第26話 招かれざる人
朝の炊き出しを食べに校庭の飲食兼休憩エリアに行くと、昨日と同じで沢山の人達が集まっていた。
近づくと昨日までの小学校周りの状況説明と、今日の予定を校長先生や警察や消防の大人達が、みんなに伝えていた。
電気の復旧の見込みは相変わらず不明のまま。ヒトデナシの目撃件数及び被害報告が増加している。引き続き夜間の外出は極力控える事、そして昼間でも単独行動はせずに複数で行動する事。
先の見えない生活ですが魔法が使える様になった事により、今後は生活の質が向上して行きます。引き続きこれからも皆で協力し前向きに過ごして行きましょう。との事だった。
昨日応接室で聞いた、ヤギ型のヒトデナシ駆除作戦の話しは出てこなかった。朝だし荒事に無縁な人達に、わざわざ物騒な話しをする必要も無いのかな。
俺達を見つけた北野先生が小声で「川内君達が魔法を教えるのは、たぶん午後からになると思うけど、もしかしたら夕方頃になるかもしれないから、今日もゆっくりしていて欲しい」と言われた。
朝なのに炊き出しのメニューは豊富だった。これを作る人達は何時に起きて調理を始めていたんだろうか「お疲れ様です、ありがとうございました」って感謝の気持ちでいっぱいだ。
沙織と麗奈そして白沢先生達が朝食を取っていので、俺は西條さんを紹介して、昨日の出来事を話したり今日のみんなの予定を話し合った。
俺達は体育館を利用して眠っていたが、沙織と麗奈は白沢先生達に夜も魔法を教える為に、女性職員専用の寝泊まりする部屋を使っていたんだそうだ。
西條さんは職員ではなく一般の人だから、職員専用の部屋の利用は難しいのか聞いてみたが、白沢先生は問題ないと言っていた。話しを聞いた西條さんは「今晩からよろしくお願いします」と白沢先生に頭を下げていた。
沙織と麗奈がニヤニヤしながら俺達に「落ち着いたら、基地を襲撃しに行くから待ってなさいよ」って脅してきた。
そして、聞くところによると、昨日沙織達が魔法の使い方を教えた人達は、沙織達の教え方が上手かったのか、みんな魔法が使える様になったんだそうだ。
沙織と麗奈と白沢先生達は、昨日に引き続き生活に役立つ魔法の使い方を模索するそうで、朝ご飯を食べ終わると職員室に向かった。
直樹は調理エリアの人達から「魔法のお陰で食材の保存方法や調理方法が改善されたので、食材の保管場所の移動や、調理器具の補充を行いたいんだけど人手が足りなくて困っている」と聞いたので、炊き出しのお礼にって事で、リアカーを引いて食材や調理道具を運ぶ手伝いに向かった。
〇
俺と千春そして西條さんは、校庭の飲食兼休憩エリアで魔法の練習をしていた。
俺の正面に千春、千春の隣に西條さんが座っている。
西條さんは看護学校に通っているからなのか、治癒魔法のヒールを早く使える様になりたいらしいが、周りに怪我をしている人が居ないから、練習が出来なくて残念そうだった。なので、今はヒール以外で生活に役立ちそうな魔法を練習していた。
クリーンやライト等の生活魔法も覚えたいけど、やはり自衛の為の魔法も早く覚えたいそうで、熱心に千春の話しを聞きながら、必死に魔法を習得しようと頑張っている。
俺や千春ほどではないけど、西條さんもファンタジー系のアニメやコミックの作品はいくつか知っている感じだった。魔法に関しては過去の作品からの知識があったからなのか、直樹や沙織達よりも早く、魔法が使える様になっている感じだった。
俺は昨日、西條さんが連れ去られる前にその場で眠ってしまった話しを思い出し、何か良い対策方法は無いか考え中だ。
身体に異常を発生させる魔法、強制的に眠らされたり麻痺により行動不能にさせられたり、そんな魔法攻撃を喰らっても耐えられる、もしくは異常効果を無効にさせるにはどうしたら良いのかを、テーブルに頬杖をついて雲の無い澄み切った青空を見ながら考えていた。
「やあ、こんにちは、ここに居たんだね」
見知らぬ男性が西條さんに向かって話し掛けて来た。
千春を見ると首を振っている、俺達とは関係の無い人みたいだった。話しの内容によっては席を外した方が良いのかな。って考えていると西條さんが困った表情で
「えっと、どちら様でしょうか」
えっ、西條さんはこの人と知り合いじゃないの。
男性は引きつった表情になり
「昨日はうやむやになってしまったけど、今からでも出掛けようよ」
