第33話 訓練について
警察と消防の人達との戦闘訓練が終わったので、俺達は飲み物を取りに調理エリアに向かった。
すると、暗くなる前にある程度は調理を済ませようと、調理担当の人達が慌ただしく動き始めていた。昨日に引き続き、今日もライトボールを設置したり、水が必要ならば補充をしたりして、調理の手伝いを済ませると今日もみんなに感謝された。
今日は沙織も麗奈もいたので、昨日より早く作業が終わった。
調理エリアの人達は魔法が使えないのか、使おうとしていないのか、ライトや水魔法それと火魔法を使っている人は見当たらなかった。今の状況だと絶対に魔法が使える方が便利なのに、何でここの人達は魔法を使わないのかちょっと理解に苦しんだ。
まあ、この学校にお世話になっている間は皆さんが魔法を使えなくても、俺が頑張るので安心して炊き出しを作って下さいって感じだな。
調理エリアの人達の手伝いを済ませ俺達は、飲食兼休憩エリアでさっきの戦闘訓練で気づいたことを話し合っていた。
俺の隣に直樹、その隣に千春って感じで男三人が並んで座っている。沙織、麗奈、西條さんもテーブルを挟んで、俺達と向き合って座っている。
俺は沙織に全身を身体強化して訓練に参加して、気づいた事を聞いてみた。
「強化してすぐは体が慣れなくて思うように動けなかったわね。でも、慣れれば問題なかったわ。それと、確実にスピードとパワーは上がってるって実感出来たわよ。大人達とやり合って力負けしなかったから、すっごく楽しかったわ」
沙織は話しながら大人達と訓練していた時を思い出しているのか、拳を握ってちょっと鼻息が荒くなっていた。白沢先生との話じゃないけど、顔が整っているのに目をキラキラさせながら、フガフガ鼻息が荒い女子って、見ていてドキドキはしないよなあ。
沙織が、握った拳を片方の手の平にパシパシ打ち付けながら
「それと、魔法で拳や脛とか体を保護するヤツも、もう少しスパーリングすれば多分意識しなくても、インパクトの瞬間に発動出来るようになる感じかな。人それぞれ感覚は違うかもだけど、体重を乗せるとか、腰を入れるだとか、私が言いたい事って、克也も直樹も麗奈も何となく分かると思うんだけど、そのいつもの感覚に、克也達の言う魔力ってのを乗っけてみたら、かなり良い手応えだったのよね。あの感覚はクセになりそうよ。体力が続く限りミットとかサンドバックとか、ずっとやってたいって思ったわよ」
沙織の両拳が淡い光を発している。意識して魔法を発動させているのか、話しているうちに興奮して勝手に魔法が発動したのか、どちらにしろ、魔法を使っての戦闘が気に入った様子だった。
でも、千春と西條さんの頬が少し引きつっていた。
沙織の隣で麗奈が、自分の光る拳を見て微笑んでいた。麗奈も沙織と一緒で気に入っているみたいだった。
直樹を見ると苦笑しながら
「防御する時に発動させる魔法も、何度かスパーリングすれば常に意識しなくても使えると思うぞ。例えばスパーリングしてて、ボディーをガードする時って普通に腹筋に力を入れて、衝撃を緩和させようとするだろ。その感覚でガードする時の、力を入れるタイミングで、かっちゃん達の言う魔力ってのも発動さて打撃を受けると、見事にダメージが緩和されて衝撃も痛みも発生しなかったな。ただ、不意打ちとか死角から上手く攻撃されると打撃が来るって分かってないから、もろにダメージを喰らうけどな」
なるほどね~、不意打ちと死角かあ。つまり油断は禁物って事だよな。
千春が身を乗り出して手を上げて
「はいはいは~い」
すると、麗奈が笑顔で千春に手を向けて
「はい、千春君」
千春が上げていた手をおろして
「えっと、今なおっきーが言ってた、魔法を発動してダメージを無くすってヤツだけど。魔法障壁でもうダメかもって弱気になったらダメージを喰らって、でも、絶対に大丈夫だって思ったらダメージを通さなかったんだよね。だからなおっきーの防御魔法も、いつも強気でいれば全ての攻撃が無効になるんじゃないかな」
沙織が胸を張って
「私の衝撃波と千春の障壁で勝負した時の話しね」
麗奈が話していた、本人の意志の強さが障壁の強度に関係しているってヤツか。
千春が沙織に向かって両手の平を向けて肩をすくませると、やれやれって感じの表情をした。沙織が身を乗り出して千春に
「おーっし、今からもっかい勝負しようかねえ」
麗奈が身を乗り出した沙織を椅子に戻して
「直樹君と千春君の話しと近いけど、西條さんと千春君とで戦闘訓練した時に、動きが遅くなる魔法を練習してたでしょ。その時に魔法が来るって分かってると体の動きは遅くならなくて、不意打ちというか、魔法が来るって分からない時は動きが遅くなりました。ある程度、心の準備というか、心構えをしておけば魔法の効果は受けないのかもですね」
