表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/97

第36話 気づかされました

 沙織達を見送った俺と千春と直樹は、飲食兼休憩エリアでくつろいでいた。


 直樹達と戦闘訓練を行った大人達も、ちらほらと炊き出しを食べてに来ていて、席に着く前に俺達に気づき軽く会釈して来た。


 千春がテーブルにうつ伏せになり、腕を組んで顔を乗せたまま


「白沢先生も念話が使える様になってたね~。僕も練習しないとなあ」


 俺は念話で思い出したので、テーブルに頬杖をついたまま


「なあ、何で明日、生徒に教える魔法を限定したんだ」


 千春が腕に頭を乗せたままこっちに顔を向けると


「攻撃魔法は危険だから教えたくないんだよね~」


「生徒達に一言、教えても使うなよ~じゃ駄目なのか」


「使ったら駄目って言っても、たぶん目の届かないところで使っちゃうと思うからね。教えなかったら使いたくても使えないでしょ。だから僕は教えない」


 俺はあまり深く考えないで


「もし俺がキックを教えるなら、ミット打ちとかしてガンガン蹴りとか教えちゃうけどな」


 隣の直樹が俺と同意見なのか、腕を組んだ姿勢で頷いている。


「ん~、相手が大人だったら普通に教えるけど子供だからね」


 すると千春が腕枕状態から体を起こすと


「子供ってさ、しちゃいけない事とかダメな事を教えても、話しが理解出来てなくったって、早く話を終わらせたいから、元気良く返事とかしてその場から逃げるでしょ。はい。分かりました。もう大丈夫です。とか言ってさ」


 あ~、俺が子供の頃はそんな感じだったかもだな。すると、千春が頭をポリポリかきながら


「実際に僕がそうだったからね。子供の時に親にダメって言われたことは、今は流石に理解出来るけど、子供の頃に怒られてた時って何が悪いんだかまったく理解が出来なくて、早く話を終わらせたいから分かった振りしたり、親が諦めてくれなかったら泣いてみたりして、その場から逃げてたからね」


 確かに、言われてみると俺もそんな感じの場当たり的な対応を親にしちゃっていたと思う。今振り返ると怒られている時は何が悪いんだか正直良く分からなかったもんなあ。そんで、親に怒られるのがイヤだったから、何度も同じ事はやらなくなったけど、今思えば周りに迷惑を掛ける事だったり、大怪我をするかもしれないくらいの結構危ない行為だったり、思い出すとヒヤッてなるような事ばかりだ。本当に大事に至らなくて良かったなあ。


「でね、もし攻撃魔法を教えちゃうと始めは壁に当てたり、空き缶に当てたりして満足してるんだけど。そのうち動く的に当てたくなったり、覚えた魔法の効果も知りたくなるんだよね」


 千春は表情を曇らせると


「つまり、動物とか人に魔法を当て始めるんだよね。動く物に当てた時の反応が楽しくて、どんどん強く当てて、色んな反応を見るのが楽しくなって、本人達はホントにゲームで遊んでる感覚で、痛がる相手の反応を見て楽しみ始めるんだよね」


 ミット打ちとかサンドバックに蹴りやパンチを打ち込んでいて、ある程度手応えを感じ始めると、実際に自分の蹴りやパンチがどんくらいの威力があるのか、人に当てて確認してみたいって思った事があるから、千春の話しに対しての反論は全く無いなあ。


「だからって明日魔法を教える生徒達が全員、言いつけを守らないって事は無いと思うんだけど、でも僕が教えた魔法で、誰かの心や体に傷がつくかもしれないって考えると、教えるのは生活魔法といざって時に身を守る魔法障壁くらいで良いんじゃないかなって思ったんだ」


 隣で直樹が千春の話しに感心しているのか頷いている。俺も千春がそこまで物事を深く考えて行動しているなんて、思っていなかったからビックリだよ。そんで、千春の考えとしては、攻撃のやり方を教えたら絶対に試したくなるから教えないけど、防御だったら身を守る手段になるから教えるって事なのか。


「うっちーなら、相手が調子に乗る前に強気で立ち向かえ、そんな弱気だからダメなんだって思うのかもしれない」


 千春が難しい顔をして


「なおっきーはやり返せ。そして倍の痛みを相手に味合わせろ。そうすれば相手は大人しくなるって言うかも知れない。でもね、みんながうっちー達みたいに強くは無いんだよ」


 直樹が頭をポリポリかきながら苦笑いしている。俺も図星でちょっと気まずい感じだ。


「あっ、うっちー達の考え方がダメって言ってるんじゃないからね。その考え方も分かるけど、やっぱり出来ない人もいる訳で、実際に僕がそうだったからね」


 千春も頭をポリポリかきながら


「だから、自分が何かを教えたせいで、どこかで誰かが傷つくのはイヤだから、攻撃魔法は教えたくなくって、白沢先生に教える魔法を限定させてもらったんだよね」


 千春は何だかちょっぴり照れくさそうな表情でお茶を飲み始めた。


 俺は今まで千春みたいに心に傷を負った事が無い。だから千春みたいに物事を考えることが出来なかった。嫌な思いをしたり、させたかもって感じたら、今後はそうしない様に、ならない様に気にはしながら生活をしている。


