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第41話 外来病棟

 病院の待合フロアは人で一杯だった。


 入院患者だった人達だろうか、出掛ける時の服装って感じではなく、部屋着って感じの装いの人達で溢れていた。停電が発生して七日目だけど、見た感じ不衛生な感じではないので既にクリーンの魔法で綺麗になったのかな。


 白衣を着た人達と警察や消防の人達が何か話し込んでいたり、看護師さんと思われる人達も何人か忙しそうに歩き回っていた。そして、患者だったと思われる大人達が早く小学校に連れて行けって、警察や消防の人達に必死の形相で詰め寄っていた。


 話しが聞けそうな大人か、知り合いがいないか探しながら待合フロアを抜けると、ちょうど北野先生が、対策本部と書かれた紙が貼ってある部屋から出て来た。俺達に気づいた北野先生が、一瞬驚いた表情をすると手招きして歩き始めたので、着いて行くと診察室に入って行った。


 北野先生がパソコンデスクに腰掛けると


「診察台とそこの椅子を使って下さい」


 と言って、深いため息を吐いた。


 沙織と麗奈と西條さんは、失礼しますと言いって診察台に座り、俺は診察の時に患者さんが使う椅子に腰掛けた。


 俺達が座ったのを確認すると北野先生が


「病院の手伝いに来てくれたのかな」


 沙織が即答した


「はい、今日は学校の人達が病院に向かったって聞いたので、何か私達にも手伝える事がないかと思いまして」


 北野先生は難しい顔をして


「せっかくここまで来てもらったけど、学校に戻ってもらう事になると思うよ」


 てっきり魔法を使って色々と手伝えると思っていたので、意外な答えだった。沙織達も、えっ何でって感じの表情をしていた。


「説明もなく帰らされるのは納得いかないだろうから、現状で把握出来ている事だけは伝えておくよ」


 北野先生は、三つ折りにされた病院のリーフレットを俺達に見せながら話し始めた。


 この病院は三階建ての外来病棟と六階建ての入院病棟があって、午前中に外来病棟の大まかな確認が終わり、今は東西に別れている入院病棟の、東側の確認を行っているんだそうだ。


 病院の敷地内の建物の外には、ヒトデナシが複数存在していたけど、昨日直樹達と魔法を使って訓練を行った、警察や消防の人達があっという間にヒトデナシを駆除して病院内に突入した。そして、正面玄関から外来病棟へ移動し生存者の確認を行ったところ、病棟の一室にバリケードを作って避難している人達を発見し救助した。


 骨折の治療で入院していた人や、検査入院していた人など、主に自力で移動の出来る人達が集まって避難していたそうで、魔法で治療の済んだ骨折していた人達が現在、待合フロアで待機中との事だった。


 さっきチラッと待合フロアを通り抜けただけだけど、見た感じ軽く七十人近くはいたと思う。普段から病院を利用しないから患者数が多いのか少ないのかは良く分からない。でも、よく七日間も避難していたなあ。食べ物とか大丈夫だったんだろうか。


「君達は集中治療室って名称を聞いたことがあると思うんだけど、どうかな」


 北野先生が少し疲れた感じの表情で、問い掛けてきた。


 沙織が西條さんを見ながら


「集中治療室ってよくTVドラマとかでICUって言われてる、重傷患者を診る為の病室でしょ」


 西條さんは頷くと


「主に重要な臓器の機能不全があって、生命の危険にさらされてる患者を二十四時間体制で管理する病院内の施設の事ね」


 すると北野先生が


「私もさっきまでは君達と同じ認識でいたんだけど、一般病棟でも血圧、呼吸、酸素飽和度とかを、二十四時間体制で管理しているそうなんだ」


 西條さんが北野先生を見て


「患者さんの疾患にもよりますが、入院中に呼吸、循環、代謝とかの機能を医療機器を使って補助してたりします。例えば人工呼吸器や人工心肺装置、後は人工透析とか」


 北野先生は頷くと


「うん、そうなんだよね。私の勉強不足というか、あまり病院にお世話になる事が無かったから知らなかったんだけど、集中治療室だけじゃなくて一般病棟でも医療機器を使ってる患者さん達って沢山入院してたんだよね」


 そう言って、俺達を一度見ると


「これから話す事は君達には刺激が強すぎる事かも知れません。ですが、停電が発生してから私達の周りは急激に変化してます。なので、君達の今後の事を考えると早い段階で知っておいて、今のうちから心の整理をしておいた方が良いと私は判断したので、話します」


