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第31話 魔法の効果

 身体強化の魔法で、上半身の筋肉がでっかくなった直樹と、同じく身体強化の魔法で、全身の筋肉が二回りでかくなった沙織が、円筒形の魔法障壁をぶっ叩いている。


 ふむふむ。強化して筋力が上がった状態で攻撃しても壊れないのか。あの魔法障壁ってけっこう頑丈なんだなあ。


 俺は直樹達の戦闘訓練を眺めながら、魔法障壁の強度に感心していた。


 俺達は学校の校庭で、魔法を使って戦闘の訓練をしたり、魔法に対しての戦闘に備えていた。


 直樹と沙織は身体強化した状態の動きに体を慣らす為なのか、サンドバッグに見立てた魔法障壁を殴ったり蹴ったりしていた。


 千春と西條さんは自分の魔法障壁の強度を知る為なのか、直樹と沙織に円筒形に変形させた魔法障壁を攻撃させている。


 そして麗奈は直樹と沙織の身体強化で肥大化して、ぶっとくなった筋肉を眺めてニヤニヤいた。


 俺と白沢先生は、飲食兼休憩エリアから直樹達の戦闘訓練の様子を眺めている。


「ねえ、内田君達と沙織ちゃん達ってどんな関係なの」


 直樹達を見ていた白沢先生が、急に変な話を振って来た。ん~、アレか恋バナとかを期待している感じなのかな。でも俺達に関しては恋愛とかって感情は無いんだよなあ。


「学校の同級生であり、キックボクシングジムの仲間って感じですかね」


 俺が当たり障りのない回答をすると


「でも、ほら麗奈ちゃん。森下君の事を物凄く熱い眼差しで見てるわよ」


 ああ、確かに知らない人が見たら麗奈が直樹に対して好意を抱いているって思っちゃうんだろうな。


「アレは直樹が好きとかではなくって、直樹の筋肉が好きなんです。麗奈は直樹の筋肉だけじゃなくて、全ての筋肉が大好物なんですよ。だから良く見ると気づくと思いますが、直樹だけじゃなくて沙織の筋肉にも見惚れてますよ」


「なあんだ、そうなのか。でも沙織ちゃんも麗奈ちゃんも綺麗で可愛いじゃない、何かドキドキする話しとかないのかしら」


 どうしたんだろう、俺の中では白沢先生って知的な大人なお姉さんって感じで、色恋沙汰とか興味ないと思っていたんだけど。それは俺の勝手なイメージで、実際はそんな話も普通に聞いて来るのか。ここは俺が二人に興味がないって事を、しっかりとアピールしとくかな。


「確かに沙織と麗奈は学校で男子生徒達から注目されていますし、俺も二人はとても整った顔をしてるって思ってますよ。だから沙織と麗奈がジムに通い始めた頃は、俺も二人の事が少し気になりましたよ」


 すると、白沢先生の眼鏡のレンズがキラリと光った気がした。俺は話しを続けて


「でも、一緒にトレーニングしてると、汗だくになってる姿とか、スパーリングで顔面に打撃がヒットして、鼻血を出したりとか、ボディーに良いのを貰って嘔吐してたりするのを見てたら、いつの間にかドキドキとかしなくなってましたね。なので、やっぱジム仲間って感じなんですかねえ」


 白沢先生は何故か残念そうな表情をすると


「えぇ、そうなの。ドキドキしなくなっちゃたのかあ。でも川内君はどっちが好みなの。ちょっとお姉さんにコッソリ教えなさいよ」


 白沢先生はまた眼鏡のレンズを光らせた。


 なんだろう、俺の中でどんどん白沢先生の印象が崩れて行く。好意を抱いている人なら協力してもらうのもアリだけど。沙織と麗奈に関しては、まったく恋愛感情ってもんがないからなあ。だからなのか、この手の話しは面倒くさく感じてしまう。


「ん~、好みかあ。沙織は負けず嫌いだから、ゲームとかで遊ぶ時とかは、適度に勝たせないと機嫌悪くなりそうだから、面倒くさいですし、麗奈は筋肉好き過ぎて面倒くさいですからねえ」