 でも、今回はたまたま千春の魔法を教える話しだったけど、全ての行為や言動でも同じ事が考えられるのかも知れない。自分が言った何気ない一言で、誰かが何処かで自分が知らない時に心に傷を負うかもしれない。


 それはすぐの出来事かも知れないし、誰かから話しが相手に伝わって次の日かも知れない。あるいは俺が知らないだけで、実は色んな人達が何処かで既に傷を負ってしまっているのかも知れない。


 今までけっこう、ノリと勢いで行動したり、発言したりしていたけど、同学年のヤツ等と比べたら俺はまだしっかり色々と考えて行動していると思っていた。


 でも、千春の話しを聞いて、俺はまだ色々と配慮が足りていないかもって考えさせられた。と同時に、新たに深く物事を考えられる様になった自分が、精神的に少しだけ成長出来た様な気がした。


 今まで自分では気づけなかった事が、千春のお陰で気づける様になって、得した気持ちになったし、なんだか心が満たされた感じでとにかくとても良い気分だった。


 そして、新たに気づかせてくれた千春に対して、感謝の気持ちで一杯になった。とりあえず「ありがとう」って事で席を移動して千春に抱き着いて脇をくすぐっといた。


「サンキューな千春」


「にゃははははは~。なんで~。にゃははははは~。なんなの~」


 隣で直樹が千春の頭を髪の毛がグシャグシャになるくらい、撫でまくっていた。





 寝るには早いがそろそろ体育館に作った俺達の宿舎に向かう事にした。


 ちょっと格好よく宿舎って言ったけど、実際は小学校から支給された避難生活用の簡易間仕切りと段ボール畳で作った寝床だ。


 体育館に向かう途中に、調理エリアの人達に炊き出しのお礼の挨拶をしながら歩いていると、北野先生が炊き出しを注文していた。


 俺達が挨拶すると、呼び止められて


「一応大丈夫だとは思いますが、今日は夜の警備が手薄になるので皆さんも気をつけて置いて下さいね」


 てっきり、今回も沢山食べましたかってな感じの軽い挨拶かと思ったら。真剣な表情で物騒な事を言って来たので少し戸惑ってしまった。


 すると、直樹が小声で


「何かあったのですか」


「ここでは、何だから」


 俺達は調理エリアから離れ、飲食兼休憩エリアの人が少ない場所のテーブルに移動した。


 少し硬い表情で北野先生が


「ヤギ型のヒトデナシを駆除しに向かった隊員が、夕方に負傷して戻って来ました」


 昨日、消防の成田さんと警察の武田さんが応接室で話していた、ヤギ型のヒトデナシの駆除作戦の事みたいだ。


 直樹が声を潜めて


「作戦が失敗したって事ですか」


「新たに確認されたヒトデナシが出現して、部隊は一度現場から撤退しました。ですが、戦闘訓練で魔法を覚えた人達で部隊を新たに再編成し、先ほど部隊は現場に向かいました」


 北野先生は一度辺りを見回して


「今晩の警備担当者が、数人作戦に参加している為に人員が不足してます。なので一応気をつけて下さい」


 千春が首を傾げながら


「戻って来た人達が、夜の警備をしちゃダメなんですか」


 北野先生は表情を曇らせて


「魔法で傷を治す事は出来ました。ただ、心の傷が深すぎて今は休んでます」


 千春が困った表情で


「ムリさせちゃダメですね」


 撤退して来た人達って警察や消防の人達だよなあ、そんな人達が怪我するってどんだけ強い個体なんだ。新たなヒトデナシの特徴が気になったので聞いてみると


「特徴としては、肌の色が赤くなって筋肉質になり、頭からは二本の角が生えたそうです」


 北野先生は一度俺達をみて


「なので、私達はこの新種のヒトデナシの事を、おとぎ話に出て来る鬼に似ていることから、オニ型と呼ぶ事にしました」


 ヤギの次はオニですかあ。もしかしたら俺達がまだ見ていないだけで、他の場所ではもっと違うヒトデナシが多数出没しているのかも知れないなあ。


 千春達の仮説「地球が異世界に転移した」じゃないけど、何故か急に魔法は使える様になるし、ヒトデナシって呼ばれるモンスターも出て来ちゃうし、そろそろ勇者とか魔王とか出てきちゃうのかなあ。


 ん~、停電前の生活には、もう戻れないのかなあ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