すると、西條さんが手を上げてから
「私からも良いですか。大人の人達との戦闘訓練の時に、私は怪我した人達に治癒魔法を使ってたんですけど、傷の治り方に個人差があるというか、治癒魔法の効果が人によって違ってたんですよ」
「あ~、それ僕も思ったよ。何か頭が固い感じの人には思ってたほど、魔法の効果が現れなかったんだよね」
その時の状況を思い出したのか、千春は渋い顔をして
「魔法なんてもんは信じられないから止てくれ、それに痛いんだからそっとしといてくれって言って、何にもさせてくれなかった人がいたんだけど、隣でヒール使って怪我人を治しまくってたら、痛みが少しでも和らぐのなら、騙されたと思ってその魔法ってのを受けてやってもいいぞって、言って来たんだよね、だからヒールしたんだけど、その人は他の人と比べても治りが悪かったかな。んで、痛みが引いたからなのか、結局その人はどっかに行っちゃたんだけどね」
確かに全ての人が魔法を信用してはいないよな。もし、俺が怪我して知らない人から突然「その怪我を魔法で治します」って言ってきても、信用出来ないもんな。
いや、魔法以前の問題で、医者でもない人に怪我した体を任せたりしないだろうな。ってな事を考えていたら、西條さんが
「戦闘に使う魔法は、強い気持ちと心構えが関係するとして、治癒魔法は相手との信頼みたいのが、関係してるのかもって思いましたよ」
西條さんが言うには、訓練中に相手が「魔法でも何でも良いから早く治してくれ」って言って来た人は、とにかく痛みから早く解放されたいって思いが強かったようで、治癒魔法を使ったらすぐに傷が治ったんだそうだ。
そして、怪我をした人の中で西條さんに「自分の娘みたいな子にお願いするのは申し訳ない」と言ってきた人は、申し訳ない気持ちがあったからなのか、傷の治りが思っていたほど良くなかったんだそうだ。
ちなみに、魔法を信じてなくて、痛みから解放されたいって言った人は、指を二本骨折していたが完治して直ぐに訓練に参加して、申し訳ないって言っていた人物は、擦り傷からの出血は止まったが、顔と腕の痣は消えなかったそうだ。
ん~、とにかく何とかして欲しいって思っている人になら、魔法を信じていなくても、相手に全てを委ねているので、こっちの思った通りの効果が期待出来たのかな。でも、相手に対して遠慮していると、こっちに全てを委ねていないからこっちの思った通りの効果が望めないって事なのか。
だから、治癒魔法に関しては、相手との信頼関係みたいなものが関与して来るのではないかと。
すると、沙織が手を伸ばしブンブン上下させながら
「こっちは傷を治すって言ってるのに、信用出来ないとか変に気を使ったりしてくる人達には、もう面倒くさいから、治癒魔法が使えるうちらはみんな医者ですって言っちゃえば良いんじゃない。そしたら相手がブツブツ言って来たり、難しい事とか考えなで、お願いしますって言ってくるでしょ」
麗奈が困った表情で
「相手を騙すみたいで気が引けるけど、本当に命に関わるくらいの急を要する怪我だったら、お医者さんって言って相手を信用させちゃうのも悪くないと思いますよ。しっかり説明したり説得をしたりして、私達の事を信用してもらいたいですけど、どうしても時間が無い場合の手段として、考えておいて良いと私は思います」
千春や西條さん、そして麗奈とかなら、怪我をしても何も考えないでお願い出来るけど。沙織にはお願いしたくないかもな、何か失敗して怪我が治らなそうだもんな。でも、やっぱ初対面の人には怖くてお願い出来ないかもなあ。
そう考えると相手が医者なら初対面でもお願い出来るか。後は、治すって言っているのに面倒くさい事を言ってくる相手なら、もう相手にしなくて良いと思うんだよなあ。でもダメなのかな、そんな面倒くさい相手にでも治せるんだからちゃんと相手にしないといけないのかな。
黙って話しを聞いていた直樹が
「怪我は治るんだし、相手から何か見返りを求めて怪我を治す訳じゃないんだから、俺も医者って言っちゃって良いと思うぞ」
だよなあ、やっぱ医者って言えば、ほぼ無条件でみんなから信用されるもんな。ただ、俺は気になっていたので一応みんなに聞いてみた
「なあ、俺達ってどう見ても年齢的にも医者に見えないんだが。そこんとこどうするんだ」
一瞬だけ沙織が物凄い形相で、右拳を振りかぶっている姿が見えたと思ったら、俺はいきなり真後ろにぶっ飛んだ。
どうやら俺は沙織の渾身の右ストレートを喰らったみたいだった。