「そっかあ。じゃあ、川内君の好みの女性ってどんな人なの」


 なかなか話題が変わらないな。白沢先生って恋バナが好きなのかな。同級生とかなら分かるが、大人の女性でも恋バナって好きなんだなあ。


「俺は大人の女性が好きですね。同年代だと何か子供っぽいって言うか、幼い感じがするんですよね」


 白沢先生の眼鏡のレンズが激しく光った。


「あ~ら、お上手ね。そっかあ、川内君って大人の女性が好みなのかあ」


 ん~、真面目に答えて失敗した感じか。


 大人って言っても俺の中では大学生くらいまでの話しで、白沢先生とか社会人になると、もう未知の領域で完全に対象外なんだけどなあ。ちと、話しを逸らすかな。


「白沢先生って綺麗だから、やっぱ彼氏さんとかって、いるんですよね」


 一瞬、白沢先生の動きが止まった様に見えたけど、彼氏ネタは地雷だったのか。俺は話題の選択を間違った感じなのか。


「今はいないわよ。でも、いなくて良かったのかも」


 マズイ失敗したかも、話題の選択ミスったかも。一気に表情が暗くなって雰囲気が重たくなった気がする。すると白沢先生が


「停電してから一気に治安が悪くなって来てるじゃない、もし彼氏がいたら心配で学校に残っていられなかったと思うのよ。だから、今は彼氏がいないから心配事が無いから良かったかもって思えるのよ」


 白沢先生はチラッと校舎を見て


「同僚達の中には彼氏や旦那さん、子供がいる人達もいて、彼氏や家族の事が心配ですぐにでも家に帰りたいんだけど、学校に残っている生徒達の事もあるし、自分だけ今の状況で帰るだなんて言えなくて、仕方なく残っているって人もいるわ」


 ふうぅ、驚いたぜ。彼氏さんの事が地雷じゃなくて良かったぜ。


 つまり、同僚さん達が今の状況だと家族の事が心配で不安になっていたり、仕事を放棄出来なくて悩んでいるから、白沢先生の表情が暗くなったのね。とりあえず当たり障りのない感じの事を言っておくか


「早く電気が復旧して元の生活に戻ると良いですね」


「そうね、早く復旧してくれないかしら」





 しばらく直樹達の訓練の様子を眺めていると、白沢先生は木刀を取りに行くと言って席を離れた。


 俺は頬杖をつきながら直樹達を見て、自分なりに戦闘のシミュレーションをしてみたり、飲食兼休憩エリアで休んでいる人達を観察してみたり、空に浮かんでいる流れる雲を目で追っかけたりして、ゆっくりとくつろいでいた。


 すると、校舎から動きやすい服装で、体格の良い大人達がぞろぞろ出て来て、直樹達の所に向かって行った。


 先頭を歩いているのは警察の武田さんと消防の成田さんかな、後は部下の人達なのかな。何か話しながら大人達の集団が直樹達の所に歩いて行く。


 大人達に気づいた直樹達は訓練を止めて、水分補給をしたりして大人達に挨拶をしていた。


 消防の成田さんが直樹達に挨拶して何か話し始めた。


 警察の武田さんが直樹と沙織に何か話している。消防の成田さんは千春と西條さんと話している。しばらくすると大人達と直樹達が二つのグループに分かれ始めると、麗奈が直樹と沙織の制服を持ってこっちに歩いて来た。