すると、西條さんは思い出したようで
「昨日お断りしましたよね。他を当たって下さい」
男性は俺達を見ると
「高校生と一緒にいても退屈だろ、彼等と遊ぶよりも俺と一緒の方が絶対に楽しいよ」
千晴は男性を軽蔑する様な目で見ていて、西條さんは表情が硬くなっていた。
千春の性格はある程度は分かっているので、今の状況は非常に不快な気分なんだろうと察する事が出来る。でも、西條さんに関しては今の状況をどう捉えているのか分からないんだよなあ、表情を見るとイヤがっているんだと思うんだけど。
男性を追っ払った方が良いのかな、どうしようかなあ。もう少し様子を見ていた方が良いのかなあ。ってな事を考えていると、男性が西條さんに近づいて手を掴もうとして
「さあ、早く行こうよ」
西條さんは手を引いて男性が腕を掴むのを拒んだ。
すると、男性は西條さんの肩か腕を掴もうと更に近づこうとする。
西條さんは表情を硬くして両手を胸の前まで持って来て、まるで身を守るかのような仕草で男性から距離を取ろうとする。
明らかに西條さんが男性を拒んでいる様子だったので
「千春、魔法障壁」
「おっけい」
すると、西條さんの目の前に障壁が発生した。と同時に、俺と千春の傍にも魔法障壁が現れて俺達を取り囲んだ。
男性が西條さんに近づこうと一歩前に踏み込んだが、障壁にぶつかって動きが遮られた。
障壁を触りながら男性が
「おい、何なんだこれは、お前達の仕業か」
男性が障壁を押したり叩いたりしながら
「おい、いい加減にしろよ、早くこいつをどかせ」
自分の思うようにならなくてイライラしているのか、男性の声がだんだん大きくなって来てた。
俺は障壁内に外の音が入らないようにイメージしつつ、障壁内の音も外に漏れないようにイメージしてサイレントの魔法を発動させた。
すると、障壁の外で騒いでいた男性の声が全く聞こえなくなった。意外と簡単に出来るもんだ。
千春がサイレントの効果に感心すると男性を見て
「凄いねえ、静かになったね。でもあの人の顔が真っ赤なんだけど」
男性が障壁を指さしながら俺達に何かまくし立てている感じだった。
俺は男性を放っといて困った表情の西條さんに
「でっ、あの人は誰なんですか」
西條さんは視界に男が入らない様に椅子に座り直すと、男性の事を話し始めた。
昨日、西條さんが飲食兼休憩エリアで休憩している時に遊びに行こうと声を掛けて来た人だそうで、名前を名乗っていたけど忘れてしまったって言うか、全く名前を覚える気は無かったそうで、男性の名前は分からないとの事だった。
ビックリだよ、沙織と麗奈の他にも同じ時間にほぼ同じ場所で、西條さんが声を掛けられていたよ。しかも、停電で電気が使えないのに、車も動かないのに、何処に何して遊ぶんだよ。俺には分からないけど大人達は何か楽しい遊びを知っているのかよ。
西條さんは男性からの誘いを断っていたけど、なかなか諦めてくれなかったらしい。
そして、たまたま近くで休んでいた沙織達に、声を掛けていた四人組がヤギに変化して、何故か四体のヤギのうちの一体が西條さんに向かって来た。でも、ヤギの進行方向に男性がいて邪魔だったのか、ヤギが男性をぶん殴った。
ぶん殴られた男性がぶっ飛んだ先に西條さんがいて、二人は倒れ込んでしまったらしい。
なんと、障壁の外で騒いでいる男性は、昨日ヤギに背中を蹴られまくっていた人だった。実際に何が起きていたのかは聞いてみないと分からないもんだ。昨日の状況だと、男性が西條さんを必死に守っているって思っちゃったもんなあ。
千春が汚い物を見る様な目で、男性をチラッと見ると
「じゃあ、あの人もヤギ予備軍って事じゃん」
西條さんは顔を伏せて男性と目を合わせないようにすると
「ええ、そうなるわね」
千春の魔法障壁で防御は完璧。俺のサイレントで防音も完璧なので、千春と西條さんに
「もう放っといて、魔法の練習を始めちゃえば」
「だねぇ」
「そうしましょ」
千春と西條さんは気持ちを切り替えて魔法の練習を始めた。
外の音が聞こえない静かな環境の中で、集中して魔法の練習を行った西條さんは、俺達と同じくらい魔法が使える様になった。
そして、気づいたらヤギ予備軍の男性の姿はいつの間にか見当たらなくなっていた。
なので、俺と千春はサイレントと魔法障壁を解除した。