 北野先生がいつもに増して深刻な表情だ、どんな事を話し始めるんだろうか。刺激が強くて心の整理が必要って、どんな話なんだろうか。


「病院には停電に備えて自家発電装置や蓄電池、太陽光発電を備えたエネルギーセンターと呼ばれる施設が建設されていました。ですが、今回の停電ではそれらの設備がまったく機能しなかったそうです。そのため、集中治療室で治療中だった患者さんや、一般病棟に入院していて電気を使用する医療機器で体の状態を維持してた患者さん達が、機器が動かなくなった事により息を引き取ったそうです」


 西條さんがパソコンデスクに置いてある病院のリーフレットを見て


「六百二十床」


 と呟いた、すると北野先生が


「この病院にはベッド数が六百二十床あります。ですが、全ての入院患者が医療機器を使用している訳では無いと聞いてます。だとしても、かなりの患者さんが今回の停電の為に息を引き取りました」


 ん~、確かに刺激が強い話だった。もし入院患者の半分が医療機器を使用していたら、三百人近くの人が既に息を引き取っている事になるんだよな。


 俺は入院した事がないし、家族の中でも怪我や病気で誰も入院した事がない。だから入院中の患者さんがどんだけ大変な思いをしていたのかは、知らないから想像するくらいしか出来ない。でも、さっき話していた人工呼吸器って自分で呼吸が出来ないから使うんだよな、患者さん達は息が出来なくて苦しんでたって事だよな。


 想像するだけでも気分が悪くなるし、停電がここの地域だけじゃなかった場合は死亡者数が物凄い数になるって考えると、ちょっと気持ちが悪くなる。


 沙織も麗奈も顔色が悪くなっていた。西條さんに至っては顔色は悪いし少し震えていた。看護学校に通っていて医療の事を色々と知っているから、事の重大さを俺達よりも理解しているんだろうな。


 北野先生は俺達の様子を見てから


「それと、新たにヒトデナシを確認しました。特徴としては肌の色が青くなり、急に筋肉質になって頭からは二本の角が生えたそうです。昨日確認された肌の色が赤いオニ型と特徴が似ているので、私達は肌の色が青いヒトデナシもオニ型と呼ぶ事にしました」


 まあたヒトデナシですかあ。やっぱ俺達が知らないだけで色んな場所で色んなヒトデナシが現れているんだろうなあ。


 人が変化してヒトデナシになるんだよな、今回の病院で医療機器が使えなくなって息を引き取った患者さんの事もあるし、このままだと、どんどん人口が減って行くんじゃないのか。


 元の生活に戻れるのかも不安だし、色々と先行き不安な事だらけになって来たぞ。


「そして、病院関係者と外来病棟で救助した患者さんからの聞き取りで分かった事なんですが、息を引き取った人達が生存者を拘束し始めてます。噛みついたり殴ったりはしませんが、ただ抱き着いたり腕や足を掴んで生存者の動きを妨げます。拘束から逃れられなかった生存者は、身動きが取れないまま衰弱するか、ヒトデナシに捕食されるそうです。言いにくいのですが、ヒトデナシは人間とヒトガタを一緒に捕食したそうです」 


 つまり、死体が動くって事だよな。今回は遺体って言うべきなのか、どちらが正しい言い方なのか分からないけど、とにかくとてもイヤな気分だ。


 死体が動いたりヒトデナシに襲われたりしていたから、待合フロアにいた患者さん達が早く小学校に連れて行けって、警察や消防の人達に必死に懇願したいたのかな。ホラー映画やゲームの世界ならまだしも、現実になると笑えないし、気分が悪くなる。


「なぜ、息を引き取った方々が動くのか、この病院の医師達が調べたそうですが、全く分からないそうです。電気が使えて医療機器を使って詳しく調べれば、色んな事が判明するのでしょうが、今現在は不明なままです。医師達からしたら人の形をした何か、としか言いようがないそうです。なので、私達は人の形をした何かなので、ヒトガタと呼ぶ事にしました」


 北野先生は俺達を見ながら淡々と話しを続けていた。他の三人はどうか分からないけど、俺からしたら変に感情的になって話されるよりも、ただ分かっている事をまるで、博物館や美術館の展示物に設置されている音声ガイドのように説明してもらってた方が、精神的ダメージが少ないように感じる。


「今後、君達がヒトガタに遭遇する事があると思うので、ヒトガタの動きを止める方法もしくは拘束から逃れる方法を伝えておきます」


 北野先生が眉間に皺を寄せて目をつむった。


「既に医師達が検証した結果です。理由は不明ですが、頭部を潰すか首を切断する事でヒトガタは活動を停止するそうです」

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