってのが問題だ。はたして俺は、ヒトガタを目の前にした時に行動に移せるのか、となると、正直な話し自信が無い。


 遺体と言うべきなのか、死体と言うかべきなのか、どちらにせよ家で帰りを待っている家族がいるんだと思っちゃうと、やっぱり躊躇しちゃうし簡単には気持ちの整理が出来ない。


 ヒトデナシの場合は、ある程度打撃を与えると消滅したから気にならなかったんだよなあ。


 大人達が頑張って駆除してくれるって話しだから、俺がわざわざ駆除しなくても良いんだと思う。けど、もし遭遇したらって考えるとイヤな気分になる。


 ヒトガタの出現はこの病院だけの事なのか。もし、世の中の息を引き取った人達が全てヒトガタになるのなら、残された家族は物凄く辛い思いをするんじゃないのかな。動き回らないで安らかに眠らせたいって思うんだろうな。直ぐに埋葬すれば大丈夫なのかな。


 俺はまだ葬式に参加したことが無い、両親の祖父も祖母も元気だ。親戚で他界した人はいたが、葬式には参加していない。だから身近な人の死を経験した事が無いので、どんな気持ちになるのか分からない。


 ドラマや映画、小説とかで観たり読んだりした中で、登場人物に感情移入したりて、自分で勝手にこんな気持ちになるのかなって想像した事くらいしかない。


 仮に、自分の親がヒトガタになってしまったら、周りに迷惑を掛けない様に俺が駆除するって、今は思えるけど、実際にそうなった場合は泣き崩れるのかも知れないし、意外と冷静に駆除するのかも知れない。


 現状では、ヒトガタに遭遇しても危害が無いようなら逃げるかなあ。でも、駆除しておかないと他の人達に被害が及ぶしなあ。どうしたら良いんだろうか。どんな行動が正解なんだろうか。


 ん、まてよ。ヒトデナシに変化した人達にだって家族とかいるはずだよな。何で躊躇なく駆除とか出来ちゃうんだ。人を捕食するからなのか、変化する前に周りに迷惑を掛けていたドウシヨウモナイ人達だったからなのか。でも、赤い肌のオニ型は警察や消防の人達が怒りで我を忘れて変化してしまったって話しだったよな。


 警察や消防の人達が見つけ次第駆除するって話しをしていたから、難しい事を考えないで駆除しちゃって良いのかな。それに、確実に周りに被害を与えているんだから、気にしないで駆除しちゃえば良いのか。


 なら、ヒトガタも何も気にしないで駆除しちゃえば良いんだよな。何でヒトデナシは良くて、ヒトガタだと躊躇してしまうんだろうか。


 ん~、なんか考えるのが面倒くさくなってきたな。そもそも、大人達が頑張るんだから俺は難しく考えないで、無理しない範囲で身の回りの、手の届く範囲でヒトデナシとヒトガタを駆除すれば良いかな。


 まだ少し頭の中がモヤモヤしていてスッキリしない。でも、だいぶ落ち着いてきたので、診察台に座っている女子三人を見てみる。


 沙織が俺の視線に気づいて


「分かってるわよ、学校に戻るわよ」


 麗奈が頷いて


「さっき、待合室にいた人達が小学校に早く避難したいって要望を言ってましたね」


 西條さんが


「そうね、病院の安全が確認出来るまでは、たぶん救助された人達は小学校で避難になると思うのよね」


 って言うと、西條さんは診察台から降りて


「だから、院内での手伝いが無理でも、学校内で出来る事を探してみましょう」


 俺が思っていたよりも女性陣は、北野先生の話しを聞いて精神的なダメージを受けた様子を感じられない。何でなのかを聞いてみると、沙織が診察台から降りて


「息を引き取った患者さんの事を考えると、凄く辛い気持ちになるわよ。でも、冷たい言い方かも知れないけど、自分の身内の話しじゃないから無気力になる程のダメージは受けてないわよ」


 麗奈が眉間に皺を寄せて


「入院患者さん達の事を考えると、凄く胸が苦しくなります。でも、色んな考え方があるかも知れませんが、私は残された家族の事を考えると、早く安らかに眠って欲しいと思うので、ヒトガタの損傷を少なくする為にも、速やかに首を切断して動きを止めます」


 西條さんはパソコンデスクに置いてある、病院のリーフレットをポケットにしまいながら


「私も麗奈ちゃんと同じ考えかも。それと、生存者を拘束してヒトデナシに一緒に捕食される事は阻止したいわね。ヒトガタに拘束された事が原因で、生存者が捕食されたって知ったら、遺族は物凄く辛い思いをさせられると思うのよ。それに、拘束された事で捕食されてしまった生存者の家族に申し訳が立た無くなるだろうしね」


 何か女性陣が物凄くたくましい。俺も残された家族の事を考えると心が痛むと言うか、イヤな気分になるって感じていた。それに、ヒトガタの頭を潰すとか首を切るとかって、正直気持ちが悪いからやりたくないって思っていた。


 だから大人達に頑張ってもらって、俺は無理しないで身の回りの手の届く範囲での、ヒトデナシとヒトガタを駆除すれば良いと考えていた。


 でも、女性陣は残された家族の事を考えて行動しようとしていた。俺は自分の事しか考えていなかった事が凄く恥ずかしく感じる。麗奈が言ったように、考え方は色々あるかも知れないけど、俺は女性陣達の考え方に何も不満を感じなかったし、むしろ俺が前に出てガンガン駆除しまくるぞって気持ちにさせられた。





 待合フロアはさっきよりも多くの人でごった返していた。


「やっほー、やっと見っけたよ」


 振り返ると白衣を着た千春がいた。


 沙織が白衣の袖を引っ張って


「どうしたのよ、その恰好」


「へっへ~、どう、似合ってる」


 その場で千春がクルリと回った。


 麗奈が西條さんに


「千春君が首に掛けてるのって聴診器ですよね」


「そうみたいね、誰かに借りてるのかしら」


 俺は白衣を着て自慢げな表情の千春に


「午後も白沢先生達と授業じゃなかったのか」


「何か病院が大変な事になってるって聞いたからさ、なおっきーと手伝いに来たんだよね」


 千春が病院の出入口の方を指さした。そこには、直樹が体格の良い大人達に交じって、待合フロアにいる人達を病院の外に誘導していた。

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