 麗奈が椅子に座りながら


「何か、時間が出来たから魔法を教えて欲しいんですって」


「そっか、今日の午後か夕方に魔法を教えて欲しいって、北野先生が言っていたヤツだ。麗奈は参加しないのか」


 麗奈は沙織の制服をたたみながら


「私は休憩かな。それにここからなら全体の筋肉を観察できるでしょ」


 なるほど、人数が多いから離れた場所から全員の筋肉を眺めていたいのね。俺は、直樹と沙織の身体強化の具合が気になっていたので、麗奈に聞いてみる事にした。


「ん~、単純に筋肉が増えて筋力が上がってるって感じでしたね。後は急激に筋力が上がってるから、体の感覚がいつもと違って本人達は戸惑ってる感じかしら。その辺は沢山動いて早く感覚に慣れてねって感じでしたね。あと、私が気になったのは筋力が上がった事で、今までよりも衝撃が増えて、もしかしたら骨が耐えられないかもしれないって事かな。筋肉だけじゃなくって骨も強化するイメージを意識した方が良いかもって、アドバイスしときましたよ」


 そっか、身体強化ってファンタジー作品だと深く考えないで、ただ体の全ての能力が上がるってイメージだからなあ。麗奈みたいに作品に馴染みが無いと、色々と考えるんだな。


 他にも千春達からスロウの魔法を喰らった印象を聞いてみた。


「何度も魔法を受けてると、慣れてきちゃうのかだんだん効果が薄くなるみたいで、最初に受けた時より動きが阻害されなくなって来ましたね。そして魔法が来るって分かってると、普通に動ける状態になりました。後は、魔法が来るって思ってない場合だと、しっかり魔法に阻害されて動きが鈍くなりましたよ。たぶんある程度、心の準備と言うか、心構えをしておけば、魔法の効果は受けないかもですね」


 ん~、心構えかあ。どんな事でも心の準備をしておけば驚かないし、すぐに対応出来るもんな。相手の心の準備が整う前に、もしくは隙を狙って魔法を発動しないと効果が得られないかもだな。って事は、こっちも常に心の準備をしておかないと魔法を喰らっちゃうし、隙を見せない様にしないとマズイって事だよな。どうやって魔法から身を守るかなあ。


 魔法障壁の印象も聞いてみた。


「魔法障壁は完全に本人の意志の強さが強度になってましたね。千春君に弱気になってもらって、壊れちゃうかもって感じで障壁を発動してもらったら、西條さんでも簡単に壊せましたからね。次は絶対に壊れないって強気になってもらったら、直樹君でも壊せませんでしたよ。もし車が動くなら、車で障壁にぶつかってもらって衝撃に耐えたら、それが自信に繋がって、更に強度が増すと思いますよ」


 麗奈は直樹のワイシャツをたたみながら


「後は、魔法がイメージと想像力って言うのも改めて実感しました。沙織ちゃんが千春君に障壁をサンドバックみたいにして欲しいって言ったら、意外と簡単に作ってくれましたしね。千春君はサンドバックに触れた事が無かったから、丁度良い硬さと言うか、弾力が分からなかったんですけど、座布団を丸めた感じとか、高反発枕の感じとか、もう少し弾力性が欲しいとかって、沙織ちゃんの要望を聞きながら、少しづづサンドバックに近い障壁を作ってましたからね」


 って事は、障壁って言ってはいるけど、イメージと想像力で硬い物から柔らかい物まで何でも出来るって事か。


 千春と西條さんは試さなかったけど、俺達みんな拳と脛を守るサポーターを魔法で作れたもんなあ。魔法ってやっぱすげえな。って思っていると


「後は、障壁で魔法も防げるのか試してみたんですが、これも完全に本人の意志の強さでしたね。沙織ちゃんが千春君の障壁に衝撃波を打ち込んでたのですが、最初は千春君の障壁が沙織ちゃんの衝撃波を防いでたんですけど、最終的には沙織ちゃんが、絶対に障壁をぶっ壊すって言いだして、自己暗示じゃないですけど「私の衝撃波で必ず障壁を破壊できる」って、声を出して自分に言い聞かせてから衝撃波を打ち込んで、見事に千春君の障壁を破壊してましたからね」


 ん~、負けず嫌いの沙織に付き合うのが面倒くさくて、わざと千春が負けたのかも知れないけど、それは後でコッソリ千晴に聞くとして、意志の強さかあ。


 自分の精神状態が魔法の効果に影響するとなると、常に良い精神状態を保っておかないとだな。


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